伊勢物語『東下り』品詞分解/現代語訳/解説②

伊勢物語『東下り』品詞分解/現代語訳/解説②

はじめに

こんにちは!こくご部です。

定期テスト対策から大学受験の過去問解説まで、「知りたい」に応えるコンテンツを発信します。


今回は伊勢物語から『東下り』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。

必要に応じて解説も記しておきます。

古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥

それでは行ってみましょう!

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行き行きて、駿河の国に至りぬ。宇津の山に至りて、

行き行き                動詞                カ行四段活用動詞「行き行く」の連用形。
どんどん進んで行く、という意味となる。
同じ語を繰り返し用いることによって、程度を強める用法。
接続助詞
駿河の国名詞現在の静岡県中央部付近のこと
格助詞
至り動詞ラ行四段活用動詞「至る」の連用形。
ここでは「到着する」の意味。
助動詞    完了の助動詞「ぬ」の終止形。
同じ完了の意味で同じ連用形接続の「つ」との違いが聞かれることもあるのでまとめておく。
「ぬ」:自然的な作用を示す場合に用いられる
⇒ ex.「風立ちぬ」
「つ」:人為的、意図的な作用を示す場合に用いられる
⇒ex.「石炭をばはや積み果てつ」

【余談】
先の用例で紹介した「石炭をばはや積み果てつ」は森鴎外『舞姫』からの引用。高校の授業で『舞姫』を扱う学校は多いが、こだわりのある先生であればこの一文字で1時間の授業ができるほどの名文と言える。興味のある人は『舞姫』の中で「つ」と「ぬ」がどのように使い分けられているかチェックしてみてほしい。
宇津の山名詞静岡市と藤枝市の境にある山のこと
格助詞
至り動詞ラ行四段活用動詞「至る」の連用形
接続助詞
どんどん進んで行き、駿河の国に到着した。宇津の山に到着し、

わが入らむとする道はいと暗う細きに、つた・かへでは茂り、

わ     代名詞     自分。
格助詞  主格用法
入ら動詞ラ行四段活用動詞「入る」の未然形
助動詞意志の助動詞「む」の終止形。
助動詞「む」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。
※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいること。

【原則】
助動詞「む」が文末にある場合
・主語が一人称⇒意志
・主語が二人称⇒適当/当然/命令
・主語が三人称⇒推量

助動詞「む」が文中に連体形で出てきた場合
・「む(連体形)」+「は」、「に」、「には」、体言⇒仮定
・「む(連体)」+体言⇒婉曲
※婉曲は助動詞「む」を訳出しなくても文意が通じる場合。
格助詞
する名詞サ行変格活用動詞「す」の連体形
名詞
係助詞
いと副詞「たいそう」、「非常に」という訳を当て、程度が甚だしいことを示す。「めっちゃ」と脳内変換してもOK。
暗う形容詞ク活用の形容詞「暗し」の連用形のウ音便
細き形容詞ク活用の形容詞「細し」の連用形
格助詞添加の用法
つた名詞
かへで名詞
係助詞
茂り動詞ラ行四段活用動詞「茂る」の連用形
私が入ろうとする道はたいそう暗く細いうえに、つたや楓は生い茂り、

もの心細く、すずろなるめを見ることと思ふに、修行者会ひたり。

もの心細く   形容詞     ク活用の形容詞「もの心細し」の連用形。
「もの」は接頭語。「なんとなく~」。
以降の語と結びつき、漠然とした様態を示す語を作る。
すずろなる形容動詞 ナリ活用の形容動詞「すずろなり」の連体形。
漢字をあてると「漫ろなり」であるとおり、はっきりとした目的や理由がない、つながりのない、といったイメージの語である。
「あてもない」、「思いがけない、無関係だ」、「むやみに」といった意味となる。
ここでは「(都にいれば起きないような)思いがけない(苦しい目)」といった意味で使われる。
名詞現代でも「痛いに遭う」などの形で残っているが、当時とはコロケーション(母語話者にとって自然な語の結びつきやつながり)が異なるのが面白いところである。
格助詞
見る動詞マ行上一段活用動詞「見る」の連体形。
上一段動詞は基本的には10語のみと数に限りがあるため、頭文字を取って「ひいきにみゐる」で確実に暗記しておくこと。
こと名詞
格助詞
思ふ動詞ハ行四段活用動詞「思ふ」の連体形
接続助詞「に」は下記の八つのパターンがあるため、判別できるようになっておきたい。
①格助詞「に」 ⇒体言+「に」
②格助詞「に」 ⇒連体形+(体言)+「に」
         連体形と「に」の間に体言(「とき」「ところ」)を補うことができる
③接続助詞「に」⇒連体形+「に」
④断定の助動詞「なり」の連用形 ⇒連体形または体言+「に」
 「に」の下に「あり」「さぶらふ」「はべり」などがつくことが多い。
⑤完了の助動詞「ぬ」の連用形 ⇒連用形+「に」
⑥ナリ活用の形容動詞の連用形活用語尾 
⑦ナ行変格活用動詞の連用形活用語尾
⑧副詞の一部

この場合は、「思ふ」が連体形であり、体言を補うことができないため、③であると判断する。
修行者名詞ここでは、仏道修行のためさまざまな国をめぐり歩く人のこと。
読みは「すぎやうざ」。ちなみに餃子は酢胡椒で食べると美味しい。
会ひ動詞ハ行四段活用動詞「会ふ」の連用形
たり助動詞完了の助動詞「たり」の終止形。
助動詞の「たり」は完了・存続の「たり」と断定の「たり」の二つが存在するが、前者は連用形接続、後者は体言に接続する。
意味から考えても両者は明確に区別できるはず。(完了・存続の「たり」はもともと「てあり」から生じているため、接続助詞の「て」と同様に連用形接続である。同様に、断定の「たり」は「とあり」から生じている。)
なんとなく心細く、思いがけない(つらい)目に遭うことだと思うと、修行者が男に出会った。

「かかる道は、いかでかいまする。」と言ふを見れば、見し人なりけり。

かかる     動詞    ラ行変格活用動詞「かかる」の連体形。
「かくある」が変化したもの。
指示語であるため、基本的に直前の内容を受ける。
傍線が引かれ、問になっていた場合は「指示された内容を押さえてから問に答える」ということを徹底したい。
ここでは「寂しい」というニュアンスが含まれていると言える。
名詞                               
係助詞
いかで副詞★重要単語
下にどのような語が来るかによって訳が変わる。
推量の場合は「どうして(どのようにして)~か」「どうして~か、いや、そうではない」のような疑問または反語に、願望・意志の場合は「何とかして~」といった強い願望を示す。
この場合は単純に「どうして~か」と解釈するのが自然か。
係助詞疑問の係助詞
いまする動詞サ行変格活用動詞「います」の連体形。
「あり」「行く」の尊敬語。ここでは、「あり」の尊敬語として使われ、修行者から男に対しての敬意が示されている。
直前の「か」を受けて係り結びが成立している。
格助詞
言ふ動詞ハ行四段活用動詞「言ふ」の連体形
格助詞
見れ動詞マ行上一段活用動詞「見る」の已然形
接続助詞★重要文法
接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。
①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない)
⇒仮定(もし~ならば)
②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている)

(ⅰ)原因・理由(~なので)
(ⅱ)偶然(~したところ)
(ⅲ)必然(~するといつも)

ここでは偶然で取ると自然か。
動詞マ行上一段活用動詞「見る」の連用形。
助動詞過去の助動詞「き」の連体形。
同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。その場合は 「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。
名詞声をかけてくれた修行者は、もともとの知り合いであったのだった。
なり格助詞断定の助動詞「なり」の連用形。
助動詞の「なり」は断定の「なり」と伝聞・推定の「なり」の二つが存在するが、前者は体言または連体形に接続、後者は終止形(ラ変型の活用語には連体形)に接続する。
『土佐日記』の冒頭部分、「男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり」を覚えておけば、接続が導き出せる。
けり助動詞詠嘆の助動詞「けり」の終止形。
今まで気付かなかったことに、はじめて気付いてハッとする驚きや感動を表す。
「このような道に、どうしていらっしゃるのか。」と言う人を見ると、見知った人であったのだなぁ。
 

京に、その人の御もとにとて、文書きてつく。

名詞    
格助詞
代名詞
格助詞
名詞
格助詞
御もと    名詞「御」は「おん/おほん」と読む接頭語。
敬意を表そうとする人物に関する事物につけて、尊敬を表す。
ここでは、京にいるであろう男の大切な人に対しての敬意が示されている。
格助詞
とて格助詞
名詞手紙。
書き動詞カ行四段活用動詞「書く」の連用形
接続助詞
つく動詞カ行下二段活用動詞「つく」の終止形。
ここでは、任せる、託す、の意味で使われる。
都へ、その人のお手元にと、手紙を書いて(修行者に)託す。

駿河なる宇津の山べのうつつにも夢にも人にあはぬなりけり

駿河     名詞     
なる助動詞存在の助動詞「なり」の連体形
宇津の山べ名詞
格助詞「駿河なる」から「の」までが「うつつ」を導き出す序詞である。

序詞とは、ある語を飾るために、その語の前に置かれる七音以上の修飾語のこと。口語訳を行わない枕詞とは異なり、歌が詠まれた場面の理解を促すため口語訳を行う。
うつつ名詞漢字をあてると「現」であるとおり、「現実」、「正気」といった意味を持つ。
ここでは「現実」の意味で使われる。
格助詞
係助詞
名詞古文における夢の中で異性が現れた時は、
①自分が相手を恋しく思う
②相手が自分を強く思う
どちらかであると考えられていた。
格助詞
係助詞
名詞ここでは、男が思いをよせる、都にいるであろう「人」を指す。
格助詞
あは動詞ハ行四段活用動詞「あふ」の未然形
助動詞打消の助動詞「ず」の連体形
なり助動詞断定の助動詞「なり」の連用形
けり助動詞詠嘆の助動詞「けり」の終止形
駿河にある宇津の山辺の「うつ」という名のように、現実にも夢にもあなたに会わないことだなぁ。

富士の山を見れば、五月のつごもりに、雪いと白う降れり。

富士の山   名詞     富士山のこと。古来より様々な伝説や伝承の舞台となってきた。
格助詞
見れ動詞マ行上一段活用動詞「見る」の已然形
接続助詞
五月     名詞「さつき」と読む。
各月の異名と、季節区分については理解しておきたい。現代に生きる我々と感覚が違うので、「1月から数えて3カ月ごとに四季を区分していけばよい」と覚えておこう。
【春】1月:睦月、2月:如月、3月:弥生
【夏】4月:卯月、5月:皐月、6月:水無月
【秋】7月:文月、8月:葉月、9月:長月
【冬】10月:神無月、11月:霜月、12月:師走
格助詞
つごもり名詞下旬、特に月末のこと。
月初めは「月立ち(ついたち)」という。
格助詞
名詞
いと副詞
白う形容詞ク活用の形容詞「白し」の連用形のウ音便
降れ動詞ラ行四段活用動詞「降る」の已然形
助動詞存続の助動詞「り」の終止形。
接続を覚えるための語呂合わせは「サ未四已(さみしい)りっちゃん」派か「サ未四已りかちゃん」派かで分かれる。
教室に「り」で始まる子がいるとその日はイジられる可能性が高い。
富士山を見ると、五月末(だというの)に、雪がたいそう白く降り積もっている。

時知らぬ山は富士の嶺いつとてか鹿の子まだらに雪の降るらむ

時   名詞     
知ら動詞ラ行四段活用動詞「知る」の未然形
助動詞打消の助動詞「ず」の連体形
名詞
係助詞
富士の嶺名詞読みは「ふじのね」。ここで意味が一旦切れる二句切れの歌である。
ちなみに「富士の嶺」は和歌にのみ用いられる語である「歌語」であるが、「富士の山」は歌語ではない。
いつ     代名詞
とて格助詞
係助詞疑問の係助詞
鹿の子まだら名詞読みは「かのこ(まだら)」。子鹿のように、茶色に白い斑点がある様子のこと。
格助詞
名詞
格助詞主格用法
降る動詞ラ行四段活用動詞「降る」の終止形
らむ助動詞現在の原因推量の助動詞「らむ」の連体形。
助動詞「らむ」は終止形接続。

係助詞「か」を受けて係り結びが成立している。
季節を理解しない山は、この富士山である。いつだと思って、鹿の子のようにまだらに雪が降り積もるのだろうか。

その山は、ここにたとへば、比叡の山を二十ばかり重ねあげたらむほどして、なりは塩尻のやうになむありける。

そ       代名詞     
格助詞
名詞富士の山のことを指す
係助詞
ここ代名詞京都を指す
格助詞
たとへ動詞ハ行下二段活用動詞「たとふ」の未然形
接続助詞★重要文法
接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。
①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない)
⇒仮定(もし~ならば)
②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている)

(ⅰ)原因・理由(~なので)
(ⅱ)偶然(~したところ)
(ⅲ)必然(~するといつも)

ここでは未然形+「ば」なので「仮定」の意味である。
比叡の山名詞京都府と滋賀県の境にある比叡山のこと。
「比叡の山」にある 比叡山延暦寺は滋賀県(境内には京都も含まれる)に所在し、「日本仏教の母山」と呼ばれている。
格助詞
二十名詞読みは「はたち」。
ばかり副助詞程度の副助詞。
限定の用法もあるので合わせて覚えておこう。
重ね上げ動詞ガ行下二段活用動詞「重ね上ぐ」の連用形
たら助動詞完了の助動詞「たり」の未然形
助動詞婉曲の助動詞「む」の連体形。
助動詞「む」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。

※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいること。

【原則】
助動詞「む」が文末にある場合
・主語が一人称⇒意志
・主語が二人称⇒適当/当然/命令
・主語が三人称⇒推量

助動詞「む」が文中に連体形で出てきた場合
・「む(連体形)」+「は」、「に」、「には」、体言⇒仮定 ・「む(連体)」+体言⇒婉曲
※婉曲は助動詞「む」を訳出しなくても文意が通じる場合。
ほど名詞★重要単語
時間、距離、空間、物体など様々な事物の程度を示す。
この場合は、山の大きさの程度を表す。
して接続助詞※※諸説あり
接続助詞「して」は活用語の連用形に接続するが、この用例は例外的なものである。
なり名詞物の形や恰好、という意味を持つ。
その他にも、身なり・服装という意味も持つ。
係助詞
塩尻名詞砂浜で砂を鉢型に盛り上げたもののこと
格助詞
やうに助動詞比況の助動詞「やうなり」の連用形。
名詞「やう」に断定の助動詞「なり」がついてできた語。
比況・例示の助動詞「ごとく」の「やうに」使う助動詞である。
なむ係助詞強意の係助詞
あり動詞ラ行変格活用動詞「あり」が補助動詞として使われている。
「あり」本来の意味である「存在する」という意味ではなく、「~の状態である」という意味で使われていることに注意する。
ける助動詞過去の助動詞「けり」の連体形。
係助詞「なむ」を受けて係り結びが成立している。
その富士山は、京都に例えるならば、比叡山を二十ほど重ね上げたような大きさで、格好は塩尻のようであった。

今回はここまで🐸

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