源氏物語『葵の上と物の怪--御息所のもの思い』品詞分解/現代語訳/解説②
目次
はじめに
こんにちは!こくご部です。
定期テスト対策から大学受験の過去問解説まで、「知りたい」に応えるコンテンツを発信します。
今回は源氏物語の『葵の上と物の怪--御息所のもの思い御息所のもの思い』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。
⇓源氏物語の他の記事はこちらから
必要に応じて解説なども記しています。
古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥
それでは行ってみましょう!
前回の記事はこちらから⇓
年ごろ、よろづに思ひ残すことなく過ぐしつれどかうしも砕けぬを、
| 年ごろ | 名詞 | 長年、数年(の間)。 「○○ごろ」は「年」「月」「日」の下について、長い時間の経過を表す。 現代語訳をする際、「長年」か「数年」かわからない場合は、一旦「ここ何年来」と訳して文脈を押さえにかかるのも手。 |
| よろづに | 副詞 | 「なにかにつけて」、「さまざまに」といった意味を持つ語。 ここでは後者の意味で使われる。 |
| 思ひ残す | 動詞 | サ行四段活用動詞「思ひ残す」の連体形 |
| こと | 名詞 | |
| なく | 形容詞 | ク活用の形容詞「なし」の連用形 |
| 過ぐし | 動詞 | サ行四段活用動詞「過ぐす」の連用形 |
| つれ | 助動詞 | 完了の助動詞「つ」の已然形。 同じ完了の意味で同じ連用形接続の「ぬ」との違いが聞かれることもあるのでまとめておく。 「ぬ」:自然的な作用を示す場合に用いられる ⇒ ex.「風立ちぬ」 「つ」:人為的、意図的な作用を示す場合に用いられる ⇒ex.「石炭をばはや積み果てつ」 【余談】 先の用例で紹介した「石炭をばはや積み果てつ」は森鴎外『舞姫』からの引用。高校の授業で『舞姫』を扱う学校は多いが、こだわりのある先生であればこの一文字で1時間の授業ができるほどの名文と言える。興味のある人は『舞姫』の中で「つ」と「ぬ」がどのように使い分けられているかチェックしてみてほしい。 |
| ど | 接続助詞 | 逆接の確定条件。 已然形接続である。 |
| かう | 副詞 | このように。これほど。「かく」が転じたもの。 |
| しも | 副助詞 | 強調の副助詞 |
| 砕け | 動詞 | カ行下二段活用動詞「砕く」の未然形。 ここでは「思い乱れる」の意で使われる。 |
| ぬ | 助動詞 | 打消の助動詞「ず」の連体形 |
| を | 接続助詞 | 逆接の確定条件 |
ここ数年来、さまざまに思い残すことなく過ごしたが、これほどにも思い乱れなかったが、
はかなきことの折に、人の思ひ消ち、
| はかなき | 形容詞 | ク活用の形容詞「はかなし」の連体形。 「頼りない、あっけない」、「ちょっとした、とるに足りない」といった意を持つ語。 ここでは後者の意味で使われる。 |
| こと | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 折 | 名詞 | 「はかなきことの折」とは、かの有名な「車争い」のことを指す。 賀茂祭の行列に光源氏が参加するということで、その様子を見ようと光源氏の正妻である葵の上は見物に出かけた。しかし見物に行くことを急に決めたため、行列を見るのにいい場所がなく、従者が他の車をどけて場所取りをしてしまっていた。そのどけられた車の中に、お忍びで来ていた光源氏の愛人、六条の御息所がいたのであった。 |
| に | 格助詞 | |
| 人 | 名詞 | ここでは葵の上のこと。 |
| の | 格助詞 | 主格用法 |
| 思ひ消ち | 動詞 | タ行四段活用動詞「思ひ消つ」の連用形。 ここでは「無視する」の意で使われる。 |
ちょっとした事件の際に、あの人(葵の上)が、(六条の御息所を)無視し、
無きものにもてなすさまなりし御禊の後、
| 無き | 形容詞 | ク活用の形容詞「無し」の連体形 |
| もの | 名詞 | |
| に | 格助詞 | |
| もてなす | 動詞 | サ行四段活用動詞「もてなす」の連体形。 現代でも「おもてなし」や「(人を)もてなす」の形で残っているように、「(客を)もてなす」や「応対する」、「物事を執り行う」などの意味がある。 |
| さま | 名詞 | |
| なり | 助動詞 | 断定の助動詞「なり」の連用形。 助動詞の「なり」は断定の「なり」と伝聞・推定の「なり」の二つが存在するが、前者は体言または連体形に接続、後者は終止形(ラ変型の活用語には連体形)に接続する。 『土佐日記』の冒頭部分、「男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり」を覚えておけば、接続が導き出せる。 |
| し | 助動詞 | 過去の助動詞「き」の連体形。 同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。その場合は 「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。 |
| 御禊 | 名詞 | 「みそぎ」と読む。 ここでは「車争い」のあった賀茂祭の日の「御禊の儀」のことを指す。斎宮や斎院が賀茂川で行う禊のこと。 |
| の | 格助詞 | |
| 後 | 名詞 |
いない者のように対応する様子であった御禊の日の後から、
一ふしにおぼし浮かれにし心鎮まりがたうおぼさるるけにや、
| 一ふし | 名詞 | 「一つの出来事、一件」の意で使われる。 ここでは特に「車争い」の事件のことを指す。 |
| に | 格助詞 | |
| おぼし浮かれ | 動詞 | ラ行下二段活用動詞「おぼし浮かる」の連用形。 「おぼす」は「思ふ」の尊敬語。 ここでは作者から六条の御息所への敬意が示される。 |
| に | 助動詞 | 完了の助動詞「ぬ」の連用形。 同じ完了の意味で同じ連用形接続の「つ」との違いが聞かれることもあるのでまとめておく。 「ぬ」:自然的な作用を示す場合に用いられる ⇒ ex.「風立ちぬ」 「つ」:人為的、意図的な作用を示す場合に用いられる ⇒ex.「石炭をばはや積み果てつ」 【余談】 先の用例で紹介した「石炭をばはや積み果てつ」は森鴎外『舞姫』からの引用。高校の授業で『舞姫』を扱う学校は多いが、こだわりのある先生であればこの一文字で1時間の授業ができるほどの名文と言える。興味のある人は『舞姫』の中で「つ」と「ぬ」がどのように使い分けられているかチェックしてみてほしい。 |
| し | 助動詞 | 過去の助動詞「き」の連体形 |
| 心 | 名詞 | |
| 鎮まりがたう | 形容詞 | ク活用の形容詞「鎮まりがたし」の連用形のウ音便 |
| おぼさ | 動詞 | サ行四段活用動詞「おぼす」の未然形。 ここでは作者から六条の御息所への敬意が示される。 |
| るる | 助動詞 | 自発の助動詞「らる」の連体形。 助動詞「る」・「らる」は受身、尊敬、自発、可能の四つの意味をもつ。主な意味の見分け方は次のとおり。原則⇒文脈判断の順番で自然な訳を組み立てたい。 ①受身 ⇒「~に」(受身の対象)+「る」(「らる」) ②尊敬 ⇒尊敬語+「る」(「らる」) ③自発 ⇒知覚動詞(「思ふ」「しのぶ」「ながむ」等)+「る」(「らる」) ④可能 ⇒「る」(「らる」)+打消・反語 また、助動詞「る」「らる」は接続する動詞の活用の種類によって使い分けられるため、併せて覚えておきたい。 四段活用動詞、ナ行変格活用動詞、ラ行変格活用動詞の未然形は「る」が使われる。その他の動詞の未然形には「らる」が使われる。 「四段な(ナ変)ら(ラ変)る」と覚えるのも手。 |
| け | 名詞 | ため。せい。漢字をあてると「故」。 |
| に | 助動詞 | 断定の助動詞「なり」の連用形。 ★重要語句 「にや」(「にか」) 断定の助動詞「なり」の連用形+疑問の係助詞「や」の形で出てきた場合、後に続く「あらむ」や「ありけむ」などが省略されている。 「~であろうか」、「~であっただろうか」などと訳す。 |
| や | 係助詞 | 疑問の係助詞 |
あの一つの出来事で動揺した心が鎮まりがたくお思いになる気持ちのせいであろうか、
少しうちまどろみたまふ夢には、
| 少し | 副詞 | |
| うちまどろみ | 動詞 | マ行四段活用動詞「まどろむ」の連用形。 「うち」は接頭語。動詞に付いて、語調を整えたり、直後に続く動詞の意味を強めたりする働きがあるので、覚えておきたい。 |
| たまふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「たまふ」の連体形。 「たまふ」は四段活用と下二段活用があり、前者が尊敬語、後者が謙譲語であるので注意が必要。 この場合は尊敬の補助動詞であり、「お~なる」、「~なさる」という意。 作者から六条の御息所への敬意が示される。 |
| 夢 | 名詞 | |
| に | 格助詞 | |
| は | 係助詞 | 提示の係助詞 |
少しまどろみなさる夢の中では、
かの姫君とおぼしき人のいと清らにてあるところに行きて、とかく引きまさぐり、
| か | 代名詞 | ここでの「かの姫君」は葵の上のこと。 |
| の | 格助詞 | |
| 姫君 | 名詞 | |
| と | 格助詞 | |
| おぼしき | 形容詞 | シク活用の形容詞「おぼし」の連体形。 「(そのように)思われる」、「(したいと)思っている」といった意味を持つ語。 ここでは前者の意味で使われる。 |
| 人 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | 主格用法 |
| いと | 副詞 | 「たいそう」、「非常に」という訳を当て、程度が甚だしいことを示す。「めっちゃ」と脳内変換してもOK。 |
| 清らに | 形容動詞 | ナリ活用の形容動詞「清らなり」の連用形。 光輝いて見えるほどの最上級の美を表すため、限られた人物に対してしか使われないと考えてよい。 似た言葉に「清げなり」という語があるが、こちらはさっぱりとして清潔感があり、単純に美しいさまを表す。一文字でこのように大きな差異が生じるのもおもしろいところである。 |
| て | 接続助詞 | |
| ある | 動詞 | ラ行変格活用動詞「あり」の連体形。 ラ変動詞は「あり」「をり」「はべり」「いまそが(か)り/いますが(か)り」を押さえておこう。 |
| 所 | 名詞 | |
| に | 格助詞 | |
| 行き | 動詞 | カ行四段活用動詞「行く」の連用形 |
| て | 接続助詞 | |
| とかく | 副詞 | ここでは「あれやこれや」の意で使われる |
| 引きまさぐり | 動詞 | ラ行四段活用動詞「引きまさぐる」の連用形。「まさぐる」はもてあそぶこと。 なかなか強烈な語が用いられている。 |
あの姫君と思われる人がたいそう美しい様子でいる所に行って、あれやこれやと引き回し、
現にも似ず、猛く厳きひたぶる心出で来て、
| 現 | 名詞 | 読みは「うつつ」。 「現実」、「正気」といった意味を持つ。 ここでは「正気」の意味で使われる。 |
| に | 格助詞 | |
| も | 係助詞 | 強調の係助詞 |
| 似 | 動詞 | ナ行上一段活用動詞「似る」の未然形。 上一段動詞は基本的には10語のみと数に限りがあるため、頭文字を取って「ひいきにみゐる」で確実に暗記しておくこと。 |
| ず | 助動詞 | 打消の助動詞「ず」の連用形 |
| 猛く | 形容詞 | ク活用の形容詞「猛し」の連用形。 ここでは「荒々しい」の意で使われる。読みは「たけ(く)」。 |
| 厳き | 形容詞 | ク活用の形容詞「厳し」の連体形。 読みは「いか(き)」。 「激しく荒々しい」の意を持つ語。 |
| ひたぶる心 | 名詞 | 「一途な心」の意で使われる。 形容動詞「ひたぶるなり」が、漢字をあてると「一向なり、頓なり」である通り、「ひたすらだ」、「いっこうに」という意味を持つ語である。 過剰なまでに強まった思いが葵の上に牙を剥こうとしている。 |
| 出で来 | 動詞 | カ行変格活用動詞「出で来」の連用形 |
| て | 接続助詞 |
正気の時とは違い、激しく荒々しい一途な心が出て来て、
うちかなぐるなど見えたまふことたび重なりにけり。
| うちかなぐる | 動詞 | ラ行四段活用動詞「うちかなぐる」の連体形。 「かなぐる」は「荒々しく引き離す」という意味を持つ語である。現代でも「かなぐり捨てる」などの形で残っている。 |
| など | 副助詞 | 例示の副助詞 |
| 見え | 動詞 | ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」の連用形。 「見える」「思われる」「見られる」「結婚する」など様々な意味があるが、「見ゆ」の「ゆ」は上代(ほぼ奈良時代まで)の助動詞であり、受身・自発・可能の意味がある。 「受身・自発・可能」という字面を見ると「る」と同じでは?と思った人がいるかもしれないが、その直感は正しい。「る」の発達に伴って「ゆ」が少しずつ姿を消していった。 なお、「ゆ」には尊敬の意味はない。 |
| たまふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「たまふ」の連体形。 尊敬の補助動詞として使われ、作者から六条の御息所への敬意が示される。 |
| こと | 名詞 | |
| たび重なり | 動詞 | ラ行四段活用動詞「たび重なる」の連用形 |
| に | 助動詞 | 完了の助動詞「ぬ」の連用形。 |
| けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形 |
荒々しく引き離すなどをご覧になることが度重なったのだった。
今回はここまで🐸
続きはこちらから⇓
⇓源氏物語の他の記事はこちらから
〇本記事の内容については十分に検討・検証を行っておりますが、その完全性及び正確性等について保証するものではありません。
〇本記事は予告なしに編集・削除を行うことがございます。
〇また、本記事の記載内容によって被った損害・損失については一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。
-
前の記事
源氏物語『葵の上と物の怪--御息所のもの思い』品詞分解/現代語訳/解説① 2025.11.07
-
次の記事
記事がありません