大鏡『花山院の出家』品詞分解/現代語訳/解説④

目次
- 1. はじめに
- 2. 花山寺におはしまし着きて、御髪おろさせたまひて後にぞ、
- 3. 粟田殿は、「まかり出でて、大臣にも、変はらぬ姿、いま一度見え、
- 4. かくと案内申して、必ず参りはべらむ。」と申したまひければ、
- 5. 「朕をば謀るなりけり。」とてこそ泣かせたまひけれ。
- 6. あはれにかなしきことなりな。
- 7. 日ごろ、よく、「御弟子にて候はむ。」と契りて、
- 8. すかし申したまひけむがおそろしさよ。
- 9. 東三条殿は、「もしさることやしたまふ。」とあやふさに、
- 10. さるべくおとなしき人々、なにがしかがしといふいみじき源氏の武者たちをこそ、
- 11. 御送りに添へられたりけれ。
- 12. 京のほどはかくれて、堤の辺りよりぞうち出で参りける。
- 13. 寺などにては、「もし、おして人などやなしたてまつる。」とて、
- 14. 一尺ばかりの刀どもを抜きかけてぞ守り申しける。
はじめに
こんにちは!こくご部です。
定期テスト対策から大学受験の過去問解説まで、「知りたい」に応えるコンテンツを発信します。
今回は大鏡から『花山院の出家』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。
必要に応じて解説も記しておきます。
古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥
それでは行ってみましょう!
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花山寺におはしまし着きて、御髪おろさせたまひて後にぞ、
花山寺 | 名詞 | 現在の京都市山科区の元慶寺のこと |
に | 格助詞 | |
おはしまし着き | 動詞 | サ行四段活用動詞「おはします」の連用形+カ行四段活用動詞「着く」の連用形。 「おはします」は「あり」の尊敬語で、「いらっしゃる」と訳を当てる。似たような語に、サ行変格活用動詞の「おはす」があるが、「おはします」の方が敬意が高い。 ここでは語り手から花山天皇への敬意が示される。 大鏡は「大宅世継(おおやけのよつぎ)」と「夏山繁樹(なつやまのしげき)」という二人が若き侍に対して藤原氏の昔話をしているという設定である。そのため、本記事では語り手からの敬意と表現する。 |
て | 接続助詞 | |
御髪 | 名詞 | 読みは「みぐし」。 |
おろさ | 動詞 | サ行四段活用動詞「おろす」の未然形。 ここでは「(髪を)剃り落とす、おとす」の意味で使われる。 男性は髪の毛を剃ることによって、出家したとみなされていた。 受験を意識するのであれば、「姿を変ふ」「やつす」「世を逃る」などの出家に関する類義語も押さえておきたい。 花山天皇も、ここで初めて出家したと言えるのである。 |
せ | 助動詞 | 尊敬の助動詞「す」の連用形。 語り手から花山天皇への敬意が示される。 |
たまひ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「たまふ」の連用形。 「たまふ」は四段活用と下二段活用があり、前者が尊敬語、後者が謙譲語であるので注意が必要。 この場合は尊敬の補助動詞であり、「お~なる」、「~なさる」という意。語り手から花山天皇への敬意が示される。 |
て | 接続助詞 | |
後 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
ぞ | 係助詞 | 強意の係助詞。 「ぞ」は通常、文末を連体形にするが、後に「申したまひければ、」と文が続いている。このように、係り結びの「結び」が消滅することを「結びの流れ」という。 〈結びの流れが起きるパターン〉 〇接続助詞により文章が続く場合 ⇒係助詞も接続助詞も、関わる語を特定の活用形にする力(接続)を持っている。(係助詞は文末を連体形または已然形に、接続助詞は上の語を特定の形に変える。) ⇒これらが同時に存在する時、接続助詞の接続が優先され、係助詞による係り結びが生じない。 〇係助詞の後、長文が挿入されている場合 ⇒係助詞の後に文章が挿入されていれば必ず結びの流れが起きるというわけではないことを押さえておきたい。 |
花山寺に(花山天皇が)ご到着なさって、御髪を剃り落としなさった後に、
粟田殿は、「まかり出でて、大臣にも、変はらぬ姿、いま一度見え、
粟田殿 | 名詞 | 藤原道兼のこと。藤原道隆の弟で、藤原道長の兄。 この話の時は、天皇のそばに仕える官職の一つである蔵人として花山天皇に仕えていた。 道兼の山荘が現在の京都市粟田口のあたりにあったため「粟田殿」と呼ばれる。 |
は | 係助詞 | |
まかり出で | 動詞 | ダ行下二段動詞「まかり出づ」の連用形。 「出づ」の謙譲語、「出づ」の丁寧語、「行く」の謙譲語の意味がある。 ここでは「出づ」の謙譲語として使われ、粟田殿から花山天皇への敬意が示される。 |
て | 接続助詞 | |
大臣 | 名詞 | 読み方は「おとど」。 ここでは当時の右大臣である藤原兼家のことを指している。兼家は道兼の父。 花山天皇の退位後に摂政となった人物。 |
に | 格助詞 | |
も | 係助詞 | 強意の係助詞 |
変はら | 動詞 | ラ行四段活用動詞「変はる」の未然形 |
ぬ | 助動詞 | 打消の助動詞「ず」の連体形 |
姿 | 名詞 | 粟田殿は自分が出家する前の変わらない姿を父である大臣に見せると言っているのである。 |
いま | 副詞 | ここでは「さらに、もう」の意味で使われる。 |
一度 | 名詞 | |
見え | 動詞 | ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」の連用形。 「見える」「思われる」「見られる」「結婚する」など様々な意味があるが、「見ゆ」の「ゆ」は上代(ほぼ奈良時代まで)の助動詞であり、受身・自発・可能の意味がある。 「受身・自発・可能」という字面を見ると「る」と同じでは?と思った人がいるかもしれないが、その直感は正しい。「る」の発達に伴って「ゆ」が少しずつ姿を消していった。 なお、「ゆ」には尊敬の意味はない。 |
粟田殿は、「退出して大臣にも、変わらぬ姿を見せ、
かくと案内申して、必ず参りはべらむ。」と申したまひければ、
かく | 代名詞 | このようにして。このような状態で。 「かく」は眼前の事実、前の会話や文脈を「このように」と指示する語。文中に指示の副詞が出てきた場合は、何を指しているのか具体的内容を押さえること。 |
と | 格助詞 | |
案内 | 名詞 | 「文書の内容、草案」、「様子、事情、内情」という意味を持つ語。 ここでは後者の意味で使われ、粟田殿が花山天皇と共に出家しようとしている事情のことをいう。 |
申し | 動詞 | サ行四段活用動詞「申す」の連用形。 「言ふ」の謙譲語、謙譲の補助動詞(お~申し上げる)の意味がある。 ここでは謙譲の補助動詞として使われ、粟田殿から大臣への敬意が示される。 |
て | 接続助詞 | |
必ず | 副詞 | きっと、の意 |
参り | 動詞 | ラ行四段活用動詞「参る」の連用形。 ★重要単語 「参る」は「行く」「来」の謙譲語である「参上する」という意味のほか、「御」+名詞+「参る」などの形で高貴な身分の人物に対して「(何かをして)差し上げる」という「与ふ」「す」の謙譲語、さらに「食ふ」「飲む」の尊敬語である「召し上がる」の意味がある。判別には文脈判断が必要になるが、まずは最初の「参上する」を当て、不自然であれば他の訳をあてていく。 ここでは「行く」「来」の謙譲語として使われ、粟田殿から花山天皇への敬意が示される。 |
はべら | 動詞 | ラ行変格活用動詞「はべり」の未然形。 「あり」「をり」の謙譲語、丁寧語、丁寧の補助動詞の意味がある。 ここでは丁寧の補助動詞として使われ、粟田殿から花山天皇への敬意が示される。 |
む | 助動詞 | 意志の助動詞「む」の終止形。 助動詞「む」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。 ※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいること。 【原則】 助動詞「む」が文末にある場合 ・主語が一人称⇒意志 ・主語が二人称⇒適当/当然/命令 ・主語が三人称⇒推量 助動詞「む」が文中に連体形で出てきた場合 ・「む(連体形)」+「は」、「に」、「には」、体言⇒仮定 ・「む(連体)」+体言⇒婉曲 ※婉曲は助動詞「む」を訳出しなくても文意が通じる場合。 |
と | 格助詞 | |
申し | 動詞 | サ行四段活用動詞「申す」の連用形。 「言ふ」の謙譲語として使われ、語り手から花山天皇への敬意が示される。 |
たまひ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「たまふ」の連用形。 尊敬の補助動詞として使われ、語り手から粟田殿への敬意が示される。 |
けれ | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の已然形。 同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。その場合は 「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。 |
ば | 接続助詞 | ★重要文法 接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。 ①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない) ⇒仮定(もし~ならば) ②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている) ⇒ (ⅰ)原因・理由(~なので) (ⅱ)偶然(~したところ) (ⅲ)必然(~するといつも) ここでは原因・理由で取ると自然か。 |
このようにと事情を申し上げて、きっと(花山天皇のおそばへ)参上いたしましょう。」と申し上げなさったので、
「朕をば謀るなりけり。」とてこそ泣かせたまひけれ。
朕 | 代名詞 | 天皇が使う自称の人称代名詞 |
を | 格助詞 | 「をば」の形で、「を」の前の対象を「は」によって強調する。 格助詞「を」+係助詞「は」が濁音化したもの。 |
ば | 係助詞 | |
謀る | 動詞 | ラ行四段活用動詞「謀る」の連体形 |
なり | 助動詞 | 断定の助動詞「なり」の連用形。 助動詞の「なり」は断定の「なり」と伝聞・推定の「なり」の二つが存在するが、前者は体言または連体形に接続、後者は終止形(ラ変型の活用語には連体形)に接続する。 『土佐日記』の冒頭部分、「男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり」を覚えておけば、接続が導き出せる。 |
けり | 助動詞 | 詠嘆の助動詞「けり」の終止形。 今まで気付かなかったことに、はじめて気付いてハッとする驚きや感動を表す。 花山天皇だけ出家完了し、まだ剃髪していない粟田殿は宮中へ一旦帰るという状況をよくよく考えてみると、粟田殿はもう剃髪する気はないということがわかってしまったのであろう。 |
とて | 格助詞 | |
こそ | 係助詞 | 強意の係助詞 |
泣か | 動詞 | カ行四段活用動詞「泣く」の未然形 |
せ | 助動詞 | 尊敬の助動詞「す」の連用形。 語り手から花山天皇への敬意が示される。 |
たまひ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「たまふ」の連用形。 尊敬の補助動詞として使われ、語り手から花山天皇への敬意が示される。 |
けれ | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の已然形。 係助詞「こそ」を受けて係り結びが成立している。 |
「私をだましたのだな。」とお泣きになった。
あはれにかなしきことなりな。
あはれに | 形容動詞 | ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形。 「趣深い」「かわいそう」「すばらしい」など様々な訳語をあてることができるが、 「あはれ」とは基本的・包括的な美的理念であり、 一面性のみに光を当てるべきではないことを理解しておきたい。 近年「エモい」というある意味「便利」な言葉が生まれたが、平安時代の精神と通ずるところがあるように思える。 「エモい」「尊い」などを先人が逆輸入すれば「あはれなり」と訳するのかもしれない。 ただし、ここでは語り手から花山天皇(院)に対して同情する思いが込められていると解釈するのが自然であると思われるため、「お気の毒だ」と訳を当てる。 |
かなしき | 形容詞 | シク活用の形容詞「かなし」の連体形 |
こと | 名詞 | |
なり | 助動詞 | 断定の助動詞「なり」の終止形 |
な | 終助詞 | 詠嘆の終助詞 |
気の毒で、悲しいことだなぁ。
日ごろ、よく、「御弟子にて候はむ。」と契りて、
日ごろ | 副詞 | |
よく | 副詞 | |
御弟子 | 名詞 | |
にて | 格助詞 | |
候は | 動詞 | ハ行四段活用動詞「候ふ」の未然形。 「あり」「をり」の謙譲語、「あり」「をり」の丁寧語、丁寧語の補助動詞(~ございます、~です)の意味がある。 ここでは「あり」「をり」の謙譲語として使われ、粟田殿から花山天皇への敬意が示される。 |
む | 助動詞 | 意志の助動詞「む」の終止形 |
と | 格助詞 | |
契り | 動詞 | ラ行四段活用動詞「契る」の連用形。 粟田殿は普段から花山天皇と共に出家してお仕えするという嘘を申し上げていたのだ。なんというやつであろう。 |
て | 接続助詞 |
普段からよく「御弟子としてお仕えしましょう。」と(粟田殿は花山天皇と)約束して、
すかし申したまひけむがおそろしさよ。
すかし | 動詞 | サ行四段活用動詞「すかす」の連用形。 ここでは「だます」の意味で使われる。 |
申し | 動詞 | サ行四段活用動詞「申す」の連用形。 謙譲の補助動詞として使われ、語り手から花山天皇への敬意が示される。 |
たまひ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「たまふ」の連用形。 尊敬の補助動詞として使われ、語り手から粟田殿への敬意が示される。 |
けむ | 助動詞 | 過去伝聞の助動詞「けむ」の連体形 |
が | 格助詞 | |
おそろしさ | 名詞 | |
よ | 間投助詞 | 詠嘆の間投助詞 |
(花山天皇を)だまし申し上げなさったとかいう恐ろしいことだなぁ。
東三条殿は、「もしさることやしたまふ。」とあやふさに、
東三条殿 | 名詞 | 藤原兼家のこと。先に出てきた「大臣」と同じ。 |
は | 係助詞 | |
もし | 副詞 | |
さる | 連体詞 | 「さること」で連語として扱われ、「そのようなこと」といった意味を表す語。 ここでは、息子である粟田殿が何かの手違いで花山天皇と共に出家してしまうようなことを指す。 |
こと | 名詞 | |
や | 係助詞 | 疑問の係助詞 |
し | 動詞 | サ行変格活用動詞「す」の連用形 |
たまふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「たまふ」の連体形。 尊敬の補助動詞として使われ、東三条殿から粟田殿への敬意が示される。 |
と | 格助詞 | |
あやふさ | 名詞 | ク活用の形容詞「あやふし」に接尾語「さ」が付いてできた語。 「あやふし」は「危ない」、「不安だ、気がかりだ」、「不確実だ」の意味を持つ語。ここでは、「不安だ、気がかりだ」の意味で使われる。 「さ」は形容詞、形容動詞の語幹に付き、程度や状態を表す語を作る役割を持つ。 |
に | 格助詞 |
東三条殿は、「もしそのようなことをしなさるのではないか。」と気がかりで、
さるべくおとなしき人々、なにがしかがしといふいみじき源氏の武者たちをこそ、
さる | 動詞 | ラ行変格活用動詞「さり」の連体形 ★重要語 「さ」「る」「べく」に分けられ、直訳すると「そうあるべき」となる。「適当な」、「そうなるはずの」「立派な」といった訳が当てられる。 |
べく | 助動詞 | 当然の助動詞「べし」の連用形。 ★重要文法 助動詞「べし」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。 ※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいるべし。 【原則】 ・主語が一人称⇒意志 ・主語が二人称⇒適当/当然/命令 ・主語が三人称⇒推量 【文脈判断等】 ・下に打消を伴う⇒可能 ・下に格助詞の「と」を伴う/終止形⇒意志 ・下に名詞や助詞を伴う(「~するはずの」と訳す)⇒当然/予定 ※直後に助詞が来る場合:名詞が省略されている。 ・文中に疑問/反語を示す語を伴う⇒推量/可能 |
おとなしき | 形容詞 | シク活用の形容詞「おとなし」の連体形。 漢字をあてると「大人し」であるとおり、大人の要素を持っているというのが基本の意味。 「大人らしい」、「年配だ、主だっている」、「思慮分別がある」といった訳をする。 |
人々 | 名詞 | |
なにがしかがし | 代名詞 | 名前を特定せずに言うときに使う語。 だれそれ、と訳す。 |
と | 格助詞 | |
いふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「いふ」の連体形 |
いみじき | 形容詞 | シク活用の形容詞「いみじ」の連体形。 程度が「はなはだしい」のほか、「すばらしい」「ひどい」の意味を持つ。 現代語の「ヤバい」と同じで、プラス・マイナスの両面のニュアンスがあることを念頭に置いておきたい。 |
源氏 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
武者たち | 名詞 | |
を | 格助詞 | |
こそ | 係助詞 | 強意の係助詞 |
立派な思慮分別のある人々、だれそれというすばらしい源氏の武者たちを、
御送りに添へられたりけれ。
御送り | 名詞 | 東三条殿は粟田殿の出家を心配したために、武者を護衛として付けていたのであった。 |
に | 格助詞 | |
添へ | 動詞 | ハ行下二段活用動詞「添ふ」の未然形 |
られ | 助動詞 | 尊敬の助動詞「らる」の連用形。 語り手から東三条殿への敬意が示される。 |
たり | 助動詞 | 完了の助動詞「たり」の連用形。 助動詞の「たり」は完了・存続の「たり」と断定の「たり」の二つが存在するが、前者は連用形接続、後者は体言に接続する。 意味から考えても両者は明確に区別できるはず。(完了・存続の「たり」はもともと「てあり」から生じているため、接続助詞の「て」と同様に連用形接続である。同様に、断定の「たり」は「とあり」から生じている。) |
けれ | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の已然形。 係助詞「こそ」を受けて係り結びが成立している。 |
(粟田殿の)お送りの護衛にお付けになった。
京のほどはかくれて、堤の辺りよりぞうち出で参りける。
京 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
ほど | 名詞 | ★重要単語 時間、距離、空間、物体など様々な事物の程度を示す。 この場合は空間に対して使われている。 |
は | 係助詞 | |
かくれ | 動詞 | ラ行下二段活用動詞「かくる」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
堤 | 名詞 | ここでは、鴨川の堤のことを指す |
の | 格助詞 | |
辺り | 名詞 | |
より | 格助詞 | |
ぞ | 係助詞 | 強意の係助詞 |
うち出で | 動詞 | ダ行下二段活用動詞「出づ」の連用形。 「うち」は接頭語。動詞に付いて、語調を整えたり、直後に続く動詞の意味を強めたりする働きがあるので、合わせて覚えておきたい。 |
参り | 動詞 | ラ行四段活用動詞「参る」の連用形。 ここでは「す」の謙譲語として使われ、語り手から粟田殿への敬意が示される。 |
ける | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の連体形。 係助詞「ぞ」を受けて係り結びが成立している。 |
京都の町中あたりは隠れて、鴨川の堤のあたりからは姿を現し護衛し申し上げた。
寺などにては、「もし、おして人などやなしたてまつる。」とて、
寺 | 名詞 | 花山寺を指す |
など | 副助詞 | |
にて | 格助詞 | |
は | 係助詞 | |
もし | 副詞 | |
おして | 副詞 | しいて、強引に、無理やりに、の意。 強引に「おして」行くしかない。 |
人 | 名詞 | |
など | 副助詞 | |
や | 係助詞 | 疑問の係助詞 |
なし | 動詞 | サ行四段活用動詞「なす」の連用形 |
たてまつる | 動詞 | ラ行四段活用動詞「たてまつる」の連体形。 ★重要単語 「奉る」は尊敬語・謙譲語両方の用法があるため、苦手とする受験生が多い。以下に整理しておくのでしっかり確認しておこう。 〇尊敬語 【本動詞】 ・「食ふ」「飲む」の尊敬語「召し上がる」 ・「乗る」の尊敬語「お乗りになる」 ・「着る」の尊敬語「お召しになる」 〇謙譲語(謙譲語の方が目にする機会は多い!) 【本動詞】 ・「与ふ」の謙譲語「差し上げる」 【補助動詞】 ・「~し申し上げる」 ★「補助動詞は用言や助動詞などの活用する語に付く場合である」ことを押さえておきたい。 謙譲の補助動詞として使われ、東三条殿から粟田殿への敬意が示される。 係助詞「や」を受けて係り結びが成立している。 |
とて | 格助詞 |
花山寺などでは「もし強引に人などが(粟田殿を出家を)実行し申し上げるのではないか。」と、
一尺ばかりの刀どもを抜きかけてぞ守り申しける。
一尺 | 名詞 | 一寸の十倍の長さ。約三十センチメートル。 |
ばかり | 副助詞 | 程度の副助詞。 限定の用法もあるので合わせて覚えておこう。 |
の | 格助詞 | |
刀ども | 名詞 | |
を | 格助詞 | |
抜きかけ | 動詞 | カ行四段活用動詞「抜く」の連用形+補助動詞「かく」の連用形。 補助動詞「かく」は「~かける」、「途中まで~する」の意味を添加する。 |
て | 接続助詞 | |
ぞ | 係助詞 | |
守り | 動詞 | ラ行四段活用動詞「守る」の連用形 |
申し | 動詞 | サ行四段活用動詞「申す」の連用形。 謙譲の補助動詞として使われ、語り手から粟田殿への敬意が示される。 |
ける | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の連体形。 係助詞「ぞ」を受けて係り結びが成立している。 |
一尺ほどの刀を途中まで抜いて、(粟田殿を)守り申し上げた。
今回はここまで🐸
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