平家物語『木曽の最期』品詞分解/現代語訳/解説⑤

平家物語『木曽の最期』品詞分解/現代語訳/解説⑤

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今回は平家物語の『木曽の最期』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。

必要に応じて解説なども記しています。

古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥

それでは行ってみましょう!

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なほ落ちも行かざりけるが、あまりに言はれたてまつりて、

なほ    副詞   ★重要単語
現代にも残っている「依然としてやはり(変わらず)」、「よりいっそう」のほか、「なんといってもやはり」などの意味があり、文脈に応じて適切な訳語を当てる。

ここでは「木曽殿」と行動を共にする美女である「巴」について語られている場面である。巴については前回の記事を参照。
落ち動詞タ行上二段活用動詞「落つ」の連用形。
ここでは「逃げる、逃げ落ちる」の意味で使われる。
係助詞
行か動詞カ行四段活用動詞「行く」の未然形
ざり助動詞打消の助動詞「ず」の連用形
ける助動詞過去の助動詞「けり」の連体形。
同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。その場合は 「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。
接続助詞逆接確定条件
あまりに副詞「あまりにひどく、度を超えて」の意味で使われる。
また下に打消の語を伴うと「たいして」という意味で使われることもあるため注意が必要。
ここでは前者の意味で使われる。
言は動詞ハ行四段活用動詞「言ふ」の未然形
助動詞受身の助動詞「る」の連用形。
助動詞「る」・「らる」は受身、尊敬、自発、可能の四つの意味をもつ。主な意味の見分け方は次のとおり。原則⇒文脈判断の順番で自然な訳を組み立てたい。

①受身 ⇒「~に」(受身の対象)+「る」(「らる」)
②尊敬 ⇒尊敬語+「る」(「らる」)
③自発 ⇒知覚動詞(「思ふ」「しのぶ」「ながむ」等)+「る」(「らる」)
④可能 ⇒「る」(「らる」)+打消・反語

また、助動詞「る」「らる」は接続する動詞の活用の種類によって使い分けられるため、併せて覚えておきたい。
四段活用動詞、ナ行変格活用動詞、ラ行変格活用動詞の未然形は「る」が使われる。その他の動詞の未然形には「らる」が使われる。
「四段な(ナ変)ら(ラ変)る」と覚えるのも手。
たてまつり動詞ラ行四段活用動詞「たてまつる」の連用形。
★重要単語
「たてまつる」は尊敬語・謙譲語両方の用法があるため、苦手とする受験生が多い。以下に整理しておくのでしっかり確認しておこう。

〇尊敬語
【本動詞】
・「食ふ」「飲む」の尊敬語「召し上がる」
・「乗る」の尊敬語「お乗りになる」
・「着る」の尊敬語「お召しになる」
〇謙譲語(謙譲語の方が目にする機会は多い!)
【本動詞】
・「与ふ」の謙譲語「差し上げる」
【補助動詞】
・「~し申し上げる」
★「補助動詞は用言や助動詞などの活用する語に付く場合である」ことを押さえておきたい。

ここでは謙譲の補助動詞として使われ、作者から木曽殿への敬意が示される。
接続助詞
(巴は)依然としてやはり逃げも行かなかったが、(木曽殿に)あまりにひどく言われ申し上げて、

「あつぱれ、よからうかたきがな。

あつぱれ   感動詞    強く感動した時に発する語であり、「ああ」と訳するとよい。
また、ほめたたえる時にも発する語である。
よから形容詞ク活用の形容詞「よし」の未然形。
★重要単語
①積極的肯定の「よし」
②まあまあ良い・悪くないの「よろし」
③まあまあ悪い・良くないの「わろし」
④積極的否定の「あし」
の価値基準は押さえておきたい。
助動詞婉曲の助動詞「う」の連体形。
助動詞「む」に代わって、鎌倉時代以降使われた語。
かたき名詞漢字を当てると「敵」である。少年マンガの世界では「敵」と書いて「ライバル」と読ませるが、ここでは「かたき」である。
がな終助詞願望の終助詞
「ああ、よいような(相手にとって不足のないような)敵がいるといいなぁ。
 

最後のいくさして見せたてまつらん。」とて、

最後     名詞     「最後」という言葉から、巴は死を覚悟していたことが読み取れる。
覚悟していたその「死」は、いったい誰の死なのであろうか。自分自身とも、はたまたそれ以外の人物のものとも読み取れる。
格助詞
いくさ名詞
動詞サ行変格活用動詞「す」の連用形
接続助詞
見せ動詞サ行下二段活用動詞「見す」の連用形
たてまつら動詞ラ行四段活用動詞「たてまつる」の未然形。
謙譲の補助動詞として使われ、巴から木曽殿への敬意が示される。
助動詞意志の助動詞「む」の終止形。
助動詞「む」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。
※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいること。

【原則】
助動詞「む」が文末にある場合
・主語が一人称⇒意志
・主語が二人称⇒適当/当然/命令
・主語が三人称⇒推量

助動詞「む」が文中に連体形で出てきた場合
・「む(連体形)」+「は」、「に」、「には」、体言⇒仮定
・「む(連体)」+体言⇒婉曲
※婉曲は助動詞「む」を訳出しなくても文意が通じる場合。
とて格助詞
最後の戦をして(木曽殿に)お見せ申し上げよう。」と言って、

控へたるところに、武蔵の国に聞こえたる大力、

控へ     動詞     ハ行下二段活用動詞「控ふ」の連用形。
ここでは「進まないで待つ、待機する」の意味で使われる。
たる助動詞存続の助動詞「たり」の連体形
ところ名詞
格助詞
武蔵の国名詞「武蔵」は現在の東京都、埼玉県と神奈川県の一部のあたりを指す。
読みは「むさし」。
に   格助詞 
聞こえ動詞ヤ行下二段活用動詞「聞こゆ」の連用形。
★重要単語
「聞こえる」「評判になる」「分かる」などの一般動詞としての用法と、「言ふ」の謙譲語である「申し上げる」、謙譲の補助動詞である「お~申し上げる」の用法がある。謙譲語としての「聞こゆ」は、直前に動詞があるかどうかで意味を判別する必要がある。

ここでは「評判になる」の意味で使われる。
たる助動詞存続の助動詞「たり」の連体形
大力名詞読みは「だいぢから」。怪力の持ち主のこと。
待機しているところに、武蔵の国で評判になっている大力の、

御田八郎師重、三十騎ばかりで出で来たり。

御田八郎師重       名詞      読みは「おんだのはちらうもろしげ」。「だいぢから」の持ち主である。                        
三十騎名詞
ばかり副助詞程度の副助詞。
限定の用法もあるので合わせて覚えておこう。
格助詞
出で来      動詞カ行変格活用動詞「出で来」の連用形
たり助動詞完了の助動詞「たり」の終止形

御田八郎師重が、三十騎ほどで出てきた。

巴    名詞    各地に伝説が残る、木曽殿と共に行動をしていた女性の名前。
美人で勇猛な人物であるとされている。その武力が後に示されることとなるが、ここでまだ生き残っている時点で相当な実力が窺える。
代名詞御田八郎師重の軍のことを指す
格助詞
名詞
格助詞
駆け入り動詞カ行下二段活用動「駆く」の連用形+ラ行四段活用動詞「入る」の連用形
御田八郎名詞
格助詞
押し並べ動詞バ行下二段活用動詞「押し並ぶ」の連用形。
「強引に並べる」という意味を持つ語。
「押し」は接頭語で、「しいて~する」といった意味を持つ。
接続助詞
巴はその中へ(馬で)駆け入り、(自分の馬を)御田八郎(の馬)に強引に並べて

むずと取つて引き落とし、わが乗つたる鞍の前輪に押しつけて、

むずと     副詞   擬音語である。現代語で形容しがたいが、敢えて当てるのであれば「ぐい」であろうか。
取つ動詞ラ行四段活用動詞「取る」の連用形の促音便
接続助詞
引き落とし動詞サ行四段活用動詞「引き落とす」の連用形
代名詞
格助詞
乗つ動詞ラ行四段活用動詞「乗る」の連用形の促音便
たる助動詞存続の助動詞「たり」の連体形。
助動詞の「たり」は完了・存続の「たり」と断定の「たり」の二つが存在するが、前者は連用形接続、後者は体言に接続する。
意味から考えても両者は明確に区別できるはず。(完了・存続の「たり」はもともと「てあり」から生じているため、接続助詞の「て」と同様に連用形接続である。同様に、断定の「たり」は「とあり」から生じている。)
前輪名詞鞍の前側にある、山のように高くなった部分のこと。
読みは「まへわ」。
格助詞
名詞読みは「くら」。
格助詞
押しつけ動詞カ行下二段活用動詞「押しつく」の連用形
接続助詞
ぐいっと組み合って(御田八郎を)引き落とし、自分が乗っている鞍の前輪に(御田八郎を)押し付けて、
 

ちつともはたらかさず、首ねぢ切つて捨ててんげり。

ちつとも     副詞     以下は衝撃のシーンである。「平家物語といえば」というお題でアンケートを取れば、①冒頭部(祇園精舎~)、②那須与一、③巴の武力(この場面)となるのではないだろうか。
はたらかさ動詞サ行四段活用動詞「はたらかす」の未然形。
ここでは「動かさせる」の意味で使われる。
助動詞打消の助動詞「ず」の連用形
名詞
ねぢ切つ動詞ラ行四段活用動詞「ねぢ切る」の連用形の促音便
接続助詞
捨て動詞タ行下二段活用動詞「捨つ」の連用帰依
てん助動詞完了の助動詞「つ」の未然形に推量の助動詞「む」が付いた連語。
ここでは完了の意味で使われる。
げり助動詞過去の助動詞「けり」の終止形が転じてできた語。
同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。その場合は 「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。
少しも動かさせず、(御田八郎の)首をひねり切って捨ててしまった。

そののち、物具脱ぎ捨て、東国の方へ落ちぞ行く。

そ     代名詞     
格助詞
のち名詞
物具名詞読みは「もののぐ」。武具のこと。
脱ぎ捨て動詞タ行下二段活用動詞「脱ぎ捨つ」の連用形
東国   名詞
格助詞
名詞
格助詞
落ち動詞タ行上二段活用動詞「落つ」の連用形。
ここでは「逃げる、逃げ落ちる」の意味で使われる。
係助詞強意の係助詞
行く動詞カ行四段活用動詞「行く」の連体形。
直前の「ぞ」を受けて係り結びが成立している。
その後、(巴は)武具を脱ぎ捨てて、東国の方へ逃げていった。

手塚太郎討ち死にす。手塚別当落ちにけり。

手塚太郎                 名詞               読みは「てづかのたらう」。木曽殿の部下の一人。                        
討ち死に名詞
動詞サ行変格活用動詞「す」の終止形
手塚別当名詞読みは「てづかのべつたう」。手塚太郎と同じく、木曽殿の部下の一人である。
落ち     動詞タ行上二段活用動詞「落つ」の連用形
助動詞完了の助動詞「ぬ」の連用形。
同じ完了の意味で同じ連用形接続の「つ」との違いが聞かれることもあるのでまとめておく。
「ぬ」:自然的な作用を示す場合に用いられる
⇒ ex.「風立ちぬ」
「つ」:人為的、意図的な作用を示す場合に用いられる
⇒ex.「石炭をばはや積み果てつ」

【余談】
先の用例で紹介した「石炭をばはや積み果てつ」は森鴎外『舞姫』からの引用。高校の授業で『舞姫』を扱う学校は多いが、こだわりのある先生であればこの一文字で1時間の授業ができるほどの名文と言える。興味のある人は『舞姫』の中で「つ」と「ぬ」がどのように使い分けられているかチェックしてみてほしい。
けり助動詞過去の助動詞「けり」の終止形

手塚太郎は討ち死にする。手塚別当は逃げた。

今回はここまで🐸


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