更級日記『源氏の五十余巻』品詞分解/現代語訳/解説②
目次
はじめに
こんにちは!こくご部です。
定期テスト対策から大学受験の過去問解説まで、「知りたい」に応えるコンテンツを発信します。
今回は更級日記から『源氏の五十余巻』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。
必要に応じて解説も記しておきます。
古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥
それでは行ってみましょう!
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と思へど、見えず。いと口惜しく思ひ嘆かるるに、
と | 格助詞 | |
思へ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「思ふ」の已然形 |
ど | 接続助詞 | サ変動詞「思ひくんず」の連用形。 「くんず」はふさぎこむ。 |
見え | 動詞 | ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」の未然形。 「見える」「思われる」「見られる」「結婚する」など様々な意味があるが、「見ゆ」の「ゆ」は上代(ほぼ奈良時代まで)の助動詞であり、受身・自発・可能の意味がある。 「受身・自発・可能」という字面を見ると「る」と同じでは?と思った人がいるかもしれないが、その直感は正しい。「る」の発達に伴って「ゆ」が少しずつ姿を消していった。 なお、「ゆ」には尊敬の意味はない。 |
ず | 助動詞 | 打消の助動詞「ず」の終止形 |
いと | 副詞 | 「たいそう」、「非常に」という訳を当て、程度が甚だしいことを示す。 「めっちゃ」と脳内変換してもOK。 |
口惜しく | 形容詞 | シク活用の形容詞「口惜し」の連用形。 残念だ。 |
思ひ嘆か | 動詞 | カ行四段活用動詞「思ひ嘆く」の未然形。 「思ふ」+「嘆く」の複合動詞。 |
るる | 助動詞 | 自発の助動詞「る」の連体形。 助動詞「る」・「らる」は受身、尊敬、自発、可能の四つの意味をもつ。主な意味の見分け方は次のとおり。原則⇒文脈判断の順番で自然な訳を組み立てたい。 ①受身 ⇒「~に」(受身の対象)+「る」(「らる」) ②尊敬 ⇒尊敬語+「る」(「らる」) ③自発 ⇒知覚動詞(「思ふ」「しのぶ」「ながむ」等)+「る」(「らる」) ④可能 ⇒「る」(「らる」)+打消・反語 また、助動詞「る」「らる」は接続する動詞の活用の種類によって使い分けられるため、併せて覚えておきたい。 四段活用動詞、ナ行変格活用動詞、ラ行変格活用動詞の未然形は「る」が使われる。その他の動詞の未然形には「らる」が使われる。 「四段な(ナ変)ら(ラ変)る」と覚えるのも手。 |
に | 接続助詞 |
と思うが、(手元になく)見ることができない。非常に残念で自然と嘆かわしく思われるが、
をばなる人の田舎よりのぼりたる所に渡いたれば、
をば | 名詞 | 作者の叔母。 |
なる | 助動詞 | 断定の助動詞「なり」の連体形 |
人 | 名詞 | 「おばである人」と回りくどい表現をしているが、自分のおばのことである。 |
の | 格助詞 | |
田舎 | 名詞 | |
より | 格助詞 | 起点 |
のぼり | 動詞 | ラ行四段活用動詞「のぼる」の連用形 |
たる | 助動詞 | 存続の助動詞「たり」の連体形 |
所 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
渡い | 動詞 | サ行四段活用動詞「渡す」の連用形「渡し」のイ音便 |
たれ | 助動詞 | 完了の助動詞「たり」の已然形 |
ば | 接続助詞 | ★重要文法 接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。 ①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない) ⇒仮定(もし~ならば) ②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている) ⇒(ⅰ)原因・理由(~なので) (ⅱ)偶然(~したところ) (ⅲ)必然(~するといつも) ここでは偶然条件で取ると自然。 |
おばである人(=おば)が田舎から上京して来ている所に(親が私を)連れて行ったところ、
「いとうつくしう、生ひなりにけり。」など、
いと | 副詞 | 以下は作者のおばのセリフ。 |
うつくしう | 形容詞 | 「シク活用の形容詞「うつくし」の連用形「うつくしく」の連用形。 古語の「うつくし」を目にして、最初に出てくる意味は「美しい」ではなく「かわいい」であってほしい。 |
生ひなり | 動詞 | ラ行四段活用動詞「生ひなる」の連用形 |
に | 助動詞 | 完了の助動詞「ぬ」の連用形 |
けり | 助動詞 | 詠嘆の助動詞「けり」の終止形。 助動詞「けり」会話文や和歌で使用されている場合は、「過去」だと早合点しないようにしたい。 |
など | 副助詞 |
(おばは)「非常にかわいく、大きくなったこと。」などと、
あはれがり、めづらしがりて、帰るに、「何をか奉らむ。
あはれがり | 動詞 | ラ行四段活用動詞「あはれがる」の連用形。 接尾語「がる」は名詞や形容詞、形容動詞の語幹について動詞をつくる。 |
めづらしがり | 動詞 | ラ行四段活用動詞「めづらしがる」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
帰る | 動詞 | ラ行四段活用動詞「帰る」の連体形 |
に | 格助詞 | |
何 | 代名詞 | |
を | 格助詞 | |
か | 係助詞 | 疑問 |
奉ら | 動詞 | ラ行四段活用動詞「奉る」の未然形。 「奉る」は尊敬語・謙譲語両方の用法があるため、苦手とする受験生が多い。以下に整理しておくのでしっかり確認しておこう。 〇尊敬語 【本動詞】 ・「食ふ」「飲む」の尊敬語「召し上がる」 ・「乗る」の尊敬語「お乗りになる」 ・「着る」の尊敬語「お召しになる」 〇謙譲語(謙譲語の方が目にする機会は多い!) 【本動詞】 ・「与ふ」の謙譲語「差し上げる」 【補助動詞】 ・「~し申し上げる」 ★「補助動詞は用言や助動詞などの活用する語に付く場合である」ことを押さえておきたい。 ここでは「をば」から作者への敬意。 |
む | 助動詞 | 意志の助動詞「む」の連体形。係助詞「か」を受けて係り結びが成立している。 助動詞「む」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。 ※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいること。 【原則】 助動詞「む」が文末にある場合 ・主語が一人称⇒意志 ・主語が二人称⇒適当/当然/命令 ・主語が三人称⇒推量 助動詞「む」が文中に連体形で出てきた場合 ・「む(連体形)」+「は」、「に」、「には」、体言⇒仮定 ・「む(連体)」+体言⇒婉曲 ※婉曲は助動詞「む」を訳出しなくても文意が通じる場合。 |
(私を)懐かしがり、珍しがって、(私が)帰る時に、(おばは)「(あなたに)何を差し上げましょうか。
まめまめしきものは、まさなかりなむ。ゆかしくしたまふなるものを奉らむ。」
まめまめしき | 形容詞 | シク活用の形容詞「まめまめし」の連体形。 「まじめだ」「実用的だ」などの意味があり、どちらの意味も重要である。 |
もの | 名詞 | |
は | 係助詞 | |
まさなかり | 形容詞 | ク活用の形容詞「まさなし」の連用形。 ここでは直後に助動詞を伴っているため、補助活用になっている。 |
な | 助動詞 | 強意の助動詞「ぬ」の未然形。 直後に「推量」や「推定」の助動詞がある場合、「完了」ではなく「強意」の意味で訳出を行うのが基本。 |
む | 助動詞 | 推量の助動詞「む」の終止形 |
ゆかしく | 形容詞 | ク活用の形容詞「ゆかし」の連用形。 カ行四段活用動詞「行く」が形容詞化した語であり、そっちに行ってみたいと思うぐらい「心がひかれる」という意味が基本となっている語。 関心を抱いた対象に応じて「見たい」「聞きたい」「知りたい」などと訳し分けることが必要。 |
し | 動詞 | 断定の助動詞「なり」の連用形 |
たまふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「たまふ」の終止形。 「たまふ」は四段活用と下二段活用があり、前者が尊敬語、後者が謙譲語であるので注意が必要。 この場合は尊敬の補助動詞であり、「お~なる」、「~なさる」という意。 ここではおばから作者への敬意。 |
なる | 助動詞 | 伝聞の助動詞「なり」の連体形。 助動詞の「なり」は断定の「なり」と伝聞・推定の「なり」の二つが存在するが、前者は体言または連体形に接続、後者は終止形(ラ変型の活用語には連体形)に接続する。 『土佐日記』の冒頭部分、「男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり」を覚えておけば、接続が導き出せる。 |
もの | 名詞 | |
を | 格助詞 | |
奉ら | 動詞 | ラ行四段活用動詞「奉る」の未然形。前述の「奉る」を確認してほしい。 ここでは「をば」から作者への敬意。 |
む | 助動詞 | 意志の助動詞「む」の終止形 |
実用的なものはよくないでしょう。(あなたが)見たいと思いなさっていらしいものを差し上げましょう。」
とて、源氏の五十余巻、櫃に入りながら、在中将、とほぎみ、せり河、しらら、あさうづなどいふ物語ども、
とて | 格助詞 | |
源氏 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
五十余巻 | 名詞 | 読みは「ごじうよまき」。 紫式部が著した『源氏物語』は五十四巻が現在に伝わっている。 |
櫃 | 名詞 | 読みは「ひつ」。 |
に | 格助詞 | |
入り | 動詞 | ラ行四段活用動詞「入る」の連用形 |
ながら | 接続助詞 | 継続の用法。 |
在中将 | 名詞 | 読みは「ざいちゆうじやう」。在中将は在原業平のこと、ひいては『伊勢物語』を指すと考えられる。 |
とほぎみ | 名詞 | 以下に続く物語は現代まで伝わっていないが、いつか発見されるかもしれない。その日を楽しみにして待っていよう。 |
せり河 | 名詞 | |
しらら | 名詞 | |
あさうづ | 名詞 | |
など | 副助詞 | |
いふ | 動詞 | |
物語ども | 名詞 | 「ども」は接尾語。名詞について、同じ種類のものが複数であることを示す。海賊王を目指す某国民的キャラクターが「野郎ども」と言っていることからも想像しやすいかもしれない。 また、現在の「私ども」のように、謙遜を示す場合に使われることもある。 |
と言って、『源氏物語』の五十余巻を櫃に入ったまま、(その他にも)『在中将』『とほぎみ』『せり河』『しらら』『あさうづ』などという物語などを
一袋取り入れて、得て帰る心地のうれしさぞいみじきや。
一袋 | 名詞 | |
取り入れ | 動詞 | ラ行下二段活用動詞「取り入る」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
得 | 動詞 | ア行下二段活用動詞「得」の連用形。 活用語尾と語幹の区別がなく、その語全体の形が変わってしまう特殊な語。(え、え、う、うる、うれ、えよ) 同じ活用をするものとして、覚えておきたいのは主に以下の2つ。 「寝(ぬ)」⇒ね、ね、ぬ、ぬる、ぬれ、ねよ 「経(ふ)」⇒へ、へ、ふ、ふる、ふれ、へよ |
て | 接続助詞 | |
帰る | 動詞 | ラ行四段活用動詞「帰る」の連体形 |
心地 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
うれしさ | 名詞 | 形容詞「うれし」が名詞化した語。 |
ぞ | 係助詞 | 強意 |
いみじき | 形容詞 | シク活用の形容詞「いみじ」の連体形。 程度が「はなはだしい」のほか、「すばらしい」「ひどい」の意味を持つ。 現代語の「ヤバい」と同じで、プラス・マイナスの両面のニュアンスがあることを念頭に置いておきたい。 |
や | 間投助詞 | 詠嘆の用法。 |
一つの袋に入れて、手に入れて帰る気持ちのうれしいことといったら、並大抵なものではない。
はしるはしる、わづかに見つつ、心も得ず心もとなく思ふ源氏を、
はしるはしる | 副詞 | 心が走り出すような、わくわくする様子。 個人的にはこのあたりを読むと、「新しいゲームを買った帰り道、親が運転してくれる車の後部座席でそわそわしながら説明書を読んでいるとき」のような感覚を覚える。 |
わづかに | 形容動詞 | ナリ活用の形容動詞「わづかなり」の連用形 |
見 | 動詞 | |
つつ | 接続助詞 | 反復 |
心 | 名詞 | |
も | 係助詞 | |
得 | 動詞 | ア行下二段活用「得」の未然形 |
ず | 助動詞 | 打消の助動詞「ず」の連用形 |
心もとなく | 形容詞 | ク活用の形容詞「心もとなし」の連用形。 「じれったい、待ち遠しい」や「気がかりだ、不安だ」などの意味を持つ。ここでは前者の意。 |
思ふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「思ふ」の連体形 |
源氏 | 名詞 | ここでは『源氏物語』のことを指す。 |
を | 格助詞 |
胸をわくわくさせ、ちょっと見ては、意味がわからずにもどかしく思っていた『源氏物語』を、
一の巻よりして、人も交じらず、几帳のうちにうち臥して、
一 | 名詞 | 連番のうちの最初の一つ目。マンガなどをイメージすればよい。 当然ながら、当時はの書物は製本したものではなき、(絵)巻物である。 |
の | 格助詞 | |
巻 | 名詞 | |
より | 格助詞 | 起点の用法 |
し | 動詞 | サ行変格活用動詞「す」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
人 | 名詞 | |
も | 係助詞 | |
交じら | 動詞 | ラ行四段活用動詞「交じる」の未然形 |
ず | 助動詞 | 打消の助動詞「ず」の連用形 |
几帳 | 名詞 | 読みは「きちやう」。布製のついたて。 |
の | 格助詞 | |
うち | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
うち臥し | 動詞 | サ行四段活用動詞「うち臥す」の連用形。 「うち」は接頭語。動詞に付いて、語調を整えたり、直後に続く動詞の意味を強めたりする働きがあるので、合わせて覚えておきたい。 |
て | 接続助詞 |
一の巻から始めて、他の人も入らず(邪魔をせず)、几帳の陰に寝転がって、
今回はここまで🐸
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