伊勢物語 六段『芥川』品詞分解/現代語訳/解説①
目次
はじめに
こんにちは!こくご部です。
定期テスト対策から大学受験の過去問解説まで、「知りたい」に応えるコンテンツを発信します。
今回は伊勢物語から『芥川』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。
必要に応じて解説も記しておきます。
古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥
それでは行ってみましょう!
『伊勢物語』の別の記事はこちらから⇓
出典について
まずは出典の伊勢物語について触れておきましょう。
出典:十訓抄
★ジャンル・内容について
歌物語。歌物語とは和歌を中心として、その歌が詠まれた背景や事情を物語にしたもの。
伊勢物語は百二十五段(前後)から成り、「男」の元服から死ぬまでの半生が語られる。
★作者について
作者は未詳であるが、在原業平またはそれに近しい人物であると推察される。
★成立について
平安時代中期ごろに原型ができたとされる。その後、今ある『伊勢物語』となったが、詳しくは明らかになっていない。
★その他
『伊勢物語』に登場する「男」とは、六歌仙の一人である在原業平だとされているが、定かではない。
昔、男ありけり。女のえ得まじかりけるを、
昔 | 名詞 | |
男 | 名詞 | 『伊勢物語』に見える「男」の多くは在原業平だとされている。 在原業平は平安時代前期の歌人であり、「その心余りて詞たらず」と歌風を評価される。六歌仙の内の一人。 |
あり | 動詞 | ラ行変格活用動詞「あり」の連用形。 ラ変動詞は「あり」「をり」「はべり」「いまそが(か)り/いますが(か)り」を押さえておこう。 |
けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形。 同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。 その場合は「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。 |
女 | 名詞 | |
の | 格助詞 | 同格の用法。 「女」と「え得まじかりける(女)」が同じ人物のことを指す。 |
え | 副詞 | ★重要文法 後ろに「打消」を伴って「不可能」の意味を表す。 このようにセットで用いる副詞を「呼応(陳述)の副詞」と呼ぶ。 |
得 | 動詞 | ア行下二段活用動詞「得(う)」の終止形。 原義は「手に入れること」であるが、ここでは「女を手に入れる」⇒「結婚する」と解釈する。 活用語尾と語幹の区別がなく、その語全体の形が変わってしまう特殊な語。(え、え、う、うる、うれ、えよ) 同じ活用をするものとして、覚えておきたいのは主に以下の2つ。 「寝(ぬ)」⇒ね、ね、ぬ、ぬる、ぬれ、ねよ 「経(ふ)」⇒へ、へ、ふ、ふる、ふれ、へよ |
まじかり | 助動詞 | 打消推量の助動詞「まじ」の連用形。 助動詞「まじ」は助動詞「べし」の打消だと考えてよい。 |
ける | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の連体形。 前に同格の「の」があるため、「ける」の後に「女」を補う。 |
を | 格助詞 |
昔、男がいた。女であって(男が)手に入れることができそうになかった女を、
年を経てよばひわたりけるを、からうじて盗み出でて、
年 | 名詞 | 何年も。 |
を | 格助詞 | |
経 | 動詞 | ハ行下二段活用動詞「経(ふ)」の連用形。 前述の「得(う)」を参照されたい。 |
て | 動詞 | |
よばひわたり | 助動詞 | ハ行四段活用動詞「よばふ」の連用形+補助動詞「わたる」の連用形。 「よばふ」は「呼び続ける」、「求婚する」の意味があるが、ここでは後者の意味で使われている。 補助動詞「わたる」は時間的な広がり、または空間的な広がりを表す語である。前者の場合「ずっと~する」、後者の場合「一面に~する」と訳すとよい。ここでは前者の意味で使われている。 長年求婚し続けていたにもかかわらず、男は女を手に入れることができていなかったのである。どのような女性なのだろうか。 |
ける | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の連体形 |
を | 接続助詞 | |
からうじて | 副詞 | 漢字を当てると「辛うじて」となる。 ク活用の形容詞「からし」の連用形+接続助詞「して」がついた「からくして」のウ音便の形。 「やっとのことで、ようやく」の意味。 |
盗み出で | 動詞 | マ行四段活用動詞「盗む」の連用形+ダ行下二段活用動詞「出づ」の連用形。 女性を手に入れることができず、盗みだすしか方法がなかった男。その心境はいかに。 |
て | 接続助詞 |
何年もかけて求婚し続けていたが、やっとのことで(男は女を)盗み出して
いと暗きに来けり。芥川といふ川を率て行きければ、
いと | 副詞 | 「たいそう」、「非常に」という訳を当て、程度が甚だしいことを示す。「めっちゃ」と脳内変換してもOK。 |
暗き | 形容詞 | ク活用の形容詞「暗し」の連体形。 直後に「時」や「夜」などを補うとよい。 |
に | 接続助詞 | |
来 | 動詞 | カ行変格活用動詞「来」の連用形 |
けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形 |
芥川 | 名詞 | この「芥川」には諸説ある。 一説には現在の大阪府高槻市にある川であるとされているが、その名の通り「芥(ゴミ)」を捨てた川だという説もある。 |
と | 格助詞 | |
いふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「いふ」の連体形 |
川 | 名詞 | |
を | 格助詞 | |
率 | 動詞 | ワ行上一段活用動詞「率る」の連用形。 上一段動詞は基本的には10語のみと数に限りがあるため、頭文字を取って「ひいきにみゐる」で確実に暗記しておくこと。 |
て | 接続助詞 | |
行き | 動詞 | カ行四段活用動詞「行く」の連用形 |
けれ | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の已然形 |
ば | 接続助詞 | ★重要文法 接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。 ①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない) ⇒仮定(もし~ならば) ②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている) ⇒ (ⅰ)原因・理由(~なので) (ⅱ)偶然(~したところ) (ⅲ)必然(~するといつも) ここでは偶然条件で解釈したい。 |
たいそう暗い時に(逃げて)来た。芥川という川を(男が女を)連れて行ったところ、
草の上に置きたりける露を、「かれは何ぞ。」となむ男に問ひける。
草 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
上 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
置き | 動詞 | カ行四段活用動詞「置く」の連用形。 現代のコロケーションでは「霜」は「降りる」となるが、昔は「置く」と言っていたことが窺える。 |
たり | 助動詞 | 存続の助動詞「たり」の終止形。 助動詞の「たり」は完了・存続の「たり」と断定の「たり」の二つが存在するが、前者は連用形接続、後者は体言に接続する。 意味から考えても両者は明確に区別できるはず。(完了・存続の「たり」はもともと「てあり」から生じているため、接続助詞の「て」と同様に連用形接続である。同様に、断定の「たり」は「とあり」から生じている。) |
ける | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の連体形 |
露 | 名詞 | この「露」は闇夜を照らす男の松明(たいまつ)に照らされ、美しい光を放っていたことが想像される。 |
を | 格助詞 | |
かれ | 代名詞 | 「あれ」。ここでは「露」を指す。 |
は | 係助詞 | |
何 | 代名詞 | |
ぞ | 係助詞 (終助詞) | 「ぞ」「や」「か」などの係助詞が、係り結びとは関係なく文末に用いられる場合があり、「強調」「疑問」「反語」「念押し」などの意味を持つことがある。 この場合は「疑問」もしくは「念押し」と取るのが自然か。 また、この用法を終助詞とする説もある。 |
と | 格助詞 | |
なむ | 係助詞 | 強意の係助詞 |
男 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
問ひ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「問ふ」の連用形。 「露」を目にしても、それが何か分からない女性である。外の世界をあまり知らない、大切に部屋の中で育てられた、文字通りの「箱入り娘」であると推測される。 |
ける | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の連体形。 係助詞「なむ」を受けて係り結びが成立している。 |
草の上に降りていた露を(見て)、(女は)「あれは何ですか。」と男に尋ねた。
行く先多く、夜もふけにければ、鬼ある所とも知らで、
行く先 | 名詞 | 「(これから逃げていく)前途」を指す。 目的地が遠いことを「行く先多し」と表現した。 |
多く | 形容詞 | ク活用の形容詞「多し」の連用形 「多し」の活用形には、終止形に「多かり」、已然形に「多かれ」という形が存在する。 |
夜 | 名詞 | |
も | 係助詞 | |
ふけ | 動詞 | カ行下二段活用動詞「ふく」の連用形 |
に | 助動詞 | 完了の助動詞「ぬ」の連用形 |
けれ | 動詞 | 過去の助動詞「けり」の已然形 |
ば | 接続助詞 | ★重要文法 接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。 ①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない) ⇒仮定(もし~ならば) ②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている) ⇒ (ⅰ)原因・理由(~なので) (ⅱ)偶然(~したところ) (ⅲ)必然(~するといつも) ここでは原因・理由で解釈したい。 |
鬼 | 名詞 | 恐ろしい姿をし、人に害を与えると考えられていた想像上の怪物。荒れている場所に住み、人を食らうとされていた。 「鬼~知らで」までは挿入句。 「女をば奥に押し入れて」を修飾する。 |
ある | 動詞 | ラ行変格活用動詞「あり」の連体形 |
所 | 名詞 | |
と | 格助詞 | |
も | 係助詞 | |
知ら | 動詞 | ラ行四段活用動詞「知る」の未然形 |
で | 接続助詞 | 打消の接続助詞。 未然形接続であることを押さえよう。 |
前途は遠く、夜も更けてしまったため、(男は)鬼がいる場所とも知らないで、
神さへいといみじう鳴り、雨もいたう降りければ、
神 | 名詞 | 雷のこと。 |
さへ | 副助詞 | ★重要文法 添加の副助詞。 「~までも」と訳し、「〇〇の上に××までも」と付け加える働きがある。 「さへ」の語源を「添え」とする説もある。 男が女を連れて逃げる前途が遠いこと、夜が更けてきたこと、雷がひどく鳴っていることが付け加えられている。踏んだり蹴ったりである。 |
いと | 副詞 | |
いみじう | 形容詞 | シク活用の形容詞「いみじ」の連用形「いみじく」のウ音便。 程度が「はなはだしい」のほか、「すばらしい」「ひどい」の意味を持つ。 現代語の「ヤバい」と同じで、プラス・マイナスの両面のニュアンスがあることを念頭に置いておきたい。 |
鳴り | 動詞 | ラ行四段活用動詞「鳴る」の連用形 |
雨 | 名詞 | |
も | 係助詞 | |
いたう | 形容詞 | ク活用の形容詞「いたし」の連用形「いたし」のウ音便。 程度のはなはだしさを表すが、痛いと感じるほど激しいというイメージを持つとよい。「とても」「たいそう」と訳す。 また、打消の語を伴って「たいして~ない」「それほど~ない」という意味でもよく使われるため覚えておこう。 |
降り | 動詞 | ラ行四段活用動詞「降る」の連用形 |
けれ | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の已然形 |
ば | 接続助詞 | ★重要文法 接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。 ①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない) ⇒仮定(もし~ならば) ②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている) ⇒ (ⅰ)原因・理由(~なので) (ⅱ)偶然(~したところ) (ⅲ)必然(~するといつも) ここでは原因・理由で解釈したい。 |
雷までもたいそうひどく鳴り、雨もひどく降ったので、
あばらなる蔵に、女をば奥に押し入れて、
あばらなる | 形容動詞 | ナリ活用の形容動詞「あばらなり」の連体形。 漢字を当てると「荒らなり」。 「隙間が多い」、「荒れている」、「手薄だ」という意味を持つ。 ここでは「荒れている」の意味で用いられている。 |
蔵 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
女 | 名詞 | |
を | 格助詞 | 「をば」の形で、「を」の前の対象を「は」によって強調する。 格助詞「を」+係助詞「は」が濁音化したもの。 |
ば | 係助詞 | |
奥 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
押し入れ | 動詞 | ラ行下二段活用動詞「押し入る」の連用形。 「押し入る」は下二段活用で用いる場合は他動詞、四段活用で用いる場合は自動詞となる。 |
て | 接続助詞 |
荒れ果てた蔵に、(男は)女を奥に押し込めて、
男、弓・胡籙を負ひて戸口にをり、
男 | 名詞 | |
弓 | 名詞 | |
胡籙 | 名詞 | 「やなぐひ」と読む。矢を入れる武具。背負って使う。 |
を | 格助詞 | |
負ひ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「負ふ」の連用形。 男は武装をして、見張りをすることとなる。女を連れ戻しにくる追手から女を守っているのか、そのあたりにいる獣からなのか。 |
て | 接続助詞 | |
戸口 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
をり | 動詞 | ラ行変格活用動詞「をり」の連用形 |
男は、弓と胡籙を背負って、(蔵の)出入口に座って、
今回はここまで。次回に続きます🐸
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