十訓抄『大江山』品詞分解/現代語訳/解説②
はじめに
こんにちは!こくご部です。
定期テスト対策から大学受験の過去問解説まで、「知りたい」に応えるコンテンツを発信します。
今回は十訓抄から『大江山』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。
必要に応じて解説も記しておきます。
古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥
それでは行ってみましょう!
⇓前回の記事はこちら
出典について
まずは出典の十訓抄について触れておきましょう。
★ジャンル・内容について
説話集。『十訓抄』はその名の通り、「十の訓」として若者を教え導くために書かれた。そのため、内容は教訓的なものが多い。
★編者について
編者は未詳。六波羅二﨟左衛門入道と呼ばれた湯浅宗業(むねなり)の作とする説がある。
★成立について
鎌倉時代中期。1252年(建長四年)ごろの成立とされている。
★その他
上述のとおり、『十訓抄』の内容は教訓的なものが多く、内容は以下のとおり大別される。すなわち「十訓」とは、
①人に恵みを施すべし
②憍慢を離るべし
③人倫を侮るべからず
④人の上の多言等を誡むべし
⑤朋友を撰ぶべし
⑥忠信廉直の旨を存すべし
⑦思慮を専らにすべし
⑧諸事に堪忍すべし
⑨怨望を停むべし
⑩才能・芸業を庶幾すべし
というものである。
「こはいかに。かかるやうやはある。」とばかり言ひて、
こ | 代名詞 | 「こ」は前の内容を受ける代名詞。このような指示語系は問題になりやすい。現代語訳などの問題であっても必ず指示内容を押さえてから解き始めること。 ここでは定頼中納言への返歌として、小式部内侍が即座に素晴らしい歌を詠んだことを指す。 |
は | 係助詞 | |
いかに | 形容動詞 | ナリ活用の形容動詞「いかなり」の連用形。 形容動詞の連用形は副詞的に用いる(=副詞法)ことから、副詞と取る場合もある。 ここでは「どういう」の訳を当てる。 |
かかる | 連体詞 | 「かくある」が変化したもの。ラ行変格活用動詞「かかり」の連体形と見てもOK。 ここでは定頼中納言への返歌として、小式部内侍が即座に素晴らしい歌を詠んだことを指す。 |
やう | 名詞 | |
やは | 係助詞 | 疑問・反語の係助詞「か」、強意の係助詞「は」が結びついた場合、多くは反語の意味を持つ。 (疑問を強めると反語になるのは、「誰が行くの?」⇒「誰が行くの!?(誰も行かないと思っている)」となる例からも想像に難くない) 「や」+「か」の例も同じ。 |
ある | 動詞 | ラ行変格活用動詞「あり」の連体形。 ここでは係助詞「やは」を受けて連体形になっている。 |
と | 格助詞 | |
ばかり | 副助詞 | 限定の副助詞。 上記の言葉だけを言い残して、という状況であるが、分かりやすく言えば捨て台詞を吐いている状況である。 |
言ひ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「言ふ」の連用形 |
て | 接続助詞 |
返歌にも及ばず、袖を引き放ちて、逃げられけり。
返歌 | 名詞 | 読みは「へんか」。 贈られた歌に対して、贈った相手に関連した歌を詠んで返すこと。「かえしうた」ともいう。対面している相手から歌を受けたら、その場ですぐに歌を返すのが常識かつ礼儀であった。 和歌の世界においては「その場で」「状況を踏まえて」「気の利いた」歌を詠むスキルが求められ、これを満たす者は名歌人として公私ともに非常に重宝された。 このように気が利いた様子を「当意即妙」というが、現代でこれができるのは「相手のdisに即座にカウンターを食らわせることができる」ラッパーだけなのかもしれない。 |
に | 格助詞 | |
も | 係助詞 | |
及ば | 動詞 | バ行四段活用動詞「及ぶ」の未然形。 「に及ばず」の形で、「~できない」という不可能の意味を表す。 「○○という状態に及ばない」⇒「できない」というイメージを持っておけば丸暗記する必要がない。 |
ず | 助動詞 | 打消の助動詞「ず」の連用形 |
袖 | 名詞 | |
を | 格助詞 | |
引き放ち | 動詞 | 複合動詞。カ行四段活用動詞「引く」の連用形+タ行四段活用動詞「放つ」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
逃げ | 動詞 | ガ行下二段活用動詞「逃ぐ」の未然形。 定頼は「返歌をする」という常識・礼儀も放り出して、その場を逃げ去ってしまう動揺っぷりである。 貴公子が「めちゃめちゃダサく」、やりこめられる様子が描かれてしまっているが、古典作品の中にはこのようなプロットのものが少なくない。 |
られ | 助動詞 | 尊敬の助動詞「らる」の連用形。 作者から定頼中納言への敬意。 |
けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形 |
小式部、これより歌よみの世におぼえ出で来にけり。
小式部 | 名詞 | 小式部内侍。詳しくは前回の記事を参照されたい。 |
これ | 代名詞 | ここでは「ここまでの一連の流れ」を指す。 |
より | 格助詞 | |
歌よみ | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
世 | 名詞 | 原義は「終わりや限界のある時間・空間」。 「世間」や「生涯」、「前世/現世/来世」など文脈により様々な訳語が当てられるが、頻出は「男女・夫婦の仲」の訳語。 ここでは「世の中」や「世間」の訳語を当てる。 |
に | 格助詞 | |
おぼえ | 名詞 | ★重要単語 動詞の「おぼゆ」が名詞化したもの。 世間や貴人から特別に愛されることを「おぼえ」という。 |
出で来 | 動詞 | カ行変格活用動詞「出で来」の連用形。 「出づ」+「来」で「出で来」。「出てくる」「生じる」など、様々な訳し分けができる。 |
に | 助動詞 | 完了の助動詞「ぬ」の連用形。 助動詞「ぬ」「つ」は、過去の助動詞「き」「けり」を下に伴うことが多いため覚えておくとよい。 |
けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形。 同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。 その場合は「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。 |
これはうちまかせての理運のことなれども、
これ | 代名詞 | |
は | 係助詞 | |
うちまかせ | 動詞 | サ行下二段活用動詞「うちまかす」の連用形。 漢字を当てると「打ち任す」と書く。「うち」は接頭語。 漢字表記のとおり「任せる、一任する」という意味と、「ありふれる」という意味を持つ。 |
て | 接続助詞 | |
の | 格助詞 | |
理運 | 名詞 | 物事が道理にかなっていること。当然そうなること。「理」のとおり物事が「運ぶ」こと、と考えてもよい。 |
の | 格助詞 | |
こと | 名詞 | |
なれ | 助動詞 | 断定の助動詞「なり」の已然形。 助動詞の「なり」は断定の「なり」と伝聞・推定の「なり」の二つが存在するが、前者は体言または連体形に接続、後者は終止形(ラ変型の活用語には連体形)に接続する。 『土佐日記』の冒頭部分、「男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり」を覚えておけば、接続が導き出せる。 |
ども | 接続助詞 | 逆接の接続助詞。已然形接続ということも押さえておきたい。 |
かの卿の心には、これほどの歌、ただいまよみい出すべし、
か | 代名詞 | |
の | 格助詞 | |
卿 | 名詞 | 大臣、大納言、中納言、参議及び三位(さんみ)以上の者の総称。イメージとしては現代の「位の高い」エリート役人(大臣クラス)でOK。 平安時代の「位階」は大きく一位~九位(初位)に分けられるが、「上達部」は通常三位以上(及び四位のうち「参議(=宰相)」と呼ばれる者」)の者を指す。 ここでは「中納言」である「定頼」のことを指す。 |
の | 格助詞 | |
心 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
は | 係助詞 | |
これ | 代名詞 | |
ほど | 副助詞 | 程度の副助詞 |
の | 格助詞 | |
歌 | 名詞 | |
ただいま | 副詞 | 「すぐさま」、「現在、ちょうど今」の意味がある。 前者は飲食店の店員さんなどが言う「ただいま」、後者は留守番電話の音声サービスが言う「ただいま電話にでることができません」の「ただいま」のイメージ。 ここでは「すぐさま」の意味で使われている。 |
よみ出だす | 動詞 | 複合動詞。 マ行四段活用動詞「よむ」の連用形+サ行四段活用動詞「出だす」の終止形。 |
べし | 助動詞 | 可能の助動詞「べし」の連用形 ★重要文法 助動詞「べし」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。 ※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいるべし。 【原則】 ・主語が一人称⇒意志 ・主語が二人称⇒適当/当然/命令 ・主語が三人称⇒推量 【文脈判断等】 ・下に打消を伴う⇒可能 ・下に格助詞の「と」を伴う/終止形⇒意志 ・下に名詞や助詞を伴う(「~するはずの」と訳す)⇒当然/予定 ※直後に助詞が来る場合:名詞が省略されている。 ・文中に疑問/反語を示す語を伴う⇒推量/可能 ここでは可能の意味で使われている。 |
とは知られざりけるにや。
と | 格助詞 | |
は | 係助詞 | |
知ら | 動詞 | ラ行四段活用動詞「知る」の未然形 |
れ | 助動詞 | 尊敬の助動詞「る」の未然形。 助動詞「る」・「らる」は受身、尊敬、自発、可能の四つの意味をもつ。主な意味の見分け方は次のとおり。原則⇒文脈判断の順番で自然な訳を組み立てたい。 ①受身 ⇒「~に」(受身の対象)+「る」(「らる」) ②尊敬 ⇒尊敬語+「る」(「らる」) ③自発 ⇒知覚動詞(「思ふ」「しのぶ」「ながむ」等)+「る」(「らる」) ④可能 ⇒「る」(「らる」)+打消・反語 また、助動詞「る」「らる」は接続する動詞の活用の種類によって使い分けられるため、併せて覚えておきたい。 四段活用動詞、ナ行変格活用動詞、ラ行変格活用動詞の未然形は「る」が使われる。その他の動詞の未然形には「らる」が使われる。 「四段な(ナ変)ら(ラ変)る」と覚えるのも手。 |
ざり | 助動詞 | 打消の助動詞「ず」の連用形。 直後に助動詞「けり」があるため、補助活用となっている。 |
ける | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の連体形 |
に | 助動詞 | 断定の助動詞「なり」の連用形。 ★重要語句 「にや」(「にか」) 断定の助動詞「なり」の連用形+疑問の係助詞「や」の形で出てきた場合、後に続く「あらむ」や「ありけむ」などが省略されている。 「~であろうか」、「~であっただろうか」などと訳す。 |
や | 係助詞 | 疑問の係助詞 |
今回はここまで🐸
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