大鏡『競べ弓』品詞分解/現代語訳/解説②
目次
はじめに
こんにちは!こくご部です。
定期テスト対策から大学受験の過去問解説まで、「知りたい」に応えるコンテンツを発信します。
今回は大鏡から『競べ弓』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。
必要に応じて解説も記しておきます。
古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥
それでは行ってみましょう!
前回の記事はこちらから⇓
中の関白殿、また御前にさぶらふ人々も、
中の関白殿 | 名詞 | 藤原道隆のこと。この時は関白であった。 帥殿(伊周)の父であり、この殿(道長)の兄である。 |
また | 接続助詞 | |
御前 | 名詞 | 貴人の目の前や貴人そのものを示す。 本来であれば上記のように貴人に対して用いられる語であるが、現在で目上の人に「お前」「貴様」と言えば非常にまずいことになる。 どのような敬語も時が経つにつれて、込められた敬意がなくなっていくと言われている。 間違っても先生や先輩に「御前」「貴様」などと言わないようにしよう。その真意を説明する前に叱られます。 |
に | 格助詞 | |
さぶらふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「さぶらふ」の連用形。 「仕ふ」の謙譲語。 主人の側に臣下・家来が「さぶらふ」場合、「お仕え申し上げる」という意味になる。 ここでは語り手から中の関白殿への敬意が示される。 大鏡は「大宅世継(おおやけのよつぎ)」と「夏山繁樹(なつやまのしげき)」という二人が若き侍に対して藤原氏の昔話をしているという設定であるため、語り手という表現をする。 |
人々 | 名詞 | |
も | 係助詞 |
中の関白殿、また中の関白殿にお仕え申し上げる人々も、
「いま二度延べさせたまへ。」と申して、延べさせたまひけるを、
いま | 副詞 | ここでは「さらに、もう」の意味で使われる。 宇治拾遺物語「児のそら寝」に出てきた、「いま一度起こせかし」を思い出してほしい。 |
二度 | 名詞 | 帥殿の矢数を同数に調整するために「二度」と言ったと想像される。 これも「大人」の世界なんだろうか。 |
延べ | 動詞 | バ行下二段活用動詞「延ぶ」の未然形 |
させ | 助動詞 | 尊敬の助動詞「さす」の連用形。 ここでは中の関白殿や人々から帥殿(伊周)とこの殿(道長)への敬意が示されている。 |
たまへ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「たまふ」の已然形。 「たまふ」は四段活用と下二段活用があり、前者が尊敬語、後者が謙譲語であるので注意が必要。 この場合は尊敬の補助動詞であり、「お~なる」、「~なさる」という意。 ここでは中の関白殿や人々から帥殿とこの殿への敬意が示されている。 |
と | 格助詞 | |
申し | 動詞 | サ行四段活用動詞「申す」の未然形。 「言う」の謙譲語、謙譲語の補助動詞(お~申し上げる)の意味がある。 ここでは前者の意味で使われ、語り手から帥殿とこの殿への敬意が示される。 |
て | 接続助詞 | |
延べ | 動詞 | バ行下二段活用動詞「延ぶ」の未然形 |
させ | 助動詞 | 尊敬の助動詞「さす」の連用形。 ここでは語り手から中の関白殿への敬意が示されている。 |
たまひ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「たまふ」の連用形。 ここでは尊敬の補助動詞として使われ、語り手から中の関白殿への敬意が示される。 |
ける | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の連体形。 同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。その場合は 「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。 |
を | 接続助詞 | 順接確定条件 |
「もう二度(勝負を)延長なさいませ。」と申して、延長なさったので、
やすからずおぼしなりて、「さらば延べさせたまへ。」と仰せられて、
やすから | 形容詞 | ク活用の形容詞「やすし」の未然形。 「やすし」は「安し」と「易し」の漢字が当てられる。 直後に助動詞を伴う場合、補助活用(カリ活用)を用いる。 勝っていた(前回の記事参照)はずの「この殿(道長)」からすると「やすからず」思うのは当然である。 |
ず | 助動詞 | 打消の助動詞「ず」の連用形 |
おぼしなり | 動詞 | サ行四段活用動詞「おぼす」の連用形+ラ行四段活用動詞「なる」の連用形。 「おぼす」は「思ふ」の尊敬語。 ここでは、語り手からこの殿への敬意が示されている。 |
て | 接続助詞 | |
さらば | 接続詞 | それならば、の意 |
延べ | 動詞 | バ行下二段活用動詞「延ぶ」の未然形 |
させ | 助動詞 | 尊敬の助動詞「さす」の連用形 この殿から中の関白殿への敬意が示される。 |
たまへ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「たまふ」の命令形。 この場合は尊敬の補助動詞であり、「お~なる」、「~なさる」という意。この殿から中の関白殿への敬意が示される。 |
と | 格助詞 | |
仰せ | 動詞 | サ行下二段活用動詞「仰す」の未然形。 「言ふ」の尊敬語。 ここでは、語り手からこの殿への敬意が示されている。 |
られ | 助動詞 | 尊敬の助動詞「らる」の連用形。 助動詞「る」・「らる」は受身、尊敬、自発、可能の四つの意味をもつ。主な意味の見分け方は次のとおり。原則⇒文脈判断の順番で自然な訳を組み立てたい。 ①受身 ⇒「~に」(受身の対象)+「る」(「らる」) ②尊敬 ⇒尊敬語+「る」(「らる」) ③自発 ⇒知覚動詞(「思ふ」「しのぶ」「ながむ」等)+「る」(「らる」) ④可能 ⇒「る」(「らる」)+打消・反語 また、助動詞「る」「らる」は接続する動詞の活用の種類によって使い分けられるため、併せて覚えておきたい。 四段活用動詞、ナ行変格活用動詞、ラ行変格活用動詞の未然形は「る」が使われる。その他の動詞の未然形には「らる」が使われる。 「四段な(ナ変)ら(ラ変)る」と覚えるのも手。 |
て | 接続助詞 |
(この殿(道長)は)心穏やかではなくお思いになって、「それならば延長なさいませ。」とおっしゃって、
また射させたまふとて、仰せらるるやう、
また | 副詞 | |
射 | 動詞 | ヤ行上一段活用動詞「射る」の未然形。 上一段動詞は基本的には10語のみと数に限りがあるため、頭文字を取って「ひいきにみゐる」で確実に暗記しておくこと。 |
させ | 助動詞 | 尊敬の助動詞「さす」の連用形。 ここでは語り手からこの殿への敬意が示される。 |
たまふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「たまふ」の終止形。 尊敬の補助動詞として使われ、語り手からこの殿への敬意が示される。 |
とて | 格助詞 | |
仰せ | 動詞 | サ行下二段活用動詞「仰す」の未然形。 ここでは語り手からこの殿への敬意が示される。 |
らるる | 助動詞 | 尊敬の助動詞「らる」の連体形。 ここでは語り手からこの殿への敬意が示される。 |
やう | 名詞 |
また弓を射なさるということで、おっしゃるには、
「道長が家より帝・后立ちたまふべきものならば、この矢当たれ。」
道長 | 名詞 | 藤原道長のこと。自身の名前を挙げているのである。 |
が | 助動詞 | 連体修飾格 |
家 | 名詞 | |
より | 格助詞 | |
帝 | 名詞 | |
后 | 名詞 | |
立ち | 動詞 | タ行四段活用動詞「立つ」の連用形 |
たまふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「たまふ」の終止形。 ここでは尊敬の補助動詞として使われ、この殿から帝・后への敬意が示されている。 |
べき | 助動詞 | 当然の助動詞「べし」の連体形。 可能の助動詞「べし」の連用形★重要文法 助動詞「べし」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。 ※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいるべし。 【原則】 ・主語が一人称⇒意志 ・主語が二人称⇒適当/当然/命令 ・主語が三人称⇒推量 【文脈判断等】 ・下に打消を伴う⇒可能 ・下に格助詞の「と」を伴う/終止形⇒意志 ・下に名詞や助詞を伴う(「~するはずの」と訳す)⇒当然/予定 ※直後に助詞が来る場合:名詞が省略されている。 ・文中に疑問/反語を示す語を伴う⇒推量/可能 |
もの | 名詞 | |
なら | 助動詞 | 断定の助動詞「なり」の未然形。 助動詞の「なり」は断定の「なり」と伝聞・推定の「なり」の二つが存在するが、前者は体言または連体形に接続、後者は終止形(ラ変型の活用語には連体形)に接続する。 『土佐日記』の冒頭部分、「男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり」を覚えておけば、接続が導き出せる。 |
ば | 接続助詞 | ★重要文法 接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。 ①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない) ⇒仮定(もし~ならば) ②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている) ⇒ (ⅰ)原因・理由(~なので) (ⅱ)偶然(~したところ) (ⅲ)必然(~するといつも) ここでは①の仮定でとる。 |
こ | 代名詞 | |
の | 格助詞 | |
矢 | 名詞 | |
当たれ | 動詞 | ラ行四段活用動詞「当たる」の命令形 |
「この道長の家から帝や后がお立ちになるはずのものであるならば、この矢当たれ。」
と仰せらるるに、同じものを、中心には当たるものかは。
と | 格助詞 | |
仰せ | 動詞 | サ行下二段活用動詞「仰す」の未然形。 ここでは語り手からこの殿への敬意が示される。 |
らるる | 助動詞 | 尊敬の助動詞「らる」の連体形。 ここでは語り手からこの殿への敬意が示される。 |
に | 格助詞 | |
同じ | 形容詞 | シク活用の形容詞「同じ」の連体形 |
もの | 名詞 | |
を | 格助詞 | 「同じものを」で同じ当たるにしても、の意。 この殿は、ただ的に当てるだけではなく、的の中心を射抜いたのである。 |
中心 | 名詞 | 読みは「なから」。意味は文字通り「中心」「真ん中」。 |
に | 格助詞 | |
は | 係助詞 | 強意の係助詞 |
当たる | 動詞 | ラ行四段活用動詞「当たる」の連体形 |
ものかは | 終助詞 | 詠嘆の終助詞。 驚きのこもった感動のニュアンスがある。 |
とおっしゃると、同じ当たるにしても、中心に当たるではないか。
今回はここまで🐸
続きはこちらから⇓
〇本記事の内容については十分に検討・検証を行っておりますが、その完全性及び正確性等について保証するものではありません。
〇本記事は予告なしに編集・削除を行うことがございます。
〇また、本記事の記載内容によって被った損害・損失については一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。
-
前の記事
大鏡『競べ弓』品詞分解/現代語訳/解説① 2024.01.24
-
次の記事
源氏物語『藤壺の入内』品詞分解/現代語訳/解説② 2024.01.28