大鏡『花山院の出家』品詞分解/現代語訳/解説③
目次
はじめに
こんにちは!こくご部です。
定期テスト対策から大学受験の過去問解説まで、「知りたい」に応えるコンテンツを発信します。
今回は大鏡から『花山院の出家』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。
必要に応じて解説も記しておきます。
古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥
それでは行ってみましょう!
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さて、土御門より東ざまに率ていだしまゐらせたまふに、
さて | 接続詞 | 「そうして」「こうして」。 |
土御門 | 名詞 | 土御門大路のこと。 |
より | 格助詞 | |
東ざま | 名詞 | 「ざま」は接尾語。名詞、代名詞に付くと、「~の方」という意味を付け加える。 |
に | 格助詞 | |
率 | 動詞 | ワ行上一段活用動詞「率る」の連用形。 上一段動詞は基本的には10語のみと数に限りがあるため、頭文字を取って「ひいきにみゐる」で確実に暗記しておくこと。 |
て | 接続助詞 | |
いだし | 動詞 | サ行四段活用動詞「いだす」の連用形 |
まゐらせ | 動詞 | サ行下二段活用動詞「まゐらす」の連用形。 「与ふ」の謙譲語、謙譲の補助動詞の意味がある。 ここでは謙譲の補助動詞として使われ、語り手から花山天皇への敬意が示される。 大鏡は「大宅世継(おおやけのよつぎ)」と「夏山繁樹(なつやまのしげき)」という二人が若き侍に対して藤原氏の昔話をしているという設定である。そのため、本記事では語り手からの敬意と表現する。 |
たまふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「たまふ」の連体形。 「たまふ」は四段活用と下二段活用があり、前者が尊敬語、後者が謙譲語であるので注意が必要。 この場合は尊敬の補助動詞であり、「お~なる」、「~なさる」という意。語り手から粟田殿への敬意が示される。 |
に | 格助詞 |
そうして、(粟田殿が花山天皇を)土御門大路から東の方へ、連れてお行かせ申し上げた時に、
清明が家の前をわたらせたまへば、みづからの声にて、
清明 | 名詞 | 安倍晴明のこと。ここでは詳述は避けるが、有名な陰陽師。妖狐である母譲りの絶大な呪力をもつとされる。 京都府上京区にこの安倍晴明を祀る清明神社がある。ぜひ訪れてみたい。 |
が | 格助詞 | |
家 | 名詞 | |
の | 格助詞 | |
前 | 名詞 | |
を | 格助詞 | |
わたら | 動詞 | ラ行四段活用動詞「わたる」の未然形。 「行く、来る、通る」といった移動することを指す語。 |
せ | 助動詞 | 尊敬の助動詞「す」の連用形。 ここでは語り手から花山天皇への敬意が示される。 助動詞「す」「さす」の下に尊敬語がある場合は尊敬で取るのが基本。 |
たまへ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「たまふ」の已然形。 尊敬の補助動詞として使われ、語り手から花山天皇への敬意が示される。 |
ば | 接続助詞 | ★重要文法 接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。 ①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない) ⇒仮定(もし~ならば) ②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている) ⇒ (ⅰ)原因・理由(~なので) (ⅱ)偶然(~したところ) (ⅲ)必然(~するといつも) ここでは偶然で取ると自然か。 |
みづから | 名詞 | ここでは安倍晴明自身、の意 |
の | 格助詞 | |
声 | 名詞 | |
にて | 格助詞 |
清明の家の前をお通りになると、清明自身の声で、
手をおびたたしくはたはたと打ちて、
手 | 名詞 | |
を | 格助詞 | |
おびたたしく | 形容詞 | シク活用の形容詞「おびたたし」の連用形。 ここでは程度の甚だしさを表している。 |
はたはたと | 副詞 | 手をたたく音。ぱちぱちと。 |
打ち | 動詞 | タ行四段活用動詞「打つ」の連用形 |
て | 接続助詞 |
手を激しくぱちぱちと打って、
「帝王おりさせたまふと見ゆる天変ありつるが、すでになりにけりと見ゆるかな。
帝王 | 名詞 | 花山天皇のこと。 |
おり | 動詞 | ラ行上二段活用動詞「おる」の連用形。 ここでは「退位する」の意。 |
させ | 助動詞 | 尊敬の助動詞「さす」の連用形。 清明から花山天皇への敬意が示される。 |
たまふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「たまふ」の終止形。 ここでは尊敬の補助動詞として使われ、清明から花山天皇への敬意が示される。 |
と | 格助詞 | |
見ゆる | 動詞 | ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」の連体形。 「見える」「思われる」「見られる」「結婚する」など様々な意味があるが、「見ゆ」の「ゆ」は上代(ほぼ奈良時代まで)の助動詞であり、受身・自発・可能の意味がある。 「受身・自発・可能」という字面を見ると「る」と同じでは?と思った人がいるかもしれないが、その直感は正しい。「る」の発達に伴って「ゆ」が少しずつ姿を消していった。 なお、「ゆ」には尊敬の意味はない。 |
天変 | 名詞 | 天空の変動のこと |
あり | 動詞 | ラ行変格活用動詞「あり」の連用形 |
つる | 助動詞 | 完了の助動詞「つ」の連体形。 同じ完了の意味で同じ連用形接続の「ぬ」との違いが聞かれることもあるのでまとめておく。 「ぬ」:自然的な作用を示す場合に用いられる ⇒ ex.「風立ちぬ」 「つ」:人為的、意図的な作用を示す場合に用いられる ⇒ex.「石炭をばはや積み果てつ」 【余談】 先の用例で紹介した「石炭をばはや積み果てつ」は森鴎外『舞姫』からの引用。高校の授業で『舞姫』を扱う学校は多いが、こだわりのある先生であればこの一文字で1時間の授業ができるほどの名文と言える。興味のある人は『舞姫』の中で「つ」と「ぬ」がどのように使い分けられているかチェックしてみてほしい。 |
が | 接続助詞 | |
すでに | 副詞 | 完了や過去に関する語を伴う場合は現代語と同様に「もう(すでに)」という訳を当てる。 推量を伴う場合は「今まさに」、断定を伴う場合は「確かに」という強意的な訳を当てる。 |
なり | 動詞 | ラ行四段活用動詞「なる」の連用形 |
に | 助動詞 | 完了の助動詞「ぬ」の連用形 |
けり | 助動詞 | 詠嘆の助動詞「けり」の終止形。 今まで気付かなかったことに、はじめて気付いてハッとする驚きや感動を表す。 |
と | 格助詞 | |
見ゆる | 動詞 | ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」の連体形 |
かな | 終助詞 | 詠嘆の終助詞 |
「花山天皇がご退位なさると思われる天空の変動があるが、もう(そのご退位が)実現してしまったと思われることだなぁ。
参りて奏せむ。車に装束とうせよ。」といふ声聞かせたまひけむ、
参り | 動詞 | ラ行四段活用動詞「参る」の連用形。 ★重要単語 「参る」は「行く」「来」の謙譲語である「参上する」という意味のほか、「御」+名詞+「参る」などの形で高貴な身分の人物に対して「(何かをして)差し上げる」という「与ふ」「す」の謙譲語、さらに「食ふ」「飲む」の尊敬語である「召し上がる」の意味がある。判別には文脈判断が必要になるが、まずは最初の「参上する」を当て、不自然であれば他の訳をあてていく。 ここでは「行く」の謙譲語として使われ、清明から花山天皇への敬意が示される。 |
て | 接続助詞 | |
奏せ | 動詞 | サ行変格活用動詞「奏す」の未然形。 天皇や上皇に対して「言ふ」際の謙譲語。特定の相手限定で使う敬語を絶対敬語というが、絶対敬語として「奏す」と「啓す」を覚えておこう。 「啓す」は皇后、中宮、皇太子などに対する謙譲語。 ここでは清明から花山天皇への敬意が示される。 |
む | 助動詞 | 意志の助動詞「む」の終止形。 助動詞「む」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。 ※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいること。 【原則】 助動詞「む」が文末にある場合 ・主語が一人称⇒意志 ・主語が二人称⇒適当/当然/命令 ・主語が三人称⇒推量 助動詞「む」が文中に連体形で出てきた場合 ・「む(連体形)」+「は」、「に」、「には」、体言⇒仮定 ・「む(連体)」+体言⇒婉曲 ※婉曲は助動詞「む」を訳出しなくても文意が通じる場合。 |
車 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
装束 | 名詞 | ここでは、車の支度のこと |
とう | 副詞 | 漢字をあてると「疾う」であるとおり、「早く、速やかに」の意。 副詞「疾く」のウ音便。 |
せよ | 動詞 | サ行変格活用動詞「す」の命令形 |
と | 格助詞 | |
いふ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「いふ」の連体形 |
声 | 名詞 | |
聞か | 動詞 | カ行四段活用動詞「聞く」の未然形 |
せ | 助動詞 | 尊敬の助動詞「す」の連用形。 語り手から花山天皇への敬意が示される。 |
たまひ | 動詞 | ハ行四段活用動詞「たまふ」の連用形。 ここでは尊敬の補助動詞として使われ、語り手から花山天皇への敬意が示される。 |
けむ | 助動詞 | 過去推量の助動詞「けむ」の終止形 |
(宮中に)参上して申し上げよう。車の支度をすみやかにせよ。」という(清明の)声をお聞きなさったのだろう、
さりともあはれにはおぼしめしけむかし。
さりとも | 接続詞 | 「それはそうとしても」の意。 ここでは、花山天皇の出家が覚悟の上であったとしても、ということを表している。 |
あはれに | 形容動詞 | ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形。 「趣深い」「かわいそう」「すばらしい」など様々な訳語をあてることができるが、 「あはれ」とは基本的・包括的な美的理念であり、 一面性のみに光を当てるべきではないことを理解しておきたい。 近年「エモい」というある意味「便利」な言葉が生まれたが、平安時代の精神と通ずるところがあるように思える。 「エモい」「尊い」などを先人が逆輸入すれば「あはれなり」と訳するのかもしれない。 ここでは感慨深い、といった訳を当てるのが自然か。 |
は | 係助詞 | |
おぼしめし | 動詞 | サ行四段活用動詞「おぼしめす」の連用形。 「思ふ」の尊敬語。 同じく「思ふ」の尊敬語として「おぼす」という語もあるが、より高い敬意を表すときは「おぼしめす」の方を用いる。 ここでは、語り手から花山天皇への敬意が示される。 |
けむ | 助動詞 | 過去推量の助動詞「けむ」の終止形 |
かし | 終助詞 | 念押しの助動詞。「~よ」などの訳を当てることが多い。 |
それはそうとしても感慨深くお思いになったのだろうよ。
「且、式神一人内裏に参れ。」と申しければ、
且 | 副詞 | 「かつがつ」と読む。「且つ且つ」と表記することもある。 ここでは「とりあえず」の意。 |
式神 | 名詞 | 陰陽師の命令に従って動く神霊のこと |
一人 | 名詞 | |
内裏 | 名詞 | |
に | 格助詞 | |
参れ | 動詞 | ラ行四段活用動詞「参る」の命令形。 ここでは「行く」の謙譲語として使われ、清明から花山天皇への敬意が示される。 |
と | 格助詞 | |
申し | 動詞 | サ行四段活用動詞「申す」の連用形。 諸説あるが、ここでは「言ふ」の丁寧語として使われ、語り手から聞き手への敬意が示される。 |
けれ | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の已然形。 同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。その場合は 「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。 |
ば | 接続助詞 |
「とりあえず、式神一人内裏に参上せよ。」と(清明が)申し上げたところ、
目には見えぬものの、戸をおしあけて、御後ろをや見まゐらせけむ、
目 | 名詞 | 「目には見えぬもの」は式神のことである。 呪力を持たぬ者には式神の姿は見えない、ということであろうか。 |
に | 格助詞 | |
は | 係助詞 | |
見え | 動詞 | ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」の未然形 |
ぬ | 助動詞 | 打消の助動詞「ず」の連体形 |
もの | 名詞 | |
の | 格助詞 | 主格用法 |
戸 | 名詞 | |
を | 格助詞 | |
おしあけ | 動詞 | サ行四段活用動詞「おす」の連用形+カ行下二段活用動詞「あく」の連用形 |
て | 接続助詞 | |
御後ろ | 名詞 | 花山天皇の後ろ姿のこと。 式神はタイミングよく、花山天皇が土御門大路をお歩きになっている後ろ姿を見たのであろう。 |
を | 格助詞 | |
や | 係助詞 | 疑問の係助詞 |
見 | 動詞 | マ行上一段活用動詞「見る」の連用形 |
まゐらせ | 動詞 | サ行下二段活用動詞「まゐらす」の連用形。 「与ふ」の謙譲語、謙譲の補助動詞の意味がある。 ここでは謙譲の補助動詞として使われ、語り手から花山天皇への敬意が示される。 |
けむ | 助動詞 | 過去推量の助動詞「けむ」の連体形。 係助詞「や」を受けて係り結びが成立している。 |
目には見えないものが、戸を押し開けて(花山天皇の)御後ろ姿を見申し上げたのだろうか、
「ただ今、これより過ぎさせおはしますめり。」といらへけりとかや。
ただ今 | 副詞 | ここは式神のセリフである。 |
これ | 代名詞 | |
より | 格助詞 | |
過ぎ | 動詞 | ガ行上二段活用動詞「過ぐ」の未然形 |
させ | 助動詞 | 尊敬の助動詞「さす」の連用形。 式神から花山天皇への敬意が示される。 |
おはします | 動詞 | サ行四段活用動詞「おはします」の終止形。 「あり」の尊敬語、「行く」「来」の尊敬語、尊敬の補助動詞の意味がある。 似たような語に、サ行変格活用動詞の「おはす」があるが、「おはします」の方が敬意が高い。 ここでは尊敬の補助動詞として使われ、式神から花山天皇への敬意が示される。 |
めり | 助動詞 | 推定の助動詞「めり」の終止形。 助動詞「めり」は「見あり」から生じたものであり、視覚に基づいた推定をする際に使われる。 聴覚に基づいた推定を表す場合は推定の助動詞「なり」を使う。 推定の「めり」「なり」は共に終止形接続。 |
と | 格助詞 | |
いらへ | 動詞 | ハ行下二段活用動詞「いらふ」の連用形。 類義語に「こたふ」という語があるが、「いらふ」が本格的に返答することを指すのに対し、「こたふ」は呼びかけに対してただ応じるだけを指す。 あなたは日々、「こたへ」ていないだろうか。 |
けり | 助動詞 | 過去の助動詞「けり」の終止形 |
と | 格助詞 | |
か | 係助詞 | 疑問の係助詞。 結びの省略が起きている。 結びの省略とは、結びの語が省略されることである。この場合、文脈から判断して省略された語を補うことが重要。「言ふ、聞く」「あらむ」「なり」といった語を補うことが多い。 ここでは「いふ」などを補うとよい。 |
や | 間投助詞 | 詠嘆の間投助詞 |
「たった今、ここを(花山天皇は)お過ぎになっていらっしゃるようだ。」と返事をしたとかいうようだなぁ。
その家、土御門町口なれば、御道なりけり。
そ | 代名詞 | 清明の家を指す |
の | 格助詞 | |
家 | 名詞 | |
土御門町口 | 名詞 | 土御門大路と町口小路の交差するところを指す。 清明の家がそこにあったとされている。 |
なれ | 助動詞 | 存在の助動詞「なり」の已然形 |
ば | 接続助詞 | |
御道 | 名詞 | |
なり | 助動詞 | 断定の助動詞「なり」の連用形。 助動詞の「なり」は断定の「なり」と伝聞・推定の「なり」の二つが存在するが、前者は体言または連体形に接続、後者は終止形(ラ変型の活用語には連体形)に接続する。 『土佐日記』の冒頭部分、「男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり」を覚えておけば、接続が導き出せる。 |
けり | 助動詞 | 詠嘆の助動詞「けり」の終止形 |
その家は土御門町口にあるので、(花山天皇が今まさに通っている)御道であった。
今回はここまで🐸
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