徒然草『ある人、弓射ることを習ふに』品詞分解/現代語訳/解説①

徒然草『ある人、弓射ることを習ふに』品詞分解/現代語訳/解説①

はじめに

こんにちは!こくご部です。

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今回は徒然草から『ある人、弓射ることを習ふに』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。

必要に応じて解説も記しておきます。

古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥

それでは行ってみましょう!

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出典について

まずは出典の徒然草について触れておきましょう。

出典:徒然草

★ジャンル・内容について
 随筆。
平安時代の『枕草子』、鎌倉初期の『方丈記』と並んで三代随筆と称される。仏教の無常観などをもとに、教訓的な話や趣味についての話、処世術など多種多様な話題を採りあげている。現代に生きる我々にとっても学びの多い章段と、誰かの悪口が延々と書かれている章段に大別される(かもしれない)。

★作者について
 作者は兼好法師。
仏門に入る前に名乗っていた俗名は卜部兼好(うらべかねよし)。

★成立について
 鎌倉時代末期ごろ
に書かれたとされる。

その他
 和文調と漢文調を使い分けた、新擬古文といわれる。


ある人、弓射ることを習ふに、諸矢をたばさみて的に向かふ。

ある            連体詞        不確定の人や物ごとを漠然と指すときに使う語。
ラ行変格活用動詞「あり」の連体形から変化してできた。
人 名詞
名詞
射る動詞ヤ行上一段活用動詞「射る」の連体形。
上一段動詞は基本的には10語のみと数に限りがあるため、頭文字を取って「ひいきにみゐる」で確実に暗記しておくこと。
こと名詞
格助詞
習ふ動詞ハ行四段活用動詞「習ふ」の連体形
格助詞時間を表す。「とき」。
諸矢名詞対になった二本の矢のこと。的に向かう際は、一対二本の矢を持つのが普通であり、作法ともされている。
格助詞
たばさみ動詞マ行四段活用動詞「たばさむ」の連用形。
漢字をあてると「手挟む」であるとおり、「手に挟んで持つ」「脇に挟んで持つ」といった意味を持つ。
なお、「手(た)向け」「手綱(たづな)」などの形で現代にも残っている。                                  
接続助詞
名詞
格助詞
向かふ動詞ハ行四段活用動詞「向かふ」の終止形
ある人が弓を射ることを習うときに、対になった二本の矢を手で挟んで持って的に向かう。

師のいはく、「初心の人、二つの矢を持つことなかれ。

師     名詞     師匠。
格助詞  主格用法
いはくハ行四段活用の動詞「いふ」+接尾語「く」。
論語に見える「子曰(いは)く」で有名な「いはく」。言うことには、と訳を当てる。
初心名詞
格助詞
名詞「初心の人」で「初心者」を指す。
二つ名詞
格助詞
名詞
格助詞
持つ動詞タ行四段活用動詞「持つ」の連体形
こと名詞
なかれ形容詞ク活用の形容詞「なし」の命令形。
~することがあってはいけない、つまり「~するな」という禁止を示す。
師匠が言うことには、「初心者は、二本の矢を持ってはいけない。

のちの矢を頼みて、初めの矢になほざりの心あり。

のち  名詞 
格助詞
名詞
を     格助詞    
頼み動詞マ行四段活用動詞「頼む」の連用形。
動詞の「たのむ」は四段活用と下二段活用が存在し、前者は「頼りにする」、後者は「頼りに思わせる」と頼る側が入れ替わるため注意が必要。
ここでは「外しても二本目の矢があるしな~」などと思うこと。
接続助詞
初め名詞
格助詞
名詞
格助詞
なほざり形容動詞ナリ活用の形容動詞「なほざりなり」の語幹の用法。
「いい加減だ」という意味で使われる。

★形容詞・形容動詞の語幹の用法についてまとめておく。
①接尾語を伴い別の品詞をつくる例
⇒形容詞の語幹+「げなり」=形容動詞
 形容詞の語幹+「さ」「み」=名詞
 形容詞の語幹+「がる」=動詞
②連用修飾語(〇〇が××なので と訳す)になる例
⇒名詞(体言)+「を」+形容詞の語幹+「み」
 ex.「瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の~」
③格助詞「の」を伴い連体修飾語になる例
⇒ex.「をかしの御髪や。」
④単独または感動詞を伴い、意味を強める例
⇒ex.「あなめでたや。」
格助詞
名詞
あり動詞ラ行変格活用動詞「あり」の終止形。
ラ変動詞は「あり」「をり」「はべり」「いまそが(か)り/いますが(か)り」を押さえておこう。
後の矢をあてにして、初めの矢においていい加減な気持ちがある。

毎度ただのちの矢なく、この一矢に定むべしと思へ。」と言ふ。

毎度     副詞      
ただ副詞ここでは「ひたすら」などと訳を当てると自然か。                          
のち名詞
格助詞
名詞
なく形容詞ク活用の形容詞「なし」の連用形
代名詞
格助詞
一矢名詞
格助詞
定む動詞マ行下二段活用動詞「定む」の終止形。
ここでは、漢字のとおり「決定する、決める」の意味で使われる。
べし助動詞意志の助動詞「べし」の終止形。
★重要文法
助動詞「べし」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。
※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいるべし。

【原則】
・主語が一人称⇒意志
・主語が二人称⇒適当/当然/命令
・主語が三人称⇒推量

【文脈判断等】
・下に打消を伴う⇒可能 
・下に格助詞の「と」を伴う/終止形⇒意志
・下に名詞や助詞を伴う(「~するはずの」と訳す)⇒当然/予定 ※直後に助詞が来る場合:名詞が省略されている。
・文中に疑問/反語を示す語を伴う⇒推量/可能
格助詞
思へ動詞ハ行四段活用動詞「思ふ」の命令形
格助詞
言ふ動詞ハ行四段活用動詞「言ふ」の終止形
毎回、ひたすらに、後の矢はなく、この一本の矢で決めようと思え。」と言う。
 

わづかに二つの矢、師の前にて一つをおろかにせむと思はむや。

わづかに形容動詞   ナリ活用の形容動詞「わづかなり」の連用形
二つ名詞
格助詞
名詞
名詞
格助詞
前      名詞
にて格助詞
一つ名詞
格助詞
おろかに形容動詞ナリ活用の形容動詞「おろかなり」の連用形。
漢字をあてると「疎かなり」であるとおり、「おろそかだ」という意味を持つ。
類義語の「なほざりなり」も併せて覚えよう。
動詞サ行変格活用動詞「す」の未然形
助動詞意志の助動詞「む」の終止形。
助動詞「む」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。
※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいること。

【原則】
助動詞「む」が文末にある場合
・主語が一人称⇒意志
・主語が二人称⇒適当/当然/命令
・主語が三人称⇒推量

助動詞「む」が文中に連体形で出てきた場合
・「む(連体形)」+「は」、「に」、「には」、体言⇒仮定
・「む(連体)」+体言⇒婉曲
※婉曲は助動詞「む」を訳出しなくても文意が通じる場合。
格助詞
思は動詞ハ行四段活用動詞「思ふ」の未然形
助動詞推量の助動詞「む」の終止形
係助詞反語の係助詞。
係助詞の「や」は係り結びとは関係ない文末に用いられ、断定的強調・反語・疑問の意味を持つことがある。この場合は反語で解釈すると自然である。 係助詞「ぞ」「か」についても同じ。

徒然草をはじめとする随筆では「係り結び」や「反語」に注目することで筆者の主張を掴みやすくなる
たった二本の矢を、師匠の前で一本をおろそかにしようと思うだろうか、いや、思わない。

懈怠の心、みづから知らずといへども、師これを知る。

懈怠     名詞     仏教用語で「なまけ、おこたる心」の意。「けだい」と読むことが多い。
「なまける」も「おこたる」も同じ漢字であるが、なかなか含蓄が深いように思われる。
格助詞
名詞
みづから副詞自分では。
知ら動詞ラ行四段活用動詞「知る」の未然形
助動詞打消の助動詞「ず」の終止形
格助詞
いへ動詞ハ行四段活用動詞「いふ」の已然形
ども接続助詞逆接の接続助詞。已然形接続ということも押さえておきたい。
名詞
これ代名詞ここでは「懈怠の心」を指す
格助詞
知る動詞ラ行四段活用動詞「知る」の終止形
怠ける心を、自分では気が付かないといっても、師匠はこれを理解している。

この戒め、万事にわたるべし。

代名詞     ここでは「自分では気が付かない間に怠ける心が生じていること」を指す。
格助詞
戒め名詞
万事名詞すべてのこと。
格助詞
わたる動詞ラ行四段活用動詞「わたる」の終止形。
ここでは「行きわたる、広く通じる」の意味で使われる。
べし     助動詞推量の助動詞「べし」の終止形
この教訓は、すべてのことに広く通じるだろう。

今回はここまで🐸

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