宇治拾遺物語『絵仏師良秀』品詞分解/現代語訳/解説①
はじめに
こんにちは!こくご部です。
定期テスト対策から大学受験の過去問解説まで、「知りたい」に応えるコンテンツを発信します。
今回は宇治拾遺物語『絵仏師良秀』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。
必要に応じて解説も記しておきます。
古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥
それでは行ってみましょう!
⇓同じ宇治拾遺物語の別の作品はこちら
出典について
まずは出典の宇治拾遺物語について触れておきましょう。
★ジャンル・内容について
説話集。日本、中国、インドの膨大な説話(古くから伝わる伝承・民話などの総称)をまとめたもので、現代に生きる私たちが読んでも「おもしろい」と感じられるような滑稽譚や世俗的な話が特徴的。
★編者について
編者は不詳。現代には伝わらず亡びてしまった『宇治大納言物語』に収録されなかった物語を集めたとされている(序文に「宇治に遺れるを拾ふ」とある)。
★成立について
鎌倉時代前期。1213年~1219年ごろの成立とされている。
★その他
全15巻197話。いわゆる「昔ばなし」で有名な「わらしべ長者」なども宇治拾遺物語に収録されており、芥川龍之介の『鼻』や『芋粥』などもここから着想を得ている。約80話ほどは『今昔物語集』と同内容のものである。
今回扱う『絵仏師良秀』は上記の例と同様に、芥川が『地獄変』として翻案し、新たに命を吹き込んでいる。興味のある人はぜひその異同について調べてみてほしい。
これも今は昔、絵仏師良秀といふありけり。
これ | 代名詞 | |
も | 係助詞 | |
今 | 名詞 | 各話の冒頭は「今は昔」や「これも今は昔」などで始まる。 このことから、このスタイルを確立した『今昔物語集』の影響を強く受けていることが分かる。 |
は | 係助詞 | |
昔 | 名詞 | |
絵仏師 | 名詞 | 仏画を描く絵師。 |
良秀 | 名詞 | この「良秀」という人物が誰なのか(実在したのか)は明らかではなく、謎の存在である。 |
と | 格助詞 | |
いふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「いふ」の連体形。 「いふ」の直後に「者」などが省略されていると考えよう。 |
あり | 動詞 | ラ行変格動詞「あり」の連用形。 ラ変動詞は「あり」「をり」「はべり」「いまそが(か)り/いますが(か)り」を押さえておこう。 |
けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形。 同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。 その場合は「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。 |
家の隣より火出で来て、風押しおほひて責めければ、
家 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
隣 | 名詞 | |
より | 格助詞 | |
火 | 名詞 | 平安時代にも放火・失火が原因となる火事が発生していたという記述が藤原実資の日記『小右記』や鴨長明の随筆『方丈記』などに見える。 現代に比べるとはるかに火事が発生しやすいであろうことが想像される。今よりももっと「火」が身近な存在であったのかもしれない。 |
出で来 | 動詞 | カ行変格活用動詞「出で来」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
風 | 名詞 | |
せ | 動詞 | サ行変格活用動詞「す」の未然形 |
押しおほひ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「おしおほふ」の連用形 「押し」は接頭語。 |
て | 接続助詞 | |
責め | 動詞 | マ行下二段活用動詞「責む」の連用形 |
けれ | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の已然形 |
ば | 接続助詞 | ★重要文法 接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。 ①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない) ⇒仮定(もし~ならば) ②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている) ⇒ (ⅰ)原因・理由(~なので) (ⅱ)偶然(~したところ) (ⅲ)必然(~するといつも) |
逃げ出でて、大路へ出でにけり。人の描かする仏もおはしけり。
逃げ出で | 動詞 | ダ行下二段活用動詞「逃げ出づ」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
大路 | 名詞 | 都におけるメインストリート。平城京や平安京で南北(縦)に伸びる大きな道をイメージして差し支えない。 現在の京都にも「大路」の地名が残っている。 |
へ | 格助詞 | |
出で | 動詞 | ダ行下二段活用動詞「出づ」の連用形 |
に | 助動詞 | 完了の助動詞「ぬ」の連用形 |
けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形 |
人 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
描か | 動詞 | カ行四段活用動詞「描く」の未然形 |
する | 助動詞 | 使役の助動詞「す」の連体形 |
仏 | 名詞 | |
も | 係助詞 | |
おはし | 動詞 | サ行変格活用動詞「おはす」の連用形。 「あり」の尊敬語で、「いらっしゃる」と訳を当てる。 |
けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形 |
また、衣着ぬ妻子なども、さながら内にありけり。
また | 接続詞 | |
衣 | 名詞 | |
着 | 動詞 | カ行上一段動詞「着る」の未然形。 上一段動詞は基本的には10語のみと数に限りがあるため、頭文字を取って「ひいきにみゐる」で確実に暗記しておくこと。 |
ぬ | 助動詞 | 打消の助動詞「ず」の連体形 |
妻子 | 名詞 | ここでは「めこ」と読みが当てられることが多い。 |
など | 副助詞 | |
も | 係助詞 | |
さながら | 副詞 | 副詞「さ」に接続助詞「ながら」が付いてできた語で、ここでは「そのまま」と訳す。 「全部」と訳すこともあるため注意。 |
内 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
あり | 動詞 | ラ行変格活用動詞「あり」の連用形 |
けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形 |
それも知らず、ただ逃げ出でたるを事にして、向かひの面に立てり。
それ | 代名詞 | |
も | 係助詞 | |
知ら | 動詞 | ラ行四段活用動詞「知る」の未然形 |
ず | 助動詞 | 打消の助動詞「ず」の連用形 |
ただ | 副詞 | |
逃げ出で | 動詞 | ダ行下二段活用動詞「逃げ出づ」の連用形 |
たる | 助動詞 | 完了の助動詞「たり」の連体形 |
を | 格助詞 | |
事にし | 動詞 | 名詞「事」+格助詞「に」+サ行変格活用動詞「す」の連用形。 「良いこととする」、「それに満足する」などと訳を当てる。 |
て | 接続助詞 | |
向かひ | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
面 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
立て | 動詞 | タ行四段活用動詞「立つ」の已然形 |
り | 助動詞 | 完了の助動詞「り」の終止形。 接続を覚えるための語呂合わせは「サ未四已(さみしい)りっちゃん」派か「サ未四已りかちゃん」派かで分かれる。 教室に「り」で始まる子がいるとその日はイジられる可能性が高い。 |
見れば、すでにわが家に移りて、煙・炎くゆりけるまで、
見れ | 動詞 | マ行上一段活用動詞「見る」の已然形。 前述の「着る」と同様に上一段活用動詞は数に限りがあるため、まとめて覚えておこう。 |
ば | 接続助詞 | ★重要文法 前述の「已然形+ば」を参照されたい。 |
すでに | 副詞 | |
わ | 代名詞 | 私。自分のことを示す人称。ここでは良秀のことを指している。 |
が | 格助詞 | ここでは連体修飾格の用法。後に続く名詞(体言)を所有する関係を示している。 |
家 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
移り | 動詞 | ラ行四段活用動詞「移る」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
煙 | 名詞 | |
炎 | 名詞 | |
くゆり | 動詞 | ラ行四段活用動詞「くゆる」の連用形 |
ける | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の連体形 |
まで | 副助詞 |
おほかた、向かひの面に立ちて眺めければ、
おほかた | 副詞 | 「だいたい」「大概」などの意味がある。 「おほかた」は「つゆ」「さらに」などと同様に、下に打消を伴って「まったく~ない」という全否定の用法があるので合わせて覚えておきたい。 なお、名詞の「おほかた」は「全体」や「普通」などの意味がある。 |
向かひ | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
面 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
立ち | 動詞 | タ行四段活用動詞「立つ」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
眺め | 動詞 | マ行下二段活用「眺む」の連用形。 自らの家に火が燃え移っているのを「眺め」ている良秀。その瞳には何が映っているのか。 |
けれ | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の已然形 |
ば | 接続助詞 | ★重要文法 前述の「已然形+ば」を参照されたい。 |
「あさましきこと。」とて、人ども来とぶらひけれど、騒がず。
あさましき | 形容詞 | シク活用の形容詞「あさまし」の連体形。 「あさまし」は「驚くことだ(否定的)」「あきれたことだ」などと訳を当てる。 「驚きあきれた」と記憶しておいて問題はないが、文脈に応じて訳し分けられるようにしておきたい。 |
こと | 名詞 | |
とて | 格助詞 | 引用の格助詞「と」と接続助詞「て」と分ける説と、「とて」を一つの格助詞として見る説がある。 |
人ども | 名詞 | 「ども」は接尾語。名詞について、同じ種類のものが複数であることを示す。海賊王を目指す某国民的キャラクターが「野郎ども」と言っていることからも想像しやすいかもしれない。 また、現在の「私ども」のように、謙遜を示す場合に使われることもある。 |
来 | 動詞 | カ行変格活用動詞「来」の連用形 |
とぶらひ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「とぶらふ」の連用形 「とぶらふ」は漢字を当てると「訪ふ」となり、「尋ねる(訪ねる)」の意味。 |
けれ | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の已然形 |
ど | 接続助詞 | 逆接の接続助詞。已然形接続ということも押さえておきたい。 |
騒が | 動詞 | ガ行四段活用動詞「騒ぐ」の未然形 |
ず | 助動詞 | 打消の助動詞「ず」の終止形 |
「いかに。」と人言ひければ、向かひに立ちて、
いかに | 副詞 | 英語の「how」や「why」に相当すると言われることが多い。ここでは「どうして」の訳を当てる。 |
と | 格助詞 | |
人 | 名詞 | |
言ひ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「言ふ」の連用形 |
けれ | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の已然形 |
ば | 接続助詞 | ★重要文法 前述の「已然形+ば」を参照されたい。 |
向かひ | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
立ち | 動詞 | タ行四段活用動詞「立つ」の連用形 |
て | 接続助詞 |
家の焼くるを見て、うちうなづきて、時々笑ひけり。
家 | 名詞 | |
の | 格助詞 | 主格用法。「直前の名詞(体言)が~~する」という文脈になる。 |
焼くる | 動詞 | カ行下二段活用動詞「焼く」の連体形 |
を | 格助詞 | |
見 | 動詞 | マ行上一段活用動詞「見る」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
うちうなづき | 動詞 | 「うち」は接頭語。 |
て | 接続助詞 | |
時々 | 副詞 | |
笑ひ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「笑ふ」の連用形。 状況を想像してみてほしい。良秀は自分の家が焼けているのを見て、うなずいて笑っているのだ。 |
けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形 |
今回はここまで🐸
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