平家物語『木曽の最期』品詞分解/現代語訳/解説③

平家物語『木曽の最期』品詞分解/現代語訳/解説③

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今回は平家物語の『木曽の最期』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。

必要に応じて解説なども記しています。

古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥

それでは行ってみましょう!

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甲斐の一条次郎とこそ聞け。

甲斐    名詞   現在の山梨県のこと
格助詞
一条次郎名詞源忠頼のこと
格助詞
こそ係助詞強意の係助詞
聞け動詞カ行四段活用動詞「聞く」の已然形。
直前の係助詞「こそ」を受けて、係り結びが成立している。
(お前は)甲斐の一条次郎と聞く。

互ひによいかたきぞ。義仲討つて兵衛佐に見せよや。」

互ひに     副詞    
よい形容詞ク活用の形容詞「よし」の連体形のイ音便。

★重要単語
①積極的肯定の「よし」
②まあまあ良い・悪くないの「よろし」
③まあまあ悪い・良くないの「わろし」
④積極的否定の「あし」
の価値基準は押さえておきたい。
かたき名詞漢字を当てると「敵」。
終助詞念押しの終助詞
義仲名詞木曽義仲のこと
討つ動詞タ行四段活用動詞「討つ」の連用形の促音便
接続助詞
兵衛佐名詞ここでは相手方の総大将である源頼朝のことを指す。
読みは「ひやうゑのすけ」。
格助詞
見せよ動詞サ行下二段活用動詞「見す」の命令形
間投助詞呼びかけの間投助詞
互いによい敵だぞ。この義仲を討って兵衛佐に見せよ。」
 

とて、をめいて駆く。

とて     格助詞    
をめい動詞カ行四段活用動詞「をめく」の連用形のイ音便。
漢字をあてると「喚く」であるとおり、「大声で叫ぶ」という意味を持つ語。
接続助詞
駆く動詞カ行下二段活用動詞「駆く」の終止形
と言って、大声で叫んで(馬に乗って)駆ける。

一条次郎、「ただ今名のるは大将軍ぞ。

一条次郎  名詞  
ただ今副詞(ほかならぬ)現在、今、の意味を持つ  
名のる動詞ラ行四段活用動詞「名のる」の連体形
係助詞
大将軍名詞ここでは軍隊の総大将のことであり、木曽殿(源義仲)を意味する。
木曽殿の首を取れば、そこで戦いは終わりになるだけでなく、出世に直結する。
ぞ  終助詞  念押しの終助詞
一条次郎は、「たった今名のったのが総大将だぞ。

あますな者ども、もらすな若党、討てや。」とて、

あます         動詞        サ行四段活用動詞「あます」の終止形。
漢字をあてると「余す」であるとおり、「取り残す」、「持て余す」といった意味を持つ語。
ここでは前者の意味で使われる。
終助詞禁止の終助詞
者ども名詞「ども」は接尾語。名詞について、同じ種類のものが複数であることを示す。
海賊王を目指す某国民的キャラクターが「野郎ども」と言っていることからも想像しやすいかもしれない。
また、現在の「私ども」のように、謙遜を示す場合に使われることもある。
もらす動詞サ行四段活用動詞「もらす」の終止形。
ここでは「取り逃す」の意味で使われる。
終助詞禁止の終助詞
若党名詞若い侍、の意
討て動詞タ行四段活用動詞「討つ」の命令形
間投助詞呼びかけの間投助詞
とて格助詞

取り残すな者ども、取り逃すな若い侍、討てよ。」と言って、

大勢の中に取りこめて、我討つ取らんとぞ進みける。

大勢    名詞   
格助詞
名詞
格助詞
取りこめ動詞マ行下二段活用動詞「取りこむ」の連用形。
漢字をあてると「取り籠む」であるとおり、「取り囲む」の意味で使われる。
接続助詞    
代名詞
討つ取ら動詞ラ行四段活用動詞「討つ取る」の未然形
助動詞意志の助動詞「む」の終止形。
助動詞「む」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。
※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいること。

【原則】
助動詞「む」が文末にある場合
・主語が一人称⇒意志
・主語が二人称⇒適当/当然/命令
・主語が三人称⇒推量

助動詞「む」が文中に連体形で出てきた場合
・「む(連体形)」+「は」、「に」、「には」、体言⇒仮定
・「む(連体)」+体言⇒婉曲
※婉曲は助動詞「む」を訳出しなくても文意が通じる場合。
格助詞
係助詞強意の係助詞
進み動詞マ行四段活用動詞「進む」の連用形
ける助動詞過去の助動詞「けり」の連体形。
同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。その場合は 「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。

ここでは係助詞「ぞ」を受けて、係り結びが成立している。
大勢の中に(義仲を)取り囲んで、自分が討ち取ろうと進んだ。

木曽三百余騎、六千余騎が中を、縦様・横様・蜘蛛手・十文字に駆け割つて、

木曽   名詞    「木曽」は現在の長野県のあたりのこと。
ここでは木曽殿(源義仲)のことを指す。
三百余騎名詞
六千余騎名詞300騎VS6000騎の戦いである。単純計算すればその差は20倍である。
格助詞
名詞
格助詞
縦様名詞
横様名詞
蜘蛛手名詞ここでは、蜘蛛の足が八本であるように「四方八方に駆け巡ること」の意味で使われる。読みは「くもで」。
十文字名詞「縦様」~から「十文字」の表現は、木曽殿の軍がまさに縦横無尽に駆け巡ったことを表現したものである。
格助詞
駆け割つ動詞カ行下二段活用動詞「駆く」の連用形+ラ行四段活用動詞「割る」の連用形の促音便
接続助詞
木曽の三百余騎は、(一条の)六千余騎の中を縦に、横に、四方八方に、十文字に駆け押し分けて、
 

後ろへつつと出でたれば、五十騎ばかりになりにけり。

後ろ     名詞    
格助詞
つつと副詞
出で動詞ダ行下二段活用動詞「出づ」の連用形
たれ助動詞完了の助動詞「たり」の已然形。
助動詞の「たり」は完了・存続の「たり」と断定の「たり」の二つが存在するが、前者は連用形接続、後者は体言に接続する。
意味から考えても両者は明確に区別できるはず。(完了・存続の「たり」はもともと「てあり」から生じているため、接続助詞の「て」と同様に連用形接続である。同様に、断定の「たり」は「とあり」から生じている。)
接続助詞★重要文法
接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。
①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない)
⇒仮定(もし~ならば)
②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている)

(ⅰ)原因・理由(~なので)
(ⅱ)偶然(~したところ)
(ⅲ)必然(~するといつも)

ここでは偶然で取ると自然か。
五十騎名詞何とか突破したものの、300騎中、残るは50騎に。
ばかり副助詞程度の副助詞。
限定の用法もあるので合わせて覚えておこう。
格助詞
なり動詞ラ行四段活用動詞「なる」の連用形
助動詞完了の助動詞「ぬ」の連用形。
同じ完了の意味で同じ連用形接続の「つ」との違いが聞かれることもあるのでまとめておく。
「ぬ」:自然的な作用を示す場合に用いられる
⇒ ex.「風立ちぬ」
「つ」:人為的、意図的な作用を示す場合に用いられる
⇒ex.「石炭をばはや積み果てつ」

【余談】
先の用例で紹介した「石炭をばはや積み果てつ」は森鴎外『舞姫』からの引用。高校の授業で『舞姫』を扱う学校は多いが、こだわりのある先生であればこの一文字で1時間の授業ができるほどの名文と言える。興味のある人は『舞姫』の中で「つ」と「ぬ」がどのように使い分けられているかチェックしてみてほしい。
けり助動詞過去の助動詞「けり」の終止形
(一条軍の)後ろに出たところ、(義仲の軍は)五十騎ほどになってしまった。

そこを破つて行くほどに、

そこ  代名詞  
格助詞  
破つ動詞ラ行四段活用動詞「破る」の連用形の促音便
接続助詞
行く動詞カ行四段活用動詞「行く」の連体形
ほど 名詞★重要単語
時間、距離、空間、物体など様々な事物の程度を示す。
この場合は時間に対して使われている。
格助詞
そこを破って行くうちに、

土肥次郎実平二千余騎でささへたり。

土肥次郎実平    名詞      読みは「とひのじらうさねひら」。相模の国(現在の神奈川県周辺)に勢力を持つ者だとされている。
二千余騎名詞50騎になったところに、さらに2000騎の敵が立ちはだかる。かなり絶望的な状況である。
格助詞
ささへ動詞ハ行下二段活用動詞「ささふ」の連用形。
「支える、持ちこたえる」、「妨げる、さえぎる」といった意味を持つ語。
ここでは後者の意味で使われる。
たり助動詞存続の助動詞「たり」の終止形

土肥次郎実平が二千余騎で(陣を張って道を)妨げている。


今回はここまで🐸

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