平家物語『木曽の最期』品詞分解/現代語訳/解説⑦
こんにちは!こくご部です。
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今回は平家物語の『木曽の最期』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。
必要に応じて解説なども記しています。
古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥
それでは行ってみましょう!
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目次
また新手の武者、五十騎ばかり出で来たり。
また | 副詞 | |
新手 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
武者 | 名詞 | 読みは「むしや」。 |
五十騎 | 名詞 | 読みは「ごじつき」。幾多の困難を乗り越えてきた木曽殿であるが、また新手の敵が現れる。単純計算で25対1の戦いになる。 |
ばかり | 副助詞 | 程度の副助詞。 限定の用法もあるので合わせて覚えておこう。 |
出で来 | 動詞 | カ行変格活用動詞「出で来」の連用形 |
たり | 助動詞 | 完了の助動詞「たり」の終止形。 助動詞の「たり」は完了・存続の「たり」と断定の「たり」の二つが存在するが、前者は連用形接続、後者は体言に接続する。 意味から考えても両者は明確に区別できるはず。(完了・存続の「たり」はもともと「てあり」から生じているため、接続助詞の「て」と同様に連用形接続である。同様に、断定の「たり」は「とあり」から生じている。) |
また新手の武者たちが五十騎ほど出て来た。
「君はあの松原へ入らせたまへ。兼平はこのかたき防き候はん。」
君 | 名詞 | 木曽殿のことを指す |
は | 係助詞 | |
あ | 代名詞 | |
の | 格助詞 | |
松原 | 名詞 | 「あの松原」は、先に出てきた「粟津の松原(あはづのまつばら)」を指す。前回の記事を参照。 |
へ | 格助詞 | |
入ら | 動詞 | ラ行四段活用動詞「入る」の未然形 |
せ | 助動詞 | 尊敬の助動詞「す」の連用形。 今井四郎から木曽殿への敬意が示される。 |
たまへ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「たまふ」の命令形。 「たまふ」は四段活用と下二段活用があり、前者が尊敬語、後者が謙譲語であるので注意が必要。 この場合は尊敬の補助動詞であり、「お~なる」、「~なさる」という意。 今井四郎から木曽殿への敬意が示される。 |
兼平 | 名詞 | 読みは「いまゐのしらう」。今井四郎兼平のこと。 ここは兼平のセリフなので、ここからは兼平が自分自身がどのように行動するかを語る場面である。 |
は | 係助詞 | |
こ | 代名詞 | |
の | 格助詞 | |
かたき | 名詞 | 漢字をあてると「敵」。 |
防き | 動詞 | カ行四段活用動詞「防く」の連用形 |
候は | 動詞 | ハ行四段活用動詞「候ふ」の未然形。 「あり」「をり」の謙譲語、「あり」「をり」の丁寧語、丁寧語の補助動詞(~ございます、~です)の意味がある。 ここでは丁寧語の補助動詞として使われ、今井四郎から木曽殿への敬意が示される。 |
ん | 助動詞 | 意志の助動詞「む」の終止形。 助動詞「む」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。 ※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいること。 【原則】 助動詞「む」が文末にある場合 ・主語が一人称⇒意志 ・主語が二人称⇒適当/当然/命令 ・主語が三人称⇒推量 助動詞「む」が文中に連体形で出てきた場合 ・「む(連体形)」+「は」、「に」、「には」、体言⇒仮定 ・「む(連体)」+体言⇒婉曲 ※婉曲は助動詞「む」を訳出しなくても文意が通じる場合。 |
「お方(木曽殿)はあの松原へお入りください。兼平はこの敵を防ぎましょう。」
と申しければ、木曽殿のたまひけるは、
と | 格助詞 | |
申し | 動詞 | サ行四段活用動詞「申す」の連用形。 「言ふ」の謙譲語として使われ、作者から木曽殿への敬意が示される。 |
けれ | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の已然形。 同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。その場合は 「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。 |
ば | 接続助詞 | ★重要文法 接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。 ①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない) ⇒仮定(もし~ならば) ②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている) ⇒ (ⅰ)原因・理由(~なので) (ⅱ)偶然(~したところ) (ⅲ)必然(~するといつも) ここでは偶然で取ると自然か。 |
木曽殿 | 名詞 | 木曽義仲(源義仲)のこと。この人物についてはこれまでの記事を参照されたい。 |
のたまひ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「のたまふ」の連用形。 「言ふ」の尊敬語であり、ここでは作者から木曽殿への敬意が示される。 |
ける | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の連体形 |
は | 係助詞 |
と(今井四郎が)申し上げたところ、木曽殿がおっしゃったことには、
「義仲、都にていかにもなるべかりつるが、これまで逃れ来るは、
義仲 | 名詞 | 木曽殿が自分について語っている場面である。 |
都 | 名詞 | |
にて | 格助詞 | |
いかに | 副詞 | 「いかに」+係助詞「も」+ラ行四段活用動詞「なる」で連語として使われ、「亡くなる、あの世へ行く」の意味を持つ |
も | 係助詞 | |
なる | 動詞 | ラ行四段活用動詞「なる」の連体形 |
べかり | 助動詞 | 当然の助動詞「べし」の連用形。 ★重要文法 助動詞「べし」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。 ※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいるべし。 【原則】 ・主語が一人称⇒意志 ・主語が二人称⇒適当/当然/命令 ・主語が三人称⇒推量 【文脈判断等】 ・下に打消を伴う⇒可能 ・下に格助詞の「と」を伴う/終止形⇒意志 ・下に名詞や助詞を伴う(「~するはずの」と訳す)⇒当然/予定 ※直後に助詞が来る場合:名詞が省略されている。 ・文中に疑問/反語を示す語を伴う⇒推量/可能 |
つる | 助動詞 | 完了の助動詞「つ」の連体形。 同じ完了の意味で同じ連用形接続の「ぬ」との違いが聞かれることもあるのでまとめておく。 「ぬ」:自然的な作用を示す場合に用いられる ⇒ ex.「風立ちぬ」 「つ」:人為的、意図的な作用を示す場合に用いられる ⇒ex.「石炭をばはや積み果てつ」 【余談】 先の用例で紹介した「石炭をばはや積み果てつ」は森鴎外『舞姫』からの引用。高校の授業で『舞姫』を扱う学校は多いが、こだわりのある先生であればこの一文字で1時間の授業ができるほどの名文と言える。興味のある人は『舞姫』の中で「つ」と「ぬ」がどのように使い分けられているかチェックしてみてほしい。 |
が | 接続助詞 | 逆接の確定条件 |
これ | 代名詞 | |
まで | 副助詞 | 限界の副助詞 |
逃れ来る | 動詞 | カ行変格活用動詞「逃れ来」の連体形 |
は | 係助詞 |
「義仲は、都であの世へ行くはずだったが、ここまで逃げ来るのは、
なんぢと一所で死なんと思ふためなり。
なんぢ | 名詞 | おまえ、の意。ここでは「今井四郎兼平」に向けて語っている場面である。 |
と | 格助詞 | |
一所 | 名詞 | |
で | 格助詞 | |
死な | 動詞 | ナ行変格活用動詞「死ぬ」の未然形。 ナ変動詞は「死ぬ」と「往ぬ」の二語。 |
ん | 助動詞 | 意志の助動詞「む」の終止形 |
と | 格助詞 | |
思ふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「思ふ」の連体形 |
ため | 名詞 | |
なり | 助動詞 | 断定の助動詞「なり」の終止形。 助動詞の「なり」は断定の「なり」と伝聞・推定の「なり」の二つが存在するが、前者は体言または連体形に接続、後者は終止形(ラ変型の活用語には連体形)に接続する。 『土佐日記』の冒頭部分、「男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり」を覚えておけば、接続が導き出せる。 |
おまえと一つ所で死のうと思うからだ。
ところどころで討たれんよりも、ひとところでこそ討ち死にをもせめ。」
ところどころ | 名詞 | ここでは「あちらこちら」の意味で使われる |
で | 格助詞 | |
討た | 動詞 | タ行四段活用動詞「討つ」の未然形 |
れ | 助動詞 | 受身の助動詞「る」の未然形。 助動詞「る」・「らる」は受身、尊敬、自発、可能の四つの意味をもつ。主な意味の見分け方は次のとおり。原則⇒文脈判断の順番で自然な訳を組み立てたい。 ①受身 ⇒「~に」(受身の対象)+「る」(「らる」) ②尊敬 ⇒尊敬語+「る」(「らる」) ③自発 ⇒知覚動詞(「思ふ」「しのぶ」「ながむ」等)+「る」(「らる」) ④可能 ⇒「る」(「らる」)+打消・反語 また、助動詞「る」「らる」は接続する動詞の活用の種類によって使い分けられるため、併せて覚えておきたい。 四段活用動詞、ナ行変格活用動詞、ラ行変格活用動詞の未然形は「る」が使われる。その他の動詞の未然形には「らる」が使われる。 「四段な(ナ変)ら(ラ変)る」と覚えるのも手。 |
ん | 助動詞 | 婉曲の助動詞「む」の連体形。 助動詞「む」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。 ※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいること。 【原則】 助動詞「む」が文末にある場合 ・主語が一人称⇒意志 ・主語が二人称⇒適当/当然/命令 ・主語が三人称⇒推量 助動詞「む」が文中に連体形で出てきた場合 ・「む(連体形)」+「は」、「に」、「には」、体言⇒仮定 ・「む(連体)」+体言⇒婉曲 ※婉曲は助動詞「む」を訳出しなくても文意が通じる場合。 |
より | 格助詞 | |
も | 係助詞 | |
ひとところ | 名詞 | |
で | 格助詞 | |
こそ | 係助詞 | 強意の係助詞 |
討ち死に | 名詞 | |
を | 格助詞 | |
も | 係助詞 | 強意の係助詞 |
せ | 動詞 | サ行変格活用動詞「す」の未然形 |
め | 助動詞 | 意志の助動詞「む」の已然形。 係助詞「こそ」を受けて係り結びが成立している。 |
あちらこちらで討たれるようなことよりも、同じところで討ち死にをしよう。」
とて、馬の鼻を並べて駆けんとしたまへば、
とて | 格助詞 | |
馬 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
鼻 | 名詞 | |
を | 格助詞 | |
並べ | 動詞 | バ行下二段活用動詞「並ぶ」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
駆け | 動詞 | カ行下二段活用動詞「駆く」の未然形 |
ん | 助動詞 | 意志の助動詞「む」の終止形 |
と | 格助詞 | |
し | 動詞 | サ行変格活用動詞「す」の連用形 |
たまへ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「たまふ」の已然形。 「たまふ」は四段活用と下二段活用があり、前者が尊敬語、後者が謙譲語であるので注意が必要。 この場合は尊敬の補助動詞であり、「お~なる」、「~なさる」という意。 作者から木曽殿への敬意が示される。 |
ば | 接続助詞 | ★重要文法 接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。 ①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない) ⇒仮定(もし~ならば) ②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている) ⇒ (ⅰ)原因・理由(~なので) (ⅱ)偶然(~したところ) (ⅲ)必然(~するといつも) ここでは原因・理由で取ると自然か。 |
と言って、馬の鼻を(今井四郎と)並べて走ろうとなさるので、
今井四郎馬より飛び下り、主の馬の口に取りついて申しけるは、
今井四郎 | 名詞 | |
馬 | 名詞 | |
より | 格助詞 | |
飛び下り | 動詞 | ラ行上二段活用動詞「飛び下る」の連用形 |
主 | 名詞 | 木曽殿を指す |
の | 格助詞 | |
馬 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
口 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
取りつい | 動詞 | カ行四段活用動詞「取りつく」の連用形のイ音便。 熱い気持ちを示した木曽殿であるが、それに対して今井四郎兼平は「自分が乗っていた馬から飛び降りて、駆けだそうとした木曽殿を止めた」のである。 そこにはどのような意図が込められているのだろうか。 |
て | 接続助詞 | |
申し | 動詞 | サ行四段活用動詞「申す」の連用形。 「言ふ」の謙譲語として使われ、作者から木曽殿への敬意が示される。 |
ける | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の連体形 |
は | 係助詞 |
今井四郎は馬から飛び下り、主君の馬の口に取り付いて申し上げたことには、
「弓矢取りは、年ごろ日ごろいかなる高名候へども、
弓矢取り | 名詞 | ここでは「武士」の意味で使われる。読みは「ゆみやとり」。 |
は | 係助詞 | |
年ごろ | 名詞 | 長年、数年(の間)。 「○○ごろ」は「年」「月」「日」の下について、長い時間の経過を表す。 現代語訳をする際、「長年」か「数年」かわからない場合は、一旦「ここ何年来」と訳して文脈を押さえにかかるのも手。 |
日ごろ | 名詞 | |
いかなる | 形容動詞 | ナリ活用の形容動詞「いかなり」の連体形。 形容動詞の連用形は副詞的に用いる(=副詞法)ことから、副詞と取る場合もある。 ここでは「どのようだ」の訳を当てる。 |
高名 | 名詞 | 評判が高いこと、有名、の意。読みは「かうみやう」。 |
候へ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「候ふ」の已然形。 「あり」「をり」の謙譲語、「あり」「をり」の丁寧語、丁寧語の補助動詞(~ございます、~です)の意味がある。 ここでは「あり」「をり」の丁寧語として使われ、今井四郎から木曽殿への敬意が示される。 |
ども | 接続助詞 | 逆接の接続助詞。已然形接続ということも押さえておきたい。 |
「武士は長年の間、どのような評判がございましても、
最後のとき不覚しつれば、長き疵にて候ふなり。
最後 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
とき | 名詞 | |
不覚し | 動詞 | サ行変格活用動詞「不覚す」の連用形。 ここでは「油断して失敗すること、不名誉なあやまちを犯すこと」の意味で使われる。 |
つれ | 助動詞 | 完了の助動詞「つ」の已然形。 同じ完了の意味で同じ連用形接続の「ぬ」との違いが聞かれることもあるのでまとめておく。 「ぬ」:自然的な作用を示す場合に用いられる ⇒ ex.「風立ちぬ」 「つ」:人為的、意図的な作用を示す場合に用いられる ⇒ex.「石炭をばはや積み果てつ」 【余談】 先の用例で紹介した「石炭をばはや積み果てつ」は森鴎外『舞姫』からの引用。高校の授業で『舞姫』を扱う学校は多いが、こだわりのある先生であればこの一文字で1時間の授業ができるほどの名文と言える。興味のある人は『舞姫』の中で「つ」と「ぬ」がどのように使い分けられているかチェックしてみてほしい。 |
ば | 接続助詞 | |
長き | 形容詞 | ク活用の形容詞「長し」の連体形 |
疵 | 名詞 | ここでは「不名誉」の意味で使われる。読みは「きず」。 |
に | 助動詞 | 断定の助動詞「なり」の連用形。 助動詞の「なり」は断定の「なり」と伝聞・推定の「なり」の二つが存在するが、前者は体言または連体形に接続、後者は終止形(ラ変型の活用語には連体形)に接続する。 『土佐日記』の冒頭部分、「男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり」を覚えておけば、接続が導き出せる。 |
て | 接続助詞 | |
候ふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「候ふ」の連体形。 丁寧語の補助動詞として使われ、今井四郎から木曽殿への敬意が示される。 |
なり | 助動詞 | 断定の助動詞「なり」の終止形 |
最後のときに油断して失敗すると、長い不名誉でございます。
今回はここまで🐸
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