平家物語『木曽の最期』品詞分解/現代語訳/解説⑪

平家物語『木曽の最期』品詞分解/現代語訳/解説⑪

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今回は平家物語の『木曽の最期』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。

必要に応じて解説なども記しています。

古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥

いよいよ最後です。それでは行ってみましょう!

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石田が郎等二人落ち合うて、つひに木曽殿の首をば取つてんげり。

石田    名詞    
格助詞
郎等名詞家来、の意。
読みは「らうどう」。
二人名詞
落ち合う動詞ハ行四段活用動詞「落ち合ふ」の連用形のウ音便
接続助詞
つひに副詞漢字をあてると「終に、遂に」であるとおり、「最後に、しまいに、とうとう」という意味を持つ。
打消の語を伴う場合、「最後まで」、「まだ一度も、いまだに」の意味を持つため、併せて覚えるとよい。
ここでは「しまいに、最後に、とうとう」の意味で使われる。
木曽殿名詞木曽義仲のこと。勇猛な「木曽殿」も、遂に討ち取られてしまった。     
格助詞
名詞
格助詞「をば」の形で、「を」の前の対象を「は」によって強調する。
格助詞「を」+係助詞「は」が濁音化したもの。
係助詞
取つ動詞ラ行四段活用動詞「取る」の連用形の促音便
てん助動詞完了の助動詞「つ」の連用形に撥音の「ん」が付いた語。勢いが感じられる。
げり助動詞過去の助動詞「けり」の終止形が転じた語。
同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。その場合は 「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。
石田の家来が二人落ち合って、とうとう木曽殿の首を取ってしまった。

太刀の先に貫き、高くさし上げ、大音声をあげて、

太刀    名詞  平安時代以降、反りがあり、刃を下に向けて腰につりさげる長大な刀のことをいう。
ちなみに刀は、刃を上にして腰帯に鞘を差し込んで持ち歩く。
市松模様がトレードマークの某国民的キャラクターが持っているのは刀(と思われる)。
格助詞   
名詞
格助詞
貫き動詞カ行四段活用動詞「貫く」の連用形
高く形容詞ク活用の形容詞「高し」の連用形
さし上げ動詞ガ行下二段活用動詞「さし上ぐ」の連用形。
ここでは「高く持ち上げる」の意味で使われる。
大音声名詞読みは「だいおんじやう」。
格助詞
あげ動詞ガ行下二段活用動詞「あぐ」の連用形
接続助詞
太刀の先に(木曽殿の)首を貫き、高く持ち上げ、大声をあげて、
 

「この日ごろ日本国に聞こえさせたまひつる木曽殿をば、

こ    代名詞   
格助詞
日ごろ名詞「何日かの間」、「普段」といった意味を持つ語。
「○○ごろ」は「年」「月」「日」の下について、長い時間の経過を表す。
ここでは「普段」の意味で使われる。
日本国名詞
格助詞
聞こえ動詞ヤ行下二段活用動詞「聞こゆ」の未然形。
★重要単語
「聞こえる」「評判になる」「分かる」などの一般動詞としての用法と、「言ふ」の謙譲語である「申し上げる」、謙譲の補助動詞である「お~申し上げる」の用法がある。謙譲語としての「聞こゆ」は、直前に動詞があるかどうかで意味を判別する必要がある。
させ助動詞尊敬の助動詞「さす」の連用形。
石田次郎為久から木曽殿への敬意が示される。敵方であっても、高名な武将である「木曽殿」には二重尊敬が使われている。
自分の釣りあげた魚の大きさを誇るのと同じ思いが見える。
たまひ動詞ハ行四段活用動詞「たまふ」の連用形。
「たまふ」は四段活用と下二段活用があり、前者が尊敬語、後者が謙譲語であるので注意が必要。
この場合は尊敬の補助動詞であり、「お~なる」、「~なさる」という意。
石田次郎為久から木曽殿への敬意が示される。
つる助動詞完了の助動詞「つ」の連体形。
同じ完了の意味で同じ連用形接続の「ぬ」との違いが聞かれることもあるのでまとめておく。
「ぬ」:自然的な作用を示す場合に用いられる
⇒ ex.「風立ちぬ」
「つ」:人為的、意図的な作用を示す場合に用いられる
⇒ex.「石炭をばはや積み果てつ」

【余談】
先の用例で紹介した「石炭をばはや積み果てつ」は森鴎外『舞姫』からの引用。高校の授業で『舞姫』を扱う学校は多いが、こだわりのある先生であればこの一文字で1時間の授業ができるほどの名文と言える。興味のある人は『舞姫』の中で「つ」と「ぬ」がどのように使い分けられているかチェックしてみてほしい。
木曽殿名詞
格助詞
係助詞強意の係助詞
「この普段日本国で評判でいらっしゃった木曽殿を、

三浦の石田次郎為久が討ちたてまつりたるぞや。」

三浦    名詞                             
格助詞
石田次郎為久      名詞
格助詞主格用法
討ち動詞タ行四段活用動詞「討つ」の連用形
たてまつり動詞ラ行四段活用動詞「たてまつる」の連用形。
★重要単語
「奉る」は尊敬語・謙譲語両方の用法があるため、苦手とする受験生が多い。以下に整理しておくのでしっかり確認しておこう。

〇尊敬語
【本動詞】
・「食ふ」「飲む」の尊敬語「召し上がる」
・「乗る」の尊敬語「お乗りになる」
・「着る」の尊敬語「お召しになる」
〇謙譲語(謙譲語の方が目にする機会は多い!)
【本動詞】
・「与ふ」の謙譲語「差し上げる」
【補助動詞】
・「~し申し上げる」
★「補助動詞は用言や助動詞などの活用する語に付く場合である」ことを押さえておきたい。

ここでは謙譲の補助動詞として使われ、石田次郎為久から木曽殿への敬意が示される。
たる助動詞完了の助動詞「たり」の連体形。
助動詞の「たり」は完了・存続の「たり」と断定の「たり」の二つが存在するが、前者は連用形接続、後者は体言に接続する。
意味から考えても両者は明確に区別できるはず。(完了・存続の「たり」はもともと「てあり」から生じているため、接続助詞の「て」と同様に連用形接続である。同様に、断定の「たり」は「とあり」から生じている。)
終助詞念押しの助動詞。「~よ」などの訳を当てることが多い。
間投助詞呼びかけの間投助詞
三浦の石田次郎為久が討ち申し上げたぞ。」

と名のりければ、今井四郎、いくさしけるが、これを聞き、

と    格助詞                     
名のり動詞ラ行四段活用動詞「名のる」の連用形
けれ助動詞過去の助動詞「けり」の已然形
接続助詞★重要文法
接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。
①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない)
⇒仮定(もし~ならば)
②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている)

(ⅰ)原因・理由(~なので)
(ⅱ)偶然(~したところ)
(ⅲ)必然(~するといつも)

ここでは偶然で取ると自然か。
今井四郎名詞「木曽殿」の部下、今井四郎兼平である。最後まで命を懸けて戦っていた。
いくさ名詞
動詞サ行変格活用動詞「す」の連用形
ける助動詞過去の助動詞「けり」の連体形
接続助詞逆接の確定条件
これ代名詞ここでは石田次郎為久の発言を指す。
格助詞
聞き動詞カ行四段活用動詞「聞く」の連用形

と名のったところ、今井四郎は戦をしていたが、これを聞き、

「今は、たれをかばはんとてかいくさをもすべき。

今    名詞    
格助詞
たれ代名詞漢字をあてると「誰」である。
格助詞
かばは動詞ハ行四段活用動詞「かばふ」の未然形
助動詞意志の助動詞「む」の終止形。
助動詞「む」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。
※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいること。

【原則】
助動詞「む」が文末にある場合
・主語が一人称⇒意志
・主語が二人称⇒適当/当然/命令
・主語が三人称⇒推量

助動詞「む」が文中に連体形で出てきた場合
・「む(連体形)」+「は」、「に」、「には」、体言⇒仮定
・「む(連体)」+体言⇒婉曲
※婉曲は助動詞「む」を訳出しなくても文意が通じる場合。
とて格助詞
係助詞反語の係助詞
いくさ名詞
格助詞
係助詞強意の係助詞
動詞サ行変格活用動詞「す」の終止形
べき助動詞義務の助動詞「べし」の連体形。
★重要文法
助動詞「べし」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。
※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいるべし。

【原則】
・主語が一人称⇒意志
・主語が二人称⇒適当/当然/命令
・主語が三人称⇒推量

【文脈判断等】
・下に打消を伴う⇒可能 
・下に格助詞の「と」を伴う/終止形⇒意志
・下に名詞や助詞を伴う(「~するはずの」と訳す)⇒当然/予定 ※直後に助詞が来る場合:名詞が省略されている。
・文中に疑問/反語を示す語を伴う⇒推量/可能

ここでは係助詞「か」を受けて係り結びが成立している。
「(木曽殿が討ち取られた)今は、誰をかばおうと戦をする必要があろうか、いやない。

これを見たまへ、東国の殿ばら、

これ    代名詞  
格助詞   
動詞マ行上一段活用動詞「見る」の連用形。
上一段動詞は基本的には10語のみと数に限りがあるため、頭文字を取って「ひいきにみゐる」で確実に暗記しておくこと。
たまへ動詞ハ行四段活用動詞「たまふ」の命令形。
「たまふ」は四段活用と下二段活用があり、前者が尊敬語、後者が謙譲語であるので注意が必要。
この場合は尊敬の補助動詞であり、「お~なる」、「~なさる」という意。
今井四郎から敵への敬意が示される。
尊敬語かつ命令形という形に違和感を覚える生徒もいるかもしれないが、古文の世界ではややありふれた光景。
東国名詞
格助詞
殿ばら名詞身分の高い男性たちをいう尊敬語。接尾語の「ばら」は複数を表す。
「方々」「殿たち」といった訳をする。
これをご覧になれ、東国の方々よ、
 

日本一の剛の者の自害する手本。」とて、太刀の先を口に含み、

日本一   名詞   
格助詞
名詞
格助詞
名詞
格助詞主格用法
自害する動詞サ行変格活用動詞「自害す」の連体形。今井四郎兼平は壮絶な最期を遂げるのであった。
手本名詞
とて格助詞
太刀名詞
格助詞
名詞
格助詞
名詞
格助詞
含み動詞マ行四段活用動詞「含む」の連用形
日本一のたけく勇ましい者が自害する手本を。」と言って、(今井四郎は)太刀の先を口に含み、

馬よりさかさまに飛び落ち、貫かつてぞ失せにける。

馬      名詞    
より格助詞
さかさまに形容動詞ナリ活用の形容動詞「さかさまなり」の連用形
飛び落ち動詞タ行上二段活用動詞「飛び落つ」の連用形
貫かつ動詞ラ行四段活用動詞「貫かる」の連用形の促音便
接続助詞
係助詞強意の係助詞
失せ動詞サ行下二段活用動詞「失す」の連用形。
「なくなる、消える」という意味以外に、死ぬことを意味する。
ここでは「亡くなる」の意味で使われる。
助動詞完了の助動詞「ぬ」の連用形。
ける助動詞過去の助動詞「けり」の連体形。
ここでは係助詞「ぞ」を受けて係り結びが成立している。
馬からさかさまに飛び落ち、(刀が体を)貫いて亡くなってしまった。

さてこそ粟津のいくさはなかりけれ。

さて    副詞                     
こそ係助詞強意の係助詞
粟津名詞
格助詞
いくさ名詞
係助詞
なかり形容詞ク活用の形容詞「なし」の連用形
けれ助動詞過去の助動詞「けり」の已然形。
係助詞「こそ」を受けて係り結びが成立している。

そうして粟津の戦いは終わった。

今回はここまで🐸


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