徒然草『丹波に出雲といふ所あり』品詞分解/現代語訳/解説②
目次
はじめに
こんにちは!こくご部です。
定期テスト対策から大学受験の過去問解説まで、「知りたい」に応えるコンテンツを発信します。
今回は徒然草から『丹波に出雲といふ所あり』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。
必要に応じて解説も記しておきます。
古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥
それでは行ってみましょう!
⇓前回の記事はこちらから
「いかに殿ばら、殊勝のことは御覧じとがめずや。むげなり。」
いかに | 感動詞 | 呼びかけるときに使う語。 「おい」「もしもし」といった訳をする。 |
殿ばら | 名詞 | 身分の高い男性たちをいう尊敬語。接尾語の「ばら」は複数を表す。 「方々」「殿たち」といった訳をする。 |
殊勝 | 形容動詞 | ナリ活用の形容動詞「殊勝なり」の語幹。 「非常に優れている」、「けなげだ」といった意味を持つ語。 ここでは前者の意味で使われる。 ★形容詞・形容動詞の語幹の用法についてまとめておく。 ①接尾語を伴い別の品詞をつくる例 ⇒形容詞の語幹+「げなり」=形容動詞 形容詞の語幹+「さ」「み」=名詞 形容詞の語幹+「がる」=動詞 ②連用修飾語(〇〇が××なので と訳す)になる例 ⇒名詞(体言)+「を」+形容詞の語幹+「み」 ex.「瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の~」 ③格助詞「の」を伴い連体修飾語になる例 ⇒ex.「をかしの御髪や。」 ④単独または感動詞を伴い、意味を強める例 ⇒ex.「あなめでたや。」 ここでは③の用法。 |
の | 格助詞 | |
こと | 名詞 | |
は | 係助詞 | |
御覧じとがめ | 動詞 | サ行変格活用動詞「御覧ず」の連用形+マ行下二段活用動詞「とがむ」の未然形。 「聖海上人」から「そのほか」の人々への敬意が示されている。 |
ず | 助動詞 | 打消の助動詞「ず」の終止形 |
や | 係助詞 | 疑問の係助詞 |
むげなり | 形容動詞 | ナリ活用の形容動詞「むげなり」の終止形。 漢字をあてると「無下なり」のとおり、それよりも下がないということで「まったくひどい」「最低だ」という意味を持つ。 「むげ」の形で使われる場合は「むやみに」という意味になるので注意。 「殿ばら」に対してかなり煽っていると解釈して差し支えない。 |
「もしもし方々、非常に優れていることをご覧になり気にとめないのか。まったくひどい。」
と言へば、おのおのあやしみて、
と | 格助詞 | |
言へ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「言ふ」の未然形 |
ば | 接続助詞 | ★重要文法 接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。 ①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない) ⇒仮定(もし~ならば) ②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている) ⇒ (ⅰ)原因・理由(~なので) (ⅱ)偶然(~したところ) (ⅲ)必然(~するといつも) ここでは偶然で取ると自然か。 |
おのおの | 名詞 | |
あやしみ | 動詞 | マ行四段活用動詞「あやしむ」の連用形。 形容詞の「あやし」を知っていれば、「あやし」く思うと考えればわざわざ記憶する必要もない。 ここでは「不思議に思う」と解釈しておく。 |
て | 接続助詞 |
と言うと、それぞれ不思議に思って、
「まことに他に異なりけり。都のつとに語らむ。」など言ふに、
まことに | 副詞 | 本当に。 |
他 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
異なり | 形容動詞 | ナリ活用の形容動詞「異なり」の連用形。 「ことなり」と読む。 普通とは違っていることや、ほかとは違うということを表す語。 語幹だけで用いられることも多い。(例.こと人) |
けり | 助動詞 | 詠嘆の助動詞「けり」の終止形。 今まで気付かなかったことに、はじめて気付いてハッとする驚きや感動を表す。 |
都 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
つと | 名詞 | みやげ(話)のこと |
に | 格助詞 | |
語ら | 動詞 | ラ行四段活用動詞「語る」の未然形 |
む | 助動詞 | 意志の助動詞「む」の終止形。 助動詞「む」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。 ※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいること。 【原則】 助動詞「む」が文末にある場合 ・主語が一人称⇒意志 ・主語が二人称⇒適当/当然/命令 ・主語が三人称⇒推量 助動詞「む」が文中に連体形で出てきた場合 ・「む(連体形)」+「は」、「に」、「には」、体言⇒仮定 ・「む(連体)」+体言⇒婉曲 ※婉曲は助動詞「む」を訳出しなくても文意が通じる場合。 |
など | 副詞 | |
言ふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「言ふ」の連体形 |
に | 接続助詞 |
「本当に他とは違うなぁ。都へのみやげに語ろう。」などと言うと、
上人なほゆかしがりて、おとなしくもの知りぬべき顔したる神官を呼びて、
上人 | 名詞 | 聖海上人を指す |
なほ | 副詞 | ★重要単語 現代にも残っている「依然としてやはり(変わらず)」、「よりいっそう」のほか、「なんといってもやはり」などの意味があり、文脈に応じて適切な訳語を当てる。 |
ゆかしがり | 動詞 | ラ行四段活用動詞「ゆかしがる」の連用形。 シク活用の形容詞「ゆかし」に接尾語「がる」が付いてできた語。 「ゆかし」はそっちに行ってみたいと思うぐらい「心がひかれる」という意味が基本となっている語。 関心を抱いた対象に応じて「見たい」「聞きたい」「知りたい」などと訳し分けることが必要。 |
て | 接続助詞 | |
おとなしく | 形容詞 | シク活用の形容詞「おとなし」の連用形。 漢字をあてると「大人し」であるとおり、大人の要素を持っているというのが基本の意味。 「大人らしい」、「年配だ、主だっている」、「思慮分別がある」といった訳をする。 |
もの | 名詞 | |
知り | 動詞 | ラ行四段活用動詞「知る」の連用形 |
ぬ | 助動詞 | 強意の助動詞「ぬ」の終止形。 ★重要文法 直後に「推量」や「推定」の助動詞がある場合、「完了」ではなく「強意」の意味で訳出を行う。 |
べき | 助動詞 | 推量の助動詞「べし」の連体形。 ★重要文法 助動詞「べし」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。 ※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいるべし。 【原則】 ・主語が一人称⇒意志 ・主語が二人称⇒適当/当然/命令 ・主語が三人称⇒推量 【文脈判断等】 ・下に打消を伴う⇒可能 ・下に格助詞の「と」を伴う/終止形⇒意志 ・下に名詞や助詞を伴う(「~するはずの」と訳す)⇒当然/予定 ※直後に助詞が来る場合:名詞が省略されている。 ・文中に疑問/反語を示す語を伴う⇒推量/可能 |
顔 | 名詞 | |
し | 動詞 | サ行変格活用動詞「す」の連用形 |
たる | 助動詞 | 存続の助動詞「たり」の連体形。 助動詞の「たり」は完了・存続の「たり」と断定の「たり」の二つが存在するが、前者は連用形接続、後者は体言に接続する。 意味から考えても両者は明確に区別できるはず。(完了・存続の「たり」はもともと「てあり」から生じているため、接続助詞の「て」と同様に連用形接続である。同様に、断定の「たり」は「とあり」から生じている。) |
神官 | 名詞 | |
を | 格助詞 | |
呼び | 動詞 | バ行四段活用動詞「呼ぶ」の連用形 |
て | 接続助詞 |
上人はより一層知りたがって、年配でものを知りだろう顔をしている神官を呼んで、
「この御社の獅子の立てられやう、さだめてならひあることにはべらむ。
こ | 代名詞 | |
の | 格助詞 | |
御社 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
獅子 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
立て | 動詞 | タ行下二段活用動詞「立つ」の連用形 |
られ | 助動詞 | 尊敬の助動詞「らる」の連体形。 助動詞「る」・「らる」は受身、尊敬、自発、可能の四つの意味をもつ。主な意味の見分け方は次のとおり。原則⇒文脈判断の順番で自然な訳を組み立てたい。 ①受身 ⇒「~に」(受身の対象)+「る」(「らる」) ②尊敬 ⇒尊敬語+「る」(「らる」) ③自発 ⇒知覚動詞(「思ふ」「しのぶ」「ながむ」等)+「る」(「らる」) ④可能 ⇒「る」(「らる」)+打消・反語 また、助動詞「る」「らる」は接続する動詞の活用の種類によって使い分けられるため、併せて覚えておきたい。 四段活用動詞、ナ行変格活用動詞、ラ行変格活用動詞の未然形は「る」が使われる。その他の動詞の未然形には「らる」が使われる。 「四段な(ナ変)ら(ラ変)る」と覚えるのも手。 ここでは「上人」から「御社」への敬意が示されている。 |
やう | 名詞 | |
さだめて | 副詞 | きっと。 もともとは動詞の「定む」から来ていることから分かるように、確信の度合いが高い際に使われる副詞。 |
ならひ | 名詞 | ここでは「由緒」などの意味で使われる |
ある | 動詞 | ラ行変格活用動詞「あり」の連体形。 ラ変動詞は「あり」「をり」「はべり」「いまそが(か)り/いますが(か)り」を押さえておこう。 |
こと | 名詞 | |
に | 助動詞 | 断定の助動詞「なり」の連用形 |
はべら | 動詞 | ラ行変格活用動詞「はべる」の未然形。 補助動詞として使われる。 本動詞として「仕ふ」の謙譲語、「あり」「をり」の丁寧語の意味があり、補助動詞として丁寧の補助動詞の意味がある(「さぶらふ」と同じと考えてよい)。 見分けるポイントとしては「はべり」の前に身分の高い人を表す語があるかどうか。ある場合は「(貴人に)お仕えする」の意味に、ない場合は「(人や物などが)あります」の意味になる。 「上人」から「神官」への敬意が示されている。 |
む | 助動詞 | 推量の助動詞「む」の終止形 |
「この神社の獅子のお立ち姿は、きっと由緒あることでしょう。
ちと承らばや。」と言はれければ、
ちと | 副詞 | 少し。 現代でもマンガなどで老人の役割語として生きているように思われる。 |
承ら | 動詞 | ラ行四段活用動詞「承る」の未然形。 「受く」の謙譲語、「聞く」の謙譲語、「承諾する」等の謙譲語の意味がある。 ここでは「聞く」の謙譲語として使われ、「上人」から「神官」への敬意が示される。 |
ばや | 終助詞 | 自己の希望を表す終助詞 |
と | 格助詞 | |
言は | 動詞 | ハ行四段活用動詞「言ふ」の未然形 |
れ | 助動詞 | 尊敬の助動詞「る」の連用形。 作者から「上人」への敬意が示されている。 |
けれ | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の已然形。 同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。その場合は 「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。 |
ば | 接続助詞 | ★重要文法 接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。 ①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない) ⇒仮定(もし~ならば) ②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている) ⇒ (ⅰ)原因・理由(~なので) (ⅱ)偶然(~したところ) (ⅲ)必然(~するといつも) ここでは偶然で取ると自然か。 |
ちょっとお聞きしたい。」とおっしゃると、
「そのことに候ふ。さがなき童べどものつかまつりける、奇怪に候ふことなり。」とて、
そ | 代名詞 | |
の | 格助詞 | |
こと | 名詞 | |
に | 助動詞 | 断定の助動詞「なり」の連用形 |
候ふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「候ふ」の終止形。 「あり」「をり」の謙譲語、「あり」「をり」の丁寧語、丁寧語の補助動詞(~ございます、~です)の意味がある。 ここでは補助動詞として使われ、「神官」から「上人」への敬意が示される。 |
さがなき | 形容詞 | ク活用の形容詞「さがなし」の連体形。漢字を当てると「性なし」となる。 「性格がよくない」、「いたずらだ」といった意味を持つ。 ここでは後者の意味で使われる。 |
童べども | 名詞 | 「童べ」は子ども。 「ども」は接尾語。名詞について、同じ種類のものが複数であることを示す。海賊王を目指す某国民的キャラクターが「野郎ども」と言っていることからも想像しやすいかもしれない。 また、現在の「私ども」のように、謙遜を示す場合に使われることもある。 |
の | 格助詞 | |
つかまつり | 動詞 | ラ行四段活用動詞「つかまつる」の連用形。 「仕ふ」「す」の謙譲語、謙譲の補助動詞(お~申し上げる)の意味がある。 ここでは「す」の謙譲語として使われ、「神官」から「上人」への敬意を示される。 |
ける | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の連体形 |
奇怪に | 形容動詞 | ナリ活用の形容動詞「奇怪なり」の連用形。 「不思議だ」という意味以外にも、「けしからぬことだ、ふとどきだ」といった意味を持つ。 ここでは後者の意味で使われる。 |
候ふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「候ふ」の連体形。 ここでは補助動詞として使われ、「神官」から「上人」への敬意が示される。 |
こと | 名詞 | |
なり | 助動詞 | 断定の助動詞「なり」の終止形 |
とて | 格助詞 |
「そのことにございます。いたずらな子どもたちがいたした、けしからぬことです。」と言って、
さし寄りて、据ゑ直していにければ、上人の感涙いたづらになりにけり。
さし寄り | 動詞 | ラ行四段活用動詞「寄る」の連用形。 「さし」は接頭語であり、動詞に付いて意味を強めたり、語調を整えたりする。 |
て | 接続助詞 | |
据ゑ直し | 動詞 | ワ行下二段活用動詞「据う」の連用形+サ行四段活用動詞「直す」の連用形。 ワ行下二段活用動詞は「すう(据う)」「植う」「飢う」の三語だけである。 |
て | 接続助詞 | |
いに | 動詞 | ナ行変格活用動詞「いぬ」の連用形。 ★重要単語 ナ変動詞は「死ぬ」と「往ぬ」の二語。 |
けれ | 動詞 | 過去の助動詞「けり」の已然形 |
ば | 接続助詞 | |
上人 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
感涙 | 名詞 | |
いたづらに | 形容動詞 | ナリ活用の形容動詞「いたづらなり」の連用形。 古語の「いたづらなり」は努力等に見合った結果が得られず、失望する様子を表すのが基本の意。「むだだ」、「手持ちぶさたで暇だ」といった訳をする。 また、人が「いたづらになる」という場合は、人が亡くなることを示すため、注意が必要。 |
なり | 動詞 | ラ行四段活用動詞「なる」の連用形 |
に | 助動詞 | 完了の助動詞「ぬ」の連用形 |
けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形。 「聖海上人」が勘違いして涙まで流したのに、実はいたずらな子どもの仕業であったという見事なオチである。 |
(神官は獅子に)近寄って、(獅子を)置きなおして行ったので、上人の感涙はむだになってしまった。
今回はここまで🐸
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