源氏物語『桐壺 光源氏の誕生』品詞分解/現代語訳/解説①

源氏物語『桐壺 光源氏の誕生』品詞分解/現代語訳/解説①

はじめに

こんにちは!こくご部です。

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今回は全ての教科書に掲載されていると言っても過言ではない源氏物語の『桐壺 光源氏の誕生』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。

必要に応じて解説も記しておきます。

古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥

それでは行ってみましょう!

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いづれの御時にか、女御、更衣あまた候ひ給ひける中に、

いづれ     代名詞    
格助詞
御時 名詞 「おほん(おおん)」と読む。
助動詞断定の助動詞「なり」の連用形
係助詞疑問の係助詞。
直後に「ありけむ」が省略されている。
女御名詞 天皇の妻・妃のこと。
天皇の正妻は一人(皇后)または二人(皇后・中宮)であり、それに該当しない「妾(めかけ)」を指す。
彼女らは身分(官位)により厳密に分類され、通常、親王や大臣以下の娘が「女御」になることができる。
更衣 名詞 女御の下位にあたる存在。
通常、更衣が生んだ子どもは皇位継承権を持たない。
あまた副詞現代の一夫一妻制とは異なり、当時は「妾」の人数に制限がないため、多くの女性を囲っている貴人もいた。
候ひ 動詞 ハ行四段活用動詞「候ふ(さぶらふ)」の連用形。
「仕ふ」の謙譲語。
主人の側に臣下・家来が「さぶらふ」場合、「お仕え申し上げる」という意味になる。
この場合は帝に対して作者が敬意を表している。
給ひ 動詞ハ行四段動詞「給ふ」の連用形。
「給ふ」は四段活用と下二段活用があり、前者が尊敬語、後者が謙譲語であるので注意が必要。
この場合は尊敬の補助動詞であり、「お~なさる」、「~なさる」という意。
ける助動詞過去の助動詞「けり」の連体形
同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)。
「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、それぞれニュアンスを押さえよう。
名詞
格助詞
どの(帝の)御代であっただろうか、女御・更衣がたくさんお仕え申し上げていらっしゃる中に、

いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めき給ふありけり。

いと     副詞     「たいそう」、「非常に」という訳を当て、程度が甚だしいことを示す。「めっちゃ」と脳内変換してもOK。
この場合は後に打消の助動詞を伴っているため、「たいして~(ない)」という意味になる。
打消とセットになる副詞を「呼応の副詞」と呼ぶ。
やむごとなき   形容詞   ★重要単語
「止む事無し」と漢字を当てて覚える。
「そのまま放っておくことができないほどである」という意味から、「並々ではない」、「高貴である」という意味になった。
名詞 ★重要単語
「きは」とも表記する。
「限界・終わり」のほか、「身分」という意味をもつ。
「身分」の意味の同義語として「品(しな)」がある。
助動詞断定の助動詞「なり」の連用形
係助詞強意の係助詞
あら動詞ラ行変格活用動詞「あり」の未然形
助動詞打消の助動詞「ず」の連体形。
不規則活用の助動詞なので、しっかり覚えよう。
格助詞同格の格助詞であり、接続助詞ではない。
接続助詞の「が」は格助詞が元になっており(「を」「に」も同様)、接続助詞としての「が」は平安時代末期以降になってから用いられるようになった。
この場合は「体言(名詞)+が+連体形」の形の太字部分を省略しており、 「人」「者」などの体言を補うと「~際にはあらぬがすぐれて時めき給ふあり」となる。
すぐれて 副詞
時めき動詞★重要単語
カ行四段活用動詞「時めく」の連用形。
「時」+接尾語「めく」の形で、良いタイミング(時)で貴人や社会から特別に愛されるさまを示す。
帝の寵愛を受けた者は公私ともに昔のままではいられないのだとか。
給ふ動詞ハ行四段動詞「給ふ」の 連体形。
直後の「人」「者」等が省略されている。
あり動詞ラ行変格活用動詞「あり」の連用形
けり助動詞過去の助動詞「けり」の連体形
それほど高貴な身分ではない方で、際立って(帝の)寵愛を受けていらっしゃる方(=桐壺更衣)がいた。


初めより我はと思ひあがり給へる御方々、めざましきものにおとしめそねみ給ふ。

初め      名詞     
より格助詞
代名詞
係助詞強意の係助詞
格助詞
思ひあがり動詞ラ行四段活用動詞「思ひ上がる」の連用形
「思ひ」+「上がる」の複合動詞。
「私こそ帝に選ばれるのよ!」と自負していた方々の様子が目に浮かぶ。
自他ともに認めるような、といったプラスのニュアンスを含むこともある。
給へ動詞ハ行四段動詞「給ふ」の 已然形
助動詞存続の助動詞「り」の連体形
接続を覚えるための語呂合わせは「サ未四已(さみしい)りっちゃん」派か「サ未四已りかちゃん」派かで分かれる。
教室に「り」で始まる子がいるとその日はイジられる可能性が高い。
御方々名詞
めざましき形容詞★重要単語
シク活用の形容詞「めざまし」の連体形。
上位の者が下位の者の言動を見て、目が覚めるほど良い/悪い(立派だ/気に食わない)さまを表す。
出る杭は打たれるという言葉もあるが、すべては人の受け取り方なのかもしれない。
もの名詞
格助詞
おとしめ動詞マ行下二段動詞「おとしむ」の連用形。
そねみ動詞 マ行四段活用動詞「そねむ」の連用形。
「女の嫉妬は怖い」と言う人もいるが、誰かを強く嫉む気持ちは性別関係なく怖い。気を付けよう。
給ふ動詞 ハ行四段動詞「給ふ」の終止形
(宮仕えの)初めから、我こそはと自負していらっしゃった方々は、この方(=桐壺更衣)を気にくわない者としてさげすみ、ねたみなさる。

同じほど、それより下臈の更衣たちは、まして安からず。

同じ     名詞     
ほど名詞★重要単語
時間、距離、空間、物体など様々な事物の程度を示す。
この場合は人間に対して使用しているため、「身分」の訳を当てている。
「同じほど」は桐壺更衣と同じ身分の者を指す。
それ代名詞
より 格助詞
下臈名詞 官位や身分が低い者。対義語は「上臈」。
格助詞
更衣名詞
たち(接尾語)人を表す名詞の下に付く。
係助詞
まして 副詞
安から  形容詞ク活用の 形容詞「安し」の未然形。
「やすし」は「安し」と「易し」の漢字が当てられる。
直後に助動詞を伴う場合、補助活用(カリ活用)を用いる。
助動詞打消しの助動詞「ず」の終止形
(桐壺更衣と)同じ身分や、それより低い身分の更衣たちはなおさら心が穏やかでない。

朝夕の宮仕へにつけても、人の心をのみ動かし、恨みを負ふ積もりにやありけむ、

朝夕名詞
格助詞
宮仕へ名詞 宮中に仕えること。
この場合は女御・更衣たちが天皇にお仕えることを指す。
格助詞   
つけ動詞カ行下二段活用動詞「つく」の連用形
て    接続助詞
格助詞
名詞
格助詞
名詞
格助詞
のみ副助詞強調の副助詞
動かし動詞サ行四段活用動詞「動かす」の連用形
恨み名詞
格助詞
負ふ動詞ハ行四段活用動詞「負ふ」の連体形
積もり名詞物事が積もり重なった結果。また、そのさま。
助動詞断定の助動詞「なり」の連用形
係助詞疑問の係助詞
あり動詞ラ行変格活用動詞「あり」の連用形。
「にや」の直後の「ありけむ」を省略することも少なくない。
けむ助動詞過去推量の助動詞「けむ」の連体形。
係助詞「や」を受けて係り結びが成立している。
朝夕の宮仕えにつけても、他人の心をいらだたせてばかりであって、恨みを負うことが積み重なった結果であったのだろうか、

いと篤しくなりゆき、もの心細げに里がちなるを、

いと     副詞     
篤しく 形容詞★重要単語
シク活用の形容詞「あつし」の連用形。
病状が悪いこと、病気が重いことを示す。
なりゆき動詞カ行四段活用動詞「なりゆく」の連用形
もの心細げに形容動詞ナリ活用の形容動詞「もの心細げなり」の連用形。
「もの」は接頭語。なんとなく~。
以降の語と結びつき、漠然とした様態を示す語を作る。
里がちなる形容動詞 ナリ活用の形容動詞「里がちなり」の連体形。
「里」は宮仕えする者の実家を指し、宮仕えの女性などが実家に帰っていることが多いさまを表す。
「里」に帰るにはさまざまな理由があるが、ここでは病気療養のため。
接続助詞原因・理由を表す接続助詞。
格助詞としても解釈は可能。
(更衣は)ひどく病気が重くなってゆき、なんとなく心細いようすで、実家に帰っていることが多いので、

いよいよあかずあはれなるものに思ほして、

いよいよ     副詞      ますます。
あかず連語カ行四段活用動詞「あく」の未然形+打消の助動詞「ず」。
満足には至らないという気持ちを表すが、「ヤバい」と同じで、プラス・マイナスの両面のニュアンスがある。
あはれなる形容動詞ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連体形。
「趣深い」「かわいそう」「すばらしい」など様々な訳語をあてることができるが、 「あはれ」とは基本的・包括的な美的理念であり、 一面性のみに光を当てるべきではないことを理解しておきたい。
近年「エモい」というある意味「便利」な言葉が生まれたが、平安時代の精神と通ずるところがあるように思える。
「エモい」「尊い」などを先人が逆輸入すれば「あはれなり」と訳するのかもしれない。
もの名詞
格助詞
思ほし動詞サ行四段活用動詞「思ほす」の連用形。
「思ふ」の尊敬語。類義語の「思す」も押さえておきたい。
接続助詞
(帝は)ますますこの上なく愛しいものとお思いになって、

人のそしりをもえ憚らせ給はず、

人      名詞      
格助詞
そしり名詞
格助詞
係助詞
副詞★重要文法
後ろに「打消」を伴って「不可能」の意味を表す。
なお、「え」が書かれてない異本も存在しており、その場合は「できない」ではなく「しない」となるため、帝の為人が大きく変容するのも興味深い。
憚ら 動詞ラ行四段活用動詞「憚る」の未然形
助動詞尊敬の助動詞「す」の連用形。
「せ給ふ」で二重尊敬で、地の文の場合は最高敬語として注意が必要。
二重尊敬は大臣以上の高位の者に対して使われるため、主語が省略されている場合でも判別に役立つ。
給は動詞ハ行四段動詞「給ふ」の未然形
助動詞打消の助動詞「ず」の終止形
人の非難も気兼ねすることがおできにならず、

世のためしにもなりぬべき御もてなしなり。

世      名詞      
格助詞
ためし名詞★重要単語
漢字を当てると「例」。
「世間のしきたり」や「前例・先例」、「世間話」などの意味があるが、文脈に応じて適切な訳を当てる。
格助詞
係助詞
なり動詞ラ行四段活用動詞「なる」の連用形
助動詞強意の助動詞「ぬ」の終止形。
★重要文法
直後に「推量」や「推定」の助動詞がある場合、「完了」ではなく「強意」の意味で訳出を行う。
べき助動詞推量の助動詞「べし」の連体形
御もてなし名詞
なり助動詞断定の助動詞「なり」の終止形
世間の(悪い)語り草にきっとなるだろうに違いない処遇である。


今回はここまで。次回へ続きます🔥

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