源氏物語『藤壺の入内』品詞分解/現代語訳/解説①

源氏物語『藤壺の入内』品詞分解/現代語訳/解説①

はじめに

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今回は源氏物語の『藤壺の入内』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。

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必要に応じて解説なども記しています。

古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥

それでは行ってみましょう!


年月にそへて、御息所の御事をおぼし忘るるをりなし。

年月           名詞         
格助詞
そへ動詞ハ行下二段活用動詞「そふ」の連用形。
「年・月・日にそへて」の形で、「~に伴う、~に従う」の意味で使われる。
接続助詞
御息所名詞読みは「みやす(ん)どころ)」。天皇に仕える后の総称であるが、ここでは光源氏の実母である「桐壺の更衣」のことを指す。
格助詞
御事名詞
格助詞
おぼし忘るる動詞サ行四段活用動詞「おぼす」の連用形+ラ行下二段活用動詞「忘る」の連体形。
「おぼす」は「思ふ」の尊敬語。
同じく「思ふ」の尊敬語として「おぼしめす」という語もあるが、より高い敬意を表すときは「おぼしめす」の方を用いる。
ここでは、作者から帝への敬意が示される。
をり名詞
なし形容詞ク活用の形容詞「なし」の終止形

年月が経つに伴って、(桐壺帝は)御息所(桐壺更衣)の御事をお忘れになる時がない。

慰むやと、さるべき人々参らせたまへど、

慰む      動詞    マ行四段活用動詞「慰む」の終止形。
「気がまぎれる、心が晴れる」といった意味を持つ語。
係助詞   疑問の係助詞
格助詞
さる動詞ラ行変格活用動詞「さり」の連体形。
★重要語
「さ」「る」「べき」に分けられ、直訳すると「そうあるべき」となる。「適当な」、「そうなるはずの」「立派な」といった訳が当てられる。
ここでは天皇の后としてふさわしい人、といった解釈が適当か。
べき助動詞当然の助動詞「べし」の連体形。
★重要文法
助動詞「べし」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。
※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいるべし。

【原則】
・主語が一人称⇒意志
・主語が二人称⇒適当/当然/命令
・主語が三人称⇒推量

【文脈判断等】
・下に打消を伴う⇒可能 
・下に格助詞の「と」を伴う/終止形⇒意志
・下に名詞や助詞を伴う(「~するはずの」と訳す)⇒当然/予定 ※直後に助詞が来る場合:名詞が省略されている。
・文中に疑問/反語を示す語を伴う⇒推量/可能
人々名詞
参ら動詞ラ行四段活用動詞「参る」の未然形。
★重要単語
「参る」は「行く」「来」の謙譲語である「参上する」という意味のほか、「御」+名詞+「参る」などの形で高貴な身分の人物に対して「(何かをして)差し上げる」という「与ふ」「す」の謙譲語、さらに「食ふ」「飲む」の尊敬語である「召し上がる」の意味がある。判別には文脈判断が必要になるが、まずは最初の「参上する」を当て、不自然であれば他の訳をあてていく。

ここでは「行く」「来」の謙譲語として使われ、作者から帝への敬意が示される。
助動詞使役の助動詞「す」の連用形
たまへ動詞ハ行四段活用動詞「たまふ」の已然形。
「たまふ」は四段活用と下二段活用があり、前者が尊敬語、後者が謙譲語であるので注意が必要。
この場合は尊敬の補助動詞であり、「お~なる」、「~なさる」という意。作者から帝への敬意が示される。
接続助詞逆接の接続助詞。已然形接続ということも押さえておきたい。
(桐壺帝の)お心が晴れるかと、適当な人々を参上させなさるが、

なずらひにおぼさるるだにいとかたき世かなと、

なずらひ       名詞      漢字をあてると「準ひ、擬ひ」である。
「同じ程度であること」という意味を持つ語。
ここで言われているのはもちろん「桐壺更衣と同じくらい大切に帝がお思いになる」ということである。
格助詞
おぼさ動詞サ行四段活用動詞「おぼす」の未然形。
作者から帝への敬意が示される。
るる助動詞自発の助動詞「る」の連体形。
助動詞「る」・「らる」は受身、尊敬、自発、可能の四つの意味をもつ。主な意味の見分け方は次のとおり。原則⇒文脈判断の順番で自然な訳を組み立てたい。

①受身 ⇒「~に」(受身の対象)+「る」(「らる」)
②尊敬 ⇒尊敬語+「る」(「らる」)
③自発 ⇒知覚動詞(「思ふ」「しのぶ」「ながむ」等)+「る」(「らる」)
④可能 ⇒「る」(「らる」)+打消・反語

また、助動詞「る」「らる」は接続する動詞の活用の種類によって使い分けられるため、併せて覚えておきたい。
四段活用動詞、ナ行変格活用動詞、ラ行変格活用動詞の未然形は「る」が使われる。その他の動詞の未然形には「らる」が使われる。
「四段な(ナ変)ら(ラ変)る」と覚えるのも手。
だに副助詞副助詞「だに」は類推の「だに」と最小限の希望の「だに」の二つの用法が存在するが、今回は前者。
最小限の希望を表す場合、下に意志・願望・仮定・命令表現を伴うことが多い。
せめて「だに」だけでも覚えてほしい。
いと副詞「たいそう」、「非常に」という訳を当て、程度が甚だしいことを示す。「めっちゃ」と脳内変換してもOK。
かたき形容詞ク活用の形容詞「かたし」の連体形。
漢字をあてると「難し」であるとおり、「難しい」、「めったにない」といった意味を持つ。
ここでは「めったにない」の意味で使われる。
名詞
かな終助詞詠嘆の終助詞
格助詞
(桐壺の更衣と)同じ程度に自然とお思いになる人さえ、めったにいない世であるなぁと、

うとましうのみよろづにおぼしなりぬるに、

うとましう     形容詞     シク活用の形容詞「うとまし」の連用形のウ音便
のみ副助詞強意の副助詞
よろづに副詞
おぼしなり動詞サ行四段活用動詞「おぼす」の連用形+ラ行四段活用動詞「なる」の連用形。
作者から帝への敬意が示される。
ぬる助動詞完了の助動詞「ぬ」の連体形。
同じ完了の意味で同じ連用形接続の「つ」との違いが聞かれることもあるのでまとめておく。
「ぬ」:自然的な作用を示す場合に用いられる
⇒ ex.「風立ちぬ」
「つ」:人為的、意図的な作用を示す場合に用いられる
⇒ex.「石炭をばはや積み果てつ」

【余談】
先の用例で紹介した「石炭をばはや積み果てつ」は森鴎外『舞姫』からの引用。高校の授業で『舞姫』を扱う学校は多いが、こだわりのある先生であればこの一文字で1時間の授業ができるほどの名文と言える。興味のある人は『舞姫』の中で「つ」と「ぬ」がどのように使い分けられているかチェックしてみてほしい。
接続助詞「に」は下記の八つのパターンがあるため、判別できるようになっておきたい。
①格助詞「に」 ⇒体言+「に」
②格助詞「に」 ⇒連体形+(体言)+「に」
         連体形と「に」の間に体言(「とき」「ところ」)を補うことができる
③接続助詞「に」⇒連体形+「に」
④断定の助動詞「なり」の連用形 ⇒連体形または体言+「に」
 「に」の下に「あり」「さぶらふ」「はべり」などがつくことが多い。
⑤完了の助動詞「ぬ」の連用形 ⇒連用形+「に」
⑥ナリ活用の形容動詞の連用形活用語尾 
⑦ナ行変格活用動詞の連用形活用語尾
⑧副詞の一部

この場合は、「ぬる」が連体形であり、「ぬる」と「に」の間に体言を補うことができないため、③と判断する。
(帝は)いやな感じだと何ごとにつけてもお思いになったところに、

先帝の四の宮の、御容貌すぐれたまへる聞こえ高くおはします、

先帝      名詞     
格助詞
四の宮名詞読みは「しのみや」。ここでは桐壺帝の后である「藤壺」のことを指す。光源氏にとっては義母にあたる存在である
格助詞同格の用法
御容貌名詞★重要単語
「容貌」は「かたち」と読み、「顔立ち」や「容貌」を示す。
「すがた」が衣服を含めた身体全体を指すのに対し、「かたち」はまさに顔の造形について指す。
すぐれ動詞ラ行下二段活用動詞「すぐる」の連用形
たまへ動詞ハ行四段活用動詞「たまふ」の已然形。
尊敬の補助動詞として使われ、作者から四の宮(藤壺)への敬意が示される。
助動詞存続の助動詞「り」の連体形
聞こえ名詞 うわさ、評判、の意
高く形容詞ク活用の形容詞「高し」の連用形
おはします動詞サ行四段活用動詞「おはします」の連体形。
「あり、をり」の尊敬語、「行く、来」の尊敬語、尊敬語の補助動詞といった意味がある。
同じくサ行変格活用動詞の「おはす」よりも敬意が高い。
ここでは「あり、をり」の尊敬語として使われており、作者から四の宮への敬意が示される。

同格のため、直後に「宮」を補うと解釈しやすい。
先帝の四の宮で、お顔立ちが優れていらっしゃると評判が高くいらっしゃって、
 

母后世になくかしづききこえたまふを、上にさぶらふ典侍は、

母后      名詞      
名詞「世になく」で「この世にまたとない」という意。
格助詞
なく形容詞ク活用の形容詞「なし」の連用形
かしづき動詞カ行四段活用動詞「かしづく」の連用形。
★重要単語
「大切に育てる・世話をする」という意味。「かしら(頭)づく」が変化した語とされている。
きこえ動詞ヤ行下二段活用動詞「聞こゆ」の連用形。
★重要単語
「聞こえる」「評判になる」「分かる」などの一般動詞としての用法と、「言ふ」の謙譲語である「申し上げる」、謙譲の補助動詞である「お~申し上げる」の用法がある。謙譲語としての「聞こゆ」は、直前に動詞があるかどうかで意味を判別する必要がある。
ここでは謙譲の補助動詞として使われ、作者から藤壺への敬意が示される。
たまふ動詞ハ行四段活用動詞「たまふ」の連体形。
尊敬の補助動詞として使われ、作者から母后への敬意が示される。
直後に「宮」を補うと解釈しやすい。
格助詞
名詞ここでは「桐壺帝」を指す。
格助詞
さぶらふ動詞ハ行四段活用動詞「さぶらふ」の連体形。
「仕ふ」の謙譲語。
主人の側に臣下・家来が「さぶらふ」場合、「お仕え申し上げる」という意味になる。
ここでは作者から帝への敬意が示される。
典侍名詞「ないしのすけ」と読む。
天皇の側に仕えて、宮中の礼式や雑務などをつかさどる「内侍の司」の次官である女官のこと。
殿上人などの娘が任じられたという。
係助詞
母后が世にまたとないほど大切に育て申し上げなさった方を、桐壺帝にお仕え申し上げる典侍は、

先帝の御時の人にて、かの宮にも親しう参り馴れたりければ、

先帝     名詞       読みは「せんだい」。
格助詞
御時名詞天皇の治世の尊敬語として使われる。
御代、御治世と訳すとよい。
格助詞
名詞
助動詞断定の助動詞「なり」の連用形。
助動詞の「なり」は断定の「なり」と伝聞・推定の「なり」の二つが存在するが、前者は体言または連体形に接続、後者は終止形(ラ変型の活用語には連体形)に接続する。
『土佐日記』の冒頭部分、「男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり」を覚えておけば、接続が導き出せる。
接続助詞
代名詞
格助詞
名詞「かの宮」はここでは「母后」のことを指す。
格助詞
係助詞
親しう形容詞シク活用の形容詞「親し」の連用形のウ音便
参り馴れ動詞ラ行四段活用動詞「参る」の連用形+ラ行下二段活用動詞「馴る」の連用形。

「参る」は「行く」「来」の謙譲語である「参上する」という意味のほか、「御」+名詞+「参る」などの形で高貴な身分の人物に対して「(何かをして)差し上げる」という「与ふ」「す」の謙譲語、さらに「食ふ」「飲む」の尊敬語である「召し上がる」の意味がある。

判別には文脈判断が必要になるが、まずは最初の「参上する」を当て、不自然であれば他の訳をあてていく。

ここでは作者から母后への敬意が示される。
たり助動詞存続の助動詞「たり」の連用形
けれ助動詞過去の助動詞「けり」の已然形。
同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。その場合は 「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。
接続助詞★重要文法
接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。
①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない)
⇒仮定(もし~ならば)
②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている)

(ⅰ)原因・理由(~なので)
(ⅱ)偶然(~したところ)
(ⅲ)必然(~するといつも)

ここでは原因・理由で取ると自然か。
先帝の御代の人で、あの母后にも親しく参上し慣れていたので、

いはけなくおはしましし時より見たてまつり、今もほの見たてまつりて、

いはけなく      形容詞     ク活用の形容詞「いはけなし」の連用形。
漢字をあてると「幼けなし・稚けなし」であるとおり、幼い、子どもっぽい、あどけない、といった意味を持つ。
おはしまし動詞サ行四段活用動詞「おはします」の連用形。
尊敬の補助動詞として使われ、作者から藤壺(四の宮)への敬意が示される。
助動詞過去の助動詞「き」の連体形
名詞
より格助詞
動詞マ行上一段活用動詞「見る」の連用形。
上一段動詞は基本的には10語のみと数に限りがあるため、頭文字を取って「ひいきにみゐる」で確実に暗記しておくこと。
たてまつり動詞ラ行四段活用動詞「たてまつる」の連用形。
★重要単語
「奉る」は尊敬語・謙譲語両方の用法があるため、苦手とする受験生が多い。以下に整理しておくのでしっかり確認しておこう。

〇尊敬語
【本動詞】
・「食ふ」「飲む」の尊敬語「召し上がる」
・「乗る」の尊敬語「お乗りになる」
・「着る」の尊敬語「お召しになる」
〇謙譲語(謙譲語の方が目にする機会は多い!)
【本動詞】
・「与ふ」の謙譲語「差し上げる」
【補助動詞】
・「~し申し上げる」
★「補助動詞は用言や助動詞などの活用する語に付く場合である」ことを押さえておきたい。

ここでは作者から藤壺(四の宮)への敬意。
名詞
係助詞
ほの見動詞マ行上一段活用動詞「見る」の連用形。
「ほの」は接頭語。動詞や形容詞に付いて、「ほのかに、かすかに」といった意味を付け足す。
たてまつり動詞ラ行四段活用動詞「たてまつる」の連用形。
謙譲の補助動詞として使われ、作者から藤壺(四の宮)への敬意が示される。
接続助詞
(四の宮が)幼くいらっしゃったときからお見かけ申し上げて、今もほのかに見申し上げて、

今回はここまで🐸

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