伊勢物語『梓弓』品詞分解/現代語訳/解説②

伊勢物語『梓弓』品詞分解/現代語訳/解説②

はじめに

こんにちは!こくご部です。

定期テスト対策から大学受験の過去問解説まで、「知りたい」に応えるコンテンツを発信します。


今回は伊勢物語から『梓弓』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。

必要に応じて解説も記しておきます。

古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥

それでは行ってみましょう!

⇓前回の記事はこちらから


あずさ弓ま弓槻弓年を経てわがせしがごとうるはしみせよ

あずさ弓                  名詞              梓の木で作った弓のこと
ま弓 名詞楕円形の葉をつけた秋に紅葉する木で作った弓のこと
槻弓名詞    けやきの古名と言われる木で作った弓のこと。
「あずさ弓ま弓槻弓」までが「年」を導く序詞。

序詞とは、ある語を飾るために、その語の前に置かれる七音以上の修飾語のこと。口語訳を行わない枕詞とは異なり、歌が詠まれた場面の理解を促すため口語訳を行う。
名詞
格助詞
動詞ハ行下二段活用動詞「経」の連用形。
活用語尾と語幹の区別がなく、その語全体の形が変わってしまう特殊な語。(へ、へ、ふ、ふる、ふれ、へよ)
同じ活用をするものとして、覚えておきたいのは主に以下の2つ。
「寝(ぬ)」⇒ね、ね、ぬ、ぬる、ぬれ、ねよ
「得(う)」⇒え、え、う、うる、うれ、えよ
接続助詞
代名詞
格助詞主格用法
動詞サ行変格活用動詞「す」の未然形
助動詞過去の助動詞「す」の連体形。
同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。その場合は 「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。
格助詞
ごと助動詞比況の助動詞「ごとし」の語幹の用法。
活用語の連体形や助詞「の」「が」に付く。
うるはしみせよ動詞サ行変格活用動詞「うるはしみす」の命令形。
漢字をあてると「麗しみす、愛しみす」であるとおり、「親しみ愛す」「仲睦まじくする」の意味を持つ。
ここでは命令形であるため、「(新しい男を)愛しなさい」「新しい男と)仲睦まじく暮らしなさい」という意味。

様々な解釈ができる歌であるが、女に対して「恨みを込めた歌」というよりも、「感謝や未来への祝福を込めた歌」と言える。
あづさ弓ま弓槻弓、年を重ねて、私が(あなたを)愛したように、(新しい夫とも)仲睦まじくしなさい。

と言ひて、いなむとしければ、女、

と     格助詞                                 
言ひ動詞  ハ行四段活用動詞「言ふ」の連用形
接続助詞
いな動詞ナ行変格活用動詞「いぬ」の未然形。
★重要単語
ナ変動詞は「死ぬ」と「往ぬ」の二語。

別れ際には「その人がどのような人であるか」がよく分かると言うが、この男はかなり潔い。
助動詞意志の助動詞「む」の終止形。
助動詞「む」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。
※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいること。

【原則】
助動詞「む」が文末にある場合
・主語が一人称⇒意志
・主語が二人称⇒適当/当然/命令
・主語が三人称⇒推量

助動詞「む」が文中に連体形で出てきた場合
・「む(連体形)」+「は」、「に」、「には」、体言⇒仮定
・「む(連体)」+体言⇒婉曲
※婉曲は助動詞「む」を訳出しなくても文意が通じる場合。
格助詞
動詞サ行変格活用動詞「す」の連用形
けれ助動詞過去の助動詞「けり」の已然形。
同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。
その場合は 「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。
接続助詞★重要文法
接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。
①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない)
⇒仮定(もし~ならば)
②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている)

(ⅰ)原因・理由(~なので)
(ⅱ)偶然(~したところ)
(ⅲ)必然(~するといつも)

ここでは原因・理由で取ると自然か。
名詞
と(男は)言って立ち去ろうとしたので、女は、

あづさ弓引けど引かねど昔より心は君に寄りにしものを

あづさ弓     名詞     「引け」を導き出す序詞となっている。
また、「あづさ弓」「引け」「引か」「寄り」は弓に関する縁語である。
縁語とは、和歌の修辞法の一つ。ある語と関係の深い語を使って、表現をより豊かにする効果がある。連想ゲームを思い浮かべるとよい。
引け動詞 カ行四段活用動詞「引く」の已然形
接続助詞逆接の恒時条件。「~とも」「~ときでも」と訳する。
已然形接続ということも押さえておきたい。
引か動詞カ行四段活用動詞「引く」の未然形
助動詞打消の助動詞「ず」の已然形
接続助詞逆接の恒時条件
名詞
より格助詞
名詞
係助詞
代名詞
格助詞
寄り動詞ラ行四段活用動詞「寄る」の連用形
助動詞完了の助動詞「ぬ」の連用形
助動詞過去の助動詞「き」の連体形
ものを終助詞詠嘆の終助詞
(私の心を)引いても引かなくても、昔から私の心はあなたに寄っていたのになぁ。

と言ひけれど、男、帰りにけり。

と     格助詞     
言ひ動詞ハ行四段活用動詞「言ふ」の連用形                              
けれ助動詞過去の助動詞「けり」の已然形
接続助詞逆接の確定条件
名詞
帰り動詞ラ行四段活用動詞「帰連用形連用形
助動詞完了の助動詞「ぬ」の連用形
けり助動詞過去の助動詞「けり」の終止形。
女の気持ちは男に届かなかったのであろうか。
と(女は)言ったが、男は帰ってしまった。
 

女、いと悲しくて、しりに立ちて追ひ行けど、

女     代名詞  
いと副詞「たいそう」、「非常に」という訳を当て、程度が甚だしいことを示す。「めっちゃ」と脳内変換してもOK。
悲しく形容詞シク活用の形容詞「悲し」の連用形
接続助詞
しり名詞漢字をあてると「後」であるとおり、「後ろ」の意。
格助詞
立ち動詞タ行四段活用動詞「立つ」の連用形
接続助詞
追ひ行け動詞ハ行四段活用動詞「追ふ」の連用形+カ行四段活用動詞「行く」の已然形
接続助詞逆接の確定条件
女はたいそう悲しくて、(男の)後ろに立って追いかけて行ったが、

え追ひつかで、清水のある所に伏しにけり。

え     副詞     ★重要文法
後ろに「打消」を伴って「不可能」の意味を表す。
このようにセットで用いる副詞を「呼応(陳述)の副詞」と呼ぶ。
追ひつか動詞カ行四段活用動詞「追ひつく」の未然形
接続助詞打消接続。
未然形に接続することに注意。
清水名詞湧き水。
格助詞主格用法
ある動詞ラ行変格活用動詞「あり」の連体形。
ラ変動詞は「あり」「をり」「はべり」「いまそが(か)り/いますが(か)り」を押さえておこう。
名詞
格助詞
伏し動詞サ行四段活用動詞「伏す」の連用形
助動詞完了の助動詞「ぬ」の連用形
けり助動詞過去の助動詞「けり」の終止形
追いつくことができないで、清水がある所でうつ伏してしまった。

そこなりける岩に、指の血して書きつけける。

そこ     代名詞              女がうつ伏せた所をさす                            
なり助動詞存在の助動詞「なり」の連用形
ける助動詞過去の助動詞「けり」の連体形
名詞
格助詞
名詞読みは「および」と読むことが多い。
格助詞
名詞いきなり血が出てくることに驚く人もいるかもしれないが、男を必死に追いかける最中に傷を負ったのであろうと思われる。
当然のことながら当時は明かりも無い。そんな中、男の後を必死に追う女。並々ならぬ愛があったのかもしれない。
して格助詞手段。~によって。
書きつけ動詞カ行下二段活用動詞「書きつく」の連用形
ける助動詞過去の助動詞「けり」の連体形。
ここでは、後ろに「歌」を補うとよい。
そこにあった岩に指の血で書きつけた(歌)。

相思はで離れぬる人をとどめかねわが身は今ぞ消え果てぬめる

相思は      動詞     ハ行四段活用動詞「思ふ」の未然形。
「相」は接頭語で、「ともに」、「互いに」、「たしかに」といった意味を付け足す。
ここでは「互いに」の意味が付け足されている。
接続助詞打消接続
離れ    動詞ラ行下二段活用動詞「離る」の連用形。読み方は「かる」。
心理的、時間的、空間的に「離れる」という意味を持つ語。
ここでは男の心が女から離れていくことを表している。
ぬる助動詞完了の助動詞「ぬ」の連体形
名詞
格助詞
とどめかね 動詞マ行上二段活用動詞「とどむ」にナ行下二段活用動詞「かぬ」が付いた語。
「かぬ」は動詞の連用形に付いて、「~することができない」、「~することに耐えられない」という意味を付け足す。「かぬ」を接尾語ととる説もある。
代名詞
格助詞
名詞
係助詞
名詞
係助詞強意の係助詞
消え果て動詞タ行下二段活用動詞「消え果つ」の連用形。
漢字のとおり、「すっかり消えてしまう」、「息が絶えてしまう」の意味を持つ。
ここでは後者の意味で使われる。
助動詞強意の助動詞「ぬ」の終止形。
★重要文法
直後に「推量」や「推定」の助動詞がある場合、「完了」ではなく「強意」の意味で訳出を行う。
める助動詞推定の助動詞「めり」の連体形。
助動詞「めり」は視覚に基づいた推定をする際に使われる。聴覚に基づいた推定を表す場合は推定の助動詞「なり」を使う。
推定の「めり」「なり」は共に終止形接続。

ここでは係助詞「ぞ」を受けて係り結びが成立している。
お互い愛し合うことなく離れてしまった人を引き留めることができず、私の身は今、消え果ててしまうようだ。

と書きて、そこにいたづらになりにけり。

と      格助詞                                
書き動詞カ行四段活用動詞「書く」の連用形
接続助詞
そこ代名詞
格助詞
いたづらに形容動詞ナリ活用の形容動詞「いたづらなり」の連用形。
古語の「いたづらなり」は努力等に見合った結果が得られず、失望する様子を表すのが基本の意。「むだだ」、「手持ちぶさたで暇だ」といった訳をする。
また、人が「いたづらになる」という場合は、人が亡くなることを示すため、注意が必要。
ここでは女が亡くなってしまったことを表す。何という結末か。
なり動詞ラ行四段活用動詞「なり」の連用形
助動詞完了の助動詞「ぬ」の連用形
けり助動詞過去の助動詞「けり」の終止形。
と書いて、そこで亡くなってしまった。

今回はここまで🐸

⇓伊勢物語の他の記事はこちらから


〇本記事の内容については十分に検討・検証を行っておりますが、その完全性及び正確性等について保証するものではありません。

〇本記事は予告なしに編集・削除を行うことがございます。

〇また、本記事の記載内容によって被った損害・損失については一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。