源氏物語『桐壺 光源氏の誕生』品詞分解/現代語訳/解説④

源氏物語『桐壺 光源氏の誕生』品詞分解/現代語訳/解説④

はじめに

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今回は前回の続きで、源氏物語の『桐壺 光源氏の誕生』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。

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必要に応じて解説なども記しています。

古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥

それでは行ってみましょう!

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前の世にも、御契りや深かりけむ、

前              名詞            前。「前の世」で前世を表す。
仏教用語として三世(さんぜ)という言葉があり、三世はそれぞれ「前世、現世、来世」である。なお、日本史で頻出の「三世一身法」と同じく、読みは「さんせ」ではなく「さんぜ」である。
格助詞
名詞原義は「終わりや限界のある時間・空間」。
「世間」や「生涯」、「前世/現世/来世」など文脈により様々な訳語が当てられるが、頻出は「男女・夫婦の仲」の訳語。
ここでは「人の一生」を意味する。
格助詞
係助詞
御契り名詞 ★重要単語
「約束」や「(前世からの)因縁・宿縁」を意味する。特に後者は当時の仏教思想(因果応報)が現れており、前世でどのように生きたかが現世に大きな影響を及ぼすと信じられていた。
この挿入句に、作者のある種のロマンチシズムを見出すこともできる。
係助詞疑問の係助詞
深かり形容詞ク活用の形容詞「深し」の連用形。
この場合は直後に助動詞を伴っているため、補助活用が用いられている。
けむ助動詞 過去推量の助動詞「けむ」の連体形。
係助詞「や」による係り結びが起きている。
(帝と桐壺更衣は、現世だけではなく)前世でも因縁が深かったのであろうか、

世になく清らなる玉の男御子さへ生まれたまひぬ。

世      名詞      名詞の「世」+格助詞「に」になる場合と副詞の「世に」となる場合の2パターンがあるので、混同しないようにしたい。後者の場合は、①下に打消を伴って全否定(全く~ない)と訳す場合と、②下の形容詞・形容動詞を修飾して「実に、非常に」と訳する場合がある。
に  格助詞   
なく形容詞ク活用の形容詞「なし」の連用形
清らなる形容動詞ナリ活用の形容動詞「清らなり」の連体形。
光輝いて見えるほどの最上級の美を表すため、限られた人物に対してしか使われないと考えてよい。
似た言葉に「清なり」という語があるが、こちらはさっぱりとして清潔感があり、単純に美しいさまを表す。一文字でこのように大きな差異が生じるのもおもしろいところである。今後は源氏の物語の中で「清らなる」という語が誰に使われているのかに注目して読み進めてほしい
名詞
格助詞比喩の用法。
男御子名詞読みは「をとこ(をのこ)みこ」。対義語は女(をんな)御子。
さへ副助詞★重要文法
添加の副助詞。 「~までも」と訳し、「〇〇の上に××までも」と付け加える働きがある。
「さへ」の語源を「添え」とする説もある。
生まれ動詞ラ行下二段活用動詞「生まる」の連用形
たまひ動詞ハ行四段活用動詞「給ふ」の連用形。
「給ふ」は四段活用と下二段活用があり、前者が尊敬語、後者が謙譲語であるので注意が必要。
この場合は尊敬の補助動詞であり、「お~なる」、「~なさる」という意。
助動詞完了の助動詞「ぬ」の終止形
世に(適うものが)ない、美しい玉のような男の皇子までもがお生まれになった。

いつしかと心もとながらせ給ひて、急ぎ参らせて御覧ずるに、

いつしか       副詞       ★重要単語
現代でも使われている「いつのまにか」のほか、下に願望の表現を伴って「早く(~したい)」という意味があり、特に後者が重要。
後者の用法では今回のように願望の表現が省略されることもある。言わなくても分かる表現は省く、というのが古来から続く日本語の特徴でもある。
なお、当時は出産の際、宮中から実家に帰ることになっており、(死や出産は「穢れ」とされ、忌避されていた)出産を終えた桐壺更衣と我が子に会えるのを帝が待ち遠しく思っている様子が表されている。
格助詞
心もとながら動詞ラ行四段活用動詞「心もとながる」の未然形。
「不安に思う」や「待ち遠しく思う」などの意味がある。
助動詞尊敬の助動詞「す」の連用形
給ひ動詞ハ行四段活用動詞「給ふ」の連用形。
「せ給ふ」で二重尊敬となり、地の文の場合は最高敬語として注意が必要。
二重尊敬は大臣以上の高位の者に対して使われるため、主語が省略されている場合でも判別に役立つ。
接続助詞
急ぎ動詞ガ行四段活用動詞「急ぐ」の連用形
参ら動詞★重要単語
ラ行四段活用動詞「参る」の連用形。
「参る」は「行く」「来」の謙譲語である「参上する」という意味のほか、「御」+名詞+「参る」などの形で高貴な身分の人物に対して「(何かをして)差し上げる」という「与ふ」「す」の謙譲語、さらに「食ふ」「飲む」の尊敬語である「召し上がる」の意味がある。判別には文脈判断が必要になるが、まずは最初の「参上する」を当て、不自然であれば他の訳をあてていく。
助動詞使役の助動詞「す」の連用形
接続助詞
御覧ずる動詞サ行変格活用動詞「御覧ず」の連体形。
「見る」の尊敬語。「御覧ず」の「ず」は打消の助動詞ではないことに注意。
接続助詞
帝は「はやく(会いたい)」と待ち遠しくお思いになって、(桐壺更衣と我が子に)急いで参上させてご覧にになると、

めづらかなる児の御容貌なり。

めづらかなる    形容動詞     ナリ活用の形容動詞「めづからなり」の連体形。
「めったにない」、「珍しい」などの意。「めづらし」がプラスの意味で使われるのに対して、「めづらかなり」はプラス・マイナス両方に使われる。
名詞「ちご」と読む。「稚児」や「乳子」などの漢字を当てることもある。
格助詞
御容貌名詞★重要単語
「かたち」と読み、「顔立ち」や「容貌」を示す。
「すがた」が衣服を含めた身体全体を指すのに対し、「かたち」はまさに顔の造形について指す。
なり助動詞断定の助動詞「なり」の終止形
類まれな(美しい)皇子のご容貌である。

一の御子は、右大臣の女御の御腹にて、

一の御子    名詞      第一皇子。ここでは後の朱雀帝を指す。
係助詞
右大臣名詞 下図参照。
太政大臣、左大臣に次ぐ権力者。太政大臣は常設ではないため、欠員であれば実質No.2の者である。「第一皇子は右大臣の娘の子ども」という状況で、桐壺更衣とその皇子はどうなっていくのか。
格助詞   
女御名詞天皇の妻・妃のこと。
天皇の正妻は一人(皇后)または二人(皇后・中宮)であり、それに該当しない「妾(めかけ)」を指す。
彼女らは身分(官位)により厳密に分類され、通常、親王や大臣以下の娘が「女御」になることができる。
ここでは後に「弘徽殿女御」と呼ばれる女性を指すが、彼女は「更衣」である桐壺更衣の上位にあたるため、この一文だけで波乱が予想される展開。
格助詞
御腹名詞「その女性から生まれたこと」や「その子どもであること」を示す。
助動詞断定の助動詞「なり」の連用形
接続助詞
第一皇子は右大臣の(娘の)女御がお生みになった方で、

寄せ重く、疑ひなき儲の君と、世にもてかしづききこゆれど、

寄せ     名詞     「期待」や「縁」のほか、「後見」を表す。
さすがは右大臣、強大な権力を持っているのに対し、桐壺更衣の父は大納言で、しかも既に亡くなっている。
重く形容詞ク活用の形容詞「重し」の連用形
疑ひ名詞
なき形容詞ク活用の形容詞「なし」の連体形
儲の君名詞「儲(まうけ)」は「準備」や「用意」を指す重要単語。
「儲の君」で天皇の位につく準備をしている方ということから、「皇太子(東宮)」を指す。第一皇子が必ず皇太子になったわけではないため、ここでも波乱の予感が。
格助詞
名詞原義は「終わりや限界のある時間・空間」。
「世間」や「生涯」、「前世/現世/来世」など文脈により様々な訳語が当てられるが、頻出は「男女・夫婦の仲」の訳語。
ここでは「世の中」や「世間」の訳語を当てる。
格助詞
もてかしづき動詞カ行四段活用動詞「もてかしづく」の連用形。
「もて」は接頭語で動詞に付き、意味を強めたり語調を整えたりする働きをもつ。
「かしづく」は重要単語で、「大切に育てる・世話をする」という意味。「かしら(頭)づく」が変化した語とされている。
きこゆれ動詞★重要単語
ヤ行下二段活用動詞「きこゆ」の已然形。
「聞こえる」「評判になる」「分かる」などの一般動詞としての用法と、「言ふ」の謙譲語である「申し上げる」、謙譲の補助動詞である「お~申し上げる」の用法がある。謙譲語としての「聞こゆ」は、直前に動詞があるかどうかで意味を判別する必要がある。
接続助詞逆接の確定条件
後見人の勢力が強く、「疑いようもなく皇太子である」と世間でも大切にお世話をし申し上げているが、

今回はここまで🐸

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