源氏物語『若紫 垣間見』品詞分解/現代語訳/解説③
目次
はじめに
こんにちは!こくご部です。
定期テスト対策から大学受験の過去問解説まで、「知りたい」に応えるコンテンツを発信します。
今回は源氏物語の『若紫 垣間見』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。
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必要に応じて解説なども記しています。
古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥
それでは行ってみましょう!
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このゐたるおとな、「例の、心なしの、かかるわざをしてさいなまるるこそ、いと心づきなけれ。
こ | 代名詞 | 引き続き、光源氏が垣間見をしているシーンである。 |
の | 格助詞 | |
ゐ | 動詞 | ワ行上一段活用動詞「ゐる」の連用形。 上一段動詞は基本的には10語のみと数に限りがあるため、頭文字を取って「ひいきにみゐる」で確実に暗記しておくこと。 |
たる | 助動詞 | 存続の助動詞「たり」の連体形。 助動詞の「たり」は完了・存続の「たり」と断定の「たり」の二つが存在するが、前者は連用形接続、後者は体言に接続する。 意味から考えても両者は明確に区別できるはず。(完了・存続の「たり」はもともと「てあり」から生じているため、接続助詞の「て」と同様に連用形接続である。同様に、断定の「たり」は「とあり」から生じている。) |
おとな | 名詞 | 前回記事参照:ここでは「年配の女房」を指す。 |
例 | 名詞 | 「例の」で連語として使われることがある。 用言を修飾する場合「いつものように」と訳し、体言を修飾する場合「いつもの」と訳をする。 |
の | 格助詞 | |
心なし | 名詞 | 分別がない者。不注意者のこと。 ここでは、犬君のことを指す。 |
の | 格助詞 | 主格用法 |
かかる | 動詞 | ラ行変格活用動詞「かかり」の連体形。「かくある」が変化したもの。 指示語であるため、基本的に直前の内容を受ける。 傍線が引かれ、問になっていた場合は「指示された内容を押さえてから問に答える」ということを徹底したい。 |
わざ | 名詞 | 多義語だが、「こと」と訳を当てると自然な解釈になることが多い。 ここでは「女子(若紫)が伏籠の中に入れていた雀の子を、犬君が逃がしてしまったこと」を指している。 |
を | 格助詞 | |
し | 動詞 | サ行変格活用動詞「す」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
さいなま | 動詞 | マ行四段活用動詞「さいなむ」の未然形 |
るる | 助動詞 | 受身の助動詞「らる」の連体形。 助動詞「る」・「らる」は受身、尊敬、自発、可能の四つの意味をもつ。主な意味の見分け方は次のとおり。 原則⇒文脈判断の順番で自然な訳を組み立てたい。 ①受身 ⇒「~に」(受身の対象)+「る」(「らる」) ②尊敬 ⇒尊敬語+「る」(「らる」) ③自発 ⇒知覚動詞(「思ふ」「しのぶ」「ながむ」等)+「る」(「らる」) ④可能 ⇒「る」(「らる」)+打消・反語 また、助動詞「る」「らる」は接続する動詞の活用の種類によって使い分けられるため、併せて覚えておきたい。 四段活用動詞、ナ行変格活用動詞、ラ行変格活用動詞の未然形は「る」が使われる。その他の動詞の未然形には「らる」が使われる。 「四段な(ナ変)ら(ラ変)る」と覚えるのも手。 |
こそ | 係助詞 | |
いと | 副詞 | 「たいそう」、「非常に」という訳を当て、程度が甚だしいことを示す。「めっちゃ」と脳内変換してもOK。 |
心づきなけれ | 形容詞 | ク活用の形容詞「心づきなし」の已然形。 「心」「付き」「なし」ということで、心にしっくりとしないものの様子を表す語である。「気に入らない、気にくわない」と訳すとよい。 「こそ」を受けて係り結びが成立している。 |
この座っている年配の女房が、「いつものように、不注意者(うっかり者)がこのようなこと(行い)をして責められるなんて、たいそう気に入らない。
いづかたへかまかりぬる。いとをかしう、やうやうなりつるものを。
いづかた | 代名詞 | どこへ。 ここでの主語は犬君が逃がした「雀の子」である。 |
へ | 格助詞 | |
か | 係助詞 | 疑問の係助詞 |
まかり | 動詞 | ラ行四段活用動詞「まかる」の連用形。 「出づ」の謙譲語、「行く」の丁寧語として使われるが、他の動詞の上に付く場合に謙譲・丁寧の意味を表す。 ここでは、「おとな」から「女子(若紫)」へ敬意を表す謙譲語として使われている。 |
ぬる | 助動詞 | 完了の助動詞「ぬ」の連体形。 同じ完了の意味で同じ連用形接続の「つ」との違いが聞かれることもあるのでまとめておく。 「ぬ」:自然的な作用を示す場合に用いられる ⇒ ex.「風立ちぬ」 「つ」:人為的、意図的な作用を示す場合に用いられる ⇒ex.「石炭をばはや積み果てつ」 【余談】 先の用例で紹介した「石炭をばはや積み果てつ」は森鴎外『舞姫』からの引用。高校の授業で『舞姫』を扱う学校は多いが、こだわりのある先生であればこの一文字で1時間の授業ができるほどの名文と言える。興味のある人は『舞姫』の中で「つ」と「ぬ」がどのように使い分けられているかチェックしてみてほしい。 ここでは係助詞「か」を受けて、連体形となっている。 |
いと | 副詞 | |
をかしう | 形容詞 | シク活用の形容詞「をかし」の連用形のウ音便。 「あはれなり」のようにジメっと感なく、「すてき!」とカラッと肯定的に評価するのが基本姿勢の語。 『枕草子』が「をかし」の文学と言われることも併せて覚えておきたい。 |
やうやう | 副詞 | 次第に。「漸(ようや)く」が語源とされている。 |
なり | 動詞 | ラ行四段活用動詞「なり」の連用形 |
つる | 助動詞 | 完了の助動詞「つ」の連体形 |
ものを | 終助詞 | 詠嘆の終助詞 |
(雀の子は)どこへおいとましたのか。たいそうかわいく、次第になっていたのになぁ。
烏などもこそ見つくれ。」とて、立ちて行く。
烏 | 名詞 | からす。 |
など | 副助詞 | |
も | 係助詞 | 係助詞「も」に係助詞「ぞ」「こそ」がついて「もぞ」「もこそ」となった場合、危惧(~すると困る、~すると大変だ)の意味を表す。 もぞもぞされると困るし、今日もこそこそされると大変である。 |
こそ | 係助詞 | |
見つくれ | 動詞 | カ行下二段活用動詞「見つく」の已然形 |
とて | 格助詞 | |
立ち | 動詞 | タ行四段活用動詞「立つ」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
行く | 動詞 | カ行四段活用動詞「行く」の終止形 |
烏などが見つけたら大変だ。」と言って、立って行く。
髪ゆるるかにいと長く、めやすき人なめり。
髪 | 名詞 | |
ゆるるかに | 形容動詞 | ナリ活用の形容動詞「ゆるるかなり」の連用形。 漢字をあてると「緩るかなり」であるとおり、緩やかな様子、ゆったりした様子を表す。 |
いと | 副詞 | |
長く | 形容詞 | ク活用の形容詞「長し」の連用形 |
めやすき | 形容詞 | ク活用の形容詞「めやすし」の連体形。 漢字をあてると「目安し」であるとおり、「見ていて安心」つまり「感じがよい」という意味を持つ。 光源氏は「ゆるるか」な「髪」を見て、「めやすき人」だと評価しているのだ。 |
人 | 名詞 | |
な | 助動詞 | 断定の助動詞「なり」の連体形「なる」の発音便無表記形。 「なる」が撥音便になる⇒「なん」になる。⇒「ん」が表記されなくなり「な」だけになる、という遷移。 ★ルールとしてはラ変で活用する言葉の連体形に「めり、べし、なり」などが付くと「撥音便の無表記」が起きるというものであるが、受験生としては「あ/か/ざ/た/な」の下に「めり、べし、なり」のうちどれかが続いている場合は「ん」を入れて読む、という認識でOK。 |
めり | 助動詞 | 推定の助動詞「めり」の終止形。 助動詞「めり」は視覚に基づいた推定をする際に使われる。聴覚に基づいた推定を表す場合は推定の助動詞「なり」を使う。 推定の「めり」「なり」は共に終止形接続。 |
髪がゆったりと、とても長く、見た目に感じがよい人であるようだ。
少納言の乳母とぞ人言ふめるは、この子の後見なるべし。
少納言 | 名詞 | 些末な物事を天皇に奏上したり、官印を管理したりすることなどを任された役職。位は従五位下相当で、貴族社会における地位は(相対的に)低い役職ではあるが、重要な職とされていた。 |
の | 格助詞 | |
乳母 | 名詞 | 「めのと」と読む。 貴族の子どもの養育係の女性のことをいう。 |
と | 接続助詞 | |
ぞ | 係助詞 | 強意 |
人 | 名詞 | |
言ふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「言ふ」の終止形 |
める | 助動詞 | 婉曲の助動詞「めり」の連体形 |
は | 係助詞 | |
こ | 代名詞 | |
の | 格助詞 | |
子 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
後見 | 名詞 | 読みは「うしろみ」。陰にあり人を助け世話をすること。また、世話をする人。 「後見」は源氏物語冒頭(桐壺巻)にも見える。平安時代においては社会的・経済的な後ろ盾が重要であるが、光源氏の母・桐壺更衣は父を早くに亡くしていたこともあり「後見人」がいなかった。 |
なる | 助動詞 | 断定の助動詞「なり」の連体形 |
べし | 助動詞 | 推量の助動詞「べし」の終止形。 ★重要文法 助動詞「べし」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。 ※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいるべし。 【原則】 ・主語が一人称⇒意志 ・主語が二人称⇒適当/当然/命令 ・主語が三人称⇒推量 【文脈判断等】 ・下に打消を伴う⇒可能 ・下に格助詞の「と」を伴う/終止形⇒意志 ・下に名詞や助詞を伴う(「~するはずの」と訳す)⇒当然/予定 ※直後に助詞が来る場合:名詞が省略されている。 ・文中に疑問/反語を示す語を伴う⇒推量/可能 |
少納言の乳母と人々が言っているらしい人は、この子の世話をする人だからだろう。
尼君、「いで、あな幼や。言ふかひなうものしたまふかな。
尼君 | 名詞 | 以下は尼君のセリフである。 |
いで | 感動詞 | ここでは、「おやまあ、いやもう」と訳すとよい。 |
あな | 感動詞 | 「ああ」などと訳を当てる。文字通り「感動」、つまり心の動きが声になって外界に放出されているイメージ。 多くの場合、下に形容詞の語幹などを伴う。また「あな~や」の形を取ることも多い。「や」は詠嘆の間投助詞。 |
幼 | 形容詞 | ク活用の形容詞「幼し」の語幹。ここでは以下の④の用法。 ★形容詞・形容動詞の語幹の用法についてまとめておく。 ①接尾語を伴い別の品詞をつくる例 ⇒形容詞の語幹+「げなり」=形容動詞 形容詞の語幹+「さ」「み」=名詞 形容詞の語幹+「がる」=動詞 ②連用修飾語(〇〇が××なので と訳す)になる例 ⇒名詞(体言)+「を」+形容詞の語幹+「み」 ex.「瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の~」 ③格助詞「の」を伴い連体修飾語になる例 ⇒ex.「をかしの御髪や。」 ④単独または感動詞を伴い、意味を強める例 ⇒ex.「あなめでたや。」 |
や | 間投助詞 | 詠嘆の間投助詞 |
言ふかひなう | 形容詞 | ク活用の形容詞「言ふかひなし」の連用形のウ音便。 漢字をあてると「言ふ甲斐なし」であるとおり、言うだけの価値もないというのがもともとの意味。ここから、「どうしようもない」「取るに足りない」「ひどい」の意味が生じた。 ここでは「どうしようもない」の意味で使われる。 |
ものし | 動詞 | サ行変格活用動詞「ものす」の連用形。 名詞「もの」にサ行変格活用動詞「す」が付いて一語となった語。 様々な動詞の代わりに用いられる(=代動詞。英語で言う「do」。)ため、文脈から動作を考える必要がある。 多くの場合は「あり」「来」「行く」の代わりに使われるが、ここでは「あり」の意味。 |
たまふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「たまふ」の連体形。 「たまふ」は四段活用と下二段活用があり、前者が尊敬語、後者が謙譲語であるので注意が必要。 この場合は尊敬の補助動詞であり、「お~なる」、「~なさる」という意。 ここでは話者である尼君から女子(若紫)への敬意が示されている。 |
かな | 終助詞 | 詠嘆の終助詞 |
尼君は、「おやまあ。ああなんと幼いのか。どうしようもなくいらっしゃることだなぁ。
おのがかく今日明日におぼゆる命をば、
おの | 代名詞 | 己(おのれ)。自分自身を指す言葉。 |
が | 格助詞 | 主格用法 |
かく | 副詞 | 「かく」は眼前の事実、前の会話や文脈を「このように」と指示する語。 文中に指示の副詞が出てきた場合は、何を指しているのか具体的内容を押さえること。 |
今日 | 名詞 | |
明日 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
おぼゆる | 動詞 | ヤ行下二段活用動詞「おぼゆ」の連用形。 ハ行四段活用動詞「思ふ」に奈良時代の「受身」「可能」「自発」の助動詞「ゆ」(「尊敬」の意味がないことに注意)が付いて一語になった語。 |
命 | 名詞 | |
を | 格助詞 | 「をば」の形で、「を」の前の対象を「は」によって強調する。 格助詞「を」+係助詞「は」が濁音化したもの。 実質のところ、以下の「ば」は無視しても差し支えない。 |
ば | 係助詞 |
私がこのように今日明日と思われる命なのを、
何ともおぼしたらで、雀慕ひたまふほどよ。
何 | 代名詞 | |
と | 格助詞 | |
も | 係助詞 | |
おぼし | 動詞 | サ行四段活用動詞「おぼす」の連用形。「思ふ」の尊敬語。 同じく「思ふ」の尊敬語として「おぼしめす」という語もあるが、より高い敬意を表すときは「おぼしめす」の方を用いる。 ここでは、尼君から女子への敬意を示している。 |
たら | 助動詞 | 存続の助動詞「たり」の未然形 |
で | 接続助詞 | 打消接続。 未然形に接続することに注意。 |
雀 | 名詞 | 犬君が逃がした雀。 令和の世で「雀」と言えば某「雷の呼吸の使い手」を思い浮かべる人が多いのかもしれないが、この記事を見ている人には若紫(紫の上)を思い出すようになってほしい。 |
慕ひ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「慕ふ」の連用形 |
たまふ | 助動詞 | ハ行四段活用動詞「たまふ」の連体形。 ここでは尊敬の補助動詞として使われ、尼君から女子への敬意が示されている。 |
ほど | 名詞 | |
よ | 間投助詞 | 詠嘆の間投助詞 |
何ともお思いにならないで、雀を慕(いあとを追)っていらっしゃることだなぁ。
今回はここまで🐸
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