徒然草『花は盛りに』品詞分解/現代語訳/解説①

徒然草『花は盛りに』品詞分解/現代語訳/解説①

はじめに

こんにちは!こくご部です。

定期テスト対策から大学受験の過去問解説まで、「知りたい」に応えるコンテンツを発信します。


今回は徒然草から『花は盛りに』について、できるだけ短い固まりで本文⇒品詞分解⇒現代語訳の順で見ていきます。

必要に応じて解説も記しておきます。

古文が苦手な人や食わず嫌いな人もいるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう🔥

それでは行ってみましょう!

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出典について

まずは出典の徒然草について触れておきましょう。

出典:徒然草

★ジャンル・内容について
 随筆。
平安時代の『枕草子』、鎌倉初期の『方丈記』と並んで三代随筆と称される。仏教の無常観などをもとに、教訓的な話や趣味についての話、処世術など多種多様な話題を採りあげている。現代に生きる我々にとっても学びの多い章段と、誰かの悪口が延々と書かれている章段に大別される(かもしれない)。

★作者について
 作者は兼好法師。
仏門に入る前に名乗っていた俗名は卜部兼好(うらべかねよし)。

★成立について
 鎌倉時代末期ごろ
に書かれたとされる。

その他
 和文調と漢文調を使い分けた、新擬古文といわれる。


花は盛りに、月はくまなきをのみ見るものかは。

花            名詞             奈良時代に「花」といえば「梅の花」、平安時代以降では「桜の花」を指すことが多い。
ここでは「桜の花」のこと。
は 係助詞   
盛りに形容動詞   ナリ活用の形容動詞「盛りなり」の連用形。
漢字のとおり、「最盛期だ、勢いが盛んである」、「盛んな年ごろだ」といった意味を持つ。
ここでは前者の意味で使われる。桜の花の最盛期、つまり桜が満開である様子のことをいう。
名詞
係助詞
くまなき     形容詞     ク活用の形容詞「くまなし」の連体形。
漢字をあてると「隈無し」。「隈」とは光が当たらない陰の部分のことを言うため、「隈無し」で「かげりがない(=満月の様子)」、「陰になるところがない」、「抜け目がない」、「あけひろげだ」といった意味を持つ。
格助詞
のみ副助詞限定の副助詞
見る動詞マ行上一段活用動詞「見る」の連体形。
上一段動詞は基本的には10語のみと数に限りがあるため、頭文字を取って「ひいきにみゐる」で確実に暗記しておくこと。
もの名詞
かは係助詞疑問・反語の係助詞「か」、強意の係助詞「は」が結びついた場合、多くは反語の意味を持つ。(疑問を強めると反語になるのは「誰が行くの?」⇒「誰が行くの!?(誰も行かないと思っている)」となる例からも想像に難くない。)
「や」+「は」の例も同じ。                         
桜の花は満開のときに、月はかげりのない満月のときにだけ見るものか、いや、そうではない。

雨に向かひて月を恋ひ、垂れこめて春の行方知らぬも、なほあはれに情け深し。

雨     名詞     
格助詞  
向かひ動詞ハ行四段活用動詞「向かふ」の連用形
接続助詞
名詞
格助詞
恋ひ動詞ハ行上二段活用動詞「恋ふ」の連用形

『類聚句題抄』に「雨に対(むか)ひて月を恋ふ」という詩題がある。
垂れこめ動詞マ行下二段活用動詞「垂れこむ」の連用形。
簾や帳をおろして室内にこもる、という意味を持つ。

『古今和歌集』に「たれこめて春のゆくへも知らぬ間に待ちし桜もうつろひにけり」という藤原因香(よるか)の歌がある。
接続助詞
名詞
格助詞
行方名詞
知ら動詞ラ行四段活用動詞「知る」の未然形
助動詞打消の助動詞「ず」の連体形
係助詞
なほ副詞★重要単語
現代にも残っている「依然としてやはり(変わらず)」、「よりいっそう」のほか、「なんといってもやはり」などの意味があり、文脈に応じて適切な訳語を当てる。
あはれに形容動詞ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形。
「趣深い」「かわいそう」「すばらしい」など様々な訳語をあてることができるが、 「あはれ」とは基本的・包括的な美的理念であり、 一面性のみに光を当てるべきではないことを理解しておきたい。
近年「エモい」というある意味「便利」な言葉が生まれたが、平安時代の精神と通ずるところがあるように思える。
「エモい」「尊い」などを先人が逆輸入すれば「あはれなり」と訳するのかもしれない。
情け名詞「思いやり」というのが基本の意味で、異性に対して使われる場合は「恋情」、自然に対して使われる場合は「風流心」という意味になる。
深し形容詞ク活用の形容詞「深し」の終止形
雨に向かって(雲で見えない)月を恋しく思い、簾や帳をおろして室内にこもって春の移り変わりを知らないのも、やはりすばらしく、風流心が深い。

咲きぬべきほどの梢、散りしをれたる庭などこそ、見どころ多けれ。

咲き  動詞  カ行四段活用動詞「咲く」の連用形
助動詞強意の助動詞「ぬ」の終止形。
★重要文法
直後に「推量」や「推定」の助動詞がある場合、「完了」ではなく「強意」の意味で訳出を行う。
べき助動詞推量(当然)の助動詞「べし」の連用形
★重要文法
助動詞「べし」は多くの意味をもつが、以下のように判別の手掛かりになる「ルール」があるので整理しておきたい。
※必ず文脈判断を踏まえること。この「ルール」は「この意味になることが多い」程度の認識でいるべし。

【原則】
・主語が一人称⇒意志
・主語が二人称⇒適当/当然/命令
・主語が三人称⇒推量

【文脈判断等】
・下に打消を伴う⇒可能 
・下に格助詞の「と」を伴う/終止形⇒意志
・下に名詞や助詞を伴う(「~するはずの」と訳す)⇒当然/予定 ※直後に助詞が来る場合:名詞が省略されている。
・文中に疑問/反語を示す語を伴う⇒推量/可能
ほど    名詞     
格助詞
名詞
散りしをれ   動詞ラ行四段活用動詞「散る」の連用形+ラ行下二段活用動詞「しをる」の連用形
たる助動詞完了の助動詞「たり」の連体形。
助動詞の「たり」は完了・存続の「たり」と断定の「たり」の二つが存在するが、前者は連用形接続、後者は体言に接続する。
意味から考えても両者は明確に区別できるはず。(完了・存続の「たり」はもともと「てあり」から生じているため、接続助詞の「て」と同様に連用形接続である。同様に、断定の「たり」は「とあり」から生じている。)
名詞
など副詞
こそ係助詞強意の係助詞
見どころ名詞
多けれ形容詞ク活用の形容詞「多し」の已然形。
係助詞「こそ」を受けて係り結びが成立している。
今にも咲きそうな梢、(花が)散りしおれた庭などこそ、見るべきところが多い。

歌の詞書にも、「花見にまかれりけるに、早く散り過ぎにければ。」とも、

歌     名詞      
格助詞                          
詞書名詞読みは「ことばがき」。和歌の前書き。
和歌が詠まれた場所、時、動機などの説明や、和歌の題を示す文章のこと。
格助詞
係助詞
名詞
動詞マ行上一段活用動詞「見る」の連用形
格助詞
まかれ動詞ラ行四段活用動詞「まかる」の已然形。
「出づ」の謙譲語、「行く」の丁寧語、他の動詞の前に付いて謙譲・丁寧を表す(~申す、~ます)の意味がある。
ここでは「行く」の丁寧語として使われ、作者から読者への敬意が示される。
助動詞完了の助動詞「り」の連用形。
接続を覚えるための語呂合わせは「サ未四已(さみしい)りっちゃん」派か「サ未四已りかちゃん」派かで分かれる。
教室に「り」で始まる子がいるとその日はイジられる可能性が高い。
ける助動詞過去の助動詞「けり」の終止形。
同じ過去でも「き」は直接過去(自身の体験)、「けり」は間接過去(他者の経験)と分けられる場合がある(混同されている場合もある)。その場合は 「き」「けり」で主語が判別できることがあるので、 それぞれニュアンスを押さえよう。
接続助詞逆接の確定条件
早く副詞ク活用の形容詞「早し」の連用形が副詞化してできた語。
「以前」、「すでに」といった意味を持つ。
また、「はやく」の後に詠嘆の助動詞「けり」が使われる場合には、「なんとまあ、実は」の意味で使われるため、覚えておくとよい。
ここでは「すでに」「とっくに」の意味で使われている。
散り過ぎ動詞ガ行上二段活用動詞「散り過ぐ」の連用形。
すっかり散ってしまう、という意味を持つ。
助動詞完了の助動詞「ぬ」の連用形。
同じ完了の意味で同じ連用形接続の「つ」との違いが聞かれることもあるのでまとめておく。
「ぬ」:自然的な作用を示す場合に用いられる
⇒ ex.「風立ちぬ」
「つ」:人為的、意図的な作用を示す場合に用いられる
⇒ex.「石炭をばはや積み果てつ」

【余談】
先の用例で紹介した「石炭をばはや積み果てつ」は森鴎外『舞姫』からの引用。高校の授業で『舞姫』を扱う学校は多いが、こだわりのある先生であればこの一文字で1時間の授業ができるほどの名文と言える。興味のある人は『舞姫』の中で「つ」と「ぬ」がどのように使い分けられているかチェックしてみてほしい。
けれ助動詞過去の助動詞「けり」の已然形
接続助詞★重要文法
接続助詞の「ば」は以下の2パターンを整理しておきたい。
①未然形+「ば」 ( 未だ然らず、つまりまだ出来事が起きていない)
⇒仮定(もし~ならば)
②已然形+「ば」 (已に然り、もうその状態になっている)

(ⅰ)原因・理由(~なので)
(ⅱ)偶然(~したところ)
(ⅲ)必然(~するといつも)

ここでは原因・理由で取ると自然か。
格助詞
係助詞
歌の詞書にも、「花を見に参りましたが、すでにすっかり散ってしまったので。」とも、
 

「さはることありて、まからで。」なども書けるは、

さはる動詞     ラ行四段活用動詞「さはる」の連体形。
漢字をあてると「障る」のとおり、「妨げられる」、「都合が悪くなる」といった意味を持つ。
ここでは後者の意味で使われる。
こと名詞
あり動詞ラ行変格活用動詞「あり」の連用形。
ラ変動詞は「あり」「をり」「はべり」「いまそが(か)り/いますが(か)り」を押さえておこう。
接続助詞
まから動詞ラ行四段活用動詞「まかる」の未然形。
ここでは、「行く」の丁寧語として使われ、作者から読者への敬意が示される。
接続助詞打消接続。
未然形に接続することに注意。
など     副助詞
係助詞
書け動詞カ行四段活用動詞「書く」の連用形
助動詞存続の助動詞「り」の連体形
係助詞
「都合が悪くなることがあって、参りませんで。」なども書いてあるのは、

「花を見て。」と言へるに劣れることかは。

花      名詞     
格助詞
動詞マ行上一段活用動詞「見る」の連用形
接続助詞
格助詞
言へ動詞ハ行四段活用動詞「言ふ」の已然形
助動詞完了の助動詞「り」の連体形
格助詞
劣れ動詞ラ行四段活用動詞「劣る」の已然形          
助動詞存続の助動詞「り」の連体形
こと名詞
かは係助詞疑問・反語の係助詞「か」、強意の係助詞「は」が結びついた場合、多くは反語の意味を持つ。(疑問を強めると反語になるのは「誰が行くの?」⇒「誰が行くの!?(誰も行かないと思っている)」となる例からも想像に難くない。)
「や」+「は」の例も同じ。
「花を見て。」と言ったのに劣っていることか、いや、劣っていない。

花の散り、月の傾くを慕ふならひは、さることなれど、ことにかたくななる人ぞ、

名詞      
格助詞主格用法
散り動詞ラ行四段活用動詞「散る」の連用形
名詞
格助詞主格用法
傾く動詞カ行四段活用動詞「傾く」の連体形
を     格助詞
慕ふ動詞ハ行四段活用動詞「慕ふ」の連体形。
「心引かれて後を追う」、「恋しく思う、愛惜する」といった意味を持つ。
ここでは後者の意味で使われる。
ならひ名詞ここでは、「習慣、しきたり」のこと
係助詞
さる連体詞漢字をあてると「然る」と書く。
「そのような」、「しかるべき」といった意味を持つ。
「さること」で連語として使われ、「そのようなこと」、「もっともなこと」といった意味を持つこともある。
こと名詞
なれ助動詞断定の助動詞「なり」の已然形。
助動詞の「なり」は断定の「なり」と伝聞・推定の「なり」の二つが存在するが、前者は体言または連体形に接続、後者は終止形(ラ変型の活用語には連体形)に接続する。
『土佐日記』の冒頭部分、「男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり」を覚えておけば、接続が導き出せる。
接続助詞逆接の接続助詞。已然形接続ということも押さえておきたい。
ことに副詞漢字をあてると「異に」「殊に」である。
「とりわけ、特に」、「その上」といった意味を持つ。
ここでは前者の意味で使われる。
かたくななる 形容動詞ナリ活用の形容動詞「かたくななり」の連体形。
漢字をあてると「頑ななり」であり、「頑固だ」というのが基本的な意味。ここから「情緒を解さない、教養がない」といった意味や「見苦しい」といった意味が生じた。
ここでは「情緒を解さない」の意味で使われる。
名詞
係助詞強意の係助詞
花が散り、月が沈むことを恋しく思う習慣は、もっともなことであるが、特に情緒を解さない人は、

「この枝、かの枝散りにけり。今は見どころなし。」などは言ふめる。

こ     代名詞    
格助詞  
名詞
代名詞
格助詞
名詞
散り動詞ラ行四段活用動詞「散る」の連用形
助動詞断定の助動詞「なり」の連用形
けり助動詞過去の助動詞「けり」の終止形
名詞
係助詞
見どころ名詞
なし形容詞ク活用の形容詞「なし」の終止形
など副助詞
係助詞
言ふ動詞ハ行四段活用動詞「言ふ」の終止形
める助動詞婉曲の助動詞「めり」の連体形。
作者の強烈な「いけず」が発揮されている場面である。             
「この枝、あの枝も(花が)散ってしまった。今は見るべきところがない。」などと言うようだ。

今回はここまで🐸

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