伊勢物語『月やあらぬ』品詞分解/現代語訳/解説②
目次
はじめに
こんにちは!こくご部です。
定期テスト対策から大学受験の過去問解説まで、「知りたい」に応えるコンテンツを発信します。
今回は伊勢物語から『月やあらぬ』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。
必要に応じて解説も記しておきます。
古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥
それでは行ってみましょう!
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またの年の正月に、梅の花盛りに、去年を恋ひて行きて、
また | 副詞 | 「またの年」で連語として使われる。「次の年」の意。 |
の | 格助詞 | |
年 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
正月 | 名詞 | 「むつき」と読む。陰暦一月のこと。「睦月」とも言う。 各月の異名と、季節区分については理解しておきたい。現代に生きる我々と感覚が違うので、「1月から数えて3カ月ごとに四季を区分していけばよい」と覚えておこう。 【春】1月:睦月、2月:如月、3月:弥生 【夏】4月:卯月、5月:皐月、6月:水無月 【秋】7月:文月、8月:葉月、9月:長月 【冬】10月:神無月、11月:霜月、12月:師走 |
に | 格助詞 | |
梅 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
花盛り | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
去年 | 名詞 | 「こぞ」と読む |
を | 格助詞 | |
恋ひ | 動詞 | ハ行上二段活用動詞「恋ふ」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
行き | 動詞 | カ行四段活用動詞「行く」の連用形。 去年を懐かしみ、恋しく思い、思い出の地である西の対に男は行くのである。 |
て | 接続助詞 |
次の年の正月に、梅の花が満開の時に去年を恋しく思って(西の対に)行って、
立ちて見、ゐて見、見れど、去年に似るべくもあらず。
立ち | 動詞 | タ行四段活用動詞「立つ」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
見 | 動詞 | マ行上一段活用動詞「見る」の連用形。 上一段動詞は基本的には10語のみと数に限りがあるため、頭文字を取って「ひいきにみゐる」で確実に暗記しておくこと。 |
ゐ | 動詞 | ワ行上一段活用動詞「ゐる」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
見 | 動詞 | マ行上一段活用動詞「見る」の連用形 |
見れ | 動詞 | マ行上一段活用動詞「見る」の已然形 |
ど | 接続助詞 | 逆接の接続助詞。已然形接続ということも押さえておきたい。 |
去年 | 名詞 | |
と | 格助詞 | |
似る | 動詞 | ナ行上一段活用動詞「似る」の終止形 |
べく | 助動詞 | 当然の助動詞「べし」の連用形 ★重要文法 助動詞「べし」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。 ※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいるべし。 【原則】 ・主語が一人称⇒意志 ・主語が二人称⇒適当/当然/命令 ・主語が三人称⇒推量 【文脈判断等】 ・下に打消を伴う⇒可能 ・下に格助詞の「と」を伴う/終止形⇒意志 ・下に名詞や助詞を伴う(「~するはずの」と訳す)⇒当然/予定 ※直後に助詞が来る場合:名詞が省略されている。 ・文中に疑問/反語を示す語を伴う⇒推量/可能 |
も | 係助詞 | 強意の係助詞 |
あら | 動詞 | ラ行変格活用動詞「あり」が補助動詞として使われている。 「あり」本来の意味である「存在する」という意味ではなく、「~の状態である」という意味で使われていることに注意する。 |
ず | 助動詞 | 打消の助動詞「ず」の終止形 |
立って見、座って見、(あたりを)見るが、去年(の様子)に似るはずもない。
うち泣きて、あばらなる板敷に、月のかたぶくまでふせりて、
うち泣き | 動詞 | カ行四段活用動詞「泣く」の連用形。 「うち」は接頭語。動詞に付いて、語調を整えたり、直後に続く動詞の意味を強めたりする働きがあるので、合わせて覚えておきたい。 |
て | 接続助詞 | |
あばらなる | 形容動詞 | ナリ活用の形容動詞「あばらなり」の連体形。 漢字を当てると「荒らなり」。 「隙間が多い」、「荒れている」、「手薄だ」という意味を持つ。 ここでは「隙間が多い」の意味で用いられている。 |
板敷 | 名詞 | 板の間や縁側のことを指す。 読みは「いたじき」。 |
に | 格助詞 | |
月 | 名詞 | |
の | 格助詞 | 主格用法 |
かたぶく | 動詞 | カ行四段活用動詞「かたぶく」の連体形。 月がかたむくまで、ということは、夜明けまで男は一人思い出の地で泣いているのである。 |
まで | 副助詞 | |
ふせ | 動詞 | サ行四段活用動詞「ふす」の已然形 |
り | 助動詞 | 存続の助動詞「り」の連用形。 接続を覚えるための語呂合わせは「サ未四已(さみしい)りっちゃん」派か「サ未四已りかちゃん」派かで分かれる。 教室に「り」で始まる子がいるとその日はイジられる可能性が高い。 |
て | 接続助詞 |
泣いて、隙間が多い板の間に、月が沈みかけるまで伏せていて、
去年を思ひ出でて詠める。
去年 | 名詞 | 「去年」が三度繰り返されているのは、「男」の噛みしめた幸せの大きさを表現しているのかもしれない。 |
を | 格助詞 | |
思ひ出で | 動詞 | ダ行下二段活用動詞「思ひ出づ」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
詠め | 動詞 | マ行四段活用動詞「詠む」の已然形 |
る | 助動詞 | 完了の助動詞「り」の連体形。 ここでは、後に「歌」を補うとよい。 |
去年を思い出して詠んだ(歌)。
月やあらぬ春や昔の春ならぬわが身ひとつはもとの身にして
月 | 名詞 | |
や | 係助詞 | 疑問の係助詞 |
あら | 動詞 | ラ行変格活用動詞「あり」の未然形 |
ぬ | 助動詞 | 打消の助動詞「ず」の連体形。 係助詞「や」を受けて係り結びが成立している。 「月やあらぬ」とあるが「月や昔の月ならぬ」の意味。 |
春 | 名詞 | |
や | 係助詞 | 疑問の係助詞 |
昔 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
春 | 名詞 | |
なら | 助動詞 | 断定の助動詞「なり」の未然形。 助動詞の「なり」は断定の「なり」と伝聞・推定の「なり」の二つが存在するが、前者は体言または連体形に接続、後者は終止形(ラ変型の活用語には連体形)に接続する。 『土佐日記』の冒頭部分、「男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり」を覚えておけば、接続が導き出せる。 |
ぬ | 助動詞 | 打消の助動詞「ず」の連体形。 係助詞「や」を受けて係り結びが成立している。 |
わ | 代名詞 | |
が | 格助詞 | |
身 | 名詞 | |
ひとつ | 名詞 | |
は | 係助詞 | |
もと | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
身 | 名詞 | |
に | 助動詞 | 断定の助動詞「なり」の連用形 |
して | 接続助詞 | 単純接続。 去年とは全く違った春や月に見え、男は一人取り残されてしまったような気持ちにでもなったのであろうか。去年と違うのは、西の対に住む人が会えない場所に行ってしまったということだけである。 「違うのは君がいないだけ」という歌詞が思い起こされる。梅の花ではないが。 |
月は昔のままの月ではないのか。春は昔のままの春ではないのか。私の身ひとつは昔どおりの身であって。
と詠みて、夜のほのぼのと明くるに、泣く泣く帰りにけり。
と | 格助詞 | |
詠み | 動詞 | マ行四段活用動詞「詠む」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
夜 | 名詞 | |
の | 格助詞 | 主格用法 |
ほのぼのと | 副詞 | ほのかに、かすかに、の意 |
明くる | 動詞 | カ行下二段活用動詞「明く」の連体形 |
に | 格助詞 | |
泣く泣く | 動詞 | カ行四段活用動詞「泣く」の連用形が二つ重なった語 |
帰り | 動詞 | ラ行四段活用動詞「帰る」の連用形 |
に | 助動詞 | 完了の助動詞「ぬ」の連用形 |
けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形 |
と詠んで、夜がほのかに明けるときに、泣く泣く帰った。
今回はここまで🐸
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