伊勢物語『筒井筒』品詞分解/現代語訳/解説②
目次
はじめに
こんにちは!こくご部です。
定期テスト対策から大学受験の過去問解説まで、「知りたい」に応えるコンテンツを発信します。
今回は伊勢物語から『筒井筒』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。
必要に応じて解説も記しておきます。
古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥
それでは行ってみましょう!
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さて、年ごろ経るほどに、女、親なく頼りなくなるままに、
さて | 接続助詞 | そうして。こうして。 |
年ごろ | 名詞 | 長年、数年(の間)。 「○○ごろ」は「年」「月」「日」の下について、長い時間の経過を表す。 現代語訳をする際、「長年」か「数年」かわからない場合は、一旦「ここ何年来」と訳して文脈を押さえにかかるのも手。 |
経る | 動詞 | ハ行下二段活用動詞「経」の連体形。 活用語尾と語幹の区別がなく、その語全体の形が変わってしまう特殊な語。(へ、へ、ふ、ふる、ふれ、へよ) 同じ活用をするものとして、覚えておきたいのは主に以下の2つ。 「寝(ぬ)」⇒ね、ね、ぬ、ぬる、ぬれ、ねよ 「得(う)」⇒え、え、う、うる、うれ、えよ |
ほど | 名詞 | ★重要単語 時間、距離、空間、物体など様々な事物の程度を示す。 後に続くのは隣同士に住んでいた男と女が結婚してからの話である。 |
に | 格助詞 | |
女 | 名詞 | |
親 | 名詞 | |
なく | 形容詞 | ク活用の形容詞「なし」の連用形 |
頼り | 名詞 | ラ行四段活用動詞「頼る」の連用形が名詞化してできた語。 生きていくときに頼りになる人や物ごとを表すのが基本的な意味。 「頼れるもの、よりどころ」、「縁故」、「便宜、手段」、「機会」といった意味になる。 ここでは、「(経済的に)頼れるもの、よりどころ」の意味で使われる。 女の後ろ盾である親の死により、女の生活は苦しくなってきてしまったのである。 |
なく | 形容詞 | ク活用の形容詞「なし」の連用形 |
なる | 動詞 | ラ行四段活用動詞「なる」の連体形 |
まま | 名詞 | 「まま」+「に」で連語表現。「~につれて」「~のために」「~するやいなや」など様々な訳語が当てられるので、文脈判断が必要。 |
に | 格助詞 |
そうして、(男と女が結婚して)ここ何年か経つうちに、女は親が亡くなり、生活のよりどころがなくなるにつれて、
もろともに言ふかひなくてあらむやはとて、
もろともに | 副詞 | 漢字をあてると「諸共に」であるとおり、「一緒に」という意味を持つ。 |
言ふかひなく | 形容詞 | ク活用の形容詞「言ふかひなし」の連用形。 「情けない、ふがいない、つまらない」の意味で使われるが、ここでは経済的に困窮する様子として解釈しても良い。 |
て | 接続助詞 | |
あら | 動詞 | ラ行変格活用動詞「あり」が補助動詞として使われている。 「あり」本来の意味である「存在する」という意味ではなく、「~の状態である」という意味で使われていることに注意する。 |
む | 助動詞 | 推量の助動詞「む」の終止形。 助動詞「む」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。 ※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいること。 【原則】 助動詞「む」が文末にある場合 ・主語が一人称⇒意志 ・主語が二人称⇒適当/当然/命令 ・主語が三人称⇒推量 助動詞「む」が文中に連体形で出てきた場合 ・「む(連体形)」+「は」、「に」、「には」、体言⇒仮定 ・「む(連体)」+体言⇒婉曲 ※婉曲は助動詞「む」を訳出しなくても文意が通じる場合。 |
やは | 係助詞 | 反語の係助詞。 疑問・反語の係助詞「や」、強意の係助詞「は」が結びついた場合、多くは反語の意味を持つ。 (疑問を強めると反語になるのは「誰が行くの?」⇒「誰が行くの!?(誰も行かないと思っている)」となる例からも想像に難くない。) 「か」+「は」の例も同じ。 |
とて | 格助詞 |
(男は女と)一緒にふがいない状態でいるだろうか、いや、いられないということで、
河内の国、高安の郡に、行き通ふ所出で来にけり。
河内の国 | 名詞 | 「河内の国、高安の郡」で現在の大阪府南部八尾市のあたりのことを指す。 |
高安の郡 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
行き通ふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「行き通ふ」の連体形 |
所 | 名詞 | |
出で来 | 動詞 | カ行変格活用動詞「出で来」の連用形。 女の後ろ盾がなくなり、生活が貧しくなったことを理由に、他の女性のところに男は通い始めるのである。なんという男だろうか。 |
に | 助動詞 | 完了の助動詞「ぬ」の連用形 |
けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形。 同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。 その場合は 「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。 |
河内の国、高安の郡に、通って行く所ができてしまった。
さりけれど、このもとの女、あしと思へるけしきもなくて、出だしやりければ、
さり | 動詞 | ラ行変格活用動詞「さり」の連用形。 「さり」は「さあり」の「あ」が消滅したもの。 |
けれ | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の已然形 |
ど | 接続助詞 | 逆接の接続助詞。已然形接続ということも押さえておきたい。 |
こ | 代名詞 | |
の | 格助詞 | |
もと | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
女 | 名詞 | もともと男が結婚していた女を指す |
あし | 形容詞 | ク活用の形容詞「あし」の終止形。 ★重要単語 ①積極的肯定の「よし」 ②まあまあ良い・悪くないの「よろし」 ③まあまあ悪い・良くないの「わろし」 ④積極的否定の「あし」 の価値基準は押さえておきたい。 |
と | 格助詞 | |
思へ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「思ふ」の已然形 |
る | 助動詞 | 存続の助動詞「り」の連体形。 接続を覚えるための語呂合わせは「サ未四已(さみしい)りっちゃん」派か「サ未四已りかちゃん」派かで分かれる。 教室に「り」で始まる子がいるとその日はイジられる可能性が高い。 |
けしき | 名詞 | 漢字をあてると「気色」。 自然などの風景だけでなく、目で見た物や人の様子などを表す語。 「様子」、「機嫌」、「思い」といった意味になる。 ここでは「様子」の意味で使われる。 |
も | 係助詞 | |
なく | 形容詞 | ク活用の形容詞「なし」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
出だしやり | 動詞 | サ行四段活用動詞「出だす」の連用形+ラ行四段活用動詞「やる」の連用形。 複合動詞として一語と見ても良い。 なんと女は別の女のもとに通おうとする男を送り出すのである。 |
けれ | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の已然形 |
ば | 接続助詞 | ★重要文法 接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。 ①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない) ⇒仮定(もし~ならば) ②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている) ⇒ (ⅰ)原因・理由(~なので) (ⅱ)偶然(~したところ) (ⅲ)必然(~するといつも) ここでは原因・理由で取ると自然か。 |
そうではあったが、このもとの女は不快だと思っている様子もなくて、(男を)送り出して行かせたので、
男、異心ありてかかるにやあらむと思ひ疑ひて、
男 | 名詞 | |
異心 | 名詞 | 読みは「ことごころ」。漢字のとおり、「他のことを思う心」、「他の異性を思う心、浮気心」の意味を持つ。 ここでは後者の意味で使われる。 |
あり | 動詞 | ラ行変格活用動詞「あり」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
かかる | 動詞 | ラ行変格活用動詞「かかり」の連体形。 「かくある」が変化したもの。 男は結婚している女が浮気をしているからこそ、自分が河内に行くことを悪いと思っている様子がないのだと思っている。どの口がそんなことを言うのか。 |
に | 助動詞 | 断定の助動詞「なり」の連用形。 ★重要語句 「にや」(「にか」) 「~であろうか」、「~であっただろうか」などと訳す。 |
や | 係助詞 | 疑問の係助詞 |
あら | 動詞 | ラ行変格活用動詞「あり」の未然形 |
む | 助動詞 | 推量の助動詞「む」の連体形。 係助詞「や」を受けて係り結びが成立している。 |
と | 格助詞 | |
思ひ疑ひ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「思ふ」の連用形+ハ行四段活用動詞「疑ふ」の連用形。 ここでは複合動詞として一語と見ても良い。 |
て | 接続助詞 |
男は、(女に)浮気心があって、このようであろうかと思い疑って、
前栽の中に隠れゐて、河内へいぬる顔にて見れば、
前栽 | 名詞 | 読み方は「せんざい」。 庭の草木や、植え込みのこと。 |
の | 格助詞 | |
中 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
隠れゐ | 動詞 | ラ行下二段活用動詞「隠る」の連用形+ワ行上一段活用動詞「ゐる」の連用形。複合動詞として一語と見ても良い。 上一段動詞は基本的には10語のみと数に限りがあるため、頭文字を取って「ひいきにみゐる」で確実に暗記しておくこと。 |
て | 接続助詞 | |
河内 | 名詞 | |
へ | 格助詞 | |
いぬる | 動詞 | ナ行変格活用動詞「いぬ」の連体形。 ★重要単語 ナ変動詞は「死ぬ」と「往ぬ」の二語。 |
顔 | 名詞 | 「いぬる顔」で「行ったふり」と解釈するのが自然か。 |
にて | 格助詞 | |
見れ | 動詞 | マ行上一段活用動詞「見る」の已然形 |
ば | 接続助詞 |
庭の植え込みの中に隠れて座って、いかにも河内へ行ったような様子で(女を)見ると、
この女、いとよう化粧じて、うちながめて、
こ | 代名詞 | |
の | 格助詞 | |
女 | 名詞 | もともと結婚していた妻のことである。 |
いと | 副詞 | 「たいそう」、「非常に」という訳を当て、程度が甚だしいことを示す。「めっちゃ」と脳内変換してもOK。 |
よう | 形容詞 | ク活用の形容詞「よし」の連用形のウ音便 |
化粧じ | 動詞 | サ行変格活用動詞「化粧ず」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
うちながめ | 動詞 | マ行下二段活用動詞「ながむ」の連用形。 「ながむ」は「物思いに沈む」「ぼんやり見る」の意。 また、「うち」は接頭語。動詞に付いて、語調を整えたり、直後に続く動詞の意味を強めたりする働きがあるので、合わせて覚えておきたい。 |
て | 接続助詞 |
この女はたいそうきれいに化粧をして、物思いに沈んで、
風吹けば沖つ白波たつた山夜半にや君がひとり越ゆらむ
風 | 名詞 | |
吹け | 動詞 | カ行四段活用動詞「吹く」の已然形 |
ば | 接続助詞 | ここでは偶然条件で取ると自然か。 |
沖つ | 連体詞 | 沖の、沖にある、の意 |
白波 | 名詞 | 「風吹けば沖つ白波」までが「たつ」を導き出すための序詞。 序詞とは、ある語を飾るために、その語の前に置かれる七音以上の修飾語のこと。口語訳を行わない枕詞とは異なり、歌が詠まれた場面の理解を促すため口語訳を行う。 |
たつた山 | 名詞 | 「たつ」に「(白波が)立つ」と「竜(田山)」の掛詞。 掛詞とは一つの語に同じ音を用いて二重の意味を持たせ、表現内容を豊かにする表現技法のこと。ダジャレといえばそれまでだが、三十一文字という制限のもとで多くのことを伝えようとするためには自然と至る境地なのかもしれない。 「竜田山」とは、大和の国から河内に向かう際に通る道がある山のこと。 |
夜半 | 名詞 | 「よは」と読む。 夜中のこと。 |
に | 格助詞 | |
や | 係助詞 | 疑問の係助詞 |
君 | 代名詞 | 男を指す。 |
が | 格助詞 | 主格用法 |
ひとり | 名詞 | |
越ゆ | 動詞 | ヤ行下二段活用動詞「越ゆ」の終止形 |
らむ | 助動詞 | 現在推量の助動詞「らむ」の連体形。 「らむ」は終止形接続。 係助詞「や」を受けて係り結びが成立している。 一人河内へ向かう男の安否を心配する女の歌である。 なんとけなげなのか。 |
風が吹くと沖にある白波が立つ、その竜田山を、夜中に君がひとりで越えているのだろうか。
とよみけるを聞きて、限りなくかなしと思ひて、
と | 格助詞 | |
よみ | 動詞 | マ行四段活用動詞「よむ」の連用形 |
ける | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の連体形 |
を | 格助詞 | |
聞き | 動詞 | カ行四段活用動詞「聞く」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
限りなく | 形容詞 | ク活用の形容詞「限りなし」の連用形 |
かなし | 形容詞 | シク活用の形容詞「かなし」の終止形。 漢字をあてると「悲し、哀し」、「愛し」である。 前者は現代語と同じような使い方をする。後者は異性や肉親に対して「愛しい」という思いを表現する際に使われる。 ここでは後者の意味で使われる。 |
と | 格助詞 | |
思ひ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「思ふ」の連用形 |
て | 接続助詞 |
と(女が)詠んだのを(男は)聞いて、この上なく(女を)愛しいと思って、
河内へも行かずなりにけり。
河内 | 名詞 | |
へ | 格助詞 | |
も | 係助詞 | |
行か | 動詞 | カ行四段活用動詞「行く」の未然形 |
ず | 助動詞 | 打消の助動詞「ず」の連用形 |
なり | 動詞 | ラ行四段活用動詞「なり」の連用形 |
に | 助動詞 | 完了の助動詞「ぬ」の連用形 |
けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形 |
河内へも行かなくなってしまった。
今回はここまで🐸
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