大鏡『道真左遷』品詞分解/現代語訳/解説④

大鏡『道真左遷』品詞分解/現代語訳/解説④

はじめに

こんにちは!こくご部です。

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今回は大鏡から『道真左遷』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。

必要に応じて解説も記しておきます。

古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥

それでは行ってみましょう!

前回の記事はこちらから⇓


筑紫におはします所の御門かためておはします。

筑紫                名詞            現在の九州全域を指す古い呼び方。読みは「つくし」。
格助詞
おはします動詞サ行四段活用動詞「おはします」の連体形。
「あり、をり」の尊敬語、「行く、来」の尊敬語、尊敬語の補助動詞といった意味がある。
同じくサ行変格活用動詞の「おはす」よりも敬意が高い。
ここでは「あり、をり」の尊敬語として使われており、語り手から道真への敬意が示される。

大鏡は「大宅世継(おおやけのよつぎ)」と「夏山繁樹(なつやまのしげき)」という二人が若き侍に対して藤原氏の昔話をしているという設定である。そのため、語り手からの敬意と表現する。
名詞
格助詞
御門名詞読みは「みかど」。家の門を指す。
かため動詞マ行下二段活用動詞「かたむ」の連用形。
「御門かためて」で、謹慎のために門をかたく閉ざしている様子を指す。
接続助詞
おはします動詞サ行四段活用動詞「おはします」の終止形。
「あり、をり」の尊敬語として使われ、語り手から道真への敬意が示される。
(道真は)筑紫で住んでいらっしゃる家の御門を(謹慎のために)かたく閉ざしていらっしゃる。

大弐の居所は遥かなれども、楼の上の瓦などの、

大弐     名詞    「大弐の居所」で大宰府の役所のことをいう。
大宰府の次官のことを「大弐」といった。読みは「だいに」。                      
格助詞
居所名詞読みは「ゐどころ」
係助詞
遥かなれ形容動詞ナリ活用の形容動詞「遥かなり」の已然形
ども接続助詞逆接の接続助詞。已然形接続ということも押さえておきたい。
名詞ここでは、大宰府の高い建物のことを指す。読みは「ろう」。
ピンク色の植物の「桜」とは漢字が似ているが、別の字である。
格助詞
名詞
格助詞
名詞屋根の瓦(かわら)。
など副助詞
格助詞主格用法
大宰府の役所は遠く離れているが、楼の上の瓦などが、

心にもあらず御覧じやられけるに、またいと近く観音寺といふ寺のありければ、

心    名詞   
助動詞断定の助動詞「なり」の連用形
係助詞強意の係助詞
あら動詞ラ行変格活用動詞「あり」が補助動詞として使われている。
助動詞打消の助動詞「ず」の連用形。

「心にもあらず」で連語として使われ、「思わず知らず」、「本意ではない」、「思いもかけない」といった意味を持つ。
ここでは「本意ではない」「自然と」の意味で使われる。
御覧じやら動詞サ行変格活用動詞「御覧ず」の連用形+ラ行四段活用動詞「やる」の未然形。
語り手から道真への敬意が示される。
助動詞自発の助動詞「る」の連用形。
助動詞「る」・「らる」は受身、尊敬、自発、可能の四つの意味をもつ。主な意味の見分け方は次のとおり。原則⇒文脈判断の順番で自然な訳を組み立てたい。

①受身 ⇒「~に」(受身の対象)+「る」(「らる」)
②尊敬 ⇒尊敬語+「る」(「らる」)
③自発 ⇒知覚動詞(「思ふ」「しのぶ」「ながむ」等)+「る」(「らる」)
④可能 ⇒「る」(「らる」)+打消・反語

また、助動詞「る」「らる」は接続する動詞の活用の種類によって使い分けられるため、併せて覚えておきたい。
四段活用動詞、ナ行変格活用動詞、ラ行変格活用動詞の未然形は「る」が使われる。その他の動詞の未然形には「らる」が使われる。
「四段な(ナ変)ら(ラ変)る」と覚えるのも手。
ける助動詞過去の助動詞「けり」の連体形
格助詞
また接続詞
いと副詞「たいそう」、「非常に」という訳を当て、程度が甚だしいことを示す。「めっちゃ」と脳内変換してもOK。
近く形容詞ク活用の形容詞「近し」の連用形
観音寺名詞読みは「くわんおんじ」。大宰府の東にある観世音寺(かんぜおんじ)のこと。
格助詞
いふ動詞ハ行四段活用動詞「いふ」の連体形
名詞
格助詞主格用法
あり動詞ラ行変格活用動詞「あり」の連用形
けれ助動詞過去の助動詞「けり」の已然形
接続助詞★重要文法
接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。
①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない)
⇒仮定(もし~ならば)
②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている)

(ⅰ)原因・理由(~なので)
(ⅱ)偶然(~したところ)
(ⅲ)必然(~するといつも)

ここでは原因・理由で取ると自然か。
本意ではなく自然とご覧にならた上に、またたいそう近くに観音寺という寺があったので、

鐘の声を聞こしめして、作らしめたまへる詩ぞかし。

鐘     名詞     
格助詞           
名詞
格助詞
聞こしめし動詞サ行四段活用動詞「聞こしめす」の連用形。
「聞く」の尊敬語、「食ふ、飲む」の尊敬語の意味がある。
ここでは「聞く」の尊敬語として使われ、語り手から道真への敬意が示される。
接続助詞
作ら動詞ラ行四段活用動詞「作る」の未然形
しめ助動詞尊敬の助動詞「しむ」の連用形。
語り手から道真への敬意が示される。
たまへ動詞ハ行四段活用動詞「たまふ」の已然形。
尊敬の補助動詞として使われ、語り手から道真への敬意が示される。
助動詞完了の助動詞「り」の連体形。
接続を覚えるための語呂合わせは「サ未四已(さみしい)りっちゃん」派か「サ未四已りかちゃん」派かで分かれる。
教室に「り」で始まる子がいるとその日はイジられる可能性が高い。
名詞ここでは漢詩を指す。
係助詞強意の係助詞
かし終助詞念押しの助動詞。「~よ」などの訳を当てることが多い。
(観音寺の)鐘の音をお聞きになって、お作りになった詩であることよ。
 

都府楼纔看瓦色 観音寺只聴鐘声

都府楼纔看瓦色         都府楼は纔かに瓦の色を看
都府:ここでは、大宰府のことを指す。                        
観音寺只聴鐘声観音寺は只だ鐘の声を聴く

謹慎中の身である道真は、大宰府の瓦も見るだけであり、観音寺の鐘の音も聴くだけであって、どこにも出かけられないのである。
大宰府の楼は、わずかに瓦の色が見えるだけである。観音寺は、ただ鐘の音を聴くだけである。

これは、文集の、白居易の「遺愛寺鐘欹枕聴、香炉峰雪撥簾看」といふ詩に、

これ      代名詞    道真が作った詩を指す                            
係助詞
文集名詞白居易の詩を集めた『白氏文集』の略称。
『文集』は『文選』とともに平安貴族たちの必読書であった書物。
官僚の腐敗や民衆の苦しみをわかりやすく表現した。
かの有名な「長恨歌」も『文集』の中に収められている。
格助詞
白居易名詞唐代の詩人。字は楽天。
「香炉峰雪」が『枕草子』にも引用されており、私たちにとって意外と身近な人物。
格助詞
遺愛寺鐘欹枕聴遺愛寺の鐘は枕を欹てて聴き
遺愛寺:中国の江西省にある香炉峰北側の寺のこと。
香炉峰雪撥簾看香炉峰の雪は簾を撥げて看る
『枕草子』の「雪のいと高う降りたるを」にもこの詩が見える。
格助詞
いふ動詞ハ行四段活用動詞「いふ」の連体形
名詞
格助詞
この詩は『文集』の白居易の「遺愛寺の鐘の音は枕を傾けて聴き、香炉峰に積もった雪は簾を巻き上げて見る」という詩に、

まさざまに作らしめたまへりとこそ、昔の博士ども申しけれ。

まさざまに      形容動詞    ナリ活用の形容動詞「まさざまなり」の連用形。
漢字をあてると「勝様なり」、「増様なり」であるとおり、「まさっている、優れている」、「一層増していく」といった意味を持つ語。
ここでは、「優れている」の意味で使われる。                           
作ら動詞ラ行四段活用動詞「作る」の未然形
しめ助動詞尊敬の助動詞「しむ」の連用形。
語り手から道真への敬意が示される。
たまへ動詞ハ行四段活用動詞「たまふ」の已然形
助動詞存続の助動詞「り」の終止形
格助詞
こそ係助詞強意の係助詞
名詞
格助詞
博士ども名詞「ども」は接尾語。名詞について、同じ種類のものが複数であることを示す。海賊王を目指す某国民的キャラクターが「野郎ども」と言っていることからも想像しやすいかもしれない。
また、現在の「私ども」のように、謙遜を示す場合に使われることもある。
申し動詞サ行四段活用動詞「申す」の連用形。
「言ふ」の謙譲語として使われ、語り手から道真への敬意が示される。
けれ助動詞過去の助動詞「けり」の已然形。
係助詞「こそ」を受けて係り結びが成立している。
優れてお作りになっておられると、昔の学者たちは申した。

今回はここまで🐸


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