更級日記『門出』品詞分解/現代語訳/解説③
目次
はじめに
こんにちは!こくご部です。
定期テスト対策から大学受験の過去問解説まで、「知りたい」に応えるコンテンツを発信します。
今回は更級日記『門出』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。
必要に応じて解説も記しておきます。
古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥
それでは行ってみましょう!
出典について
まずは出典の『更級日記』について触れておきましょう。
出典
★作者について
作者は菅原孝標女(すがわらたかすえのむすめ)。伯母は『蜻蛉日記』を著した藤原道綱母。
★ジャンルについて
日記文学。同ジャンルの『蜻蛉日記』と対比して語られる文脈が多い。
★成立について
平安時代中期。
★その他
『源氏物語』が大好きな一人の夢見る少女が成長と共に厳しい現実に打ちひしがれ、やがて仏門に入り来世の幸福を願うようになる。作者自身の人生の回想録でもある。ある文化やその中心地(=都)に憧れを抱く地方在住のオタク女子と形容されることが多い。個人的には親近感が湧きます。
前回の記事はこちら⇓
夕霧立ち渡りて、いみじうをかしければ、
夕霧 | 名詞 | |
立ち渡り | 動詞 | ラ行四段活用「立ち渡る」の連用形。 「渡る」には空間的な広がり・時間的な継続を示す意味があり、この場合は「夕霧」が一面に広がっているさまを示す。 「立ち」は「うち」などと同じ接頭語。 |
て | 接続助詞 | |
いみじう | 形容詞 | シク活用の形容詞「いみじ」の連用形「いみじく」のウ音便。 程度が「はなはだしい」のほか、「すばらしい」「ひどい」の意味を持つ。 現代語の「ヤバい」と同じで、プラス・マイナスの両面のニュアンスがあることを念頭に置いておきたい。 ここでは副詞的に用いられている。 |
をかしけれ | 形容詞 | シク活用の形容詞「をかし」の已然形 |
ば | 接続助詞 | ★重要文法 接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。 ①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない) ⇒仮定(もし~ならば) ②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている) ⇒ (ⅰ)原因・理由(~なので) (ⅱ)偶然(~したところ) (ⅲ)必然(~するといつも) |
夕霧が一面に立ちこめて、非常に趣深いので、
朝寝などもせず、かたがた見つつ、
朝寝 | 名詞 | 名詞の「寝(い)」は「寝」のように単独では用いられることは基本的になく、本例の「朝寝(あさい)=朝寝坊」や「安寝(やすい)=安眠」などの形で用いられる。 また、本文の続きに見えるように、名詞の「寝(い)」とナ行下二段活用動詞の「寝(ぬ)」に「を」や「も」などをつけ、「いを寝(ぬ)」「いも寝(ぬ)」などの形で用いられることもある。 |
など | 副助詞 | |
も | 係助詞 | |
せ | 動詞 | サ行変格活用動詞「す」の未然形 |
ず | 助動詞 | 打消の助動詞「ず」の連用形 |
かたがた | 名詞 | |
見 | 動詞 | マ行上一段活用動詞「見る」の連用形。 上一段動詞は基本的には10語のみと数に限りがあるため、頭文字を取って「ひいきにみゐる」で確実に暗記しておくこと。 |
つつ | 接続助詞 | なかなか機会はないであろうが、「つつ」の接続を答える必要がある際は「歩きつつ」「~をしつつ」などの用例を考えてみると連用形接続が導き出せる。 文法事項を丸覚えすることも一定必要だが、例文などから一般法則を導く練習(パターンプラクティスの考え方。第二言語習得に際し有効とされている)もしておくとよい。 |
朝寝坊などもせず、あちらこちらを見ては
ここを立ちなむこともあはれに悲しきに、
ここ | 代名詞 | |
を | 格助詞 | |
立ち | 動詞 | タ行四段活用動詞「立つ」の連用形 |
な | 助動詞 | 完了の助動詞「ぬ」の未然形。 「なむ」には以下の4パターンあるので、それぞれ識別できるように押さえておきたい。(「⇒」以下は見分ける際のポイント) ①他への願望の終助詞「なむ」 ⇒「なむ」の上は未然形 ②助動詞「ぬ」の未然形「な」+助動詞「む」 ⇒「なむ」の上は連用形 ③係助詞「なむ」 ⇒結びの流れや省略が発生していない場合、文末は連体形 ④ナ変動詞の一部(未然形)+「な」+助動詞「む」 ⇒「な」の上に「死」や「去(往)」がある この場合は上の「立つ」が「立ち」と連用形になっていることから②が該当する。直感や雰囲気、感覚で訳や解釈を行っていると読むのが難しくなります。 |
む | 助動詞 | 婉曲の助動詞「む」。 体言に接続する「む」はまず婉曲を当ててみよう。 |
こと | 名詞 | |
も | 係助詞 | |
あはれに | 形容動詞 | ナリ活用の形容詞「あはれなり」の連用形 |
悲しき | 形容詞 | ク活用の形容詞「悲し」の連用形 |
に | 接続助詞 |
ここを立ち去ってしまうようなこともしみじみとして悲しくなったが、
同じ月の十五日、雨かきくらし降るに、
同じ | 形容詞 | シク活用の形容詞「同じ」の連体形(終止形)。 直後にあるのは「月」という名詞であることから、「連体形の「同じく」なのでは?」と思う人も少なくない(そう考えられる人はむしろ原則をよく理解できている)であろうが、中古の和文では名詞に接続する際に「同じ」としていた例が多い。 |
月 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
十五日 | 名詞 | |
雨 | 名詞 | |
かきくらし | 動詞 | サ行四段活用動詞「かきくらす」の連用形。 「くらす」は「暗す」と漢字が当てられていることもあるが、そこから類推できるように①あたりを暗くする②心を暗くする(=悲しむ)の2つの意味をもつ。 どちらの意味で使われているかは主に①「本例の「雨」のような自然現象の描写があるか」②「ある出来事が誰かの心情に影響を与えているか」で判断すると良い。 なお、「かき」は「うち」「立つ」などと同じ接頭語。動詞に付いて、語調を整えたり、直後に続く動詞の意味を強めたりする働きがあるので、合わせて覚えておきたい。 |
降る | 動詞 | ラ行四段活用動詞「降る」の連体形 |
に | 接続助詞 | 格助詞と解釈することも可能。 |
同じ月の十五日、雨があたりを暗くするほど雨が降るので、
境を出でて、下総の国のいかたといふ所に泊まりぬ。
境 | 名詞 | あるものとあるものとの境目。ここでは国と国との境目、つまり国境を指す。 |
を | 格助詞 | |
出で | 動詞 | ダ行下二段活用動詞「出づ」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
下総の国 | 名詞 | 読みは「しもふさ(しもうさ)、しもつふさ」。現在の千葉県北部~茨城県西部。 |
の | 格助詞 | 主格用法 |
いかた | 名詞 | |
と | 格助詞 | |
いふ | 動詞 | ハ行四段活用「いふ」の連体形。 |
所 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
泊まり | 動詞 | ラ行四段活用動詞「泊まる」の連用形 |
ぬ | 助動詞 | 完了の助動詞「ぬ」の終止形 |
国境を出て、下総の国の「いかた」という所に泊まった。
庵なども浮きぬばかりに雨降りなどすれば、恐ろしくていも寝られず。
庵 | 名詞 | 仮小屋や世捨て人が暮らす草庵を指す。また、自らの住まいを謙遜して表現することもある。 百人一首に収録されていることから知っている人も多いかもしれないが、六歌仙の一人・喜撰法師の「わが庵は 都のたつみ しかぞすむ 世をうぢ山と 人はいふなり」という歌は覚えておきたい。 |
など | 副助詞 | |
も | 係助詞 | ラ行四段活用動詞「乗る」の終止形 |
浮き | 動詞 | カ行四段活用動詞「浮く」の連用形 |
ぬ | 助動詞 | 強意の助動詞「ぬ」の終止形。 完了で解釈すると「浮いてしまったほど」となり、雨が激しすぎてすでに浮いてしまっている状態を指してしまう。ここで表現したいのは「庵が浮くほど雨が強い」という状況であるため、強意で取るべき。 |
ばかり | 副助詞 | |
に | 格助詞 | |
雨 | 名詞 | |
降り | 動詞 | ラ行四段活用動詞「降る」の連用形 |
など | 副助詞 | |
すれ | 動詞 | サ行変格活用動詞「す」の已然形 |
ば | 接続助詞 | ★重要文法 前述の「已然形+ば」を参照されたい。 |
恐ろしく | 形容詞 | シク活用の形容詞「恐ろし」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
い | 名詞 | 前述の「寝」の項目を参照。 「いを寝」で「睡眠をとる」ことを示す。 |
も | 係助詞 | |
寝 | 動詞 | ナ行下二段活用動詞「寝」の未然形。この「寝」の読みは「ね」。 活用語尾と語幹の区別がなく、その語全体の形が変わってしまう特殊な語。同じ活用をするものとして、覚えておきたいのは主に以下の2つ。 「得(う)」⇒え、え、う、うる、うれ、えよ 「経(ふ)」⇒へ、へ、ふ、ふる、ふれ、へよ |
られ | 助動詞 | 可能の助動詞「らる」の未然形 |
ず | 助動詞 | 打消の助動詞「ず」の終止形 |
庵なども浮いてしまうほどに雨が降ったりするので、恐ろしくて眠ることもできない。
野中に丘だちたる所に、ただ木ぞ三つ立てる。
野中 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
丘だち | 動詞 | タ行四段活用動詞「丘だつ」の連用形。 「だつ」は接尾語で、名詞などについて「~のようになる」「~がかる」の意味を付け加える。 『枕草子』の冒頭に「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山際、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる」とあるが、これを知っていると少しイメージしやすいかもしれない。 |
たる | 助動詞 | 断定の助動詞「たり」の連体形 |
所 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
ただ | 副詞 | |
木 | 名詞 | |
ぞ | 係助詞 | 強意の係助詞 |
三つ | ||
立て | 動詞 | タ行四段活用動詞「立つ」の已然形 |
る | 助動詞 | 存続の助動詞「り」の連体形。 接続を覚えるための語呂合わせは「サ未四已(さみしい)りっちゃん」派か「サ未四已りかちゃん」派かで分かれる。 教室に「り」で始まる子がいるとその日はイジられる可能性が高い。 ここでは係助詞「ぞ」を受け、連体形で結んでいる。 |
野中に丘のようになった所に、ただ木が3本だけ立っている。
その日は雨にぬれたるものども干し、
そ | 代名詞 | |
の | 格助詞 | |
日 | 名詞 | |
は | 係助詞 | |
雨 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
ぬれ | 動詞 | ラ行下二段活用動詞「ぬる」の連用形。 |
たる | 助動詞 | 完了の助動詞「たり」 |
ものども | 名詞 | 「ども」は接尾語。名詞について、同じ種類のものが複数であることを示す。海賊王を目指す某国民的キャラクターが「野郎ども」と言っていることからも想像しやすいかもしれない。 また、現在の「私ども」のように、謙遜を示す場合に使われることもある。 |
干し | 動詞 | サ行四段活用動詞「干す」の連用形 |
その日は雨に濡れたものを干し、
国に立ち遅れたる人々待つとて、そこに日を暮らしつ。
国 | 名詞 | ここでは作者が旅立った上総の国を指す。 |
に | 格助詞 | |
立ち遅れ | 動詞 | ラ行下二段活用動詞「立ち遅る」の連用形 |
たる | 助動詞 | 存続の助動詞「たり」の連体形 |
人々 | 名詞 | |
待つ | 動詞 | マ行四段活用動詞「待つ」の終止形 |
とて | 格助詞詞 | |
そこ | 代名詞 | |
に | 格助詞 | |
日 | 名詞 | |
を | 格助詞 | |
暮らし | 動詞 | サ行四段活用動詞「暮らす」の連用形 |
つ | 助動詞 | 完了の助動詞「つ」の終止形。 同じ完了の意味で同じ連用形接続の「ぬ」との違いが聞かれることもあるのでまとめておく。 「ぬ」:自然的な作用を示す場合に用いられる ⇒ ex.「風立ちぬ」 「つ」:人為的、意図的な作用を示す場合に用いられる ⇒ex.「石炭をばはや積み果てつ」 【余談】 先の用例で紹介した「石炭をばはや積み果てつ」は森鴎外『舞姫』からの引用。高校の授業で『舞姫』を扱う学校は多いが、こだわりのある先生であればこの一文字で1時間の授業ができるほどの名文と言える。興味のある人は『舞姫』の中で「つ」と「ぬ」がどのように使い分けられているかチェックしてみてほしい。 |
上総の国に(まだ残っている)出発が遅れた人々を待つといって、そこで一日を過ごした。
今回はここまで🐸
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〇本記事は予告なしに編集・削除を行うことがございます。
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