大鏡『競べ弓』品詞分解/現代語訳/解説①

大鏡『競べ弓』品詞分解/現代語訳/解説①

はじめに

こんにちは!こくご部です。

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今回は大鏡から『競べ弓』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。

必要に応じて解説も記しておきます。

古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥

それでは行ってみましょう!

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出典について

まずは出典の大鏡について触れておきましょう。

出典:大鏡

★ジャンル
 
歴史物語。文字通り「歴史」と「物語」を融合させた文学の総称。主に宮中をめぐる歴史を題材としており、かな文により記述されている点において「六国史」などの正史と異なる。

★大鏡について
 平安時代後期に成立。「鏡」が歴史の真実を映し出すことから「鏡」と名付けられたという説もある。藤原氏が摂関政治を行い、大いに隆盛をふるった時代に批判的な立場をとる。(⇔藤原氏の栄華を賛美する歴史物語『栄花物語』)

★四鏡について
 「鏡物」という平安時代~室町時代の歴史書として、『大鏡』のほかに『今鏡』『水鏡』『増鏡』がある。
 四鏡の成立順は大鏡⇒今鏡⇒水鏡⇒増鏡であり、一文字目を取って「大今水増(だいこんみずまし。大根水増し?)」と覚えるのが一般的。

 なお、成立順は上記の「大今水増」であるが、内容を時代順にすると「水大今増(みずだいこんまし。水菜のような味がする新種の大根:「水大根」の味は悪くない=マシと覚えよう。苦しい)


帥殿の、南の院にて人々集めて弓あそばししに、

帥殿                  名詞              藤原伊周のこと。この話の時は内大臣の役職に就いていた。
伊周が後に太宰権帥(だざいのごんのそち)に左遷されたために、帥殿と呼ばれるようになった。
の 格助詞主格用法
名詞    「南の院」で、藤原道隆の屋敷の南にあった建物を指す。
道隆は帥殿(伊周)の父。
格助詞
名詞
にて格助詞
人々名詞
集め動詞マ行下二段活用動詞「集む」の連用形
接続助詞
名詞
あそばし動詞サ行四段活用動詞「あそばす」の連用形。
「詩歌管弦の遊びをする」の尊敬語、「する」の尊敬語の意味がある。
ここでは、語り手から帥殿への敬意が示されている。

大鏡は「大宅世継(おおやけのよつぎ)」と「夏山繁樹(なつやまのしげき)」という二人が若き侍に対して藤原氏の昔話をしているという設定であるため、語り手という表現をする。
助動詞過去の助動詞「き」の連体形。
同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。その場合は 「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。
格助詞
帥殿が、南の院で人々を集めて弓の競射をなさった時に、

この殿わたらせたまへれば、思ひかけずあやしと、

こ     代名詞                                 
格助詞
殿名詞「この殿」で藤原道長のことを指す。
この話の時は、まだ権大納言の役職であった。当時の帥殿よりも身分は下であった。
道長は帥殿(伊周)の叔父にあたる。
わたら動詞ラ行四段活用動詞「わたる」の未然形。
ここでは「来る」の意味で使われる。
助動詞尊敬の助動詞「す」の連用形。
「せたまふ」で二重尊敬となり、地の文の場合は最高敬語として注意が必要。
二重尊敬は大臣以上の高位の者に対して使われるため、主語が省略されている場合でも判別に役立つ。
ここでは、後に太政大臣にまでのぼりつめる「この殿(道長)」に対する敬意が示されている。
たまへ動詞ハ行四段活用動詞「たまふ」の已然形。
「たまふ」は四段活用と下二段活用があり、前者が尊敬語、後者が謙譲語であるので注意が必要。
この場合は尊敬の補助動詞であり、「お~なる」、「~なさる」という意。
直前の「せ」と併せて二重尊敬として使われ、「この殿」への敬意が示されている。
助動詞完了の助動詞「り」の已然形。
接続を覚えるための語呂合わせは「サ未四已(さみしい)りっちゃん」派か「サ未四已りかちゃん」派かで分かれる。
教室に「り」で始まる子がいるとその日はイジられる可能性が高い。
接続助詞★重要文法
接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。
①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない)
⇒仮定(もし~ならば)
②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている)

(ⅰ)原因・理由(~なので)
(ⅱ)偶然(~したところ)
(ⅲ)必然(~するといつも)

ここでは原因・理由で取ると自然か。
思ひかけ動詞カ行下二段活用動詞「思ひかく」の未然形
助動詞打消の助動詞「ず」の連用形
あやし形容詞シク活用の形容詞「あやし」の終止形。
★重要単語
「怪し」「奇し」と漢字を当てると「不思議だ」「変だ」などの意味を、「賎し」と漢字を当てると「身分が低い・卑しい」、「みすぼらしい」などの意味を持つ。
ここでは前者の意味で使われる。
中の関白殿(道隆)は異母兄弟で不仲であった「この殿(道長)」がやって来たことを変だと思っているのである。
格助詞
この殿が(南の院に)いらっしゃったので、思いがけず変だと、

中の関白殿おぼし驚きて、いみじう饗応し申させたまうて、

中の関白殿    名詞     藤原道隆のこと。この時は関白であった。
帥殿(伊周)の父であり、この殿(道長)の兄である。
おぼし驚き動詞サ行四段活用動詞「おぼす」の連用形+カ行四段活用動詞「驚く」の連用形。
「おぼす」は「思ふ」の尊敬語であり、ここでは語り手から中の関白殿への敬意が示されている。
接続助詞
いみじう形容詞シク活用の形容詞「いみじ」の連用形のウ音便。
程度が「はなはだしい」のほか、「すばらしい」「ひどい」の意味を持つ。
現代語の「ヤバい」と同じで、プラス・マイナスの両面のニュアンスがあることを念頭に置いておきたい。

この場合は副詞的に用いており「たいそう」と訳を当てると自然。
饗応し動詞サ行変格活用動詞「饗応す」の連用形。
「機嫌をとること、とりいること」、「食事の席を設けて人をもてなすこと」といった意味を持つ。
ここでは前者の意味で使われる。中の関白殿がこの殿の機嫌をとろうともてなしているのである。
申さ動詞サ行四段活用動詞「申す」の未然形。
「言う」の謙譲語、謙譲の補助動詞(お~申し上げる)の意味がある。
ここでは後者の意味で使われ、語り手からこの殿(道長)への敬意が示される。
助動詞尊敬の助動詞「す」の連用形。
語り手から中の関白殿への敬意が示される。
たまう動詞ハ行四段活用動詞「たまふ」の連用形のウ音便。
「たまふ」は四段活用と下二段活用があり、前者が尊敬語、後者が謙譲語であるので注意が必要。
この場合は尊敬の補助動詞であり、「お~なる」、「~なさる」という意。語り手から中の関白殿への敬意が示される。
接続助詞
中の関白殿はお驚きになって、たいそう丁寧に(この殿の)機嫌をおとり申し上げなさって、

下﨟におはしませど、前に立てたてまつりて、

下﨟      名詞    読みは「げらふ」。地位の低い人、下賤の者という意味を持つ語。
ここでは「この殿(道長)」が「帥殿」よりも位が低いことを表す。
助動詞断定の助動詞「なり」の連用形。
助動詞の「なり」は断定の「なり」と伝聞・推定の「なり」の二つが存在するが、前者は体言または連体形に接続、後者は終止形(ラ変型の活用語には連体形)に接続する。
『土佐日記』の冒頭部分、「男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり」を覚えておけば、接続が導き出せる。                         
おはしませ動詞サ行四段活用動詞「おはします」の已然形。
「あり」の尊敬語、「行く」「来」の尊敬語、尊敬の補助動詞の三つの使い方をするが、今回は尊敬の補助動詞。
訳し方はどの場合でも「いらっしゃる」となるため、敬語を外して意味を判別することが大切。
ここでは語り手からこの殿(道長)への敬意が示されている。
接続助詞逆接の接続助詞。
已然形接続ということも押さえておきたい。
名詞
格助詞
立て動詞タ行下二段活用動詞「立つ」の連用形。
競射は弓を射る順番は官位の高い者からというのが慣例。それを中の関白殿は、おもてなしとして当時はまだ官位が低かったこの殿の順番を先にしたのである。
たてまつり動詞★重要単語
ラ行四段活用動詞「たてまつる」の連体形。
「奉る」は尊敬語・謙譲語両方の用法があるため、苦手とする受験生が多い。以下に整理しておくのでしっかり確認しておこう。

〇尊敬語
【本動詞】
・「食ふ」「飲む」の尊敬語「召し上がる」
・「乗る」の尊敬語「お乗りになる」
・「着る」の尊敬語「お召しになる」
〇謙譲語(謙譲語の方が目にする機会は多い!)
【本動詞】
・「与ふ」の謙譲語「差し上げる」
【補助動詞】
・「~し申し上げる」
★「補助動詞は用言や助動詞などの活用する語に付く場合である」ことを押さえておきたい。

ここでは語り手からこの殿への敬意が示されている。
接続助詞
(この殿は帥殿よりも)低い官位でいらっしゃったが、(弓を射る順番を)先にお立て申し上げて、
 

まづ射させたてまつらせたまひけるに、帥殿の矢数、いま二つ劣りたまひぬ。

まづ     副詞   
動詞ヤ行上一段活用動詞「射る」の未然形。
上一段動詞は基本的には10語のみと数に限りがあるため、頭文字を取って「ひいきにみゐる」で確実に暗記しておくこと。
させ助動詞使役の助動詞「さす」の連用形
たてまつら動詞ラ行四段活用動詞「たてまつる」の未然形。
ここでは謙譲の補助動詞として使われ、語り手からこの殿(道長)への敬意が示されている。
助動詞   尊敬の助動詞「す」の連用形。
語り手から中の関白殿(道隆)への敬意が示されている。
たまひ動詞ハ行四段活用動詞「たまふ」の連用形。
尊敬の補助動詞として使われ、語り手から中の関白殿(道隆)への敬意が示されている。
ける助動詞過去の助動詞「けり」の連体形
接続助詞
帥殿名詞伊周のこと。
格助詞
矢数名詞当たりの矢数のこと
いま副詞
二つ名詞
劣り動詞ラ行四段活用動詞「劣る」の連用形
たまひ動詞ハ行四段活用動詞「たまふ」の連用形。
尊敬の補助動詞として使われ、語り手から帥殿への敬意が示されている。
助動詞完了の助動詞「ぬ」の終止形。
同じ完了の意味で同じ連用形接続の「つ」との違いが聞かれることもあるのでまとめておく。
「ぬ」:自然的な作用を示す場合に用いられる
⇒ ex.「風立ちぬ」
「つ」:人為的、意図的な作用を示す場合に用いられる
⇒ex.「石炭をばはや積み果てつ」

【余談】
先の用例で紹介した「石炭をばはや積み果てつ」は森鴎外『舞姫』からの引用。高校の授業で『舞姫』を扱う学校は多いが、こだわりのある先生であればこの一文字で1時間の授業ができるほどの名文と言える。興味のある人は『舞姫』の中で「つ」と「ぬ」がどのように使い分けられているかチェックしてみてほしい。
初めに(この殿に)弓を射させ申し上げなさったところ、帥殿の当たりの矢数が二本だけ劣りなさった。

今回はここまで🐸

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