【解答解説】名古屋大学2021(文・教・経)古文/『蜻蛉日記』
こんにちは!こくご部です。
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はじめに
今回は名古屋大学2021(文学部・教育学部・経済学部)現代文・評論の現代語訳、解答例及び解説を掲載します。
スピード・記述力・要約力など総合的な力が必要になる名古屋大学!
古文は和歌の修辞など、比較的難易度の高い記述問題が出題されます。
志望している人は早期の対策をおすすめします🐸
なお、著作権の関係から、 当ブログ作成の現代語訳及び解答解説のみを掲載し、
設問は掲載していませんのでご了承ください。
それでは行ってみましょう🔥
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出典について
まずは出典の『蜻蛉日記』について触れておきましょう。
★ジャンル
日記文学。日記文学の中でも『蜻蛉日記』は自らを内省し、世の中や自分の人生を見つめる「自照文学」として説明されることがある。
★作者について
作者は藤原兼家の妻である藤原道綱母(ふじわらのみちつなのはは)。その名の通り、藤原道綱の母であり、妹は『更科日記』の作者である菅原孝標女の母である(つまり、菅原孝標女は藤原道綱母の姪)。
★『蜻蛉日記』について
日本最古の女流日記文学。(日本最古の日記文学は紀貫之の『土佐日記』)
夫である兼家の薄情さに悩まれ、自らを内省する。「嘆きつつひとり寝る夜の明くる間は いかに久しきものとかは知る」は百人一首にも収録されている。
本文・現代語訳『蜻蛉日記』
かくて四月になりぬ。
こうして四月になった。
十日よりしも、また五月十日ばかりまで、
十日から、また五月十日ごろまで、
「いとあやしく悩ましき心地になむある」とて、
「非常に不思議なことに体調が悪い感じである」と言って、
例のやうにもあらで、七八日のほどにて、
いつものようにもなく、(前に顔を見てから)七~八日の問で、
「念じてなむ。おぼつかなさに」など言ひて、
(病気であるのを)「我慢して(やって来て)いる。あなたにお会いしたく思っていて」などと言って、
「夜のほどにてもあれば。かく苦しうてなむ。
「夜でもあるので(人目につかないだろう)。このように苦しいのだ。
内裏へも参らねば、かくありきけりと見えむも便なかるべし」とて、
内裏へも参上していないので、このように歩きまわっていたと見られるのも不都合であろう」と言って、
帰りなどせし人、おこたりてと聞くに、
帰りなどした人(=兼家)は、病気が治ったと聞くが、
待つほど過ぐる心地す。あやしと、
待つほどに時が過ぎていく感じがする。おかしいと思い、
人知れず今宵をこころみむと思ふほどに、
人知れず、今晩、様子を見ようと思ううちに、
はては消息だになくて久しくなりぬ。
最終的には手紙さえ来なくなって久しくなった。
めづらかにあやしと思へど、つれなしをつくりわたるに、
めったにないことでおかしいと思うけれど、さりげないふりをし続けるが、
夜は世界の車の声に胸うちつぶれつつ、
夜は世間の牛車の音に胸がどきどきしながら、
時々は寝入りて、明けにけるはと思ふにぞ、
時々は眠りに落ち、夜が明けたのだなあと思うと、
ましてあさましき。幼き人通ひつつ聞けど、
まして情けない。幼い人(道綱)が兼家のもとに何度も通っては尋ねるが、
さるはなでふこともなかなり。
それというのも実は特にこれといったこともないという。
「いかにぞ」とだに問ひ触れざなり。
「(兼家は私が)どうしているか」とさ訊ね及ぶこともないようだ。
まして、これよりは、なにせむにかは、あやしともものせむと思ひつつ、
なおさら、こちらから、どうして「おかしい」とも言おうか(いや、こちらからは言うまい)と思いながら、
暮らし明かして、格子など上ぐるに、見出だしたれば、
日々を過ごして、格子などを上げる際に、外を見たところ、
夜、雨の降りける気色にて、木ども露かかりたり。
昨夜、雨が降った様子で、木々には露がかかっている。
見るままにおぼゆるやう、
それを見るにつれ心思われたことには、
夜のうちはまつにも露はかかりけり明くれば消ゆるものをこそ思へ
現れない夫を待ち、涙を流している私だけでなく、夜の間に松にも露はかかっていたのだなあ。太陽が昇ると松にかかった露は消えるが、私の涙は乾く間もなく流れるほど物思いをしている。
かくて経るほどに、その月のつごもりに、
こうして月日を過ごすうちに、その月末に、
「小野の宮の大臣かくれ給ひぬ」とて世は騒ぐ。
「小野の宮の大臣(実頼)が亡くなられた」と言って、世間は騒然とする。
ありありて、「世の中いと騒がしかなれば、
結局、兼家は「世の中が非常に騒がしいようなので、
つつしむとて、えものせぬなり。
自重すると言って、あなたのもとに通うことができないのである。
服になりぬるを、これら、とくして」とはあるものか。
喪に服すことになったので、これらを、早く用意してくれ」とはあったものか。
いとあさましければ、「このごろ、ものする者ども里にてなむ」とて返しつ。
非常に情けないので、「この頃は、侍女たちが里に下っているので」と返した。
これにまして心やましきさまにて、たえて言づてもなし。
これに対して、(兼家は)まして気に食わないようすで、まったく伝言もしてこない。
さながら六月になりぬ。かくて数ふれば、
そのまま六月になった。こうして数えると、
夜見ぬことは三十余日、昼見ぬことは四十余日になりにけり。
夜、夫の姿を見ないことは三十数日、昼に姿を見ないことは四十数日になった。
いとにはかにあやしと言へばおろかなり。
非常に急でおかしいといくら言っても言い尽くせない。
心もゆかぬ世とは言ひながら、まだいとかかる目は見ざりつれば、
満足のしない夫婦の仲とは言いながら、まだまったくこのような目に遭ったことがなかったので、
見る人々もあやしうめづらかなりと思ひたり。
侍女たちもおかしなことでめったにないことだと思っている。
ものしおぼえねば、ながめのみぞせらるる。
私は何も思い起こされることがなく、自然と物思いにばかり耽ってしまう。
人目もいと恥づかしうおぼえて、落つる涙おしかへしつつ、
人目も非常に恥ずかしく思われて、落ちる涙をとどめながら、
臥して聞けば、鶯ぞ折はへて鳴くにつけて、おぼゆるやう、
床について聞くと、驚が時節を長引かせて鳴くにつけて、思われることには、
鶯も期もなきものや思ふらむみなつきはてぬ音をぞなくなる
驚も終わりのない物思いをしているのだろうか。私が際限なく泣き続けているように、鶯が六月(水無月)の終わりになってもまだ鳴いている。
問1 現代語訳問題
★まずは逐語訳を心がけ、必要に応じ欠けている部分・省略されている部分を補う!
ア「念じてなむ。おぼつかなさに」
⇒直訳すると「我慢している。気がかりで(会いたく思っていて)」となる。
ここで、これについて「わかりやすく」するために疑問点を投げかけていく。
例えば
「我慢して(やって来て)いる」:何を?何で?誰が?どこに?
「気がかりで(会いたく思っていて)」:誰に?
などが思いつくと思われるが、文脈や本文の内容に応じ、これらの疑問を解消することを意識して補足していく。
上記の疑問点を解消するように組み立てた現代語訳は以下のとおり。
⇒私は病気であるのを我慢してあなたのもとにやって来ている。あなたのことが気がかりで(あなたにお会いしたく思っていて)
イ「かくありきけりと見えむも便なかるべし」
⇒直訳すると「このように歩きまわっていたと見られるのも不都合であろう」となる。
同様に、これについて「わかりやすく」するために疑問点を投げかけていく。
例えば
「歩きまわっていた」:どこを?何で?
「見られる」:誰に?
「不都合」:何で?
などが思いつくと思われるが、文脈や本文の内容に応じ、これらの疑問を解消することを意識して補足していく。
⇒参内もせず、このように歩きまわり女性を訪ねていたのだと周囲の人に見られるのも不都合であろう
ウ「これにまして心やましきさまにて、たえて言づてもなし。」
⇒直訳すると「これに対して、まして気に食わないようすで、まったく伝言もしてこない。」となる。
※「たえて~なし」:は下に打消の語を伴い「全然、全く~ない」の意味で全否定。
同様に、これについて「わかりやすく」するために疑問点を投げかけていく。
例えば
「これ」:何?
「心やましきさま」:誰が?
などが思いつくと思われるが、文脈や本文の内容に応じ、これらの疑問を解消することを意識して補足していく。
⇒喪服を用意してほしいという兼家の依頼を断ったことに対して、兼家はまして気に食わないようすで、まったく伝言もしてこない。
問2 心情説明問題
波線部「つれなし~ましてあさましき」について、単なる現代語訳・内容説明ではなく、ここから読み取ることができる作者の心情について説明する問題。
波線部中の心情語の内容と、「その心情を抱くに至った原因」を押さえたい。
また、波線部直前にも「めづらかにあやしと思へど」とあるのも見落とさないようにしたい。
破線部中の心情語(とそれに類するもの)をピックアップする
・「つれなし」
・「つくりわたる」
・「胸うちつぶれ」
・「あさましき」
これらについて、状況と原因を確認していく。
・「つれなし」「つくりわたる」
⇒素知らぬふう、さりげないなどの訳を当てる。病気が治れば夫の来訪があると考えていたが、病気が治ったと聞いても手紙すら寄越さない夫に対し、周囲の目を意識して「つれなし」の状態を「つくりわたる(=装っている)」。
・「胸うちつぶれ」
⇒驚きや悲しみなどで胸がどきどきする状態。夜、夫の来訪を心待ちしている状態で、家の外から牛車が通る音が聞こえれば夫がやって来たと思うのは自然なこと。
①牛車の音がだんだん近づいてきて、そしてだんだん小さくなっていくこと
②自分は寂しい思いをしているのに(一般的に)男が女のもとに通っていること
③夫が自分以外の女のもとに通っているのかもしれないと筆者が想像すること
など、様々なことに対して「胸うちつぶれ」ている状況が推測される。
・「あさましき」
⇒あきれるほどひどい、情けないなどの意。夫を待ち続けても現れず、気付けば夜が明けてしまっていたことに対しての筆者の感想。
病気が治っても自分のもとに現れない夫の兼家に対して、さりげなく平然としたふりをしているが、その実は夜になると家の外を女性に逢うために男性の乗った牛車が走っている音を聞くと、夫が自分に逢いに来たのではないかと思いながらも結局姿は見えず、熟睡できないまま夜が明けて情けなく思う気持ち。
問3 現代語訳問題〈和歌〉
★修辞を押さえて現代語訳を行う問題(「掛詞や比喩に注意して」の指示あり)。
掛詞に対しては「ひらがな表記」に注意し、比喩に対しては「何を伝えたいのか」「どのような感情を受けてこの歌を詠んでいるのか」に着目する。
(A)の和歌で注意すべき修辞
・掛詞「まつ」
⇒「待つ」と「松」が掛けられている。
・縁語
⇒「露」「消ゆる」
・比喩
⇒(明確な「比喩」とは断言できないが)「まつにも露はかかりけり」の「も」に着目すると、何かと「松」が並列の関係にあることが読み取れる。夫が自分のもとに訪ねて来ず、手紙すら寄越さないという文脈であるので、ここでは「松」に対しての「露」と並び、人間である「筆者」に対しては「露」に類する「涙」を読み取ることができる。
(B)の和歌で注意すべき修辞
・掛詞「みなつき」「なく」
⇒それぞれ「皆尽き」と「水無月」、「鳴く」と「泣く」が掛けられている。
・比喩
⇒(A)の和歌と同様に、「鶯も」の「も」に着目すると、「筆者」と「鶯」が並列関係にあることを読み取ることができる。「鶯」は時季外れに「鳴」いており、「筆者」はとめどなく「泣」いている。
(A)
現れない夫を待ち、涙を流している私だけでなく、夜の間に松にも露はかかっていたのだなあ。太陽が昇ると松にかかった露は消えるが、私の涙は乾く間もなく流れるほど物思いをしている。
(B)
驚も終わりのない物思いをしているのだろうか。私が際限なく泣き続けているように、鶯が六月(水無月)の終わりになってもまだ鳴いている。
今回はここまで🐸
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