土佐日記『帰京』品詞分解/現代語訳/解説①

目次
はじめに
こんにちは!こくご部です。
定期テスト対策から大学受験の過去問解説まで、「知りたい」に応えるコンテンツを発信します。
今回は土佐日記『帰京』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。
必要に応じて解説も記しておきます。
古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥
それでは行ってみましょう!
出典について
まずは出典の『土佐日記』について触れておきましょう。
出典
★作者について
作者は紀貫之。平安中期の代表的な歌人。『古今和歌集』の撰者の一人としても覚えておきたい人物。九三〇年から九三四年まで土佐守として任務を果たした。
★ジャンルについて
日記文学。
★成立について
九三五年~九四五年ごろの成立と言われている。
★その他
女性の身を借りて書かれており(女性仮託と言う)、仮名文字が使われている。が、内容を読み進めると、対句や漢文訓読的な男性用語も使われている。
京に入り立ちてうれし。
京 | 名詞 | 読みは「きやう」。(京都人に言わせれば今も昔も)都である。 |
に | 格助詞 | |
入り立ち | 動詞 | タ行四段活用動詞「入り立つ」の連用形。ただ中に入るのではなく、深く中まで入るというニュアンス。 |
て | 接続助詞 | |
うれし | 形容詞 | シク活用の形容詞「うれし」の終止形。 筆者の帰京の喜びを端的に表現した箇所である。 |
京に入ってうれしい。
家に至りて、門に入るに、
家 | 名詞 | 筆者自身の家。筆者の家がどの場所にあったかは諸説あるが、ここではざっくり京都市だとイメージして読みすすめてOK。 |
に | 格助詞 | |
至り | 動詞 | ラ行四段活用動詞「至る」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
門 | 名詞 | 読みは「かど」。 |
に | 格助詞 | |
入る | 動詞 | ラ行四段活用動詞「入る」の連体形 |
に | 接続助詞 | 「に」は下記の八つのパターンがあるため、判別できるようになっておきたい。 ①格助詞「に」 ⇒体言+「に」 ②格助詞「に」 ⇒連体形+(体言)+「に」 連体形と「に」の間に体言(「とき」「ところ」)を補うことができる ③接続助詞「に」⇒連体形+「に」 ④断定の助動詞「なり」の連用形 ⇒連体形または体言+「に」 「に」の下に「あり」「さぶらふ」「はべり」などがつくことが多い。 ⑤完了の助動詞「ぬ」の連用形 ⇒連用形+「に」 ⑥ナリ活用の形容動詞の連用形活用語尾 ⑦ナ行変格活用動詞の連用形活用語尾 ⑧副詞の一部 この場合は、「入る」が連体形であり、「入る」と「に」の間に体言を補うことができないため③であると判断する。 |
家に到着して門に入ると、
月明ければ、いとよくありさま見ゆ。
月 | 名詞 | |
明けれ | 形容詞 | ク活用の形容詞「明けし(あかけし)」の已然形。 諸説あるが、筆者が帰京したのは二月十六日とされており、ちょうど「十六夜(いざよい)の月」の頃である。 (補足) ・十六夜の月は十五夜の満月に次いで明るい月のこと。 |
ば | 接続助詞 | ★重要文法 接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。 ①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない) ⇒仮定(もし~ならば) ②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている) ⇒ (ⅰ)原因・理由(~なので) (ⅱ)偶然(~したところ) (ⅲ)必然(~するといつも) ここでは原因・理由で取ると自然か。 |
いと | 副詞 | 「たいそう」、「非常に」という訳を当て、程度が甚だしいことを示す。「めっちゃ」と脳内変換してもOK。 この場合は後に打消の助動詞を伴っているため、「たいして~(ない)」という意味になる。 |
よく | 形容詞 | ク活用の形容詞「よし」の連用形。 ★重要単語 シク活用の形容詞「悪し」の連用形。「あし」と読む。 ①積極的肯定の「よし」 ②まあまあ良い・悪くないの「よろし」 ③まあまあ悪い・良くないの「わろし」 ④積極的否定の「あし」 の価値基準は押さえておきたい。 |
ありさま | 名詞 | |
見ゆ | 動詞 | ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」の終止形。 「見える」「思われる」「見られる」「結婚する」など様々な意味があるが、「見ゆ」の「ゆ」は上代(ほぼ奈良時代まで)の助動詞であり、受身・自発・可能の意味がある。 「受身・自発・可能」という字面を見ると「る」と同じでは?と思った人がいるかもしれないが、その直感は正しい。「る」の発達に伴って「ゆ」が少しずつ姿を消していった。 なお、「ゆ」には尊敬の意味はない。 |
月が明るいので、たいそうよく様子が見える。
聞きしよりもまして、言ふかひなくぞこほれ破れたる。
聞き | 動詞 | カ行四段活用動詞「聞く」の連用形。 この部分を直訳すると「聞いていたよりもまして」となり、筆者は家が荒れ果ててしまっていることを前もって聞いていたが、それよりも家が荒れた状態であることが分かる。少しかわいそうである。 |
し | 助動詞 | 過去の助動詞「き」の連体形。 同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。その場合は 「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。 |
より | 格助詞 | |
も | 係助詞 | 強意の係助詞 |
まし | 動詞 | サ行四段活用動詞「ます」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
言ふかひなく | 形容詞 | ク活用の形容詞「言ふかひなし」の連用形。 ハ行四段活用動詞「言ふ」にク活用の形容詞「かひなし」が付いてできた語。 「かひなし」は、漢字を当てると「甲斐無し」。 「どうにもならない」、「取るに足りない」の意味を持つ。 ここでは、「言ってもどうにもならない、言っても仕方がない」という意味で使われる。 |
ぞ | 係助詞 | 強意の係助詞 |
こほれ破れ | 動詞 | ラ行下二段活用動詞「こほれ破る」の連用形。 類義語に壊れるを指す「こぼつ」もあり、一緒に押さえておきたい。 |
たる | 助動詞 | 存続の助動詞「たり」の連体形。 助動詞の「たり」は完了・存続の「たり」と断定の「たり」の二つが存在するが、前者は連用形接続、後者は体言に接続する。 意味から考えても両者は明確に区別できるはず。(完了・存続の「たり」はもともと「てあり」から生じているため、接続助詞の「て」と同様に連用形接続である。同様に、断定の「たり」は「とあり」から生じている。) |
(うわさに)聞いていたよりもまさって、言っても失火田がないほど壊れて傷んでいる。
家に預けたりつる人の心も、
家 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
預け | 動詞 | カ行下二段活用動詞「預く」の連用形 |
たり | 助動詞 | 存続の助動詞「たり」の連用形 |
つる | 助動詞 | 完了の助動詞「つ」の連体形。 同じ完了の意味で同じ連用形接続の「ぬ」との違いが聞かれることもあるのでまとめておく。 「ぬ」:自然的な作用を示す場合に用いられる ⇒ ex.「風立ちぬ」 「つ」:人為的、意図的な作用を示す場合に用いられる ⇒ex.「石炭をばはや積み果てつ」 【余談】 先の用例で紹介した「石炭をばはや積み果てつ」は森鴎外『舞姫』からの引用。高校の授業で『舞姫』を扱う学校は多いが、こだわりのある先生であればこの一文字で1時間の授業ができるほどの名文と言える。興味のある人は『舞姫』の中で「つ」と「ぬ」がどのように使い分けられているかチェックしてみてほしい。 |
人 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
心 | 名詞 | |
も | 係助詞 | 並列の係助詞。 ここで引き合いに出されているのは「家が荒れていること」。管理をまかせたはずの人は家の手入れをしてくれていなかったため、このように評している。 |
家に預けていた(留守番をしていた)人の心も、
荒れたるなりけり。
荒れ | 動詞 | ラ行下二段活用動詞「荒る」の連用形 |
たる | 助動詞 | 存続の助動詞「たり」の連体形 |
なり | 助動詞 | 断定の助動詞「なり」の連用形。 助動詞の「なり」は断定の「なり」と伝聞・推定の「なり」の二つが存在するが、前者は体言または連体形に接続、後者は終止形(ラ変型の活用語には連体形)に接続する。 『土佐日記』の冒頭部分、「男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり」を覚えておけば、接続が導き出せる。 |
けり | 助動詞 | 詠嘆の助動詞「けり」の終止形。 ここは単純に過去と解釈するよりも、「はっと気づく」ニュアンスの詠嘆で解釈したい。 |
荒んでいるものであるなぁ。
今回はここまで🐸
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