平家物語『木曽の最期』品詞分解/現代語訳/解説⑥

平家物語『木曽の最期』品詞分解/現代語訳/解説⑥

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今回は平家物語の『木曽の最期』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。

必要に応じて解説なども記しています。

古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥

それでは行ってみましょう!

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今井四郎、木曽殿、主従二騎になつて、のたまひけるは、

今井四郎    名詞    読みは「いまゐのしらう」。今井四郎兼平のこと。木曽殿と行動を共にする「御乳母子」。「御乳母子」については後述する。
木曽殿名詞木曽義仲(源義仲)のこと。この人物についてはこれまでの記事を参照されたい。
主従名詞読みは「しゆじゆう」。
二騎名詞とうとう木曽殿の軍勢は自分と今井の二人だけになってしまっている。
これまで相手にしてきた軍勢を考えると、生きているだけでもすごいことである。
格助詞
なつ動詞ラ行四段活用動詞「なる」の連用形の促音便
接続助詞
のたまひ動詞ハ行四段活用動詞「のたまふ」の連用形。
「言ふ」の尊敬語であり、ここでは作者から木曽殿への敬意が示される。
ける助動詞過去の助動詞「けり」の連体形。
同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。その場合は 「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。
係助詞
今井四郎と、木曽殿は主従二騎になって、(木曽殿が)おっしゃったことには、

「日ごろは何ともおぼえぬ鎧が、今日は重うなつたるぞや。」

日ごろ     名詞   「何日かの間」、「普段」という意味を持つ語。
ここでは「普段」の意味で使われる。

「○○ごろ」は「年」「月」「日」の下について、長い時間の経過を表す。
係助詞
代名詞
格助詞
係助詞
おぼえ動詞ヤ行下二段活用動詞「おぼゆ」の未然形。
ハ行四段活用動詞「思ふ」に奈良時代の「受身」「可能」「自発」の助動詞「ゆ」(「尊敬」の意味がないことに注意)が付いて一語になった語。
助動詞打消の助動詞「ず」の連体形
名詞読みは「よろひ」。
格助詞主格用法
今日名詞
係助詞
重う形容詞ク活用の形容詞「重し」の連用形のウ音便
なつ動詞ラ行四段活用動詞「なる」の連用形の促音便
たる助動詞完了の助動詞「たり」の連体形。
助動詞の「たり」は完了・存続の「たり」と断定の「たり」の二つが存在するが、前者は連用形接続、後者は体言に接続する。
意味から考えても両者は明確に区別できるはず。(完了・存続の「たり」はもともと「てあり」から生じているため、接続助詞の「て」と同様に連用形接続である。同様に、断定の「たり」は「とあり」から生じている。)
終助詞念押しの終助詞
間投助詞詠嘆の間投助詞。
「日ごろなんとも思わない鎧が、今日は重い」。このセリフにはどのような感情が込められているのだろうか。
「普段は何とも思わない鎧が、今日は重くなったことよ。」
 

今井四郎申しけるは、

今井四郎    名詞     
申し動詞サ行四段活用動詞「申す」の連用形。
「言ふ」の謙譲語として使われ、作者から木曽殿への敬意が示される。
ける助動詞過去の助動詞「けり」の連体形
係助詞
今井四郎が申し上げたことには、

「御身もいまだ疲れさせたまはず、御馬も弱り候はず。

御身     名詞     読みは「おんみ」。
「御」は貴人に対する敬意を示すために付けられる接頭語。
係助詞
いまだ副詞
疲れ動詞ラ行下二段活用動詞「疲る」の連用形
させ助動詞尊敬の助動詞「さす」の連用形。
今井四郎から木曽殿への敬意が示される。
たまは動詞ハ行四段活用動詞「たまふ」の未然形。
「たまふ」は四段活用と下二段活用があり、前者が尊敬語、後者が謙譲語であるので注意が必要。
この場合は尊敬の補助動詞であり、「お~なる」、「~なさる」という意。
今井四郎から木曽殿への敬意が示される。
ず   助動詞打消の助動詞「ず」の連用形
御馬名詞読みは「おんま」。
「御」は貴人に対する敬意を示すために付けられる接頭語。
係助詞
弱り動詞ラ行四段活用動詞「弱る」の連用形
候は動詞ハ行四段活用動詞「候ふ」の未然形。
「あり」「をり」の謙譲語、「あり」「をり」の丁寧語、丁寧語の補助動詞(~ございます、~です)の意味がある。
ここでは丁寧語の補助動詞として使われ、今井四郎から木曽殿への敬意が示される。
助動詞打消の助動詞「ず」の終止形
「お身体もまだお疲れではなく、お馬も弱ってはございません。

何によつてか、一領の御着背長を重うはおぼしめし候ふべき。

何            代名詞                                     
格助詞
よつ動詞ラ行四段活用動詞「よる」の連用形の促音便
接続助詞
か     係助詞反語(疑問)の係助詞
一領名詞「領」は装束、鎧などの数を表す語。読みは「いちりやう」。
格助詞
御着背長名詞大将などが着る大鎧の別名。読みは「おんきせなが」。
格助詞
重う形容詞ク活用の形容詞「重し」の連用形のウ音便
係助詞強意の係助詞
おぼしめし動詞サ行四段活用動詞「おぼしめす」の連用形。
「思ふ」の尊敬語。
同じく「思ふ」の尊敬語として「おぼす」という語もあるが、より高い敬意を表すときは「おぼしめす」の方を用いる。
ここでは、今井四郎から木曽殿への敬意を示している。
候ふ動詞ハ行四段活用動詞「候ふ」の終止形。
丁寧語の補助動詞として使われ、今井四郎から木曽殿への敬意が示される。
べき助動詞推量の助動詞「べし」の連体形。
★重要文法
助動詞「べし」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。
※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいるべし。

【原則】
・主語が一人称⇒意志
・主語が二人称⇒適当/当然/命令
・主語が三人称⇒推量

【文脈判断等】
・下に打消を伴う⇒可能 
・下に格助詞の「と」を伴う/終止形⇒意志
・下に名詞や助詞を伴う(「~するはずの」と訳す)⇒当然/予定 ※直後に助詞が来る場合:名詞が省略されている。
・文中に疑問/反語を示す語を伴う⇒推量/可能

ここでは係助詞「か」を受けて係り結びが成立している。

どうして、一着の大鎧を重くお思いになるだろうか、いや、そんなことはない。

それは、御方に御勢が候はねば、臆病でこそさはおぼしめし候へ。

それ    代名詞    木曽殿の、普段重いとも思わない鎧を今日は重いと感じるという発言を指す
係助詞
御方名詞「方」はここでは「仲間」の意味で使われる。読みは「みかた」。
格助詞
御勢名詞「勢」は漢字のとおり、「勢い、勢力」、「軍勢、兵力」、「形、大きさ」といった意味を持つ語。
ここでは「軍勢」の意味で使われる。読みは「おんせい」。
格助詞主格用法
候は動詞ハ行四段活用動詞「候ふ」の未然形。
「あり」「をり」の謙譲語、「あり」「をり」の丁寧語、丁寧語の補助動詞(~ございます、~です)の意味がある。
ここでは「あり」「をり」の丁寧語として使われ、今井四郎から木曽殿への敬意が示される。
助動詞打消の助動詞「ず」の已然形
接続助詞★重要文法
接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。
①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない)
⇒仮定(もし~ならば)
②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている)

(ⅰ)原因・理由(~なので)
(ⅱ)偶然(~したところ)
(ⅲ)必然(~するといつも)

ここでは原因・理由で取ると自然か。
臆病名詞上司に対して「臆病」などという言葉を用いて指摘することは、現在では考えられないかもしれないが、もちろん当時も命がけの行為である。

「上司に対して指摘すること」を難しい言葉で説明すると「諫言(かんげん)」という。
格助詞
こそ係助詞強意の係助詞
副詞
係助詞
おぼしめし動詞サ行四段活用動詞「おぼしめす」の連用形。
「思ふ」の尊敬語。
同じく「思ふ」の尊敬語として「おぼす」という語もあるが、より高い敬意を表すときは「おぼしめす」の方を用いる。
ここでは、今井四郎から木曽殿への敬意を示している。
候へ動詞ハ行四段活用動詞「候ふ」の已然形。
丁寧語の補助動詞として使われ、今井四郎から木曽殿への敬意が示される。

ここでは係助詞「こそ」を受けて係り結びが成立している。
それはお仲間に軍勢がないので、臆病のためにそうお思いです。

兼平一人候ふとも、余の武者千騎とおぼしめせ。

兼平     名詞   今井四郎のこと
一人名詞
候ふ動詞ハ行四段活用動詞「候ふ」の終止形。
「あり」「をり」の丁寧語として使われ、今井四郎から木曽殿への敬意が示される。
とも接続助詞逆接の仮定条件。終止形に接続する。
名詞「わたくし、自分」で解釈するか、「他の」と解釈するかで意味が変わってくる。ここでは前者を用いるが、後者でも問題はない。
格助詞
武者名詞読みは「むしや」。
千騎名詞読みは「せんぎ」。
格助詞
おぼしめせ動詞サ行四段活用動詞「おぼしめす」の命令形。
尊敬語で、今井四郎から木曽殿への敬意が示される。
兼平一人でございましても、自分の武者は千騎(と同じ)だとお思い下さい。
 

矢七つ八つ候へば、しばらく防き矢つかまつらん。

矢    名詞     
七つ名詞
八つ名詞
候へ動詞ハ行四段活用動詞「候ふ」の已然形。
「あり」「をり」の丁寧語として使われ、今井四郎から木曽殿への敬意が示される。
接続助詞
しばらく副詞
防き矢名詞敵の襲来を防ぐために矢を射ること
つかまつら動詞ラ行四段活用動詞「つかまつる」の未然形。
「仕ふ」「す」の謙譲語、謙譲の補助動詞(お~申し上げる)の意味がある。
ここでは「す」の謙譲語として使われ、今井四郎から木曽殿への敬意が示される。
助動詞意志の助動詞「む」の終止形。
助動詞「む」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。
※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいること。

【原則】
助動詞「む」が文末にある場合
・主語が一人称⇒意志
・主語が二人称⇒適当/当然/命令
・主語が三人称⇒推量

助動詞「む」が文中に連体形で出てきた場合
・「む(連体形)」+「は」、「に」、「には」、体言⇒仮定
・「む(連体)」+体言⇒婉曲
※婉曲は助動詞「む」を訳出しなくても文意が通じる場合。
矢が七つ、八つございますので、しばらく防ぎ矢をいたしましょう。

あれに見え候ふ、粟津の松原と申す、あの松の中で御自害候へ。」

あれ     代名詞     あそこ。あちら。
格助詞
見え動詞ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」の連用形。
「見える」「思われる」「見られる」「結婚する」など様々な意味があるが、「見ゆ」の「ゆ」は上代(ほぼ奈良時代まで)の助動詞であり、受身・自発・可能の意味がある。
「受身・自発・可能」という字面を見ると「る」と同じでは?と思った人がいるかもしれないが、その直感は正しい。「る」の発達に伴って「ゆ」が少しずつ姿を消していった。
なお、「ゆ」には尊敬の意味はない。
候ふ動詞ハ行四段活用動詞「候ふ」の連体形。
丁寧語の補助動詞として使われ、今井四郎から木曽殿への敬意が示される。
粟津の松原名詞読みは「あはづのまつばら」。
格助詞
申す   動詞サ行四段活用動詞「申す」の連体形。
「言ふ」の謙譲語として使われ、今井四郎から木曽殿への敬意が示される。
代名詞
格助詞
名詞
格助詞
名詞
格助詞
御自害名詞自らの上司に対して「あの松の中で御自害ください」と言った今井四郎兼平。そこにはどのような思いが込められているのだろうか。
候へ動詞ハ行四段活用動詞「候ふ」の命令形。
「あり」「をり」の丁寧語として使われ、今井四郎から木曽殿への敬意が示される。
あそこに見えます、粟津の松原と申す、あの松の中でご自害ください。」

とて、打つて行くほどに、

とて     格助詞                                 
打つ動詞タ行四段活用動詞「打つ」の連用形の促音便。
ここでは「馬にむちを打つ」という意味である。
接続助詞
行く動詞カ行四段活用動詞「行く」の連体形
ほど     名詞
格助詞★重要単語
時間、距離、空間、物体など様々な事物の程度を示す。
この場合は時間に対して使われている。

と言って、(馬に鞭を)打って行くうちに、


今回はここまで🐸

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