大鏡『花山院の出家』品詞分解/現代語訳/解説②

大鏡『花山院の出家』品詞分解/現代語訳/解説②

はじめに

こんにちは!こくご部です。

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今回は大鏡から『花山院の出家』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。

必要に応じて解説も記しておきます。

古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥

それでは行ってみましょう!

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さやけき影を、まばゆくおぼしめしつるほどに、

さやけき                    形容詞               ク活用の形容詞「さやけし」の連体形。
漢字をあてると「明けし」、「清し」であるとおり、「明るい、明るくてすがすがしい」、「きよく澄んでいる、すかすがしい」の意味を持つ語。
ここでは前者の意味で使われる。
「有明の月」が出ているため、あたりが明るく照らされているのである。
名詞「光」という意味を持つ語。そこから転じて、光によって見える「姿、形」という意味も持つ。
格助詞   
まばゆく形容詞ク活用の形容詞「まばゆし」の連用形
おぼしめし動詞サ行四段活用動詞「おぼしめす」の連用形。
「思ふ」の尊敬語。
同じく「思ふ」の尊敬語として「おぼす」という語もあるが、より高い敬意を表すときは「おぼしめす」の方を用いる。
ここでは、語り手から花山天皇への敬意が示される。

大鏡は「大宅世継(おおやけのよつぎ)」と「夏山繁樹(なつやまのしげき)」という二人が若き侍に対して藤原氏の昔話をしているという設定である。そのため、本記事では語り手からの敬意と表現する。
つる助動詞完了の助動詞「つ」の連体形。
同じ完了の意味で同じ連用形接続の「ぬ」との違いが聞かれることもあるのでまとめておく。
「ぬ」:自然的な作用を示す場合に用いられる
⇒ ex.「風立ちぬ」
「つ」:人為的、意図的な作用を示す場合に用いられる
⇒ex.「石炭をばはや積み果てつ」

【余談】
先の用例で紹介した「石炭をばはや積み果てつ」は森鴎外『舞姫』からの引用。高校の授業で『舞姫』を扱う学校は多いが、こだわりのある先生であればこの一文字で1時間の授業ができるほどの名文と言える。興味のある人は『舞姫』の中で「つ」と「ぬ」がどのように使い分けられているかチェックしてみてほしい。
ほど名詞★重要単語
時間、距離、空間、物体など様々な事物の程度を示す。
この場合は「時間」の訳を当てている。
格助詞
明るくてすがすがしい(月の)光を(花山天皇が)まぶしくお思いになっていたときに、

月の顔にむら雲のかかりて、少しくらがりゆきければ、

月    名詞                                
格助詞
名詞ここでは、月の表面のこと
格助詞
むら雲名詞
かかり動詞ラ行四段活用動詞「かかる」の連用形
接続助詞
少し副詞
くらがりゆき       動詞カ行四段活用動詞「くらがりゆく」の連用形。
花山天皇の行く末を暗示しているような描写である。
けれ助動詞過去の助動詞「けり」の已然形。
同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。その場合は 「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。
接続助詞★重要文法
接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。
①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない)
⇒仮定(もし~ならば)
②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている)

(ⅰ)原因・理由(~なので)
(ⅱ)偶然(~したところ)
(ⅲ)必然(~するといつも)

ここでは原因・理由で取ると自然か。
月の表面にむら雲がかかって、少し暗くなっていったので、

「わが出家は成就するなりけり。」と仰せられて、

わ   代名詞     
格助詞
出家名詞読みは「すけ」または「しゆつけ」。俗世間から離れて、仏道修行に専念すること。
男性は髪を剃って、女性は肩や背中のあたりで髪の毛を切りそろえることで、出家をしたと見なされた。
係助詞
成就する動詞サ行変格活用動詞「成就す」の連体形。
「成就(じようじゆ)」と読む。
なり助動詞断定の助動詞「なり」の連用形。
助動詞の「なり」は断定の「なり」と伝聞・推定の「なり」の二つが存在するが、前者は体言または連体形に接続、後者は終止形(ラ変型の活用語には連体形)に接続する。
『土佐日記』の冒頭部分、「男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり」を覚えておけば、接続が導き出せる。
けり助動詞詠嘆の助動詞「けり」の終止形。
今まで気付かなかったことに、はじめて気付いてハッとする驚きや感動を表す。
格助詞
仰せ動詞サ行下二段活用動詞「仰す」の未然形。
「言ふ」の尊敬語。語り手から花山天皇への敬意が示される。
られ助動詞尊敬の助動詞「らる」の連用形。
助動詞「る」・「らる」は受身、尊敬、自発、可能の四つの意味をもつ。主な意味の見分け方は次のとおり。原則⇒文脈判断の順番で自然な訳を組み立てたい。

①受身 ⇒「~に」(受身の対象)+「る」(「らる」)
②尊敬 ⇒尊敬語+「る」(「らる」)
③自発 ⇒知覚動詞(「思ふ」「しのぶ」「ながむ」等)+「る」(「らる」)
④可能 ⇒「る」(「らる」)+打消・反語

また、助動詞「る」「らる」は接続する動詞の活用の種類によって使い分けられるため、併せて覚えておきたい。
四段活用動詞、ナ行変格活用動詞、ラ行変格活用動詞の未然形は「る」が使われる。その他の動詞の未然形には「らる」が使われる。
「四段な(ナ変)ら(ラ変)る」と覚えるのも手。

ここでは、語り手から花山天皇への敬意が示される。
接続助詞
「私の出家は成就するのだなぁ。」とおっしゃって、

歩み出でさせたまふほどに、

歩み出で      動詞    マ行四段活用動詞「歩む」の連用形+ダ行下二段活用動詞「出づ」の未然形
させ助動詞尊敬の助動詞「さす」の連用形。
語り手から花山天皇への敬意が示される。  
助動詞「す」「さす」の下に尊敬語がある場合は尊敬で取るのが基本。                       
たまふ動詞ハ行四段活用動詞「たまふ」の連体形。
「たまふ」は四段活用と下二段活用があり、前者が尊敬語、後者が謙譲語であるので注意が必要。
この場合は尊敬の補助動詞であり、「お~なる」、「~なさる」という意。語り手から花山天皇への敬意が示される。
ほど名詞
格助詞
お歩き出しなさるときに、
 

弘徽殿の女御の御文の、日ごろ破り残して御身も放たず御覧じけるをおぼしめし出でて、

弘徽殿の女御     名詞   藤原怟子(しし)のこと。花山天皇と婚姻関係にあった。
九八五年、懐妊中に病死したことが、花山天皇の出家の動機となったとも言われている。
格助詞
御文名詞手紙のこと
格助詞同格の用法
日ごろ名詞「何日かの間」、「ふだん」といった意味を持つ語。ここでは後者の意味で使われる。
また、副詞として使う場合は「数日来、この数日」という意味を持つので併せて覚えておくとよい。
破り残し動詞ラ行下二段活用動詞「破る」の連用形+サ行四段活用動詞「残す」の連用形
「破る」の読みは「やぶる」ではなく「やる」。
接続助詞   
御身名詞
係助詞
放た動詞タ行四段活用動詞「放つ」の未然形。
ここでは「身から離す、手放す」の意味で使われる。
助動詞打消の助動詞「ず」の連用形
御覧じ動詞サ行変格活用動詞「御覧ず」の連用形。
ここでは語り手から花山天皇への敬意が示される。
ける助動詞過去の助動詞「けり」の連体形。
後に「御文」という語を補うとよい。
格助詞
おぼしめし出で動詞サ行四段活用動詞「おぼしめす」の連用形+ダ行下二段活用動詞「出づ」の連用形。
語り手から花山天皇への敬意が示される。
接続助詞
弘徽殿の女御のお手紙で、ふだん破り残して御身から離さずに御覧になったお手紙をお思いだしになって、

「しばし。」とて、取りに入りおはしましけるほどぞかし、

しばし     副詞    漢字をあてると「暫し」であるとおり、しばらく、少しの間、の意。
ここは花山天皇のセリフである。
とて格助詞
取り動詞 ラ行四段活用動詞「取る」の連用形。
取りに行こうとしたのは、もちろん愛する弘徽殿の女御からの「御文」である。
格助詞
入り動詞ラ行四段活用動詞「入る」の連用形
おはしまし動詞サ行四段活用動詞「おはします」の連用形。
語り手から花山天皇への敬意が示される。
ける助動詞過去の助動詞「けり」の連体形
ほど名詞
係助詞強意の係助詞
かし終助詞念押しの終助詞。
「~よ」などの訳を当てることが多い。
「しばらく(待ってくれ)。」とおっしゃって、(お手紙を)取りに(宮中に)お入りになった時のことよ、

粟田殿の、「いかにかくはおぼしめしならせおはしましぬるぞ。

粟田殿      名詞     藤原道兼のこと。藤原道隆の弟で、藤原道長の兄。
この話の時は、天皇のそばに仕える官職の一つである蔵人として花山天皇に仕えていた。
道兼の山荘が現在の京都市粟田口のあたりにあったため「粟田殿」と呼ばれる。                           
格助詞主格用法
いかに副詞以下は粟田殿のセリフである。
ナリ活用の形容動詞「いかなり」の連用形(=副詞法)と見てもよい。英語の「how」や「why」に相当すると言われることが多い。ここでは「どうして」の訳を当てる。
かく代名詞花山天皇が弘徽殿の女御からの手紙を取りに宮中に戻ろうとしていることを指す
係助詞
おぼしめしなら動詞サ行四段活用動詞「おぼしめす」の連用形+ラ行四段活用動詞「なる」の未然形。
粟田殿から花山天皇への敬意が示される。
助動詞尊敬の助動詞「す」の連用形。
粟田殿から花山天皇への敬意が示される。
おはしまし動詞サ行四段活用動詞「おはします」の連用形。
粟田殿から花山天皇への敬意が示される。
ぬる助動詞完了の助動詞「ぬ」の連体形
係助詞係助詞の「ぞ」は係り結びとは関係ない文末に用いられ、断定的強調・反語・疑問の意味を持つことがある。この場合は断定的強調で解釈すると自然である。
係助詞「や」「か」についても同じ。

ここでは花山天皇が出家を目前に、弘徽殿の女御からの手紙という俗世への未練を断ち切れていないということを咎めているのである。表向きには。
粟田殿が、「なぜこのようにお思いになるのでしょうか。

ただ今過ぎば、おのづから障りも出でまうで来なむ。」と、

ただ今   名詞     
過ぎ動詞ガ行上二段活用動詞「過ぐ」の未然形
接続助詞★重要文法
接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。
①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない)
⇒仮定(もし~ならば)
②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている)
⇒ (ⅰ)原因・理由(~なので)
(ⅱ)偶然(~したところ)
(ⅲ)必然(~するといつも)

ここでは②の仮定の用法。
おのづから     副詞漢字をあてると「自ら」であるとおり、ここでは「自然に」の意で使われる。
障り名詞読みは「さはり」。差支えや妨げとなるもののこと。
係助詞
出でまうで来動詞ダ行下二段活用動詞「出づ」の連用形+カ行変格活用動詞「まうで来」の連用形。
「まうで来」は、「来」の謙譲語、丁寧語の意味がある。ここでは謙譲語として使われ、粟田殿から花山天皇への敬意が示される。
助動詞強意の助動詞「ぬ」の未然形。
「なむ」には以下の4パターンあるので、それぞれ識別できるように押さえておきたい。(「⇒」以下は見分ける際のポイント)

①他への願望の終助詞「なむ」
⇒「なむ」の上は未然形
②助動詞「ぬ」の未然形「な」+助動詞「む」
⇒「なむ」の上は連用形
③係助詞「なむ」
⇒結びの流れや省略が発生していない場合、文末は連体形
④ナ変動詞の一部(未然形)+「な」+助動詞「む」
⇒「な」の上に「死」や「去(往)」がある

この場合は上の「出でまうで来」が連用形になっていることから②が該当する。直感や雰囲気、感覚で訳や解釈を行っていると読むのが難しくなります。
助動詞推量の助動詞「む」の終止形。
助動詞「む」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。
※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいること。

【原則】
助動詞「む」が文末にある場合
・主語が一人称⇒意志
・主語が二人称⇒適当/当然/命令
・主語が三人称⇒推量

助動詞「む」が文中に連体形で出てきた場合
・「む(連体形)」+「は」、「に」、「には」、体言⇒仮定
・「む(連体)」+体言⇒婉曲
※婉曲は助動詞「む」を訳出しなくても文意が通じる場合。
格助詞
ただ今を過ぎるならば、自然と支障もやってまいりましょう。」と、

そら泣きしたまひけるは。

そら泣きし    動詞   サ行変格活用動詞「そら泣きす」の連用形。
粟田殿はうそ泣きをしてまで、花山天皇が宮中に戻らせまいとしているのである。
たまひ動詞ハ行四段活用動詞「たまふ」の連用形。
ここでは尊敬の補助動詞として使われ、語り手から粟田殿への敬意が示される。
ける助動詞   過去の助動詞「けり」の連体形。
「おはしましけるほどぞかし」の係助詞「ぞ」を受けて係り結びが成立している。
終助詞強意の終助詞
(粟田殿が)うそ泣きしなさったのは。

今回はここまで🐸

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