平家物語『木曽の最期』品詞分解/現代語訳/解説⑩

平家物語『木曽の最期』品詞分解/現代語訳/解説⑩

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今回は平家物語の『木曽の最期』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。

必要に応じて解説なども記しています。

古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥

それでは行ってみましょう!

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雨の降るやうに射けれども、鎧よければ裏かかず、

雨    名詞    
格助詞主格用法
降る動詞ラ行四段活用動詞「降る」の連体形
やうに助動詞比況の助動詞「やうなり」の連用形。
名詞「やう」に断定の助動詞「なり」がついてできた語。
比況・例示の助動詞「ごとく」の「やうに」使う助動詞である。
動詞ヤ行上一段活用動詞「射る」の連用形。
上一段動詞は基本的には10語のみと数に限りがあるため、頭文字を取って「ひいきにみゐる」で確実に暗記しておくこと。
けれ助動詞過去の助動詞「けり」の已然形。
同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。その場合は 「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。
ども接続助詞逆接の接続助詞。已然形接続ということも押さえておきたい。
名詞       
よけれ形容詞ク活用の形容詞「よし」の已然形。
★重要単語
①積極的肯定の「よし」
②まあまあ良い・悪くないの「よろし」
③まあまあ悪い・良くないの「わろし」
④積極的否定の「あし」
の価値基準は押さえておきたい。
また、ここでは直後に助動詞「けり」を伴っているため、補助活用(カリ活用)になっている。
接続助詞★重要文法
接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。
①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない)
⇒仮定(もし~ならば)
②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている)

(ⅰ)原因・理由(~なので)
(ⅱ)偶然(~したところ)
(ⅲ)必然(~するといつも)

ここでは原因・理由で取ると自然か。
名詞
かか動詞カ行四段活用動詞「かく」の未然形。
ここでは「矢」が「鎧」の中に貫通することを指す。
助動詞打消の助動詞「ず」の連用形
(矢を)雨が降るように射るが、(今井四郎の)鎧がよいので、(矢は)裏まで通らず、

あき間を射ねば手も負はず。

あき間名詞隙間のこと。
格助詞
動詞ヤ行上一段活用動詞「射る」の未然形
助動詞打消の助動詞「ず」の已然形
接続助詞上記を参照。
ここでは原因・理由で取ると自然か。
名詞ここでは「傷」の意味で使われる。
係助詞
負は動詞ハ行四段活用動詞「負ふ」の未然形
助動詞打消の助動詞「ず」の終止形
(鎧の)隙間を射ないので、(今井四郎は)傷も負わない。
 

木曽殿はただ一騎、粟津の松原へ駆けたまふが、

木曽殿    名詞    木曽義仲のこと。
係助詞
ただ副詞
一騎名詞
粟津の松原名詞読みは「あはづのまつばら」。
「木曽殿」は自害するために「粟津の松原」へと向かったのであった。詳しくは前回の記事を参照。
格助詞
駆け動詞カ行下二段活用動詞「駆く」の連用形
たまふ動詞ハ行四段活用動詞「たまふ」の連体形。
「たまふ」は四段活用と下二段活用があり、前者が尊敬語、後者が謙譲語であるので注意が必要。
この場合は尊敬の補助動詞であり、「お~なる」、「~なさる」という意。
作者から木曽殿への敬意が示される。
接続助詞
木曽殿はただ一騎で、粟津の松原へ(馬で)駆けて行きなさるが、

正月二十一日、入相ばかりのことなるに、

正月    名詞     各月の異名と、季節区分については理解しておきたい。現代に生きる我々と感覚が違うので、「1月から数えて3カ月ごとに四季を区分していけばよい」と覚えておこう。

【春】1月:睦月、2月:如月、3月:弥生
【夏】4月:卯月、5月:皐月、6月:水無月
【秋】7月:文月、8月:葉月、9月:長月
【冬】10月:神無月、11月:霜月、12月:師走                         
二十一日名詞
入相名詞夕暮れ時、日没時、の意。読みは「いりあひ」。
ばかり副助詞時間の副助詞
格助詞
こと名詞
なる助動詞断定の助動詞「なり」の連体形。
助動詞の「なり」は断定の「なり」と伝聞・推定の「なり」の二つが存在するが、前者は体言または連体形に接続、後者は終止形(ラ変型の活用語には連体形)に接続する。
『土佐日記』の冒頭部分、「男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり」を覚えておけば、接続が導き出せる。
接続助詞
正月二十一日の日没時のことであるため、

薄氷は張つたりけり、深田ありとも知らずして、

薄氷            名詞                              
係助詞
張つ動詞ラ行四段活用動詞「張る」の連用形の促音便
たり助動詞存続の助動詞「たり」の連用形。
助動詞の「たり」は完了・存続の「たり」と断定の「たり」の二つが存在するが、前者は連用形接続、後者は体言に接続する。
意味から考えても両者は明確に区別できるはず。(完了・存続の「たり」はもともと「てあり」から生じているため、接続助詞の「て」と同様に連用形接続である。同様に、断定の「たり」は「とあり」から生じている。)
けり助動詞過去の助動詞「けり」の連用形
深田名詞
あり動詞ラ行変格活用動詞「あり」の終止形。
ラ変動詞は「あり」「をり」「はべり」「いまそが(か)り/いますが(か)り」を押さえておこう。
格助詞
係助詞
知ら動詞ラ行四段活用動詞「知る」の未然形
助動詞打消の助動詞「ず」の連用形
して接続助詞

薄氷が張っていた、深い田があるとはわからずに、


馬をざつと打ち入れたれば、馬の頭も見えざりけり。

馬    名詞    
格助詞
ざつと副詞
打ち入れ動詞ラ行下二段活用動詞「打ち入る」の連用形。
「打ち」は接頭語で、ここでは「勢いよく」の意味で使われる。
たれ助動詞完了の助動詞「たり」の已然形。
助動詞の「たり」は完了・存続の「たり」と断定の「たり」の二つが存在するが、前者は連用形接続、後者は体言に接続する。
意味から考えても両者は明確に区別できるはず。(完了・存続の「たり」はもともと「てあり」から生じているため、接続助詞の「て」と同様に連用形接続である。同様に、断定の「たり」は「とあり」から生じている。)
接続助詞上記を参照。
ここでは偶然で取ると自然か。
名詞
格助詞       
名詞
係助詞強意の係助詞
見え動詞ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」の未然形。
「見える」「思われる」「見られる」「結婚する」など様々な意味があるが、「見ゆ」の「ゆ」は上代(ほぼ奈良時代まで)の助動詞であり、受身・自発・可能の意味がある。
「受身・自発・可能」という字面を見ると「る」と同じでは?と思った人がいるかもしれないが、その直感は正しい。「る」の発達に伴って「ゆ」が少しずつ姿を消していった。
なお、「ゆ」には尊敬の意味はない。
ざり助動詞打消の助動詞「ず」の連用形
けり助動詞過去の助動詞「けり」の終止形。
同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。その場合は 「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。
(木曽殿が)馬をざっと勢いよく(深い田の中へ)入れたところ、馬の頭も見えなかった。

あふれどもあふれども、打てども打てども、はたらかず。

あふれ    動詞   ラ行四段活用動詞「あふる」の已然形。
漢字をあてると「煽る」であるとおり、「おだてる」、「(あぶみで)馬の腹を蹴る」という意味を持つ語。
ここでは後者の意味で使われる。
ども接続助詞逆接の接続助詞。已然形接続ということも押さえておきたい。
あふれ動詞ラ行四段活用動詞「あふる」の已然形
ども接続助詞
打て動詞タ行四段活用動詞「打つ」の已然形
ども接続助詞
打て動詞タ行四段活用動詞「打つ」の已然形
ども接続助詞動作を繰り返している描写から、「木曽殿」の試行錯誤と焦りが伝わってくる。
はたらか動詞カ行四段活用動詞「はたらく」の未然形。
ここでは「動く」の意味で使われる。
助動詞打消の助動詞「ず」の終止形
(あぶみで)馬の腹を蹴っても蹴っても、(むちで)打っても打っても(馬は)動かない。
 

今井が行方のおぼつかなさに、ふりあふぎたまへる内甲を、

今井    名詞    今井四郎のこと。
格助詞連体修飾格
行方名詞
格助詞
おぼつかなさ  名詞ク活用の形容詞「おぼつかなし」に接尾語「さ」が付いた語。
「おぼつかなし」は、ぼんやりとしてとらえどころのない様子を表すのがもともとの意味。
「ぼんやりしている」、「気がかりだ、不安だ」、「疑わしい」、「待ち遠しい」といった意味を持つ語。
「さ」は形容詞や形容動詞の語幹に付き、程度や状態を表す名詞をつくる。
格助詞
ふりあふぎ動詞ガ行四段活用動詞「ふりあふぐ」の連用形
たまへ動詞ハ行四段活用動詞「たまふ」の已然形。
「たまふ」は四段活用と下二段活用があり、前者が尊敬語、後者が謙譲語であるので注意が必要。
この場合は尊敬の補助動詞であり、「お~なる」、「~なさる」という意。
作者から木曽殿への敬意が示される。
助動詞完了の助動詞「り」の連体形。
接続を覚えるための語呂合わせは「サ未四已(さみしい)りっちゃん」派か「サ未四已りかちゃん」派かで分かれる。
教室に「り」で始まる子がいるとその日はイジられる可能性が高い。
内甲名詞読みは「うちかぶと」。かぶとの内側で、顔面の辺りである。
格助詞
今井の行方の気がかりなために、振り仰ぎ見た甲の内側を、

三浦の石田次郎為久、追つかかつて、よつぴいてひやうふつと射る。

三浦    名詞                             
格助詞
石田次郎為久     名詞読みは「いしだのじらうためひさ」。
追つかかつ動詞ラ行四段活用動詞「追つかかる」の連用形の促音便
接続助詞
よつぴい動詞カ行四段活用動詞「よつぴく」の連用形のイ音便。
「弓を十分に引きしぼる」という意味の語。
「よくひく(能く引く)」の促音便。軍記物語の特徴的な表現の一つであり、促音便であることで強調された表現となっている。

那須与一が源氏軍の扇を射抜いたシーンを思い出す人がいるかもしれない。
接続助詞
ひやうふつと副詞矢が飛んで行き、命中する音を表現する語
射る動詞ヤ行上一段活用動詞「射る」の終止形。
三浦の石田次郎為久が追いついて、弓を十分に引き絞って、(矢を)ひやうふつと射る。

痛手なれば、真向を馬の頭にあててうつぶしたまへるところに、

痛手            名詞          重症。      
なれ助動詞断定の助動詞「なり」の已然形。
助動詞の「なり」は断定の「なり」と伝聞・推定の「なり」の二つが存在するが、前者は体言または連体形に接続、後者は終止形(ラ変型の活用語には連体形)に接続する。
接続助詞上記を参照。
ここでは原因・理由で取ると自然か。
真向名詞ここでは「甲の鉢の前正面」の意味で使われる
格助詞
名詞
格助詞
名詞
格助詞
あて動詞タ行下二段活用動詞「あつ」の連用形
接続助詞
うつぶし動詞サ行四段活用動詞「うつぶす」の連用形
たまへ動詞ハ行四段活用動詞「たまふ」の已然形。
尊敬の補助動詞として使われ、作者から木曽殿への敬意が示される。
助動詞完了の助動詞「り」の連体形
ところ名詞
格助詞

痛手であるため、(木曽殿は)甲の鉢の前正面を(乗っている)馬の頭に当ててうつぶせなさったところに、

今回はここまで🐸

長かった『木曽の最期』もいよいよラストです。果たしてどうなるのか。

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