更級日記『門出』品詞分解/現代語訳/解説②

更級日記『門出』品詞分解/現代語訳/解説②

はじめに

こんにちは!こくご部です。

定期テスト対策から大学受験の過去問解説まで、「知りたい」に応えるコンテンツを発信します。


今回は更級日記『門出』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。

必要に応じて解説も記しておきます。

古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥

それでは行ってみましょう!

出典について

まずは出典の『更級日記』について触れておきましょう。

出典

★作者について
 作者は菅原孝標女(すがわらたかすえのむすめ)。伯母は『蜻蛉日記』を著した藤原道綱母。

★ジャンルについて
 日記文学
。同ジャンルの『蜻蛉日記』と対比して語られる文脈が多い。

★成立について
 平安時代中期

その他
『源氏物語』が大好きな一人の夢見る少女が成長と共に厳しい現実に打ちひしがれ、やがて仏門に入り来世の幸福を願うようになる。作者自身の人生の回想録でもある。ある文化やその中心地(=都)に憧れを抱く地方在住のオタク女子と形容されることが多い。個人的には親近感が湧きます。

前回の記事はこちら⇓

門出/「東路の道の果てよりも」から「あるかぎり見せ給へ」まで


身を捨てて額をつき、祈り申すほどに、

身           名詞        「身を捨てて」という状況から、「お願い!私に物語を読ませて!」という筆者の必死さが伝わってきます。大変微笑ましい様子がうかがえる。
を 格助詞
捨て 動詞タ行下二段活用動詞「捨つ」の連用形
接続助詞
名詞「額をついて祈る」ことを一語で言えば「額(ぬか)づく」。こちらも合わせて覚えておきたい。
格助詞
つき動詞カ行四段活用動詞「つく」の連用形
祈り副詞ラ行四段活用動詞「祈る」の連用形
申す動詞サ行四段活用「申す」の連体形。謙譲の補助動詞。
ほど名詞
格助詞
ひれ伏して額を床につけ、お祈り申し上げているうちに

十三になる年、上らむとて、

十三     名詞     ここでは直接的には関係ないが、当時の「十三歳」がどのような年齢だったのかについて触れておく。
当時の貴族の娘たちは十二歳前後で「裳着」という成人式を行い、結婚していく者も珍しくなかったとされている。中級貴族の娘である作者のこの頃の関心は、結婚ではなく文学にあったが、それは「地方」にいたことが大きく影響していると指摘することもできる。
格助詞  
なる動詞ラ行四段活用動詞「なる」の連体形
名詞
上ら動詞ラ行四段活用動詞「上る」の未然形。
「のぼる(「あがる」ではない)」には以下の2つの意味があることを押さえておきたい。
①地方から都に行くこと
②高貴・高位の人のもとに行くこと
この場合は①の「地方から都に行くこと」が当てはまる。父の国司としての任期が終了し、都に戻るのである。
助動詞意志の助動詞「む」の終止形
とて格助詞
十三になる年、(父の国司としての任期が終了し)都に上ろうといって

九月三日門出して、いまたちといふ所に移る。

九月三日     名詞      読みは「ながつき」。各月の異名と、季節区分については理解しておきたい。現代に生きる我々と感覚が違うので、「1月から数えて3カ月ごとに四季を区分していけばよい」と覚えておこう。
【春】1月:睦月、2月:如月、3月:弥生
【夏】4月:卯月、5月:皐月、6月:水無月
【秋】7月:文月、8月:葉月、9月:長月
【冬】10月:神無月、11月:霜月、12月:師走
門出し動詞サ行変格活用動詞「門出す」の連用形
「門出」は「旅などに出発すること」という意味ももちろんあるが、知識として入れておきたいのが「仮の門出」の意味。
陰陽道で悪いとされる方角を避けるため、一度別の場所に向かってから本来の目的地に向かう「方違え」と同様に、吉日とされる日に形式的に旅立ち、後日実質的な旅立ちを行うという風習があった。
接続助詞
いまたち名詞
格助詞
いふ動詞ハ行四段活用動詞「いふ」の連体形
名詞
格助詞
移る動詞ラ行四段活用動詞「移る」の終止形
九月三日に仮の門出をして、いまたちという所に移った。

年ごろ遊び慣れつる所を、あらはにこぼち散らして、

年ごろ    名詞       
遊び慣れ動詞ラ行下二段活用動詞「遊び慣る」の連用形
つる助動詞完了の助動詞「つ」の連体形
名詞
格助詞
あらはに形容詞ナリ活用の形容動詞「あらはなり」の連用形。「丸見えである」「明らかである」などの意味を持ち、この場合は副詞的に用いている。
こぼち散らし動詞サ行四段活用動詞「こぼち散らす」の連用形。
「こぼつ」自体に「壊す」などの意味があり、勢いを伴って住んでいた家が壊されていく様子を見て、筆者はある種の衝撃を受けたのと同時にもの悲しい思いをしたことが想像される。
接続助詞
数年来遊び慣れてきた所を、外から様子が丸見えになるほどに壊し散らして、
 

立ち騒ぎて、日の入りぎはの、いとすごく霧り渡りたるに、

立ち騒ぎ    動詞     ガ行四段活用動詞「立ち騒ぐ」の連用形。「立ち」は「うち」などと同じ接頭語。
て 接続助詞
名詞
格助詞
入りぎは名詞 「日の入りぎは」から、シーンは夕暮れであることが分かる。「入り方」とも言う。
格助詞主格用法
いと 副詞
すごく形容詞ク活用の形容詞「すごし」の連用形。
「気味が悪い」「もの寂しい」などのマイナスの意味と、「ぞっとするほどすばらしい」(「鳥肌が立つ」で誤用とされている用法のイメージ。)などのプラスの意味があるので注意したい。
霧り渡り動詞ラ行四段活用「霧り渡る」の連用形。
「渡る」には空間的な広がり・時間的な継続を示す意味があり、「霧り」に付いて霧が一面に広がっているさまを示す。
たる助動詞 存続の助動詞「たり」の連体形
格助詞
騒ぎ立てて、日が没しようとするころで非常にもの寂しく霧が一面に広がっているところに、

車に乗るとて、うち見やりたれば、

車   名詞    
格助詞
乗る動詞ラ行四段活用動詞「乗る」の終止形
とて格助詞
うち見やり動詞ラ行四段活用動詞「見やる」の連用形。
「うち」は接頭語。動詞に付いて、語調を整えたり、直後に続く動詞の意味を強めたりする働きがあるので、合わせて覚えておきたい。
たれ助動詞完了の助動詞「たり」の已然形
接続助詞★重要文法
接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。
①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない)
⇒仮定(もし~ならば)
②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている)

(ⅰ)原因・理由(~なので)
(ⅱ)偶然(~したところ)
(ⅲ)必然(~するといつも)

車に乗るといってふとそちらを見たところ、

人まにはまゐりつつ、額をつきし薬師仏の立ちたまへるを、

人ま   名詞    漢字表記だと「人間」となる。「人がいる時間(A)と人がいる時間(B)との間=人がいない時間」などをイメージすると掴みやすいかもしれない。
読みも「にんげん」ではないので注意。
ちなみに孝徳天皇の皇后は「間人皇女(はしひとのひめみこ)」。
格助詞
係助詞強意の係助詞
まゐり動詞★重要単語
ラ行四段活用動詞「まゐる」の連用形。
「参る」は「行く」「来」の謙譲語である「参上する」という意味のほか、「御」+名詞+「参る」などの形で高貴な身分の人物に対して「(何かをして)差し上げる」という「与ふ」「す」の謙譲語、さらに「食ふ」「飲む」の尊敬語である「召し上がる」の意味がある。判別には文脈判断が必要になるが、まずは最初の「参上する」を当て、不自然であれば他の訳をあてていく。
つつ接続助詞反復用法
名詞
格助詞
つき動詞カ行四段活用動詞「つく」の連用形
助動詞
薬師仏名詞
の 格助詞ここでは主格用法。「~が」と訳す。
立ち動詞タ行四段活用動詞「立つ」の連用形
たまへ動詞ハ行四段活用動詞「たまふ」の已然形。
「たまふ」は四段活用と下二段活用があり、前者が尊敬語、後者が謙譲語であるので注意が必要。
この場合は尊敬の補助動詞であり、「お~なる」、「~なさる」という意。
助動詞存続の助動詞「り」の連体形。
接続を覚えるための語呂合わせは「サ未四已(さみしい)りっちゃん」派か「サ未四已りかちゃん」派かで分かれる。
教室に「り」で始まる子がいるとその日はイジられる可能性が高い。
格助詞上に「姿」「さま」などを補うと解釈しやすい。

人のいない間に何度も参り、額をつけてお願いした薬師仏が経っていらっしゃる(様子)のを

見捨て奉る悲しくて、人知れずうち泣かれぬ。

見捨て    動詞     タ行下二段活用動詞「見捨つ」の連用形
奉る動詞★重要単語
ラ行四段活用動詞「奉る」の連体形。
「奉る」は尊敬語・謙譲語両方の用法があるため、苦手とする受験生が多い。以下に整理しておくのでしっかり確認しておこう。

〇尊敬語
【本動詞】
・「食ふ」「飲む」の尊敬語「召し上がる」
・「乗る」の尊敬語「お乗りになる」
・「着る」の尊敬語「お召しになる」
〇謙譲語(謙譲語の方が目にする機会は多い!)
【本動詞】
・「与ふ」の謙譲語「差し上げる」
【補助動詞】
・「~し申し上げる」
★「補助動詞は用言や助動詞などの活用する語に付く場合である」ことを押さえておきたい。

ここでは作者から薬師仏への敬意。
悲しく形容詞シク活用の形容詞「悲し」の連用形
接続助詞
名詞
知れ動詞ラ行下二段活用動詞「知る」の未然形
助動詞打消の助動詞「ず」の連用形
うち泣か動詞カ行四段活用動詞「泣く」の未然形。
なお、前述の「うち見やる」の「うち」と同様に、「うち」は接頭語。動詞に付いて、語調を整えたり、直後に続く動詞の意味を強めたりする働きがあるので、合わせて覚えておきたい。
助動詞自発の助動詞「る」の連用形。
心情語や知覚動詞と結びつく際はまずこの自発用法を考えたい。感情などが高まった結果、「自然と〇〇せずにいられない」という状況をイメージしてほしい。
助動詞完了の助動詞「ぬ」の終止形

見捨て申し上げるのが悲しく人知れず自然と泣いてしまった。

門出したる所は、巡りなどもなくて、かりそめの茅屋の、蔀などもなし。

門出し      動詞      前掲の「門出す」を参照
たる助動詞完了の助動詞「たり」の已然形
名詞
係助詞強意の係助詞
巡り名詞
など副助詞
係助詞強意の係助詞
なく形容詞ク活用の形容詞「なし」の連用形
接続助詞
かりそめ名詞漢字を当てると「仮初(め)」。現代にも「かりそめの恋」や「かりそめ天国」などの用例で残っている。
格助詞
茅屋名詞「茅」は「かや」と読む。かやぶきの粗末な家。
格助詞同格用法
名詞「しとみ」と読み、読みの問題は入試に頻出。格子に板を張ったもの。板が貼ってあることから雨や風、太陽光を通さないことはもちろん、人の視線も遮ることを押さえておきたい。
当時、貴族の女性は男性に姿を見せることはめったになく、何の気なしに姿を晒したり顔を見られたりするのは「はしたない」と思われるような社会であった。
ここではその「蔀」がなく、雨風にさらされるどころか周囲から丸見えの状態であった。
など副助詞
係助詞強意の係助詞
なし形容詞ク活用の形容詞「なし」の終止形

門出をし(て辿りつい)た場所は、周囲の囲いなどもなく、一時しのぎのかやぶきの家で、蔀などもない。

簾かけ、幕などひきたり。南ははるかに野の方見やらる。

簾       名詞      読みは「すだれ」。
かけ動詞カ行下二段活用動詞「かけ」の連用形
名詞「まく」と読む。簾や幕があるので一応は外から見えない体になってはいるが、様々な面で非常に心もとない状態である。
など副助詞
ひき動詞カ行四段活用動詞「ひく」の連用形
たり助動詞存続の助動詞「たり」の終止形
名詞
係助詞ラ行四段活用動詞「入る」の連用形
はるかに形容動詞ナリ活用の形容動詞「はるかなり」の連用形
名詞
格助詞
名詞
見やら動詞ラ行四段活用動詞「見やる」の未然形。家の周りの囲いなどがないために、遠い野原が見渡せてしまう。
助動詞自発の助動詞「る」の終止形
簾をかけ、幕などを引いてある。南ははるか遠くの野の方が見渡せる。

東西は海近くて、いとおもしろし。

東西     名詞      
係助詞
名詞
近く形容詞ク活用の形容詞「近し」の連用形
接続助詞
いと副詞「たいそう」、「非常に」という訳を当て、程度が甚だしいことを示す。「めっちゃ」と脳内変換してもOK。
おもしろし形容詞ク活用の形容詞「おもしろし」の連用形。
以下では敢えて「趣がある」と訳しているが、対象に合わせて「素敵だ」「興味深い」「美しい」「風流だ」など、こだわって使い分けてほしい。
東西は海が近く、非常に趣がある。

今回はここまで🐸


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