十訓抄『大江山』品詞分解/現代語訳/解説①
はじめに
こんにちは!こくご部です。
定期テスト対策から大学受験の過去問解説まで、「知りたい」に応えるコンテンツを発信します。
今回は十訓抄から『大江山』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。
必要に応じて解説も記しておきます。
古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥
それでは行ってみましょう!
出典について
まずは出典の十訓抄について触れておきましょう。
★ジャンル・内容について
説話集。『十訓抄』はその名の通り、「十の訓」として若者を教え導くために書かれた。そのため、内容は教訓的なものが多い。
★編者について
編者は未詳。六波羅二﨟左衛門入道と呼ばれた湯浅宗業(むねなり)の作とする説がある。
★成立について
鎌倉時代中期。1252年(建長四年)ごろの成立とされている。
★その他
上述のとおり、『十訓抄』の内容は教訓的なものが多く、内容は以下のとおり大別される。すなわち「十訓」とは、
①人に恵みを施すべし
②憍慢を離るべし
③人倫を侮るべからず
④人の上の多言等を誡むべし
⑤朋友を撰ぶべし
⑥忠信廉直の旨を存すべし
⑦思慮を専らにすべし
⑧諸事に堪忍すべし
⑨怨望を停むべし
⑩才能・芸業を庶幾すべし
というものである。
和泉式部、保昌が妻にて、丹後に下りけるほどに、
和泉式部 | 名詞 | 平安時代中期の歌人。大江雅致(まさむね)の娘。敦道親王との恋を赤裸々に描いた『和泉式部日記』を著す。中宮彰子に出仕し、保昌とは寛弘七年頃に結婚した。 なお、和泉式部の次の歌は百人一首にも選ばれている。あわせて覚えておきたい。 「あらざらむ この世のほかの 思ひ出に 今ひとたびの あふこともがな」 |
保昌 | 名詞 | 藤原保昌(やすまさ)。丹後守、大和守などを歴任した。 |
が | 格助詞 | 連体修飾格用法 |
妻 | 名詞 | 妻(め)と読む。 |
にて | 格助詞 | 資格用法 |
丹後 | 名詞 | 現在の京都府北部。 |
に | 格助詞 | |
下り | 動詞 | ラ行四段活用動詞「下る」の連用形。 (都から地方に)行く。 現代の電車の上り線、下り線を思い浮かべるとよい。 |
ける | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の連体形。 同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。 その場合は「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。 |
ほど | 名詞 | 時間、空間、人間など、さまざまな事柄に関して、その程度やおおよその範囲をいう語。 時間の場合は「時」「時分」、空間の場合は「あたり」、人間の場合は「身分」「身のほど」などの訳語を当てる。 |
に | 格助詞 |
京に歌合ありけるに、小式部内侍、歌よみにとられて、よみけるを、
京 | 名詞 | 都 |
に | 格助詞 | |
歌合 | 名詞 | 歌人が左右二組に分かれ、決められたお題で詠んだ歌を出し合って、その優劣を競う催し。 様々な場合があるが、歌合に選ばれることは歌人として大変名誉なことである。 この時代には恋に出世に、公私とも「和歌」が非常に重要な役割を担っていた。 |
あり | 動詞 | ラ行変格活用動詞「あり」の連用形。 ラ変動詞は「あり」「をり」「はべり」「いまそが(か)り/いますが(か)り」を押さえておこう。 |
ける | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の連体形。 |
に | 接続助詞 | |
小式部内侍 | 名詞 | 歌人。和泉式部と橘道貞の娘。 「小式部内侍は非常に優れた和歌を詠むが、それは平安時代中期の代表女流歌人である母、和泉式部のバックアップがあってこそなのでは」と一部の人々は疑っていたようである。 |
歌よみ | 名詞 | 歌を作る人。歌人。 |
に | 格助詞 | |
とら | 動詞 | タ行四段活用動詞「とる」の未然形。 選び定める。 |
れ | 助動詞 | 受身の助動詞「る」の連用形。 助動詞「る」・「らる」は受身、尊敬、自発、可能の四つの意味をもつ。主な意味の見分け方は次のとおり。原則⇒文脈判断の順番で自然な訳を組み立てたい。 ①受身 ⇒「~に」(受身の対象)+「る」(「らる」) ②尊敬 ⇒尊敬語+「る」(「らる」) ③自発 ⇒知覚動詞(「思ふ」「しのぶ」「ながむ」等)+「る」(「らる」) ④可能 ⇒「る」(「らる」)+打消・反語 また、助動詞「る」「らる」は接続する動詞の活用の種類によって使い分けられるため、併せて覚えておきたい。 四段活用動詞、ナ行変格活用動詞、ラ行変格活用動詞の未然形は「る」が使われる。その他の動詞の未然形には「らる」が使われる。 「四段な(ナ変)ら(ラ変)る」と覚えるのも手。 |
て | 接続助詞 | |
よみ | 動詞 | マ行四段活用動詞「よむ」の連用形 |
ける | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の連体形 |
を | 接続助詞 | 「を」には次の四つのパターンがある。 ①格助詞「を」:体言+を ②格助詞「を」:連体形+(体言)+を ⇒連体形と「を」の間に体言(「とき、ところ」など)を補うことができる ③接続助詞「を」:連体形+「を」 ⇒連体形と「を」の間に体言(「とき、ところ」など)を補うことができない ④間投助詞「を」:「を」を取り除いても意味が通じる この場合は、「ける」が連体形であり、「ける」と「を」の間に体言を補うことができないため③と判断する。 |
定頼中納言たはぶれて、小式部内侍ありけるに、
定頼中納言 | 名詞 | 藤原公任の子の藤原定頼(さだより)。芸事において多方面で活躍した。 「中納言」は国政を審議する上達部の内の一つで、従三位に相当する官職。 (ネタバレになるが)ここでは「噛ませ犬」の役割を担わされている。 |
たはぶれ | 動詞 | ラ行下二段活用動詞「たはぶる」の連用形。「ふざける」、「からかう」などの意。 前述の「小式部内侍」の項目にあるとおり、「小式部内侍が実力で歌合に選ばれたのではなく、母である和泉式部の後ろ盾があるからだ」と定頼は思っているため、「たはぶれ」ているのである。 |
て | 接続助詞 | |
小式部内侍 | 名詞 | |
あり | 動詞 | ラ行変格活用動詞「あり」の連用形。 |
ける | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の連体形 |
に | 格助詞 | 「に」は下記の八つのパターンがあるため、判別できるようになっておきたい。 ①格助詞「に」 ⇒体言+「に」 ②格助詞「に」 ⇒連体形+(体言)+「に」 連体形と「に」の間に体言(「とき」「ところ」)を補うことができる ③接続助詞「に」⇒連体形+「に」 ④断定の助動詞「なり」の連用形 ⇒連体形または体言+「に」 「に」の下に「あり」「さぶらふ」「はべり」などがつくことが多い。 ⑤完了の助動詞「ぬ」の連用形 ⇒連用形+「に」 ⑥ナリ活用の形容動詞の連用形活用語尾 ⑦ナ行変格活用動詞の連用形活用語尾 ⑧副詞の一部 この場合は、「ける」が連体形であり、「ける」と「に」の間に体言「とき」を補うことができるため、②と判断する。 |
「丹後へ遣はしける人は参りたりや。いかに心もとなくおぼすらむ。」
丹後 | 名詞 | |
へ | 格助詞 | |
遣はし | 動詞 | サ行四段活用動詞「遣はす」の連用形。 「遣はす」には ①「遣る」の尊敬語 ②「与ふ」「贈る」の尊敬語 ③(敬意を含まず)「贈る」「行かせる」 の用法がある。尊敬語かどうかは、主語が身分の高い人であるかどうかで判断する。 ここでは③で解釈し、「(母のいる)丹後に(使者として)遣わせた人」としておく。 |
ける | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の連体形 |
人 | 名詞 | |
は | 係助詞 | |
参り | 動詞 | ★重要単語 ラ行四段活用動詞「参る」の連用形。 「参る」は「行く」「来」の謙譲語である「参上する」という意味のほか、「御」+名詞+「参る」などの形で高貴な身分の人物に対して「(何かをして)差し上げる」という「与ふ」「す」の謙譲語、さらに「食ふ」「飲む」の尊敬語である「召し上がる」の意味がある。判別には文脈判断が必要になるが、まずは最初の「参上する」を当て、不自然であれば他の訳をあてていく。 ここでは定頼中納言から小式部内侍への敬意。 |
たり | 助動詞 | 完了の助動詞「たり」の終止形。 助動詞の「たり」は完了・存続の「たり」と断定の「たり」の二つが存在するが、前者は連用形接続、後者は体言に接続する。 意味から考えても両者は明確に区別できるはず。(完了・存続の「たり」はもともと「てあり」から生じているため、接続助詞の「て」と同様に連用形接続である。同様に、断定の「たり」は「とあり」から生じている。) |
や | 係助詞 | 係助詞の「や」は係り結びとは関係ない文末に用いられ、断定的強調、反語、疑問の意味を持つことがある。係助詞「か」「ぞ」についても同様である。 この場合は疑問。 |
いかに | 副詞 | 英語の「how」や「why」に相当すると言われることが多い。ここでは「どれほど」の訳を当てる。 |
心もとなく | 形容詞 | ク活用の形容詞「心もとなし」の連用形。 「じれったい、待ち遠しい」や「気がかりだ、不安だ」などの意味を持つ。 |
おぼす | 動詞 | サ行四段活用動詞「おぼす」の終止形。 「思ふ」の尊敬語。 定頼中納言から小式部内侍への敬意。 |
らむ | 助動詞 | 現在推量の助動詞「らむ」の終止形。 助動詞「らむ」は終止形接続。 |
と言ひて、局の前を過ぎられけるを、御簾よりなからばかり出でて、
と | 格助詞 | |
言ひ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「言ふ」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
局 | 名詞 | 「つぼね」という読み方に注意。 宮中での高貴な女房や女官の私室のこと。ここでは宮中での小式部内侍の控えの間。 |
の | 格助詞 | |
前 | 名詞 | |
を | 格助詞 | |
過ぎ | 動詞 | ガ行上二段活用動詞「過ぐ」の未然形 |
られ | 助動詞 | 尊敬の助動詞「らる」の連用形。 作者から定頼中納言への敬意。 |
ける | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の連体形 |
を | 接続助詞 | |
御簾 | 名詞 | 「みす」という読み方に注意。 母屋と廂、廂と簀子の間に掛ける簾。 |
より | 格助詞 | |
なから | 名詞 | 漢字を当てると「半ら」。 半分。 |
ばかり | 副助詞 | 程度の副助詞。 限定の用法もあるので合わせて覚えておこう。 |
出で | 動詞 | ダ行下二段活用動詞「出づ」の連用形 |
て | 接続助詞 |
わづかに直衣の袖をひかへて、
わづかに | 形容動詞 | ナリ活用の形容動詞「わづかなり」の連用形 |
直衣 | 名詞 | 貴族の男性の普段着。参内の際にも着る。「のうし」という読み方に注意。 「直衣」が本文中に出てきた場合、「直衣」を着ている人物は身分が高い人物であると判断して読み進めていこう。 |
の | 格助詞 | |
袖 | 名詞 | |
を | 格助詞 | |
ひかへ | 動詞 | ハ行下二段活用動詞「ひかふ」の連用形。袖を引っ張る。引きとめる。 現代では萌えシチュ(死語)の一つに数えられる(筆者調べ)。 果たして袖を引っ張られた定頼中納言はどうなるのか。 |
て | 接続助詞 |
大江山いくのの道の遠ければまだふみも見ず天の橋立
大江山 | 名詞 | 京都市西部にあたる山。丹後の国への道があった。 |
いくの | 「行く」と「生野」の掛詞。 掛詞とは一つの語に同じ音を用いて二重の意味を持たせ、表現内容を豊かにする表現技法のこと。ダジャレといえばそれまでだが、三十一文字という制限のもとで多くのことを伝えようとするためには自然と至る境地なのかもしれない。 「生野」は現在の京都府福知山市生野。京都御所から車で有料道路を使って1時間半ほどの場所。現在の生野には「歌枕の地 生野」と書かれた石碑と小式部内侍の歌が書かれた大きな札の看板がある。 | |
の | 格助詞 | |
道 | 名詞 | |
も | 係助詞 | |
遠けれ | 形容詞 | ク活用の形容詞「遠し」の已然形 |
ば | 接続助詞 | ★重要文法 接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。 ①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない) ⇒仮定(もし~ならば) ②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている) ⇒ (ⅰ)原因・理由(~なので) (ⅱ)偶然(~したところ) (ⅲ)必然(~するといつも) |
まだ | 副詞 | |
ふみ | 「文」と「踏み」の掛詞 | |
も | 係助詞 | |
見 | 動詞 | マ行上一段活用動詞「見る」の未然形。 上一段動詞は基本的には10語のみと数に限りがあるため、頭文字を取って「ひいきにみゐる」で確実に暗記しておくこと。 |
ず | 助動詞 | 打消の助動詞「ず」の終止形 |
天の橋立 | 名詞 | 京都府北部の宮津湾にある砂嘴(さし)。日本三景の内の一つで、その様子は龍が天に昇る様子に例えられる。 |
とよみかけけり。思はずに、あさましくて、
と | 格助詞 | |
よみかけ | 動詞 | マ行四段活用動詞「よむ」の連用形+補助動詞「かく」の連用形。 補助動詞「かく」は「~かける」、「途中まで~する」の意味を添加する。 |
けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形 |
思はずに | 形容動詞 | ナリ活用の形容動詞「思はずなり」の連用形。 「思はずなり」で一語であることに注意。予想もしていなかったものの様子を言い表す。 「思わずなり」は意外にも一語である。 |
あさましく | 形容詞 | シク活用の形容詞「あさまし」の連用形。 「あさまし」は「驚くことだ(否定的)」「あきれたことだ」などと訳を当てる。 「驚きあきれた」と記憶しておいて問題はないが、文脈に応じて訳し分けられるようにしておきたい。 前述のとおり、定頼は小式部内侍の実力をみくびっていたため、「思はずに、あさましく」感じるのである。 |
て | 接続助詞 |
今回はここまで🐸
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