宇治拾遺物語『検非違使忠明』品詞分解/現代語訳/解説
- 1. はじめに
- 2. 出典について
- 3. 今は昔、忠明といふ検非違使ありけり。
- 4. それが若かりける時、清水の橋のもとにて、
- 5. 京童部どもといさかひをしけり。
- 6. 京童部、手ごとに刀を抜きて、忠明をたちこめて、
- 7. 殺さむとしければ、忠明も太刀を抜きて、御堂ざまにのぼるに、
- 8. 御堂の東のつまにもあまた立ちて、向ひあひたれば、
- 9. 内へ逃げて、蔀のもとを脇にはさみて、前の谷へをどり落つ。
- 10. 蔀、風にしぶかれて、谷のそこに鳥のゐるやうに、
- 11. やをら落ちにければ、それより逃げて去にけり。
- 12. 京童部ども谷を見おろして、あさましがり、
- 13. 立ち並みて見けれども、すべきやうもなくて、
- 14. やみにけりとなむ。
はじめに
こんにちは!こくご部です。
定期テスト対策から大学受験の過去問解説まで、「知りたい」に応えるコンテンツを発信します。
今回は宇治拾遺物語『検非違使忠明』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。
必要に応じて解説も記しておきます。
古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥
それでは行ってみましょう!
出典について
まずは出典の宇治拾遺物語について触れておきましょう。
★ジャンル・内容について
説話集。日本、中国、インドの膨大な説話(古くから伝わる伝承・民話などの総称)をまとめたもので、現代に生きる私たちが読んでも「おもしろい」と感じられるような滑稽譚や世俗的な話が特徴的。
★編者について
編者は不詳。現代には伝わらず亡びてしまった『宇治大納言物語』に収録されなかった物語を集めたとされている(序文に「宇治に遺れるを拾ふ」とある)。
★成立について
鎌倉時代前期。1213年~1219年ごろの成立とされている。
★その他
全15巻197話。いわゆる「昔ばなし」で有名な「わらしべ長者」なども宇治拾遺物語に収録されており、芥川龍之介の『鼻』や『芋粥』などもここから着想を得ている。約80話ほどは『今昔物語集』と同内容のものである。
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今は昔、忠明といふ検非違使ありけり。
今 | 名詞 | 各話の冒頭は「今は昔」や「これも今は昔」などで始まる。 このことから、このスタイルを確立した『今昔物語集』の影響を強く受けていることが分かる。 |
は | 係助詞 | |
昔 | 名詞 | |
忠明 | 名詞 | この話の主人公。「ただあきら」と読む。 |
と | 格助詞 | |
いふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「いふ」の連体形 |
検非違使 | 名詞 | 平安時代初期に設置された官職。京都の治安維持や風俗の粛清などにあった。今の警察のようなものと理解しておこう。 「けんびゐし」の撥音を無表記にした形。 |
あり | 動詞 | ラ行変格動詞「あり」の連用形。 ラ変動詞は「あり」「をり」「はべり」「いまそが(か)り/いますが(か)り」を押さえておこう。 |
けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形。 同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。 その場合は「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。 |
それが若かりける時、清水の橋のもとにて、
それ | 代名詞 | ここでは「忠明」を指す。 |
が | 格助詞 | |
若かり | 形容詞 | ク活用の形容詞「若し」の連用形。 ここでは直後に助動詞を伴っているため、補助活用になっている。 |
ける | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の連体形 |
時 | 名詞 | |
清水 | 名詞 | 現在の京都市東山区にある清水寺。 修学旅行などで訪れたことのある人も少なくないのではないだろうか。 「清水(きよみず)」と聞いて頭に浮かぶ語は何だろうか。 |
の | 格助詞 | |
橋 | 名詞 | ここでは「屋根や欄干のある階段」と想定される。 |
の | 格助詞 | |
もと | 名詞 |
京童部どもといさかひをしけり。
京童部ども | 名詞 | 「きょうわらんべ」などと読むことが多い。ここでは、京の市中にいる乱暴な若者のことをいう。 また、「ども」は接尾語。名詞について、同じ種類のものが複数であることを示す。海賊王を目指す某国民的キャラクターが「野郎ども」と言っていることからも想像しやすいかもしれない。 また、現在の「私ども」のように、謙遜を示す場合に使われることもある。 |
と | 格助詞 | |
いさかひ | 名詞 | ハ行四段活用動詞「いさかふ」が名詞化した語。 「口論する」「けんかする」の意味。現代でも「諍い(いさかい)が生じる」などの形で残っている。 血の気の多い「京童部ども」と何故「いさかひ」になったのかは不明であるが、続く内容を見て驚かないようにしよう。 |
を | 格助詞 | |
し | 動詞 | サ行変格活用動詞「す」の連用形 |
けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形 |
京童部、手ごとに刀を抜きて、忠明をたちこめて、
京童部 | 名詞 | |
手ごと | 名詞 | 「ごと」は接尾語。名詞や動詞の連体形について、「~するたび」「~それぞれ」と訳す。 |
に | 格助詞 | |
刀 | 名詞 | |
を | 格助詞 | |
抜き | 動詞 | カ行四段活用動詞「抜く」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
忠明 | 名詞 | |
を | 格助詞 | |
たちこめ | 動詞 | マ行下二段活用動詞「たちこむ」の連用形。 「取り囲む」、「霧や煙があたりをおおう」の意味を持つが、ここでは前者の意味で解釈すると自然である。 「京童部ども」は「忠明」と「いさかひ」をして、刀を抜いて取り囲んでいるのである。「刀」ということは明らかに殺傷が目的であると判断できるが、一体何があったのか。真相は分からない。 |
て | 接続助詞 |
殺さむとしければ、忠明も太刀を抜きて、御堂ざまにのぼるに、
殺さ | 動詞 | サ行四段活用動詞「殺す」の未然形 |
む | 助動詞 | 意志の助動詞「む」の終止形。 助動詞「む」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。 ※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいること。 【原則】 助動詞「む」が文末にある場合 ・主語が一人称⇒意志 ・主語が二人称⇒適当/当然/命令 ・主語が三人称⇒推量 助動詞「む」が文中に連体形で出てきた場合 ・「む(連体形)」+「は」、「に」、「には」、体言⇒仮定 ・「む(連体)」+体言⇒婉曲 ※婉曲は助動詞「む」を訳出しなくても文意が通じる場合。 |
と | 格助詞 | |
し | 動詞 | サ行変格活用動詞「す」の連用形 |
けれ | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の已然形 |
ば | 接続助詞 | ★重要文法 接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。 ①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない) ⇒仮定(もし~ならば) ②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている) ⇒ (ⅰ)原因・理由(~なので) (ⅱ)偶然(~したところ) (ⅲ)必然(~するといつも) ここでは原因・理由で解釈すると自然である。 |
忠明 | 名詞 | |
も | 係助詞 | |
太刀 | 名詞 | 平安時代以降、反りがあり、刃を下に向けて腰につりさげる長大な刀のことをいう。 ちなみに刀は、刃を上にして腰帯に鞘を差し込んで持ち歩く。 市松模様がトレードマークの某国民的キャラクターが持っているのは刀(と思われる)。 |
を | 格助詞 | |
抜き | 動詞 | カ行四段活用動詞「抜く」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
御堂ざま | 名詞 | 「御堂」はここでは「本堂」を指す。 「ざま(さま)」は接尾語。名詞や代名詞に付き、特に場所を示す語に付く場合は「~の方、~の方面」の意味を表す。 |
に | 格助詞 | |
のぼる | 動詞 | ラ行四段活用動詞「のぼる」の連体形 |
に | 接続助詞 |
御堂の東のつまにもあまた立ちて、向ひあひたれば、
御堂 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
東 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
つま | 名詞 | 漢字を当てると「端」。 「はし、へり」、「軒先」、「きっかけ」などといった意味を持つ。 ここでは「軒先」の意味で解釈すると自然。 |
に | 格助詞 | |
も | 係助詞 | 存続の助動詞「たり」の終止形 |
あまた | 副詞 | ★重要単語 たくさん。 ただ周囲を塞がれているだけでなく、かなりの人数が忠明を襲おうとしている。某ヤンキー漫画の先駆けだったのかもしれない。 |
立ち | 動詞 | タ行四段活用動詞「立つ」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
向ひあひ | 動詞 | ハ行下二段活用動詞「向ふ」の連用形+補助動詞「あふ」の連用形。 補助動詞の「あふ」は現代語でも「慰めあう」などで用いるように、「互いに(みんなで)~する」という意味を持つ。 |
たれ | 助動詞 | 完了の助動詞「たり」の已然形 |
ば | 接続助詞 | 前述の「已然形+ば」を参照されたい。 |
内へ逃げて、蔀のもとを脇にはさみて、前の谷へをどり落つ。
内 | 名詞 | |
へ | 格助詞 | |
逃げ | 動詞 | ガ行下二段活用動詞「逃ぐ」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
蔀 | 名詞 | 「しとみ」と読み、読みの問題は入試に頻出である。格子に板を張ったもの。 板が貼ってあることから雨や風、太陽光を通さないことはもちろん、人の視線も遮る(以外と重要!)ことを押さえておきたい。 蔀は上下二段に分かれているものが多く、「蔀のもと」は下の戸のことを指す。 |
の | 格助詞 | |
もと | 名詞 | |
を | 格助詞 | |
脇 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
はさみ | 動詞 | マ行四段活用動詞「はさむ」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
前 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
谷 | 名詞 | |
へ | 格助詞 | |
をどり落つ | 動詞 | ラ行四段活用動詞「をどる」の連用形+タ行上二段活用動詞「落つ」の終止形。 「清水の舞台」から忠明は飛び降りたのである。まさに必死・決死の覚悟で京童部たちから逃れようとした。 ちなみに清水の舞台から地上までは約18メートルとのことで、木などで衝撃を和らげることができれば助かるくらいの高さなのだろうと想像される。 |
蔀、風にしぶかれて、谷のそこに鳥のゐるやうに、
蔀 | 名詞 | |
風 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
しぶか | 動詞 | カ行四段活用動詞「しぶく」の未然形 |
れ | 助動詞 | 受身の助動詞「る」の連用形。 助動詞「る」・「らる」は受身、尊敬、自発、可能の四つの意味をもつ。主な意味の見分け方は次のとおり。原則⇒文脈判断の順番で自然な訳を組み立てたい。 ①受身 ⇒「~に」(受身の対象)+「る」(「らる」) ②尊敬 ⇒尊敬語+「る」(「らる」) ③自発 ⇒知覚動詞(「思ふ」「しのぶ」「ながむ」等)+「る」(「らる」) ④可能 ⇒「る」(「らる」)+打消・反語 また、助動詞「る」「らる」は接続する動詞の活用の種類によって使い分けられるため、併せて覚えておきたい。 四段活用動詞、ナ行変格活用動詞、ラ行変格活用動詞の未然形は「る」が使われる。その他の動詞の未然形には「らる」が使われる。 「四段な(ナ変)ら(ラ変)る」と覚えるのも手。 |
て | 接続助詞 | |
谷 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
底 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
鳥 | 名詞 | |
の | 格助詞 | 主格用法 |
ゐる | 動詞 | ワ行上一段活用動詞「ゐる」の連体形。 上一段動詞は基本的には10語のみと数に限りがあるため、頭文字を取って「ひいきにみゐる」で確実に暗記しておくこと。 |
やうに | 助動詞 | 比況の助動詞「やうなり」の連用形。 名詞「やう」に断定の助動詞「なり」がついてできた語。 比況・例示の助動詞「ごとく」の「やうに」使う助動詞である。 |
やをら落ちにければ、それより逃げて去にけり。
やをら | 副詞 | 物音をたてないよう、静かに動作する様子を表す語。 「そっと」「静かに」と訳をする。 「やはら」ともいう。 |
落ち | 動詞 | タ行上二段活用動詞「落つ」の連用形 |
に | 助動詞 | 完了の助動詞「ぬ」の連用形 |
けれ | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の已然形 |
ば | 接続助詞 | 前述の「已然形+ば」を参照されたい |
それ | 代名詞 | |
より | 格助詞 | |
逃げ | 動詞 | ガ行下二段活用動詞「逃ぐ」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
去に | 動詞 | ナ行変格活用動詞「去ぬ」の連用形。 ナ変動詞は、「去ぬ(往ぬ)」「死ぬ」を押さえよう。 忠明は地面に落下して命を落とすことなく着地できたのである。 |
けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形 |
京童部ども谷を見おろして、あさましがり、
京童部ども | 名詞 | |
谷 | 名詞 | |
を | 格助詞 | |
見おろし | 動詞 | マ行上一段活用動詞「見る」の連用形+サ行四段活用動詞「おろす」の連用形。 清水寺の舞台から、忠明が逃げていった様子を見ていたのである。 |
て | 接続助詞 | |
あさましがり | 動詞 | シク活用の形容詞「あさまし」+接尾語「がる」の連用形。 「あさまし」は「驚くことだ(否定的)」「あきれたことだ」などと訳を当てる。 「驚きあきれた」と記憶しておいて問題はないが、文脈に応じて訳し分けられるようにしておきたい。 接尾語「がる」は名詞や形容詞、形容動詞の語幹について動詞をつくる。 「~のように思う」、「~のように振る舞う」という意味を持つ。 忠明が「飛び降りて逃げる」という大胆な行動に出たことに対して京童部たちは驚き、開いた口が塞がらないといった状況であろうか。 |
立ち並みて見けれども、すべきやうもなくて、
立ち並み | 動詞 | タ行四段活用動詞「立つ」の連用形+マ行四段活用動詞「並む」の連用形。 「たちなみ」と読みを当てる。 |
て | 接続助詞 | |
見 | 動詞 | マ行上一段活用動詞「見る」の連用形 |
けれ | 動詞 | 過去の助動詞「けり」の已然形 |
ども | 接続助詞 | 逆接の接続助詞。已然形接続ということも押さえておきたい。 |
す | 動詞 | サ行変格活用動詞「す」の終止形 |
べき | 助動詞 | 可能の助動詞「べし」の連体形 ★重要文法 助動詞「べし」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。 ※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいるべし。 【原則】 ・主語が一人称⇒意志 ・主語が二人称⇒適当/当然/命令 ・主語が三人称⇒推量 【文脈判断等】 ・下に打消を伴う⇒可能 ・下に格助詞の「と」を伴う/終止形⇒意志 ・下に名詞や助詞を伴う(「~するはずの」と訳す)⇒当然/予定 ※直後に助詞が来る場合:名詞が省略されている。 ・文中に疑問/反語を示す語を伴う⇒推量/可能 |
やう | 名詞 | |
も | 係助詞 | |
なく | 形容詞 | ク活用の形容詞「なし」の連用形 |
て | 接続助詞 |
やみにけりとなむ。
やみ | 動詞 | マ行四段活用動詞「やむ」の連用形 |
に | 助動詞 | 完了の助動詞「ぬ」の連用形 |
けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形 |
と | 格助詞 | |
なむ | 係助詞 | 強調の係助詞「なむ」。 「なむ」には以下の4パターンあるので、それぞれ識別できるように押さえておきたい。(「⇒」以下は見分ける際のポイント) ①他への願望の終助詞「なむ」 ⇒「なむ」の上は未然形 ②助動詞「ぬ」の未然形「な」+助動詞「む」 ⇒「なむ」の上は連用形 ③係助詞「なむ」 ⇒結びの流れや省略が発生していない場合、文末は連体形 ④ナ変動詞の一部(未然形)+「な」+助動詞「む」 ⇒「な」の上に「死」や「去(往)」がある この場合は「なむ」の後の「言ふ」といった語が省略されている。 |
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