源氏物語『若紫 垣間見』品詞分解/現代語訳/解説②

源氏物語『若紫 垣間見』品詞分解/現代語訳/解説②

はじめに

こんにちは!こくご部です。

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今回は前回の続きで、源氏物語の『若紫 垣間見』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。

⇓前回の記事はこちら⇓

必要に応じて解説なども記しています。

古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥

それでは行ってみましょう!

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清げなるおとな二人ばかり、さては童部ぞ出で入り遊ぶ。

清げなる           形容動詞        ナリ活用の形容動詞「清げなり」の連体形。
さっぱりとして清潔感があり、単純に美しいさまを表す。
似た言葉に「清らなり」という語がある。この語は、光輝いて見えるほどの最上級の美を表すため、限られた人物に対してしか使われないと考えてよい。
一文字でこのように大きな差異が生じるのもおもしろいところである。

なお、ここで忘れてはならないのが「光源氏が垣間見をしているシーンである」ということである。光源氏eyeは世界をどのように捉えているのか。
おとな名詞ここでは「年配の女房」を指す。
二人名詞
ばかり副助詞程度の副助詞。
限定の用法もあるので合わせて覚えておこう。
さては接続詞副詞「さて」に係助詞「は」が付いて一語になった語。
そしてそのほかには、そしてまた、といった意味で使われる。
童部名詞こどもたち。読みは「わらはべ」。
係助詞
出で入り動詞ダ行下二段活用動詞「出づ」の連用形+ラ行四段活用動詞「入る」の連用形。
複合動詞として一語と見てもよい。
遊ぶ動詞バ行四段活用動詞「遊ぶ」の連体形。
先の係助詞「ぞ」を受けているため連体形となる。

さっぱりした感じの年配の女房が二人ほど、そしてそのほかには子どもたちが(部屋に)出入りして遊ぶ。

中に、十ばかりにやあらむと見えて、白き衣、山吹などのなえたる着て、走り来たる女子、

中       名詞      「部屋の中に」ではなく「子どもたちの中に」と取った方が自然か。
格助詞   
名詞
ばかり副助詞
助動詞断定の助動詞「なり」の連用形。
★重要語句
「にや」(「にか」)
断定の助動詞「なり」の連用形+疑問の係助詞「や」の形で出てきた場合、後に続く「あらむ」や「ありけむ」などが省略されている。
「~であろうか」、「~であっただろうか」などと訳す。
係助詞疑問の係助詞。
あら動詞ラ行変格活用動詞「あり」の未然形。
ラ変動詞は「あり」「をり」「はべり」「いまそが(か)り/いますが(か)り」を押さえておこう。
助動詞推量の助動詞「む」の終止形。
助動詞「む」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。
※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいること。

【原則】
助動詞「む」が文末にある場合
・主語が一人称⇒意志
・主語が二人称⇒適当/当然/命令
・主語が三人称⇒推量

助動詞「む」が文中に連体形で出てきた場合
・「む(連体形)」+「は」、「に」、「には」、体言⇒仮定
・「む(連体)」+体言⇒婉曲
※婉曲は助動詞「む」を訳出しなくても文意が通じる場合。
格助詞
見え動詞ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」の連用形
接続助詞
山吹名詞
など副助詞
格助詞同格の用法
なえ動詞ヤ行下二段活用動詞「なゆ」の連用形。
漢字をあてると「萎ゆ」であるとおり、力がなくなりぐったりする、という意味を持つが、話題が衣服であるときは、衣服が着慣れて柔らかくなることを意味する。
着慣れてよく似合っていると解釈することもできる。
たる助動詞存続の助動詞「たり」の連体形。
助動詞の「たり」は完了・存続の「たり」と断定の「たり」の二つが存在するが、前者は連用形接続、後者は体言に接続する。
意味から考えても両者は明確に区別できるはず。(完了・存続の「たり」はもともと「てあり」から生じているため、接続助詞の「て」と同様に連用形接続である。同様に、断定の「たり」は「とあり」から生じている。)
動詞カ行上一段活用動詞「着る」の連用形。
上一段動詞は基本的には10語のみと数に限りがあるため、頭文字を取って「ひいきにみゐる」で確実に暗記しておくこと。
接続助詞
走り来動詞ラ行四段活用動詞「走る」の連用形+カ行変格活用動詞「来」の連用形。
複合動詞として一語と見てもよい。

ちなみに当時の常識からすれば、高貴な者(特に女性)は走る行為を「はしたないこと」であると考えている。当時の読者は「女子」をどのようなキャラクターだと受け取っただろうか。
たる助動詞完了の助動詞「たり」の連体形
女子名詞この女子が後に光源氏の妻となる「若紫(紫の上)」である。
(部屋の)中に、十歳ほどであろうかと見えて、白い衣服の上に山吹がさねの上着などで着慣れて柔らかくなっている上着を着て、走って来た女の子は、

あまた見えつる子どもに似るべうもあらず、いみじく生ひ先見えて、うつくしげなる容貌なり。

あまた       副詞      ★重要単語
たくさん。
見え動詞ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」の連用形
つる助動詞完了の助動詞「つ」の連体形。
同じ完了の意味で同じ連用形接続の「ぬ」との違いが聞かれることもあるのでまとめておく。
「ぬ」:自然的な作用を示す場合に用いられる
⇒ ex.「風立ちぬ」
「つ」:人為的、意図的な作用を示す場合に用いられる
⇒ex.「石炭をばはや積み果てつ」

【余談】
先の用例で紹介した「石炭をばはや積み果てつ」は森鴎外『舞姫』からの引用。高校の授業で『舞姫』を扱う学校は多いが、こだわりのある先生であればこの一文字で1時間の授業ができるほどの名文と言える。興味のある人は『舞姫』の中で「つ」と「ぬ」がどのように使い分けられているかチェックしてみてほしい。
子ども名詞
格助詞
似る動詞ナ行上一段活用動詞「似る」の終止形。
「十ばかり」の「女子」は、周囲にいた他の子どもとは段違いに光源氏の関心を惹いたようだ。
べう助動詞当然の助動詞「べし」の連用形のウ音便。
★重要文法
助動詞「べし」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。
※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいるべし。

【原則】
・主語が一人称⇒意志
・主語が二人称⇒適当/当然/命令
・主語が三人称⇒推量

【文脈判断等】
・下に打消を伴う⇒可能 
・下に格助詞の「と」を伴う/終止形⇒意志
・下に名詞や助詞を伴う(「~するはずの」と訳す)⇒当然/予定 ※直後に助詞が来る場合:名詞が省略されている。
・文中に疑問/反語を示す語を伴う⇒推量/可能
係助詞
あら動詞ラ行変格活用動詞「あり」の未然形
助動詞打消の助動詞「ず」の連用形
いみじく形容詞シク活用の形容詞「いみじ」の連用形。
程度が「はなはだしい」のほか、「すばらしい」「ひどい」の意味を持つ。
現代語の「ヤバい」と同じで、プラス・マイナスの両面のニュアンスがあることを念頭に置いておきたい。
生ひ先名詞成長した後・成人した後。
見え動詞ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」の連用形
接続助詞
うつくしげなる       形容動詞ナリ活用の形容動詞「うつくしげなり」の連体形。
古語の「うつくし」を目にして、最初に出てくる意味は「美しい」ではなく「かわいい」であってほしい。
容貌名詞「かたち」と読む。
古語では「顔立ち」を意味する場合が多い。
なり助動詞断定の助動詞「なり」の終止形。
助動詞の「なり」は断定の「なり」と伝聞・推定の「なり」の二つが存在するが、前者は体言または連体形に接続、後者は終止形(ラ変型の活用語には連体形)に接続する。
『土佐日記』の冒頭部分、「男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり」を覚えておけば、接続が導き出せる。
たくさん見えた子どもに似るはずもなく、すばらしい成人後の様子が想像されて、かわいらしい様子の顔立ちである。

髪は扇を広げたるやうにゆらゆらとして、顔は、いと赤くすりなして立てり。

髪       名詞     
係助詞
名詞読みは「あふぎ」。
格助詞
広げ動詞ガ行下二段活用動詞「広ぐ」の連用形
たる助動詞存続の助動詞「たり」の連体形
やう名詞
助動詞断定の助動詞「なり」の連用形
ゆらゆらと副詞
動詞サ行変格活用動詞「す」の連用形
接続助詞
名詞
係助詞
いと副詞「たいそう」、「非常に」という訳を当て、程度が甚だしいことを示す。「めっちゃ」と脳内変換してもOK。
赤く形容詞ク活用の形容詞「赤し」の連用形
すりなし動詞ラ行四段活用動詞「する」の連用形+補助動詞「なす」の連用形。複合動詞として一語と見てもよい。
「する」は「こする」を意味する。
補助動詞「なす」は、「ことさらに~する」の意味を持つ。

ここでは顔をこすって赤くして泣いている様子が描かれている。
接続助詞
立て動詞タ行四段活用動詞「立つ」の已然形
助動詞存続の助動詞「り」の終止形。
接続を覚えるための語呂合わせは「サ未四已(さみしい)りっちゃん」派か「サ未四已りかちゃん」派かで分かれる。
教室に「り」で始まる子がいるとその日はイジられる可能性が高い。
髪の毛は扇を広げたようにゆらゆらとして、顔は、(泣いていたようで)たいそう赤くことさらにこすって立っている。

「何事ぞや。童部と腹立ちたまへるか。」とて、尼君の見上げたるに、

何事      名詞     「何ごと~へるか」は尼君のセリフである。
係助詞強意の係助詞
係助詞疑問の係助詞。
ここでは係り結びとは関係なく文末に用いられているが、係助詞「ぞ」「や」「か」は文末に終助詞的に用いられて「強調」「反語」「疑問」などの意味を持つこともある。
童部名詞
格助詞
腹立ち動詞タ行四段活用動詞「腹立つ」の連用形。
腹を立てる、けんかをする、の意味があるが、この場合は後者の意味である。
たまへ動詞ハ行四段活用動詞「たまふ」の已然形。
「たまふ」は四段活用と下二段活用があり、前者が尊敬語、後者が謙譲語であるので注意が必要。
この場合は尊敬の補助動詞であり、「お~なる」、「~なさる」という意。
尼君から女子への敬意が示されている。
助動詞完了の助動詞「り」の連体形
係助詞 疑問の係助詞
とて格助詞引用を示す。
尼君名詞
格助詞主格用法
見上げ動詞 ガ行下二段活用動詞「見上ぐ」の連用形。
尼君は現在、中の柱に寄りかかって座っていたため、女子を見上げている。
たる助動詞完了の助動詞「たり」の連体形。
「たる」の直後に「顔」などを補うと解釈しやすい。
格助詞
「どうしたのか。子どもたちと喧嘩をなさったのか。」と言って、尼君が(女の子を)見上げた顔に、

少しおぼえたるところあれば、「子なめり。」と見たまふ。

少し      副詞      
おぼえ動詞ヤ行下二段活用動詞「おぼゆ」の連用形。
ハ行四段活用動詞「思ふ」に奈良時代の「受身」「可能」「自発」の助動詞「ゆ」(「尊敬」の意味がないことに注意)が付いて一語になった語。
ここでは「似ている」の意味で使われている。
たる助動詞存続の助動詞「たり」の連体形
ところ名詞
あれ動詞ラ行変格活用動詞「あり」の已然形
接続助詞★重要文法
接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。
①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない)
⇒仮定(もし~ならば)
②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている)

(ⅰ)原因・理由(~なので)
(ⅱ)偶然(~したところ)
(ⅲ)必然(~するといつも)
名詞
助動詞断定の助動詞「なり」の連体形「なる」の撥音便無表記形。
「なる」が撥音便になる⇒「なん」になる。⇒「ん」が表記されなくなり「な」だけになる、という遷移。

★ルールとしてはラ変で活用する言葉の連体形に「めり、べし、なり」などが付くと「撥音便の無表記」が起きるというものであるが、受験生としては「あ/か/ざ/た/な」の下に「めり、べし、なり」のうちどれかが続いている場合は「ん」を入れて読む、という認識でOK。
めり助動詞推定の助動詞「めり」の終止形。
助動詞「めり」は視覚に基づいた推定をする際に使われる。聴覚に基づいた推定を表す場合は推定の助動詞「なり」を使う。
推定の「めり」「なり」は共に終止形接続であるが、ラ変型の活用語には連体形で接続する。
格助詞
動詞マ行上一段活用動詞「見る」の連用形
たまふ動詞ハ行四段活用動詞「たまふ」の終止形。
尊敬の補助動詞。作者から光源氏への敬意が示されている。
少し似ているところがあるので、「(女子は尼君の)子どもであるようだ。」と(光源氏は)ご覧になる。

「雀の子を犬君が逃がしつる。伏籠のうちに籠めたりつるものを。」

雀      名詞       この一文は女子(若紫)のセリフ。有名かつ非常にかわいいセリフなので覚えてしまおう。
格助詞
名詞
格助詞
犬君名詞尼君の家に仕える少女の名前。「いぬき」と読むのが一般的。
格助詞主格用法
逃がし動詞サ行四段活用動詞「逃がす」の連用形
つる助動詞完了の助動詞「つ」の連体形
伏籠名詞「ふせご」と読む。
籠に衣服をかけ、その中にお香を置いて衣服に匂いを移したり、衣服を暖めたりするのに使うためのもの。
格助詞
うち名詞
格助詞
籠め動詞マ行下二段活用動詞「籠む」の連用形
たり助動詞存続の助動詞「たり」の連用形
つる助動詞完了の助動詞「つ」の連体形
ものを接続助詞逆接の確定条件を表す。
連体形に接続する。
「雀の子どもを犬君が逃がしてしまった。伏籠の中に閉じ込めていたのに。」

とて、「いとくちをし。」と思へり。

とて      格助詞      引用を示す。
いと副詞「たいそう」、「非常に」という訳を当て、程度が甚だしいことを示す。「めっちゃ」と脳内変換してもOK。
くちをし形容詞シク活用の形容詞「くちをし」の終止形。
夢や希望が崩れてしまったときの残念な気持ちを表す。
「残念だ」「物足りない」「情けない」といった意味となる。
この場合は「残念だ」に類する言葉をあてると自然か。
格助詞
思へ動詞ハ行四段活用動詞「思ふ」の已然形
助動詞存続の助動詞「り」の終止形
と言って、「たいそう残念だ。」と思っている。

今回はここまで🐸

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