源氏物語『葵の上と物の怪--御息所のもの思い』品詞分解/現代語訳/解説①

源氏物語『葵の上と物の怪--御息所のもの思い』品詞分解/現代語訳/解説①

はじめに

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今回は源氏物語の『葵の上と物の怪--御息所のもの思い』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。

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必要に応じて解説なども記しています。

古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥

それでは行ってみましょう!


大殿には、御物の怪いたう起こりていみじうわづらひたまふ。

大殿           名詞         読みは「おほとの」。左大臣の屋敷のこと。ここでは葵の上のことを指す。
葵の上は光源氏の最初の正妻で、「元祖ツンデレ」。光源氏の悪友である「頭中将」の実妹である。
興味のある人は、光源氏と葵の上が読み交わした歌の数を数えてみてほしい。そこからどのようなことが読み取れるか。
格助詞
係助詞提示の係助詞
御物の怪名詞人にとりついて病気を起こさせたり、死なせたりする悪霊のこと。なお、この「悪霊」は「生き霊」である場合もあるが、今回は果たして。
いたう形容詞ク活用の形容詞「いたし」の連用形のウ音便。
程度のはなはだしさを表すが、痛いと感じるほど激しいというイメージを持つとよい。「とても」「たいそう」と訳す。
また、打消の語を伴って「たいして~ない」「それほど~ない」という意味でもよく使われるため覚えておこう。
起こり動詞ラ行四段活用動詞「起こる」の連用形
接続助詞
いみじう形容詞シク活用の形容詞「いみじ」の連用形のウ音便。
程度が「はなはだしい」のほか、「すばらしい」「ひどい」の意味を持つ。
現代語の「ヤバい」と同じで、プラス・マイナスの両面のニュアンスがあることを念頭に置いておきたい。
わづらひ動詞ハ行四段活用動詞「わづらふ」の連用形。
「苦しむ、思い悩む」、「苦労する」といった意味を持つ語。肉体的な苦しさも、精神的な苦しさも表す。補助動詞としても使われることがあるが、その場合は「~するのに困る」といった意味で使われる。
ここでは「苦しむ」の意で使われる。
たまふ動詞ハ行四段活用動詞「たまふ」の終止形。
「たまふ」は四段活用と下二段活用があり、前者が尊敬語、後者が謙譲語であるので注意が必要。
この場合は尊敬の補助動詞であり、「お~なる」、「~なさる」という意。
作者から「大殿(葵の上)」への敬意が示される。

葵の上には御物の怪がひどく起こって非常に苦しみなさる。

「この御生霊、故父大臣の御霊など言ふものあり。」

こ      代名詞    この会話文の主語は「六条の御息所」である。
ここで簡単に六条の御息所について触れておく。六条の御息所は前春宮(とうぐう)后であり、姫君を設けた後、春宮と死別。若くして未亡人になる。
そんな彼女が光源氏と結ばれ、軽薄でない思いを彼に対して持ち続けることになる。その結果が後の「生霊」である。
格助詞 
御生霊名詞「この御生霊」で、自分(六条の御息所)の怨霊のことを指す。
光源氏への想いが募った結果、自らの魂が生霊となって葵の上を苦しめているのである。
故父大臣名詞ここでは亡くなった六条の御息所の父大臣のことを指す。
格助詞
御霊名詞
など副助詞婉曲の副助詞
言ふ動詞ハ行四段活用動詞「言ふ」の連体形
もの名詞
あり動詞ラ行変格活用動詞「あり」の終止形。
ラ変動詞は「あり」「をり」「はべり」「いまそが(か)り/いますが(か)り」を押さえておこう。
「(葵の上にとりついている物の怪が)ご自分(六条の御息所)の生霊だとか、亡くなった父大臣の怨霊だとか言う人がいる。」

と聞きたまふにつけて、おぼしつづくれば、

と       格助詞     
聞き動詞カ行四段活用動詞「聞く」の連用形
たまふ動詞ハ行四段活用動詞「たまふ」の連体形。
尊敬の補助動詞で、作者から六条の御息所への敬意が示される。
格助詞
つけ動詞カ行下二段活用動詞「つく」の連用形
接続助詞
おぼしつづくれ 動詞カ行下二段活用動詞「おぼしつづく」の已然形。
「おぼす」はサ行四段活用動詞の連用形。「思ふ」の尊敬語。
作者から六条の御息所への敬意が示されている。
接続助詞★重要文法
接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。
①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない)
⇒仮定(もし~ならば)
②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている)

(ⅰ)原因・理由(~なので)
(ⅱ)偶然(~したところ)
(ⅲ)必然(~するといつも)

ここでは偶然で取ると自然か。
と(六条の御息所が)お聞きになるにつけて、お考え続けになったところ、

身ひとつのうき嘆きよりほかに人をあしかれなど思ふ心もなけれど、

身ひとつ     名詞     
格助詞
うき形容詞ク活用の形容詞「うし」の連用形。
漢字をあてると「憂し」。
「憂し」は「つらい、いやだ」という意味を持つ。牛乳やお肉を提供してくれる働き者の「牛(うし)」は本当は「つらい、いやだ」と思っていると覚えよう。
嘆き名詞ここでは、六条の御息所が光源氏から想ってもらえないことについてのつらさを意味する。
より格助詞限定。
「ほか」「のち」といった語を伴って使われることが多い。
ほか名詞
格助詞
名詞
格助詞
あしかれ形容詞シク活用の形容詞「あし」の命令形。
★重要単語
シク活用の形容詞「悪し」の連用形。「あし」と読む。
①積極的肯定の「よし」
②まあまあ良い・悪くないの「よろし」
③まあまあ悪い・良くないの「わろし」
④積極的否定の「あし」
の価値基準は押さえておきたい。
など副助詞引用の副助詞
思ふ動詞ハ行四段活用動詞「思ふ」の連体形
名詞
係助詞強調の係助詞
なけれ形容詞ク活用の形容詞「なし」の已然形
接続助詞逆接の確定条件。
已然形接続である。
自分自身のつらい嘆き以外に、他の人を悪くあれ(不幸であれ)と願う気持ちもないが、

もの思ひにあくがるなる魂は、

もの思ひ      名詞     「思い悩むこと、心配」の意
格助詞
あくがる動詞ラ行下二段活用動詞「あくがる」の終止形。
「あくがる」は体や魂がふらふらとさまよい出ることを表す語であり、「さまよい出る」、「(魂が)宙にさまよう」、「(心が)うわの空になる」という意味を持つ。
「あくがる」の「がる」は漢字をあてると「離る」であるが、これが語源であるという説がある。
ここでは「さまよい出る」の意で使われる。
なる助動詞伝聞の助動詞「なり」の連体形。
助動詞の「なり」は断定の「なり」と伝聞・推定の「なり」の二つが存在するが、前者は体言または連体形に接続、後者は終止形(ラ変型の活用語には連体形)に接続する。
『土佐日記』の冒頭部分、「男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり」を覚えておけば、接続が導き出せる。
名詞
係助詞
思い悩むとさまよい出るという魂は、
 

さもやあらむとおぼし知らるることもあり。

さ      副詞      「そう、そのように」の意を持つ語。
ここでは、六条の御息所の生霊が噂通りに葵の上にとりついてしまった可能性があることを指す。
係助詞強調の係助詞
係助詞疑問の係助詞
あら動詞ラ行変格活用動詞「あり」の未然形
助動詞推量の助動詞「む」の連体形。
助動詞「む」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。
※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいること。

【原則】
助動詞「む」が文末にある場合
・主語が一人称⇒意志
・主語が二人称⇒適当/当然/命令
・主語が三人称⇒推量

助動詞「む」が文中に連体形で出てきた場合
・「む(連体形)」+「は」、「に」、「には」、体言⇒仮定
・「む(連体)」+体言⇒婉曲
※婉曲は助動詞「む」を訳出しなくても文意が通じる場合。

ここでは係助詞「や」を受けて係り結びが成立している。
格助詞
おぼし知ら動詞ラ行四段活用動詞「おぼし知る」の未然形。
作者から六条の御息所への敬意が示されている。
るる助動詞自発の助動詞「らる」の連体形。
助動詞「る」・「らる」は受身、尊敬、自発、可能の四つの意味をもつ。主な意味の見分け方は次のとおり。原則⇒文脈判断の順番で自然な訳を組み立てたい。

①受身 ⇒「~に」(受身の対象)+「る」(「らる」)
②尊敬 ⇒尊敬語+「る」(「らる」)
③自発 ⇒知覚動詞(「思ふ」「しのぶ」「ながむ」等)+「る」(「らる」)
④可能 ⇒「る」(「らる」)+打消・反語

また、助動詞「る」「らる」は接続する動詞の活用の種類によって使い分けられるため、併せて覚えておきたい。
四段活用動詞、ナ行変格活用動詞、ラ行変格活用動詞の未然形は「る」が使われる。その他の動詞の未然形には「らる」が使われる。
「四段な(ナ変)ら(ラ変)る」と覚えるのも手。
こと名詞
係助詞添加の係助詞
あり動詞ラ行変格活用動詞「あり」の終止形
そうもあろうかと思い当たられることもある。

今回はここまで🐸

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