枕草子『九月ばかり』品詞分解/現代語訳/解説②

枕草子『九月ばかり』品詞分解/現代語訳/解説②

はじめに

こんにちは!こくご部です。

定期テスト対策から大学受験の過去問解説まで、「知りたい」に応えるコンテンツを発信します。


今回は枕草子『九月ばかり』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。

必要に応じて解説も記しておきます。

古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥

それでは行ってみましょう!

前回の記事はこちらから⇓


雨のかかりたるが、白き玉を貫きたるやうなるこそ、

雨                    名詞                     
格助詞主格用法
かかり動詞ラ行四段活用動詞「かかる」の連用形
たる助動詞存続の助動詞「たり」の連体形。
助動詞の「たり」は完了・存続の「たり」と断定の「たり」の二つが存在するが、前者は連用形接続、後者は体言に接続する。
意味から考えても両者は明確に区別できるはず。(完了・存続の「たり」はもともと「てあり」から生じているため、接続助詞の「て」と同様に連用形接続である。同様に、断定の「たり」は「とあり」から生じている。)
格助詞主格用法
白き形容詞ク活用の形容詞「白し」の連体形
名詞
格助詞
貫き動詞カ行四段活用動詞「貫く」の連用形
たる助動詞存続の助動詞「たり」の連体形
やうなる助動詞比況の助動詞「やうなり」の連体形。
名詞「やう」に断定の助動詞「なり」がついてできた語。
比況・例示の助動詞「ごとく」の「やうに」使う助動詞である。
こそ係助詞強意の係助詞
雨がかかっているのが、白い玉を貫いているかのようなのは、

いみじうあはれにをかしけれ。

いみじう   形容詞  シク活用の形容詞「いみじ」の連用形のウ音便。
程度が「はなはだしい」のほか、「すばらしい」「ひどい」の意味を持つ。
現代語の「ヤバい」と同じで、プラス・マイナスの両面のニュアンスがあることを念頭に置いておきたい。

この場合は副詞的に用いており「非常に」と訳を当てると自然。
あはれに形容動詞ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形。
「趣深い」「かわいそう」「すばらしい」など様々な訳語をあてることができるが、 「あはれ」とは基本的・包括的な美的理念であり、 一面性のみに光を当てるべきではないことを理解しておきたい。

近年「エモい」というある意味「便利」な言葉が生まれたが、平安時代の精神と通ずるところがあるように思える。
「エモい」「尊い」などを先人が逆輸入すれば「あはれなり」と訳するのかもしれない。
をかしけれ形容詞シク活用の形容詞「をかし」の已然形。
「あはれなり」のようにジメっと感なく、「すてき!」とカラッと肯定的に評価するのが基本姿勢の語。
『枕草子』が「をかし」の文学と言われることも併せて覚えておきたい。

ここでは、係助詞「こそ」を受けて係り結びが成立している。
たいそう趣深くおもしろい。

少し日たけぬれば、萩などのいと重げなるに、

少し    副詞    
名詞
たけ動詞カ行下二段活用動詞「たく」の連用形。
ここでは「(日が)高くなる、高くのぼる」という意味で使われる。
ぬれ助動詞完了の助動詞「ぬ」の已然形。
同じ完了の意味で同じ連用形接続の「つ」との違いが聞かれることもあるのでまとめておく。
「ぬ」:自然的な作用を示す場合に用いられる
⇒ ex.「風立ちぬ」
「つ」:人為的、意図的な作用を示す場合に用いられる
⇒ex.「石炭をばはや積み果てつ」

【余談】
先の用例で紹介した「石炭をばはや積み果てつ」は森鴎外『舞姫』からの引用。高校の授業で『舞姫』を扱う学校は多いが、こだわりのある先生であればこの一文字で1時間の授業ができるほどの名文と言える。興味のある人は『舞姫』の中で「つ」と「ぬ」がどのように使い分けられているかチェックしてみてほしい。
接続助詞★重要文法
接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。
①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない)
⇒仮定(もし~ならば)
②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている)

(ⅰ)原因・理由(~なので)
(ⅱ)偶然(~したところ)
(ⅲ)必然(~するといつも)

ここでは偶然で取ると自然か。
名詞読みは「はぎ」。夏から秋にかけ、紅紫色や白色の花を咲かせる。
など副助詞例示の副助詞
格助詞主格用法
いと副詞「たいそう」、「非常に」という訳を当て、程度が甚だしいことを示す。「めっちゃ」と脳内変換してもOK。
重げなる形容動詞ナリ活用の形容動詞「重げなり」の連体形
接続助詞逆接確定条件
少し日が高くのぼったところ、萩などが(露が降りて)たいそう重たそうだが、

露の落つるに、枝うち動きて、

露    名詞    
格助詞主格用法
落つる動詞タ行上二段活用動詞「落つる」の連体形
格助詞                
名詞
うち動き動詞カ行四段活用動詞「動く」の連用形。
「うち」は接頭語。動詞に付いて、語調を整えたり、直後に続く動詞の意味を強めたりする働きがあるので、合わせて覚えておきたい。
接続助詞
露が落ちるときに、枝が少し動いて、

人も手触れぬに、ふと上ざまへ上がりたるも、いみじうをかし。

人     名詞   
係助詞強意の係助詞
名詞
触れ動詞 ラ行下二段活用動詞「触る」の未然形
助動詞打消の助動詞「ず」の連体形
接続助詞逆接確定条件
ふと副詞「さっと、すばやく」、「不意に、思いがけず」という意味を持つ語。
ここでは前者の意味で使われる。
上ざま名詞「さま」は接尾語で、名詞や代名詞に付くと「~の方」という意味となる。
格助詞
上がり動詞ラ行四段活用動詞「上がる」の連用形
たる助動詞完了の助動詞「たり」の連体形
係助詞
いみじう形容詞シク活用の形容詞「いみじ」の連用形のウ音便
をかし形容詞シク活用の形容詞「をかし」の終止形
人も手を触れないが、すばやく上の方に(枝が)上がったのも、たいそうおもしろい。

と言ひたることどもの、人の心には

と               格助詞                                          
言ひ動詞ハ行四段活用動詞「言ふ」の連用形
たる助動詞完了の助動詞「たり」の連体形
ことども名詞「ども」は接尾語。名詞について、同じ種類のものが複数であることを示す。

海賊王を目指す某国民的キャラクターが「野郎ども」と言っていることからも想像しやすいかもしれない。また、現在の「私ども」のように、謙遜を示す場合に使われることもある。
格助詞主格用法
名詞
格助詞
名詞
格助詞
係助詞
と言ったことなどが、(他の)人の心には、

つゆをかしからじと思ふこそ、またをかしけれ。

つゆ     副詞     下に打消の語を伴って、「少しも、まったく」という意味で使わる語。
をかしから形容詞シク活用の形容詞「をかし」の未然形
助動詞打消推量の助動詞「じ」の終止形
格助詞
思ふ動詞ハ行四段活用動詞「思ふ」の連体形
こそ係助詞強意の係助詞
また副詞
をかしけれ形容詞シク活用の形容詞「をかし」の已然形。

ここでは係助詞「こそ」を受けて係り結びが成立している。
すこしもおもしろくないだろうと思うことこそ、またおもしろい。

今回はここまで🐸

『枕草子』の他の記事はこちらから⇓


〇本記事の内容については十分に検討・検証を行っておりますが、その完全性及び正確性等について保証するものではありません。

〇本記事は予告なしに編集・削除を行うことがございます。

〇また、本記事の記載内容によって被った損害・損失については一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。