伊勢物語『東下り』品詞分解/現代語訳/解説①
目次
- 1. はじめに
- 2. 出典について
- 3. 昔、男ありけり。その男、身をえうなきものに思ひなして、
- 4. 京にはあらじ、東の方に住むべき国求めに、とて行きけり。
- 5. もとより友とする人、ひとりふたりして行きけり。
- 6. 道知れる人もなくて、惑ひ行きけり。三河の国、八橋といふ所に至りぬ。
- 7. そこを八橋といひけるは、水ゆく川の蜘蛛手なれば、
- 8. 橋を八つに渡せるによりてなむ、八橋といひける。
- 9. その沢のほとりの木の陰に下りゐて、乾飯食ひけり。
- 10. その沢に、かきつばたいとおもしろく咲きたり。それを見て、ある人のいはく、
- 11. 「かきつばた、といふ五文字を句の上に据ゑて、旅の心をよめ。」
- 12. と言ひければ、よめる。
- 13. から衣着つつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ
- 14. とよめりければ、皆人、乾飯の上に涙落として、ほとびにけり。
はじめに
こんにちは!こくご部です。
定期テスト対策から大学受験の過去問解説まで、「知りたい」に応えるコンテンツを発信します。
今回は伊勢物語から『東下り』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。
必要に応じて解説も記しておきます。
古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥
それでは行ってみましょう!
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出典について
まずは出典の伊勢物語について触れておきましょう。
出典:伊勢物語
★ジャンル・内容について
歌物語。歌物語とは和歌を中心として、その歌が詠まれた背景や事情を物語にしたもの。
伊勢物語は百二十五段(前後)から成り、「男」の元服から死ぬまでの半生が語られる。
★作者について
作者は未詳であるが、在原業平またはそれに近しい人物であると推察される。
★成立について
平安時代中期ごろに原型ができたとされる。その後、今ある『伊勢物語』となったが、詳しくは明らかになっていない。
★その他
『伊勢物語』に登場する「男」とは、六歌仙の一人である在原業平だとされているが、定かではない。
昔、男ありけり。その男、身をえうなきものに思ひなして、
昔 | 名詞 | 伊勢物語は「昔、男ありけり」などで始まることが多い。 入試問題を解く際は必ず出典を確認してほしいが、これを知っていれば出典を確認できなくとも反応できるかもしれない。 |
男 | 名詞 | |
あり | 動詞 | ラ行変格活用動詞「あり」の連用形。 ラ変動詞は「あり」「をり」「はべり」「いまそが(か)り/いますが(か)り」を押さえておこう。 |
けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形。 同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。その場合は 「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。 |
そ | 代名詞 | |
の | 格助詞 | |
男 | 名詞 | |
身 | 名詞 | |
を | 格助詞 | |
えうなき | 形容詞 | ク活用の形容詞「えうなし」の連体形。 漢字を当てると「要無し」であるとおり、「必要がない、役に立たない」という意味を持つ。 |
もの | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
思ひなし | 動詞 | ハ行四段活用動詞「思ふ」の連用形+補助動詞「なす」の連用形。 思い込んで。補助動詞「なす」は「ことさらに~する」という意味を持つ。 |
て | 接続助詞 |
昔、男がいた。その男は、(自分の)身を(世間に)役に立たないものとことさらに思いこんで、
京にはあらじ、東の方に住むべき国求めに、とて行きけり。
京 | 名詞 | 都。 |
に | 格助詞 | |
は | 係助詞 | |
あら | 動詞 | ラ行変格活用動詞「あり」の未然形 |
じ | 助動詞 | 打消意志の助動詞「じ」の終止形 |
東 | 名詞 | 「あづま」と読みを当てられることが多い。 |
の | 格助詞 | |
方 | 名詞 | 「かた」と読みを当てられることが多い。 |
に | 格助詞 | |
住む | 動詞 | マ行四段活用動詞「住む」の終止形 |
べき | 助動詞 | 適当の助動詞「べし」の連体形。 ★重要文法 助動詞「べし」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。 ※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいるべし。 【原則】 ・主語が一人称⇒意志 ・主語が二人称⇒適当/当然/命令 ・主語が三人称⇒推量 【文脈判断等】 ・下に打消を伴う⇒可能 ・下に格助詞の「と」を伴う/終止形⇒意志 ・下に名詞や助詞を伴う(「~するはずの」と訳す)⇒当然/予定 ※直後に助詞が来る場合:名詞が省略されている。 ・文中に疑問/反語を示す語を伴う⇒推量/可能 |
国 | 名詞 | 直後に「を」を補うと解釈しやすい。 |
求め | 動詞 | マ行下二段活用動詞「求む」の連用形 |
に | 格助詞 | |
とて | 格助詞 | 引用を示す |
行き | 動詞 | カ行四段活用動詞「行く」の連用形 |
けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形 |
都にはおるまい、東国のほうへに(自分が)住むのにふさわしい国を探し求めるために、と思って行った。
もとより友とする人、ひとりふたりして行きけり。
もとより | 副詞 | もともと。 |
友 | 名詞 | |
と | 格助詞 | |
する | 動詞 | サ行変格活用動詞「す」の連体形 |
人 | 名詞 | |
ひとり | 名詞 | |
ふたり | 名詞 | |
して | 格助詞 | |
行き | 動詞 | カ行四段活用動詞「行く」の連用形 |
けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形 |
以前から友人とする人、ひとりふたりと共に行った。
道知れる人もなくて、惑ひ行きけり。三河の国、八橋といふ所に至りぬ。
道 | 名詞 | |
知れ | 動詞 | ラ行四段活用動詞「知る」の已然形 |
る | 助動詞 | 存続の助動詞「り」の連体形。 接続を覚えるための語呂合わせは「サ未四已(さみしい)りっちゃん」派か「サ未四已りかちゃん」派かで分かれる。 教室に「り」で始まる子がいるとその日はイジられる可能性が高い。 |
人 | 名詞 | |
も | 係助詞 | |
なく | 形容詞 | ク活用の形容詞「なし」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
惑ひ行き | 動詞 | ハ行四段活用動詞「惑ふ」の連用形+カ行四段活用動詞「行く」の連用形。 道順を知らないだけでなく、「身をえうなきものに思ひなし」とあるように、心もボロボロの状態であったことが推測される。」 |
けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形 |
三河の国 | 名詞 | 現在の愛知県東部のことを指す |
八橋 | 名詞 | 愛知県知立市八橋付近のことだとされている。読みは「やつはし」。何故このような名が付けられたのであろうか。 |
と | 格助詞 | |
いふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「いふ」の連体形 |
所 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
至り | 動詞 | ラ行四段活用動詞「至る」の連用形 |
ぬ | 助動詞 | 完了の助動詞「ぬ」の終止形 |
道を知っている人もいなくて、迷いながら行った。三河の国、八橋というところに到着した。
そこを八橋といひけるは、水ゆく川の蜘蛛手なれば、
そこ | 代名詞 | |
を | 格助詞 | |
八橋 | 名詞 | |
と | 格助詞 | |
いひ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「いふ」の連用形 |
ける | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の連体形 |
は | 係助詞 | |
水 | 名詞 | |
ゆく | 動詞 | カ行四段活用動詞「ゆく」の連体形 |
川 | 名詞 | |
の | 格助詞 | 主格用法 |
蜘蛛手 | 名詞 | 蜘蛛の足のように、水が四方八方に流れるさまのことをいう。 脚の数を「タコは8本、イカは10本」と言うが、イカも足は8本(+2本の腕)なのだとか。 今日から「タコもイカもクモも8本」で覚えておこう。 |
なれ | 助動詞 | 断定の助動詞「なり」の已然形。 助動詞の「なり」は断定の「なり」と伝聞・推定の「なり」の二つが存在するが、前者は体言または連体形に接続、後者は終止形(ラ変型の活用語には連体形)に接続する。 『土佐日記』の冒頭部分、「男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり」を覚えておけば、接続が導き出せる。 |
ば | 接続助詞 | ★重要文法 接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。 ①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない) ⇒仮定(もし~ならば) ②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている) ⇒ (ⅰ)原因・理由(~なので) (ⅱ)偶然(~したところ) (ⅲ)必然(~するといつも) ここでは原因・理由で取ると自然か。 |
そこを八橋といったのは、水の流れる川が蜘蛛の足のように四方八方にわかれているさまであるので、
橋を八つに渡せるによりてなむ、八橋といひける。
橋 | 名詞 | |
を | 格助詞 | |
八つ | 名詞 | 先ほどの謎が解けた。形状から「八橋」という名を付けたようである。 |
に | 格助詞 | |
渡せ | 動詞 | サ行四段活用動詞「渡す」の已然形 |
る | 助動詞 | 存続の助動詞「り」の連体形 |
に | 格助詞 | |
より | 動詞 | ラ行四段活用動詞「よる」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
なむ | 係助詞 | 強意の係助詞「なむ」。 「なむ」には以下の4パターンあるので、それぞれ識別できるように押さえておきたい。(「⇒」以下は見分ける際のポイント) ①他への願望の終助詞「なむ」 ⇒「なむ」の上は未然形 ②助動詞「ぬ」の未然形「な」+助動詞「む」 ⇒「なむ」の上は連用形 ③係助詞「なむ」 ⇒結びの流れや省略が発生していない場合、文末は連体形 ④ナ変動詞の一部(未然形)+「な」+助動詞「む」 ⇒「な」の上に「死」や「去(往)」がある この場合、文末が「ける」と連体形になっているため、③であると判断する。 |
八橋 | 名詞 | |
と | 格助詞 | |
いひ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「いふ」の連用形 |
ける | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の連体形 |
橋を八つに渡したことにちなんで、八橋といった。
その沢のほとりの木の陰に下りゐて、乾飯食ひけり。
そ | 代名詞 | |
の | 格助詞 | |
沢 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
ほとり | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
木 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
陰 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
下りゐ | 動詞 | 読みは「おりゐ」。ラ行上二段活用動詞「下る」の連用形+ワ行上一段活用動詞「ゐる」の連用形。 |
て | 接続助詞 | |
乾飯 | 名詞 | ご飯を干してできたもので、水などでふやかして食べるもの。 昔の携帯用食料。 【作り方(現代版)】 ①炊いたお米を水洗いする。 ②30分程度、浸水させる。 ③②の水気を切り、耐熱容器に平たく入れて電子レンジで5分加熱。 ④一度レンジの扉を開けて中の様子を確認してから、もう一度5分加熱。 ⑤米粒をほぐし乾燥具合を確認する。 ⑥乾燥が足りなければ、追加で加熱する。 ⑦完成。 |
食ひ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「食ふ」の連用形 |
けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形 |
その沢のほとりの木の陰に(馬から)下りて座って、乾飯を食べた。
その沢に、かきつばたいとおもしろく咲きたり。それを見て、ある人のいはく、
そ | 代名詞 | |
の | 格助詞 | |
沢 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
かきつばた | 名詞 | アヤメ科の植物。水辺に生えている。 古文で植物や鳥などが出てきた際には必ず画像を検索したり国語便覧・資料集を確認したりしてほしい。そこからあなたの世界が広がっていく。 |
いと | 副詞 | 「たいそう」、「非常に」という訳を当て、程度が甚だしいことを示す。「めっちゃ」と脳内変換してもOK。 |
おもしろく | 形容詞 | ク活用の形容詞「おもしろし」の連用形。 対象に合わせて「素敵だ」「興味深い」「美しい」「風流だ」など、こだわって使い分けてほしい。 |
咲き | 動詞 | カ行四段活用動詞「咲く」の連用形 |
たり | 助動詞 | 存続の助動詞「たり」の終止形。 助動詞の「たり」は完了・存続の「たり」と断定の「たり」の二つが存在するが、前者は連用形接続、後者は体言に接続する。 意味から考えても両者は明確に区別できるはず。(完了・存続の「たり」はもともと「てあり」から生じているため、接続助詞の「て」と同様に連用形接続である。同様に、断定の「たり」は「とあり」から生じている。) |
それ | 代名詞 | ここでは「かきつばた」を指す |
を | 格助詞 | |
見 | 動詞 | マ行上一段活用動詞「見る」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
ある | 動詞 | ラ行変格活用動詞「あり」の連体形。 「ある人」は「そこにいる人」であり、「男」の同行者である。 |
人 | 名詞 | |
の | 格助詞 | 主格用法 |
いはく | ハ行四段活用の動詞「いふ」+接尾語「く」。 「子いはく」で有名な「いはく」。言うことには、という訳をする。 |
その沢に、かきつばたがたいそう美しく咲いている。それを見て(一行のうちの)ある人が言うことには、
「かきつばた、といふ五文字を句の上に据ゑて、旅の心をよめ。」
かきつばた | 名詞 | |
と | 格助詞 | |
いふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「いふ」の連体形 |
五文字 | 名詞 | 「いつもじ」と読みを当てられることが多い。 |
を | 格助詞 | |
句 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
上 | 名詞 | 「句の上」で、和歌の各句の最初を表す。 ちなみに和歌の「上の句」を「本(もと)」、「下の句」を「末(すえ)」と言う。合わせて覚えておこう。 |
に | 格助詞 | |
据ゑ | 動詞 | ワ行下二段活用動詞「据う」の連用形。 ワ行下二段活用動詞は「すう(据う)」「植う」「飢う」の三語だけである。 |
て | 接続助詞 | |
旅 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
心 | 名詞 | |
を | 格助詞 | |
よめ | 動詞 | マ行四段活用動詞「よむ」の命令形 |
「かきつばた、という五文字を各句の最初に置いて、旅の思いを詠め。」
と言ひければ、よめる。
と | 格助詞 | |
言ひ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「言ふ」の連用形 |
けれ | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の已然形 |
ば | 接続助詞 | ★重要文法 接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。 ①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない) ⇒仮定(もし~ならば) ②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている) ⇒ (ⅰ)原因・理由(~なので) (ⅱ)偶然(~したところ) (ⅲ)必然(~するといつも) ここでは原因・理由で取ると自然か。 |
よめ | 動詞 | マ行四段活用動詞「よむ」の已然形 |
る | 助動詞 | 完了の助動詞「り」の連体形。 ここでは、後に「歌」といった語を補うとよい。 |
と言ったので、(男が)詠んだ(歌)。
から衣着つつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ
から衣 | 名詞 | 唐風の衣服のこと。 「着る」「裾」「袖」といった、衣服に関する語を導き出す枕詞である。 また、「から衣着つつ」が「なれにし」の序詞となっている。 序詞とは、ある語を飾るために、その語の前に置かれる七音以上の修飾語のこと。口語訳を行わない枕詞とは異なり、歌が詠まれた場面の理解を促すため口語訳を行う。 |
着 | 動詞 | カ行上一段活用動詞「着る」の連用形 |
つつ | 接続助詞 | なかなか機会はないであろうが、「つつ」の接続を答える必要がある際は「歩きつつ」「~をしつつ」などの用例を考えてみると連用形接続が導き出せる。 文法事項を丸覚えすることも一定必要だが、例文などから一般法則を導く練習(パターンプラクティスの考え方。第二言語習得に際し有効とされている)もしておくとよい。 |
なれ | 動詞 | ラ行下二段活用動詞「なる」の連用形。 「着なれる」と「慣れ親しむ」の掛詞。 掛詞とは一つの語に同じ音を用いて二重の意味を持たせ、表現内容を豊かにする表現技法のこと。ダジャレといえばそれまでだが、三十一文字という制限のもとで多くのことを伝えようとするためには自然と至る境地なのかもしれない。 |
に | 助動詞 | 完了の助動詞「ぬ」の連用形 |
し | 助動詞 | 過去の助動詞「き」の連体形 |
つま | 名詞 | 「着物のつま」と「妻」の掛詞 |
し | 副助詞 | 強調の副助詞。特段の訳出は不要。 |
あれ | 動詞 | ラ行変格活用動詞「あり」の已然形 |
ば | 接続助詞 | ★重要文法 接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。 ①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない) ⇒仮定(もし~ならば) ②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている) ⇒ (ⅰ)原因・理由(~なので) (ⅱ)偶然(~したところ) (ⅲ)必然(~するといつも) ここでは原因・理由で取ると自然か。 |
はるばる | 副詞 | 「(着物を)張る」と「遙々」の掛詞 |
き | 動詞 | 「(着物を)着る」と「来る」の掛詞 また、「から衣」「着」「なれ」「つま」「はるばる」「き」は衣服に関する縁語である。 縁語とは、和歌の修辞法の一つ。ある語と関係の深い語を使って、表現をより豊かにする効果がある。連想ゲームを思い浮かべるとよい。 枕詞、序詞、掛詞、縁語と、和歌の修辞法が駆使されているのである。また、「ある人」が出した「かきつばた」を句の最初に置くといいう条件もクリアしている。(このように、和歌または俳句で、各句の最初に物の名前や地名などを一字ずつ読み込むことを「折句」という) このような技巧を凝らして歌が詠める男の腕は推して知るべしと言ったところか。 |
ぬる | 助動詞 | 完了の助動詞「ぬ」の連体形 |
旅 | 名詞 | |
を | 格助詞 | |
し | 副助詞 | 強意の副助詞 |
ぞ | 係助詞 | 強意の係助詞 |
思ふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「思ふ」の連体形。 直前の「ぞ」を受けて係り結びが成立している。 |
唐風の着物を着なれるように、慣れ親しんだ妻が都にいるので、遠くはるばるやって来た旅をしみじみと感じることだなぁ。
とよめりければ、皆人、乾飯の上に涙落として、ほとびにけり。
と | 格助詞 | |
よめ | 動詞 | マ行四段活用動詞「よむ」の已然形 |
り | 助動詞 | 完了の助動詞「り」の連用形 |
けれ | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の已然形 |
ば | 接続助詞 | ★重要文法 接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。 ①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない) ⇒仮定(もし~ならば) ②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている) ⇒ (ⅰ)原因・理由(~なので) (ⅱ)偶然(~したところ) (ⅲ)必然(~するといつも) ここでは原因・理由で取ると自然か。 |
皆人 | 名詞 | 「そこにいる人みんな」の意。 |
乾飯 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
上 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
涙 | 名詞 | |
落とし | 動詞 | サ行四段活用動詞「落とす」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
ほとび | 動詞 | バ行上二段活用動詞「ほとぶ」の連用形 水をふくんでふやける、といった意味を持つ。 乾飯が涙でふやけてしまう、ということで、どれほどの涙が落ちたかが想像できるかもしれない。 |
に | 助動詞 | 完了の助動詞「ぬ」の連用形 |
けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形 |
と(男が歌を)詠んだので、(そこにいた)人はみんな乾飯の上に涙を落として、(乾飯が)ふやけてしまった。
今回はここまで🐸
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