更級日記『門出』品詞分解/現代語訳/解説①

更級日記『門出』品詞分解/現代語訳/解説①

はじめに

こんにちは!こくご部です。

定期テスト対策から大学受験の過去問解説まで、「知りたい」に応えるコンテンツを発信します。


今回は更級日記『門出』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。

必要に応じて解説も記しておきます。

古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥

それでは行ってみましょう!

出典について

まずは出典の『更級日記』について触れておきましょう。

出典

★作者について
 作者は菅原孝標女(すがわらたかすえのむすめ)。伯母は『蜻蛉日記』を著した藤原道綱母。

★ジャンルについて
 日記文学
。同ジャンルの『蜻蛉日記』と対比して語られる文脈が多い。

★成立について
 平安時代中期

その他
『源氏物語』が大好きな一人の夢見る少女が成長と共に厳しい現実に打ちひしがれ、やがて仏門に入り来世の幸福を願うようになる。作者自身の人生の回想録でもある。ある文化やその中心地(=都)に憧れを抱く地方在住のオタク女子と形容されることが多い。個人的には親近感が湧きます。


東路の道の果てよりも、なほ奥つかたに生ひいでたる人、

身           名詞        都(京都)から東国へ行く際に通る「東海道」を指す。歌川広重の浮世絵『東海道五十三次』や、十返舎一九の滑稽本『東海道中膝栗毛』も合わせて覚えておきたい。
の 格助詞
名詞
形容詞
果て名詞「終わり」「最後」などの意味を持つが、ここでは「最果ての地」を意味する。具体的には東海道の執着地である常陸の国(茨城県)を指す。
より格助詞
係助詞
なほ副詞★重要単語
現代にも残っている「依然としてやはり(変わらず)」、「よりいっそう」のほか、「なんといってもやはり」などの意味があり、文脈に応じて適切な訳語を当てる。ここでは父の任国である上総の国(千葉県)が都から離れていることを強調するために使われており、「もっと」などの訳を当てると良い。
奥つかた名詞奥の方。「つ」は上代の格助詞で、「の」と同じと考えてよい。
格助詞
生ひいで動詞ダ行下二段活用動詞「生ひいづ」の連用形
たる助動詞完了の助動詞「たり」の連体形
名詞諸説あるが、自身のことを「人」と表すことで①自ら(作者自身)とは別の物語上の存在を主人公とする狙い②作者自身を客観視する狙いなどがあるとされている。
東海道の果てよりも、さらに奥の方で育った人(=私)は

いかばかりかはあやしかりけむを、

いかばかり    副詞     
係助詞  疑問・反語の係助詞「か」、強意の係助詞「は」が結びついた場合、多くは反語の意味を持つ(疑問を強めると反語になるのは「誰が行くの?」⇒「誰が行くの!?(誰も行かないと思っている)」となる例からも想像に難くない)。しかし、ここでは軽い疑問と解釈する方が自然。
「や」+「は」の例も同じ。
係助詞強意の係助詞
あやしかり動詞 ★重要単語
シク活用の形容詞「あやし」の連用形。「怪し」「奇し」と漢字を当てると「不思議だ」「変だ」などの意味を、「賎し」と漢字を当てると「身分が低い・卑しい」、「みすぼらしい」などの意味を持つ。ここでは後者であり、田舎から都会に出てきた作者自身が当時の自分を回顧して記述していると言える。
けむ動詞過去推量の助動詞「けむ」の連体形
接続助詞
どれほどみすぼらしく野暮ったかったであろうが、

いかに思ひ始めけることにか、世の中に物語といふもののあなるを、

いかに     副詞      英語の「how」や「why」に相当すると言われることが多い。ここでは「どのように」の訳を当てる。
思ひ始め動詞マ行下二段活用動詞「思ひ始む」の連用形
ける助動詞過去の助動詞「けり」の連体形
こと名詞
助動詞断定の助動詞「なり」の連用形
係助詞疑問の係助詞。読解の際は直後に「あらむ」「ありけむ」などを補って読む。
世の中名詞
格助詞
物語名詞
格助詞
いふ動詞ハ行四段活用動詞「いふ」の連体形
もの名詞
格助詞
動詞ラ行変格活用動詞「あり」の連体形「ある」の撥音便無表記形。
「ある」が撥音便になる⇒「あん」になる。⇒「ん」が表記されなくなり「あ」だけになる、という遷移。

★ルールとしてはラ変で活用する言葉の連体形に「めり、べし、なり」などが付くと「撥音便の無表記」が起きるというものであるが、受験生としては「あ/か/ざ/た/な」の下に「めり、べし、なり」のうちどれかが続いている場合は「ん」を入れて読む、という認識でOK。
なる助動詞伝聞の助動詞「なり」の連体形
格助詞
どうしてそう思い始めたのだろうか、世の中に物語というものがあるというが、

いかで見ばやと思ひつつ、つれづれなる昼間、宵居などに、

いかで    副詞       ★重要単語
下にどのような語が来るかによって訳が変わる。
推量の場合は「どうして(どのようにして)~か」「どうして~か、いや、そうではない」のような疑問または反語に、願望・意志の場合は「何とかして~」といった強い願望を示す。この場合は「ばや」と続くため、後者の訳を当てる。
動詞マ行上一段活用動詞「見る」の未然形。
上一段動詞は基本的には10語のみと数に限りがあるため、頭文字を取って「ひいきにみゐる」で確実に暗記しておくこと。
ばや終動詞願望の終助詞。「バヤリースオレンジ飲みたい」や「婆やは〇〇したい」などの有名なゴロがあるので、好きなもので覚えよう。接続は未然形。
格助詞
思ひ動詞ハ行四段活用動詞「思ふ」の連用形
つつ接続助詞
つれづれなる形容動詞ナリ活用の形容動詞「つれづれなり」の連体形。
吉田兼好『徒然草』の序文「つれづれなるままに、日暮らし硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ」は覚えておきたい。
昼間名詞
宵居名詞夜間、遅くまで起きていることやその時間を指す。
など副助詞
に  格助詞
何とかして見たい(読みたい)と思いながら、手持無沙汰な昼間や、夜起きている時などに、
 

姉、継母などやうの人々の、その物語、かの物語、

姉     名詞     作者は姉や直後に見える継母と非常に関係性が良く、作者の為人を形成したとされている。どちらもこの後の章段でも登場するので、その人物造形にも注目したい。
継母 名詞作者の実母はこの時点で生きており、作者の父(菅原孝標)はこの「継母」を連れて任国の上総の国へと下ったとする記録がある。
など副助詞
やう名詞
格助詞
人々名詞 
格助詞主格用法
そ   代名詞
名詞
物語名詞
代名詞
格助詞
物語名詞
姉や継母などのような人々が、その物語、あの物語、

光源氏のあるやうなど、ところどころ語るを聞くに、

光源氏  名詞    ご存じ『源氏物語』の主人公、光源氏を指す。推しのキャラクターについて語る姿は、現代人と大差がないと思ってしまいます。みんなも経験があるのでは。
格助詞
ある動詞ラ行変格活用動詞「あり」の連体形
やう名詞
など副助詞
ところどころ 名詞
語る動詞ラ行四段活用動詞「語る」の連体形
格助詞
聞く動詞カ行四段活用動詞「聞く」の連体形
接続助詞

光源氏のありさま(光源氏がどのようなものであるか)などをところどころ語るのを聞くと、

いとどゆかしさまされど、わが思ふままに、そらに

いとど     副詞    
ゆかしさ名詞「ゆかし」が転じて名詞になったことから分かるように、「心が引かれること」を示す。
まされ動詞ラ行四段活用動詞「まさる」の已然形
接続助詞逆接の確定条件を示す。
現代でも「待てど暮らせど」などの形で残っている。接続は已然形。
代名詞
格助詞
思ふ動詞ハ行四段活用動詞「思ふ」の連体形
まま名詞
格助詞
そらに 形容動詞ナリ活用の形容動詞「そらなり」の連用形。暗唱している状態を現代でも「そらで言う」などの例があることから、イメージがつきやすいかもしれない。

いっそう心惹かれる気持ちが高まっていくが、自分の思うとおりに暗唱して、

いかでかおぼえ語らむ。

いかで     副詞     前述のとおり。(再掲)
下にどのような語が来るかによって訳が変わる。
推量の場合は「どうして(どのようにして)~か」「どうして~か、いや、そうではない」のような疑問または反語に、願望・意志の場合は「何とかして~」といった強い願望を示す。この場合は推量の助動詞「む」が続くため、前者の訳を当てる。
係助詞疑問の係助詞
おぼえ語ら動詞ラ行四段活用動詞「おぼえ語る」の未然形
助動詞推量の助動詞「む」の連体形。ここでは係助詞「か」を受け、係り結びが起きている。

どうして思い出して話してくれるだろうか。

いみじく心もとなきままに、等身に薬師仏を造りて、

いみじく     形容詞      シク活用の形容詞「いみじ」の連用形。
シク活用の形容詞「いみじ」の連体形。程度が「はなはだしい」のほか、「すばらしい」「ひどい」の意味を持つ。
現代語の「ヤバい」と同じで、プラス・マイナスの両面のニュアンスがあることを念頭に置いておきたい。

この場合は副詞的に用いており「非常に」と訳を当てると自然。
心もとなき形容詞ク活用の形容詞「心もとなし」の連体形。
「じれったい、待ち遠しい」や「気がかりだ、不安だ」などの意味を持つ。
まま名詞「まま」+「に」で連語表現。「~につれて」「~のために」「~するやいなや」など様々な訳語が当てられるので、文脈判断が必要。
格助詞
等身名詞
格助詞
薬師仏名詞等身大の薬師仏を作ってもらって頻りに拝む様子(「つくりて」となっているが、幼い子が薬師仏を彫るのはなかなか難しいので、作って「もらって」としている)を想像したらなかなか微笑ましい。いわゆる「良いところのお嬢様」感が出ていますね。
格助詞
造り動詞 ラ行四段活用動詞「造る」の連用形
接続助詞

非常にじれったいので、等身大の薬師仏をつくって(もらって)

手洗ひなどして、人まにみそかに入りつつ、

手洗ひ      名詞      薬師仏にお願いするにあたり、身を清めている。こちらも大変微笑ましい様子である。
など副助詞
動詞サ行変格活用動詞「す」の連用形
接続助詞
人ま名詞漢字表記だと「人間」となる。「人がいる時間(A)と人がいる時間(B)との間=人がいない時間」などをイメージすると掴みやすいかもしれない。
読みも「にんげん」ではないので注意。
ちなみに孝徳天皇の皇后は「間人皇女(はしひとのひめみこ)」。
格助詞
みそかに形容動詞 ナリ活用の形容動詞「みそかなり」の連用形。中古までは「みそか」が用いられることが多かったが、現代に近づくにつれ「ひそか」が優勢になっていった。
入り動詞ラ行四段活用動詞「入る」の連用形
つつ接続助詞
手を洗って清めるなどして、人がいない間にこっそり(薬師仏の鎮座する部屋=仏間に)入っては、

「京にとく上げたまひて、物語の多くさぶらふなる、あるかぎり見せ給へ」と、

京     名詞      
格助詞
とく形容詞ク活用の形容詞「とし」の連用形
上げ動詞ガ行下二段活用動詞「上ぐ」の連用形
たまひ動詞ハ行四段活用動詞「給ふ」の連用形。
「給ふ」は四段活用と下二段活用があり、前者が尊敬語、後者が謙譲語であるので注意が必要。
この場合は尊敬の補助動詞であり、「お~なる」、「~なさる」という意。
接続助詞
物語名詞
格助詞
多く形容詞ク活用の形容詞「多し」の連用形
さぶらふ動詞ハ行四段活用動詞「さぶらふ」の終止形。「あり」の丁寧語。
なる助動詞伝聞の助動詞「なり」の連体形
ある動詞ラ行変格活用動詞「あり」の連体形。連体形であることから直後に「を」を補って読むと文意がつかみやすい。
限り名詞
見せ動詞サ行下二段活用動詞「見す」の連用形
たまへ動詞ハ行四段活用動詞「給ふ」の命令形。この場合は尊敬の補助動詞。
格助詞
「京(都)にはやく(私を)上らせなさり、物語が多くございますというのを、ある限りお見せになってください」と

今回はここまで🐸

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